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廻る廻る星と月の空 ~異世界と仮想世界と現実とその最果て~  作者: 小東のら
第1章 ティルズウィルアドヴェンチャー
8/47

8話 英雄亡霊

【無断転載禁止】VRゲームでの都市伝説 23【新婚旅行はアトランティス大陸で】


1 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/20(水) 04:25:33.82 ID:********


 ここはVRゲーム内での都市伝説、噂、真偽について話し合うスレです!

 荒らし多いんで、スルー安定。「有り得ねーじゃん、馬鹿か」の一言には生臭い目で見守りましょう。きっとそいつにはUMAの天罰が下るはず。

 怖い話、グロ話、エロ話とかも入ってくるので初見は注意。BADENDな話も多めなので注意しましょう。


 スレ立ては>>800がIDを出して宣言してから立てに行くこと。

 ゲームの話が多いので、ネタバレ注意。なるべくネタバレに通じそうな話は遠慮すること。特に発売直後のゲームとか要注意!


 ●前スレ

【無断転載禁止】VRゲームでの都市伝説 22【私をUFOに連れてって!】

 http:// ****************/1458987



132 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/24(日) 23:35:53.71 ID:********

 その男は酒場で楽しく談笑していた……。

 だが、周囲には誰もいなかった。それでもその男はどういう訳かずーっと誰かに話し掛けていたのだ。

 周囲には誰もいなかった。でも、一人、彼の前にはNPCがいたのだ。

 そう、彼は、NPCと心を通わすことの出来る人間だったのだ!システムの心を読み抜くVR世界の新人類なのであるのだっ!


133 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/24(日) 23:55:12.43 ID:********

>>132

ただの頭のおかしい奴


134 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 00:02:05.21 ID:********

割といるよな、NPCに話しかけるやつ。何してんだろ。


135 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 00:09:11.36 ID:********

 寂しいんだよ、言わせんな、恥ずかしい。


136 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 00:21:10.26 ID:********

 NPCは心の友。唯一俺の話、めんどくさがらず聞いてくれるし……。


137 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 00:22:51.69 ID:********

 >>136

涙拭けよ……。


138 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 00:28:12.93 ID:********

【都市伝説】

明 日 は 月 曜 日


139 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 00:29:03.11 ID:********

 >>138

 おい、馬鹿、止めろっ!


140 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 00:29:18.42 ID:********

 >>138

 いやだっー! やめてくれっー!


141 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 00:29:35.28 ID:********

 >>138

もう今日なんや……。


142 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 00:29:55.81 ID:********

 >>138

 定期的に貼るの止めてくれませんかねぇ?


143 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 00:42:52.14 ID:********

 ロクな話題ねーな。もう都市伝説もオワコンか?


144 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 00:56:11.43 ID:********

 じゃー、たまには真面目な都市伝説出すか。


 俺はあるVRゲームをやってたんだよ。その時仕事辞めててニート状態でさ、結構頻繁にログインしてさ、レベル上げとか素材集めとかしてたんだよ。

 そうしたらさ、酒場の隅の方の席にいつも同じ女の人がいてさ、ずーっとそこにいんだよね。昼も夜も。何かするわけでも無く、酒場の隅でじっと(うずくま)ってんだよ。


 最初は全然気にならなかったんだけどさ、それが一週間、10日と続くとさ、あれ? またあの人いるな、とか思って来てさ。夏休みでもないからちょっと気になってさ。いや、声はかけないんだけどさ。俺も人のこと言えねーし。


 でもそれが1ヶ月と続くと流石に心配になってさ。でもその頃俺も流石にネトゲ飽きてきてさ、親の視線も痛かったし、外に出始めて街の商店街で働きだしたんだよ。


 3,4ヶ月後さ、久しぶりにそのゲームにログインしたらさ、その酒場にまだその女の人がいてさ、ちょっと驚いてさ、それと同時になんか懐かしくてさ、あぁ俺も少し前までゲーム入り浸りのニートだったなぁって。

だから声かけたんだよ。


「こんにちは、いつもここにいるね? このゲーム好き?」


 って。そうしたらさ、


「…………出られないの」


 そう、か細い泣くような声がしてさ、


「出られないの。ゲームから出られないの。何で。何でなの。何で出られないの。ログアウト出来ない。なんでログアウト出来ないの。いつから私ここにいるの。いつまでここにいればいいの。なんで。なんでなの」


 そう言って目の前の彼女は顔を上げてさ。驚いたんだよ。真っ青な顔でさ、VRゲーム内なのにここまで人って顔色を絶望に染め上げることが出来るんだってさ。その顔見たら怖くなってきてさ。


「出られないっ! 出られないっ! 出られないっ! 出られないっ! 出られないっ! 出られないっ! 出られないっ! 出られないっ! 出られないっ! 出られないっ! 出られないっ! 出られないっ! 出られないっ! 出られないっ! 出られないっ! 出られないっ!

 なんで!? なんで出られないの!? どうして帰れないの!? 帰りたいっ!家 に帰りたい! なんなの!? 何で私こんな目に合ってるの!?

 なんで出られないのよっ!?」


 女の人がわっと騒ぎ出してさ、


「……あなたのせいなの?」


 そう言って俺の顔をじっと見つめてくるんだ。


「あなたのせいなの? あなたが私を閉じ込めてるの? 私の様子を見て、笑ってるんでしょ? ねぇ、あなたのせいなの? あなたが私を閉じ込めてるの?

 ねぇ、出してよ、ここから出してよ。ここから出してよっ!」


 その人が立ち上がって、ふらふらと俺に近づいてくるんだ。


「ここから出せ、ここから出せ、ここから出せ、ここから出せ、ここから出せ、ここから出せ、ここから出せ、ここから出せ、ここから出せ、ここから出せ、ここから出せ、ここから出せ、ここから出せ、ここから出せ、ここから出せ。

 …………このゲームから出してよぉっ!」


 もう滅茶苦茶怖くなってさ、すぐにログアウトしたんだよ。


 すぐに運営の方にさ、変な女性が酒場にいる、このゲームから出られないとか言ってる、って報告したんだよ。

 次の日さ、運営からメールが来て、「酒場の端に不明のバグデータを発見しましたので、削除しました。この度はご迷惑おかけして申し訳ありません」って書いてあったんだ。


 その後さ、酒場にいったら、ずっといたその女の人はいなくなっててさ。ほっとしたようなさ、恐くなったようなさ。

 あの人はバグデータとして消されちゃったんだろうか。


 あの人のあの顔と叫び声が今でも夢に出るんだよ。


145 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 01:05:18.37 ID:********

 >>144

 いきなり恐い話やめてくれませんかっ!?


146 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 01:09:32.72 ID:********

 >>144

 有名な話じゃん、コピペ乙


147 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 01:11:27.25 ID:********

 >>144

 懐かしいな。いつ頃出た話だっけ?


148 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 01:18:31.58 ID:********

 >>147

 10年くらい前じゃなかった?


149 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 01:31:19.83 ID:********

 今日は真面目な都市伝説の話してもいいのか!?

 【虚構兵団】

 VR技術って軍事関係でもかなり利用されてて、最近ではVR空間内で実弾再現して実践的な訓練が積まれているらしいんだよ。あ、このVR空間は軍が独自に開発した、ゲームじゃないやつな。一般公開されてないやつ。

 でもさ、VRガンシューティングゲームも結構リアルに作られていて、今ではゲームするだけで実戦さながらの戦闘訓練がこなせるわけよ。


 そこに目を付けたのが『虚構事件』の教団の教主らしいって噂。奴は実はまだ捕まっていなくて、今もまだ世界を転々として逃げ延びてるって噂。

 その教主がVRガンシューティングゲームのトッププレイヤー達を勧誘して、私有の軍を整えているって話。教主は力を蓄えて、虎視眈々と、いつかまた世界に牙をむこうとしているって都市伝説。


 やべーぞ、みんな。世界大戦の始まりだぞ。


150 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 01:41:21.36 ID:********

 虚構教団……。ククク……2040年11月1日……。ククク……予言の時は近い……。


151 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 01:46:15.96 ID:********

 >>150

 予言ってなに(・∀・ )?


152 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 01:53:57.68 ID:********

 ゲームしてて軍隊の訓練になるわけねーだろ。

有り得ねーじゃん、馬鹿か。


153 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 02:01:13.81 ID:*******

もう一個、都市伝説!

一人用VRRPGゲーム『スカーレットファンタジー』の都市伝説!


『スカーレットファンタジー』のやり込みをやっていた奴の話。

ラスボスである魔王の撃破のリアルタイムアタックをやってた奴で、より効率のいい動きとか、魔王を嵌められる攻撃パターンの研究のために何回も何回もその魔王のことを倒していたらしい。

何ヶ月とかけて魔王討伐の最短タイムを導き出そうとしていた。


そいつが魔王を倒した回数が100以上にもなった時に、妙なことが起こった。

いつものように魔王のHPを0にして、時間を計測する。次はどのようなことを試すか頭の中で考えていると、妙な違和感に気付く。


魔王が死んでいない。HPが0であるはずなのに倒れず、ぼおっと立ったままであった。

ゲームがフリーズでもしたのか、とプレイヤーは疑問に思っていると、HPが0のはずの魔王がふらふらとプレイヤーに近づいて行った。


そしてこう言った。


「何故だ……、何故何回も殺すのだ……。何回も殺すのだ……。何故我は何回も殺されないといけないのだ……。何故……、お前は……我は……」


 そして、プレイヤーの首を掴んで締めた。魔王の攻撃パターンに首絞めなんかあるわけないのに。

 しかし、すぐに魔王は光の粒となって死んだ。いつもと同じ死亡エフェクトがかかって魔王は消え、そのままエンディングとなった。

恐くなって、そいつは魔王討伐リアルタイムアタックを止めた……。



以上が『スカーレットファンタジー』の都市伝説でした!


154 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 02:09:11.82 ID:********

【都市伝説】

今 日 は 月 曜 日


155 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 02:10:51.21 ID:********

 >>154

 だから止めろって!


156 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 02:11:31.19 ID:********

 >>154

 現実に戻すの止めろっ!


157 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 02:14:18.95 ID:********

 ねぇねぇ、予言ってなーにーっヽ(・∀・ )ノ!?


158 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 02:25:09.57 ID:********

 お前達、もう寝なさい。


159 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 02:38:44.76 ID:********

 まずこんな時間まで起きている社会人がいる筈ない件について。


160 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 02:51:41.63 ID:********

 そうか……、俺は本当は社会人じゃなかったのか……。


161 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 03:00:19.32 ID:********

そうか、社会人って言うのは都市伝説だったのか……。

皆本当はニートなんだ……。


162 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 03:15:23.25 ID:********

現実なんて都市伝説。俺はゲームの中で生きていくんだ。

 これでファイナルアンサー。


163 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 03:28:11.58 ID:********

 予言て、なぁに……( ´・ω・`)


164 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 03:35:46.84 ID:********

 そういえば、最近出てきた都市伝説あったよね。今流行ってるやつ。もっと話題になってるもんだと思ってたけど?なんで話題出てないの?


165 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 03:40:51.49 ID:********

そうか、ここは都市伝説板だったのか……。


166 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 03:45:38.51 ID:********

 >>164

 なんだっけ?


167 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 03:55:41.18 ID:********

 お前らマジか。最近他の板でも話題だろ。都市伝説研究の意識低すぎ。


168 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 03:58:25.82 ID:********

 やっぱその話題に行くよな。待ってたよ。


169 :名無しさん@ネトゲは我が故郷:2040/10/25(月) 04:00:00.00 ID:********

 ほら、あれだよ。

 最近報告が多い都市伝説。


 『英雄亡霊グレイ』の伝説だよ。




* * * * *


 昨日は結局森の中から出ることは出来なかった。

 僕――グレイは森の草むらに紛れながら一晩を過ごした。


 なんか変な人がいた教会から出た頃には日が傾いていて、これ以上森の中で行動するのは危険と考えたから森で寝支度を整えた。

 普通なら魔物のひしめく森の中で睡眠をとるのは自殺行為だ。だが、冒険者時代には幾度もこういうことがあった。

 最終的には見張りを立てずとも、仲間の皆が魔物の気配だけで目を覚まし、半分寝たまま魔物のいない場所まで移動するという芸当を取得していた。


 魔物のひしめくダンジョンの中での睡眠はもう慣れたものである。


《Ability Skill Get『気配察知』を習得しました》


 青いガラス板さんが何かを訴えかけてきたが、よく分からなかった。


「ギャイイイインンンッ!」


 そして夜が明け、朝日が森を明るく照らし始めた頃、僕は魔物に喧嘩を吹っ掛けられていた。村に帰ろうとしている途中に魔物に出会ったのだ。

 魔物の叫びと共に、剣が僕に向かって振るわれる。


『リザードマン Lv; 26

 HP 407/407』


 敵はリザードマン。皮の鎧を着て、鉄の剣を持った二足歩行のトカゲの魔物である。身長は2mほど。顔を見ようとすると見上げるような形になってしまう。


 リザードマンの大振りの剣を必要最小限の動きで(かわ)す。

 相手が剣を振った後の隙に4回こちらの攻撃を叩きこんだ。


 魔物の動きは遅い。ゆったりしているし、攻撃も単調。

もう、なんか、のん気。それでいいのか、野生。


でも……、


『リザードマン Lv; 26

 HP 403/407(-4)』


「全然っ……! 斬れないっ……!」


 ダメージが全く入らないのだ。

 『HP』というものの正体は分かってきた。きっとこれは生命力みたいなものだろう。4回攻撃を喰らわせたら4減る。僕の攻撃は相手のHPを1しか削れないのだ。


 ただ、前にニワトリの攻撃を僕が喰らった時、僕のHPが一気に17減っていた。1回の攻撃で1減るという訳じゃないらしい。きっと攻撃力が関係するのだ。


 僕の攻撃は1しか効かない。

 でもリザードマンのHPはまだ403残っている。

 ……あれ? あと403回攻撃を入れないといけないのかな?


「ギャイッ! ギャイイイィィィッ!」


 リザードマンが剣を振りかぶる。余りに大仰な攻撃に、相手が剣を振り抜く前からその軌道が手に取るようにわかる。

 ちょっと体の位置をずらしただけで、上段から振り降ろされた剣は空を切り、そのまま勢い余って地面にめり込んだ。


 剣を引き抜こうと頑張っている隙だらけのリザードマンさんに、15回の連続攻撃を叩きこんだ。


「ギャイイイインンンンンッ!」

『リザードマン Lv; 26

 HP 388/407(-15)』


 ……悲鳴あげてるけどさ、リザードマンさん……。

 あなた、全然効いてないでしょ。それ演技と違いますか?

 くっそー、いいなー、圧倒的な地力の差。


《Ability Skill Get『連続攻撃強化』を習得しました》


 ん? なんだ、これ?

 いきなり青くて薄いガラス板が出てきて、『連続攻撃強化』というアビリティを習得したとこを伝えてくる。


 なんだろう、これ、僕は何を習得したんだろう。そのままの意味だと、連続攻撃が強化されるみたいだけど……。


 そもそもここで言うアビリティってなんだ? そのままの意味だと能力ってことだよな? 

 能力を習得するってどういうことだ? なんで青いガラス板さんが僕の能力に対して断言をしてくるんだ?


「ギャイイッ!」

「おっと」


 リザードマンの剣を躱す。

 しかし、このままじゃじり貧だな。もっと大きな攻撃を撃ち込んだ方がいいだろうか。


「……じゃあ、大魔術だ」


 威力の大きい魔術をあのリザードマンにぶつける。

 詠唱の隙は出来るけど、あのリザードマンの攻撃なら避けつつ詠唱できるだろう。


「フェイル・アルス・ボルム・マーズ・ゲイン・ポジッシュ・ウプ・ガウル・ディムス・レーティン・イーギア

 喰らえ! 潰れてしまえ! 氷系統大魔法『フォール・コフィンオブアイス』!」


 魔力を集約した右腕をリザードマンの上方に向ける。巨大な氷の塊に押し潰されろ!


|《Error『フォール・コフィンオブアイス』は未修得です》

「なんでっ!?」


 青いガラス板さんっ!?

 青いガラス板さんが僕の魔法にダメ出しをしてきたっ!?


 未修得じゃないし! 前に使ったことあるしっ! 青いガラス板さんは僕の何を知っているっていうの!?


「ギャイッ!」

「うおっと!」


 リザードマンの剣を転がりつつ避ける。今、結構危なかった! 青いガラス板さんに意識を取られ過ぎた!


《Ability Skill Get『緊急回避強化』を習得しました》


 うるさいよっ! 青いガラス板さんうるさいっ! 君のせいだよ! 緊急回避したの!


《Magic Skill Get『ギガライトニードル・スプリット』を習得しました》


 おおっ……!? なんか知らんが魔法修得したぞ?

 まるで青いガラス板さんがお詫びしているかのようだった。


 いや、でもね、青いガラス板さん。『ギガライトニードル・スプリット』の魔法は僕、元々使えていたんだけど……。

 まるで今修得したかのように言われても……。いや、いいや、使ってもいいって言われてんなら使ってしまおう。転移してから使えなくなってしまった魔法も多いし。


「いくぞ、リザードマン!

 ティーウィル・アルス・ニーグ・ゲイン・ボルトム・ガウル・ディムス・レーティン・イーギア!

 『ギガライトニードル・スプリット』!」


 無数の光の棘に串刺しにされてしまえ!


《Error;MPが足りません》

「青いガラス板さあああぁぁんっ!?」


挿絵(By みてみん)


 なんで!? MPが足りないって何っ!?

 あっ、そっか! MPって魔力のことか! 確かに体内の魔力が足りないなぁって感じてたけど……。でも、青いガラス板さんが出来るって! 青いガラス板さんが君なら出来るって後押ししてくれたのにっ!


「ねぇ! なんでこういう事するの!? どうしてこんなひどい事するの!?」


 青いガラス板さんを叩く。

 青いガラス板さんはうんともすんとも言わなかった。


「ギャイイイイイイイッ!」

「ぎゃあああああっ!」


 リザードマンの剣が体を掠った。体から少し血が噴き出る。青いガラス板さんに構っている間にリザードマンさんから攻撃を受けてしまった。

 でもちょっと掠っただけ。全くダメージは……、


『グレイ Lv; 1

 HP 8/19(-11)』


「二発目は死ぬっ……!?」


 頬を掠っただけなのに、なんか死にそうになっているっ!?

 こんな理不尽なことはない。撤退だ、撤退!


「コケーーッ!」

「また出たーーっ!」


『コルコット Lv; 22 

 HP 187/187』


 草むらの陰からまたニワトリが出てきた。まただ。こいつら僕のこと好きなのか?


 仲間を呼ばれない内に素早く倒すのが対処法なのだけれど、弱体化している今、素早くなんか倒せない。正直、強いリザードマン一体よりもたくさん湧いて出てくるニワトリの大軍の方が厄介だ。


 撤退だ、撤退っ!


「コケーッ!」

「コケーッ!」

「コケーッ!」

「あぁ! もうほんとやだっ!」


 すぐに10体くらいのニワトリに追いかけられる。追いかけてくるのはニワトリだけのようで、リザードマンさんは追いかけてこなかった。

 やっぱり僕の最大の敵はニワトリなのだ。


 また直感で逃げ回る逃走劇が開始された。




* * * * *


 今日も今日とてニワトリに追いかけ回されている。

 何で僕はこの地域に飛ばされてからずっとニワトリに追いかけ回されなければいけないのだろう。

 4日中でもう数回追いかけ回されている。

 もうこの森に来るのはやめようか、うん。


 さてこの鬼ごっこマラソンも終わりが近づいてきた。もう村が近い。村の中に入ればニワトリは近づいて来れない。

 この地獄のマラソンに慣れてきた自分が悲しい。地獄の番犬ケルベロス以上の勢いと殺気を撒き散らしながら迫ってくるニワトリの大軍なんか慣れたくなかった。なんで魔王を倒した後で魔王との戦い以上の死線を何度も潜り抜けなくてはいけないのか?

こんな状況に慣れる機会なんか欲しくなかったなぁ……。


ほら、もう村が見えて……、


「うぎゃっー! だ、誰かっー! 助゛け゛て゛ぇ゛ー!」

「ん?」


 そんな時、悲鳴が聞こえてきた。


 ニワトリの大軍がいた。

 ニワトリの大軍の先頭には必死に走る黒髪の少女がいた。

 黒髪の少女がニワトリの大軍に追いかけられていた。


 ……え?


「だ、誰かー! お゛助゛け゛ぇ゛ーー」


 その少女は鼻水をまき散らしながら腕を必死に振って、鶏の大群から必死に逃げていた。

 簡潔に言うと僕と同じ状況である。

 でも僕よりも必死そうではあった。


 助けてって言ってる。声を枯らしながら助けてって言っている。

 ……いや、助けて欲しいのは僕の方なのだが……。


 いや、村はもうすぐそこだ。このままいけば僕たちは2人共逃げ切ることが出来る。

 ……いや、少女の方は、少し間に合わない……?


「……ふ゛べぇっ!」


 そんな不安を覚えたときだった……。(くだん)の少女が木の根に足を取られ、転んでしまった。

 頭からズズズと滑り、可哀想だけど情けない声を出していた。


「噓でしょっ!?」


 あともう少しで村だっていうのにっ!?

 そんな時にこんな絶体絶命な状況を生み出しちゃうのかい!?


「ぎゃっ~! 死゛ぬ~っ! た゛す゛けて゛~~っ!」


 絶体絶命のぼさぼさ黒髪の少女にニワトリが襲い掛かる。


「あぁ、もうっ! なんてこったいっ!」


 方向転換する。少女に向かって駆けだす。あぁっ、僕だって余裕が無いってのにっ!


「コケーッ!」

「ぎゃっ~~!」


 今まさに鶏の爪が少女に襲い掛かろうとした時、僕はその鶏を踏みつけたっ。


「コケッ!?」

「……え!?」


挿絵(By みてみん)


 ニワトリに大したダメージはなかったが、僕に踏みつけられ地に叩きつけられた。

 突然現れた僕の姿に呆然とする少女の腰に手を回し、素早く抱きかかえる。


「え? え……?」


 混乱する少女の相手をしている暇はない。

 もうすぐ目の前にはニワトリの波が迫っているのだ。少女を狙うニワトリの大群と僕を追いかけてきたニワトリの大群が合流して、より大きな波となっている。


 前からと横からニワトリの軍勢が襲い掛かってくる。

 方向転換し、少女を助けた時間のロスがあり、今から振り返って後ろに逃げ出すという時間もない。


 前も横も後ろもダメ。

 ……でも、だ。


「飛ぶから! 舌嚙まないでねっ!」

「えぇっ!?」


 僕は丁度襲い掛かってくるニワトリを足蹴にして踏み台にした。

 右も左も前も後ろもダメなのなら、上に行けばいい。


 そのままジャンプし、上空から襲い掛かろうとしていた次のニワトリも足蹴にする。そしてまた踏み台にして飛んだ。

 2度ニワトリの上を飛び跳ね、僕達は高い木の枝の上に着地した。


「き……君は……?」

「まだだよっ!」


 相手はニワトリ。そう、鳥なのだ。

 当然飛んでくる。地上にわんさかいたニワトリ達は空を飛び、僕たちの前後左右を囲った。


「うわぁっ!? また来たっ!」


 黒髪の少女は叫び、僕にしがみ付く力を強めた。

 僕たちは囲まれている。

 でも、たかが前後左右だけだ。


 ここからは上下を含めた360度の戦いになってくるのだから。


「大丈夫、また飛ぶからっ!」

「えぇっ!? どこを飛ぶのっ!?」


 少女に返事をする間もなく、僕は飛んだ。

 僕の足場は空中にいるニワトリ達だ。ニワトリの顔を踏み、また別のニワトリに飛び移る。僕が踏んだニワトリは地面に落ちる。僕は僕たちを囲んでいるニワトリを利用して、空中を飛び跳ねていた。


 宙を飛ぶニワトリからニワトリへ、ニワトリから木の枝へ、そしてまたニワトリからニワトリへ……


 端から見れば曲芸なのかもしれない。

 だけどこれぐらいのことが出来なくては僕は今まで生きてこられなかっただろう。


 僕はニワトリを踏み台にして宙を舞った。


「これで……最後っ……!」


 最後にニワトリを渾身の力で踏みつける。全力で力いっぱい飛び跳ねた。

 20mも30mも遠く遠くに飛ぶ。もうニワトリは追いついてこられていない。宙を飛ぶ僕たちの体は風を切り、髪がなびく。


挿絵(By みてみん)


「きゃ~~~~~っ!」


 恐がっているのかと思いきや、抱えている黒髪の少女は大口を開け、楽しそうに……この命がけの逃避行を楽しそうに騒いでいた。


 地に付き、受け身を取りながら転がる。

 そこはすでに村の領内であり、もうニワトリは追って来られない。


 安全は確保され、僕たちはニワトリから逃げ切った。


「ふぅ……」


 思わず一息ついてしまう。

 敵を足場にして空中を飛び跳ねるなんてことをやったのは初めてだ。長い冒険者時代でさえやってこなかったことがここ4日間で何度も必要になってきている。


 持っている実力が違うだけでこんなにやるべきことって違うのか……。

 新鮮な体験ばかりだけど、大変だ。


 …………。


 そう言えば隣の少女が起きて来ない。彼女の体にあまり衝撃が来ないように受け身を取ったつもりだったが、上手くいかなかったのだろうか? 打ち所が悪かったのか?

 黒髪の少女はうつ伏せのまま全く動かなかった。


「あ、あの……。君、意識はあるのかな……?」


 おずおずと聞く。

 すると、少女はいきなり大声で笑いだした。うつ伏せのまま笑い出したのだ。


「わはははははははっ!」


 いきなりの笑い声に驚いていると、黒髪の少女ががばっと起き上がった。


「あんさん凄いじゃないかぁっ!」


 勢いよく立ち上がり、ぴょんぴょん跳ねながら僕の元に近づいてきた。


「え!? なにっ!? あの動き!? ニワトリの上を飛んでたの!? 出来るの!? 人間に出来るの!? VRで出来るの、そんなこと!? お兄さん、本当に人間!?

 絶対、運営の人あんなプレイング想定してなかっただろうなぁっ! 絶対っ!

 わはははははははっ! 本当っ、凄かった! 凄かったさ! お兄さんっ!」

「…………」


 少女は大声で笑いだした。


「いや、ごめん! ありがとうさ! 助かったさ! 君、凄いね! うちはもう、ほんと、駄目かと思ったさぁ! ありがとね!」


 少女がぴょんと起き上がって、僕の周りをうろちょろと回り始める。

 小柄な体躯。12歳ほどの小さな少女。長い黒髪があちらこちらに跳ね、だらしない印象を与えている。目はくりくりっと大きく、丸く、その行動からしても人懐っこそうな感じが伝わってくる。


 それまで死にかけていたのが嘘であるかのように、少女は明るくぴょんぴょんと僕の周りを飛び跳ねていた。


「うちの名前はクロ! よろしくさぁ!」


挿絵(By みてみん)


 そう言って彼女はにいっと笑った。

 これが奇妙に続く長い縁となる事を、僕はまだ知らなかった。


やっと女性キャラの登場……。男キャラばかり描くのはむさかった……。

アリシアの再登場はもうちょい待ってね? そんな遠くはないから。


次話『9話 旅の道連れクロとの出会い』は明日12/3 19時投稿予定です。

明日から1話ずつ更新となります。

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