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非科学的潜在力女子2  作者: ゆずさくら
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(11)

 亜夢は大きく息を吐いてから、決断したように口を結んで坂に飛び込んでいく。極力足を突かないように、最小限の左右移動で下りていく。

 今度こそ……

 落ちるように加速する亜夢が、ゆっくりと障害物を避けて進むハツエの後ろ姿を捉えた。

「あむねえちゃん!」

「あっ……」

 ハツエの姿を気にし過ぎた亜夢は、正面にある木の幹に気が付かなかった。

「避けきれ……」

 避けきれない。亜夢は手を顔の前に出して、木の幹と顔の間のクッションにしようとした。

「バカ!」

 ハツエが叫ぶと、亜夢の体が一瞬で幹を回避して止まる。

『心が恐怖で支配され、超能力が使えないのか』

 亜夢は目を開いた。現実ではない暗闇の空間で、光に包まれた浮いているハツエと、同じように光に包まれている亜夢がいた。

 ハツエの姿は、子供のその姿そのままだった。

『プレッシャーがかかった状態で力が使えないと、取り返しのつかないことになるぞ』

『はい』

『亜夢、覚えておきなさい。非科学的潜在力を持つものがすべて今のお前ような反応を示すわけではない。怒りや恐怖を感じた時、でたらめに超能力を使うものもいる。木を破壊し、山を消し去っても自分が助かろうとする輩だ。そんな相手と出会ったら、お前は確実に()られるだろう』

 亜夢は頭を下げた。

『その時はやられてもしかたありません』

『そのような輩に()られてもいいじゃと? それは間違っている。そんな輩を野放しにしてはいかん。亜夢も、こころを正しく保つことで、そんな時にも超能力(ちから)を使えるようになる』

『……』

 ハツエが宙を浮きながら近づいてきて、亜夢のおでこにキスをした。

『目を開けるんじゃ』

 亜夢が目を開くと、さっきいた坂の途中ではなく、ハツエの家の前の平らな場所に立っていた。

「あむのなかの、こわいきもちがなくなるまで、きゅうけいにするね」




「おねえちゃん、なにもかも忘れて遊んできてね」

 ハツエが言うと、美優はにっこりと微笑んで返事をした。

「はい」

 奈々も微笑んで、手を振った。

「行ってきまーす」

 奈々は少々緊張していた。美優と二人きり、という状況が怖かったのだ。奈々と美優は亜夢を通じての友達だったし、美優は転校してきてから日が浅い。亜夢やアキナとはちがって、二人きりになったり、話したりという機会が圧倒的に少なかった。

「……」

 何かを話そうとして、意気込んでしまい、頭の中が真っ白になった。

「どうしたの?」

 美優が振り返って奈々に話しかけた。

「あっ、な、なんでもない」

 しまった…… と奈々は思った。もっと上手に切り返せれば、ここから話が出来たのに。

「何考えてるんだろうね」

「えっ? いや、どうだろう」

「?」

 美優は立ち止まった。

「ハツエのことだよ。海で遊んで来い、だなんて。そんなことで精神制御(マインドコントロール)に対抗できるようになるのかしら」

「あっ、それね。それ、私も考えてたんだ。どうやって? って」

「どうやって? って言うのはないでしょ。泳いだり、砂浜でお城作ったりさ。浮き輪でプカプカ浮かんでたっていいじゃない。二人だから面白くないかもしれないけど、ビーチバレーとか。貝殻拾いとか……」

 奈々は苦笑いした。

「そ、そんなに遊ぶこと思いついちゃうんだ」

 美優は少し急ぎ足で歩き始めた。

「そうだよ。そんなに時間ないから、早く行って遊ぼうよ」

「う、うん」

 駅を過ぎ、ジグザグに下りながら、海岸へと降りた。

 小さいが、何件か家が建っており、その先に小さい砂浜が見えた。

「あそこだね」

 美優が小走りに走っていくと、奈々も追いかけるように走った。

 砂浜の上にレジャーシートを置き、そこに二人は座った。

 海水浴日和だったが、他に浜には人がいなかった。実質的には二人だけのプライベートビーチと言える。

 美優がスウェットを脱ぎながら言った。

「暑いね~」

「そうね」

「波打ち際まで行ってみようよ」

 奈々は立ち上がってお尻を払っている美優を見ていたが、立ち上がらなかった。

「私荷物みてるよ。美優、行ってきて」

「えっ、だれもいないから大丈夫じゃない?」

「……」

 奈々は美優の視線に耐え切れずに、周りを見回した。

「ほら、家があるわけだし、だれかいるかもしれないし」

「大丈夫だよ。一人じゃバカみたいじゃない。一緒に行こうよ」

 美優はジャケットを脱がない奈々の手を引っ張って、立ち上がらせようとした。

「いいよ。順番で。ね、順番」

「わかった……」

 美優はあきらめたように手を放し、下を見ながら波打ち際の方に歩いて行った。

 奈々は膝をかかえてじっと美優を見ていた。

 ハツエが言ったのは、私のこういうところを直せ、ということなのかな。だから遊んで来い、って言ったのかな。

「きゃっ!」

 波打ち際でバシャバシャしていた美優が、急にひっくり返った。

「大丈夫?」

 奈々はジャケットを脱ぎ捨て、美優のもとに走った。

「ど、どうしたの? 何かいた?」

 しりもちをついたままの美優は、にっこりと笑った。

「何もいないけど、波で足を取られた」

 奈々に手を貸してもらって達がる美優。

「な…… なんだ、びっくりした…… !」

 その時、また大きな波が打ち寄せる。

 有段者の綺麗な足払いが決まったように、二人はひっくり返る。

 飛び散る波しぶき。

 奈々は顔についた海水を手で払いながら言う。

「しょっぱい」

「あははは!」

 美優が笑うと、奈々もつられて笑い始めた。

「海だから、しょっぱいよね」

 そうしている間にも、ザザーっと波がやってきて、二人の手足にぶつかりしぶきを上げる。

「うわっ、しょ、しょっぱいしょっぱい」

「あははは」

「面白いね。海って面白い」

 奈々は手を叩いて喜んだ。

 二人は、びしょ濡れになりながら笑いあった。




 亜夢は顔を両手で覆い、さっきの事を思い返していた。

 スピードを上げて山をおり、ハツエに追いつくかと思った一瞬、ハツエに気を取られ過ぎた。

 目の前に迫っている幹にぶつかる…… そんな距離だった。

『避けきれ……』

 慌てて顔の前に手を差し込み、クッションにしようと思うが、勢いが付きすぎている。

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