違和感。
三十九度七分。ひどい熱だ。さすがに僕は学校を休んだ。風邪独特の体のだるさはあったが、ただ横になっているだけでは退屈だから、僕はテレビを点けてボーッと眺めていた。ボリュームを下げる。すると、時計の音と微かなテレビの音だけが部屋を支配した。
長く静寂の中に身を置いておくと、ふと世界から僕だけが切り離されたような錯覚に陥る。外に出たいと思ったが、だるさに加え、学校を休んだということから外出するのは憚られた。僕はこの孤独に耐えることにした。そうしながら僕は明日のことを考えていた。今までの経験上、この程度の熱なら一日で下がる。明日には風邪も治って学校にも行けるだろう。数学はどこまで進んだだろう。英語のノートを友達に借りなきゃ。そんなことを考えていたら途端に眠くなった。僕は寝た。眠くなったら眠る。これほどの贅沢は世界中どこを探しても見つからないだろうが、風邪という非日常がその贅沢をかき消しているような気がした。
明くる日。風邪は治っていた。僕はいつも通り寝坊し、いつも通り朝食を抜き、いつも通り急いで家を飛び出した。
学校に着き、僕は早速仲の良い友達の中野君に「ごめん、昨日の英語のノート見せて!」と駆け寄った。
すると中野君が言った。
「ちゃんと写しとけよ〜。さては亮介、また授業中に寝てたな?そんなんだからテストも赤点ギリギリをとるん…」
僕は途中から話の内容が頭に入って来なかった。なんだ?彼は昨日僕が学校に来ていたと思っているのか?思わず中野君の言葉を遮って問うた。
「お、おい。冗談はよしてよ。昨日、僕は休んでただろ?」
すると中野君は
「え?昨日来てたじゃないか。ほら、帰りにいつもの喫茶店でだべってただろ?忘れたのかよ〜」
嘘だ。なんだろうか、冗談だろうか?しかし、彼の表情からそういった感情は読み取れなかった。混乱しながらもとりあえず、僕は中野君に話を合わせることにした。
「あ〜、そうだったな。ごめんごめん。ちょっと具合悪くてね…」
「大丈夫かよ?」
「大丈夫大丈夫」
中野君に、そして自分に言い聞かせるように僕は呟いた。
後にちゃんと異世界へFly Away します。