(16)
『あそこが非科学的潜在力の中心じゃ』
アキナと亜夢は、顔を見合わせた。
「亜夢、今私……」
美優が言いかけると、アキナと亜夢が振り返る。しかし、美優は言いかけてやめてしまった。
「い、いま、私にもハツエさんの思念波が聞こえた」
三人が奈々の声に振り返った。
亜夢が美優の腕に触り、
「もしかして、美優も?」
美優は小さくうなずいた。
『この場所は、非常に非科学的潜在力が使いやすい場所になっておる。わしもこの場所の存在は先達から伝え聞いただけ。したがって理由は不明じゃ』
亜夢が黒い円盤を見つめ、指さすと言った。
「あの先の、どこか遠くから非科学的潜在力が届いている、ということですか?」
『そういうことのようじゃ。体験的にじゃが、わしはもっと違うようにとらえている。力が届くのではなく、あの場所は各々の体の中に開かれている。とな』
亜夢は見上げながら言う。
「開かれている? というのは」
『遠いようにみえて、そうじゃない。見ているあの場所は実は自分の体のなかを見ているのに過ぎない、と言ったらわかるかな?』
アキナが言った。
「私の体の中にあんな真っ黒い場所がある、ってこと?」
「なんかわかる気がします」
奈々がそう言って、目を閉じた。
『目を閉じても、あの暗闇の先を感じるような気がします』
「えっ?」
四人が奈々を振り返った。
『いまのは奈々?』
「聞こえましたか?」
全員が激しく首を縦に振った。
『あの闇の先を見たり、感じることで、非科学的潜在力に気付くことが出来るじゃろう。各々で問いかけてみるがいい』
思念波で全員にそう告げると、ハツエは社に上がっていくと、床にごろり、と横になった。
『わるいがわしはしばらく寝る』
「美優はどんな感じ?」
亜夢は戸惑う様子の美優に近づく。
「亜夢。思念波は聞こえたし。ここから、何かを、感じはするんだけど……」
不安があるのか、腕をまげて胸のあたりに寄せている。
亜夢は美優の後ろに立って、手を回して抱き寄せる。
「怖くないわ」
「……」
美優が振り返ると、亜夢はささやくように言う。
「見るのが怖ければ目を閉じてみて」
美優は言われるまま目を閉じる。
亜夢も美優の髪に頬を当てながら、目を閉じる。
『美優、聞こえる?』
「……うん」
亜夢はヤドカリへした時のように、美優へアクセスを始める。
『美優、これは精神制御ではないよ』
亜夢の目の前には、制服を着た美優が見えた。
おそらく美優の中の自分自身はこのようなイメージなのだろう。都心の学校の制服を来て、学校指定のバックを下げている。美優はどこを見るわけでもなかったが、やがて亜夢に気付いた。
『!』
美優は頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。
亜夢が近づこうとすると、一瞬にして遠ざかってしまう。
もしかすると、これが原因なのかも、と亜夢は思う。
さっき美優がいたところにおぼろげな影を見つけた。
『美優、私を見て? 怖くないから』
美優と亜夢のイメージの世界なのだ。地面すら存在しない。存在するのは、美優と亜夢だけ。
亜夢は辺りを見回してあるき回るが、美優が見つからない。
『影はここにあるのに』
影…… 影の逆方向には、影をつくる人物がいるはず。
亜夢は影を中心に、それがどこから影を落としているのかを探し始めた。
『光…… 光の方向』
少し歩くと、亜夢は転んでしまう。
地面すら見えないのだ、何が足に引っかかったのかも見えない。
その時、亜夢は影の裏側、に気付いた。
『もしかして……』
立ち上がるわけでもなく、亜夢はころんだ状態からそのまま歩き始めると、影の裏にたどり着いた。
影に近づいていくと、そこは何もなく、まるで穴が開いているようだった。
『美優』
亜夢はその穴に手を入れ、手探りで美優を探し出した。
『いた…… 大丈夫。心配ないから』
亜夢はそのまま美優を抱きしめた。
すると粉々に影が砕け散り、ガラスの破片のように落ちて、消えた。
美優と亜夢が神社でそうしているのと同じように、二人は一緒に立っていた。
『亜夢?』
美優はゆっくりとまぶたを開くと、後ろを振り向いた。
『美優。私なんとなくわかったよ』
スッと、亜夢の姿が消え、美優もその後数秒で消えてしまった。
「!」
美優が目を開けると、目の前に亜夢がいた。
亜夢が美優の肩を叩いた。
「大丈夫。今度は負けないから」
美優はなんのことだかわからない。けれど、亜夢に合わせるように首を縦に振る。
「うん」
『どうやら、わかったようじゃの。ここに連れてくるのが間に合ってよかった……』
『えっ?』
亜夢はハツエの方を振り返る。
社で横たわっているハツエをじっとみて、何かを感じ取った。
「!」
走って駆け寄る亜夢。
美優も亜夢の雰囲気を感じ取って、慌てて追いかける。
「どうしたの?」
奈々も亜夢も、美優に続いてハツエのところに集まる。
亜夢はハツエのお腹に手を載せ、一方の手を口元にかざした。
「えっ?」
奈々が何か気づいたようだった。
「胸の鼓動は?」
亜夢が言われるか言われないかのタイミングで、ハツエの胸に耳を当てた。
「……」
「どういうこと」
美優は半ば分かっていたが、その言葉を口に出せなかった。
アキナが叫んだ。
「どうなんだよ、亜夢!」
亜夢は瞼を閉じた。
ゆっくりと三人の方に振り向くと、首を静かに横に振る。
「そんな……」
「あっ、あれ」
亜夢が指をさす。
黒い夜空を映したような円盤が、閉じるように小さくなっていく。
そこに、おぼろげながらハツエの笑顔が重なっている。
全員がそれを見つめていると、黒い円盤はパッと消えるように無くなってしまった。
「亜夢、ちょっとみて」




