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44話 遊びで媚び売ってるんじゃねぇ!

 麗らかな日差しが部屋の中に差し込んでくる。

 外の気温自体は冷たく、外に出れば冷たい風が吹いているのだが、王宮のこの部屋の中は暖炉の熱で暖められており、快適な日中を過ごすことが出来ている。


 暖炉の中の薪が火に炙られ、ぱちぱちっと爆ぜる音が部屋に染み渡る。

 王宮の中の豪華な部屋、美しい絨毯、品質の高いソファ。王族自慢の品の良い部屋の中で俺たちは昼前の時間を優雅に過ごしていた。


「いやー! サラ様! 今日も一段とお美しいっすねぇ!」

「いやー! サラ様! 本日も大変お日柄が良く!」

「この国が栄えておられるのもサラ様のおかげでございますっ!」

「どこか凝っている場所はございませんかいっ? うちがお揉みしましょうかい!?」

「…………」


 ……俺とクロすけは優雅な時間をサラ様に媚びを売って過ごしていた。


「肩をお揉みしましょう! サラ様!」

「何か食べたいものはございませんかいっ!? サラ様!」

「俺たちになんでもお申しつけ下さいっ! サラ様!」

「…………」


挿絵(By みてみん)


 揉み手をしてゴマを摺り、この国のお姫様であるサラ様に媚びへつらっていく。

 サラ様が口をへの字に曲げ、ふんと鼻を鳴らしているのは分かっている。でも、俺たちは必死に媚び媚びしていく。


 遊びなんかじゃないのだ。

 俺たちは必死なんだ。


 俺たちは必死に媚びへつらっているのだっ!


「……あんた達、露骨に機嫌を取りに来たわね。もっとなんか、こう……なかったの?」

「えぇいっ! 貴女に言われたくねぇっすよ!」

「こちとら命掛かってんじゃいっ!」

「もうあと2日しかねえんすよっ……!」


 サラ様は呆れ顔を向けてそう言うが、俺たちにはもう後がなかった。


 異世界人であることを証明出来なければ処刑。

 そう宣告を受けてからもう3日が経とうとしていた。


 俺たちも色々と考えを巡らして異世界の証明が出来ないかと考えていたのだが、良いアイディアは1つも生まれなかった。説明だけでは何の証明にもならず、誰しもが納得できる証拠が必要なのだ。

 そんな都合の良いものなど存在しなく、そもそも異世界というものの証明なんて事自体が不可能に近いものだった。


 故に俺たちは処刑発案者であるサラ様に必死に媚びを売っていた。

 それ以外に手段などなかったのだ。


「あ、生意気な口利いた。減点」

「いえいえいえいえっ! 滅相もございませんっ! サラ様!」

「うちらは貴女様に忠誠を誓っておりますっ!」

「サラ様ー!」


 大聖人君子サラ様の肩をお揉みする。生きる為だったらなんだってしてやらぁっ!


「ふふん」


 サラ様は相変わらず俺たちに呆れ顔を見せていたが、どこかしら楽しそうだった。ここまで明るさまで見え透いた媚びは一種のユーモアであったのかもしれない。


挿絵(By みてみん)


「サラ様、少々よろしいでしょうか?」

「ん……?」


 そんな事をしていると、この部屋の扉がノックされ、外からサラ様を呼ぶ声がした。

 声からすると、この王宮に勤めている犬耳娘のメイド、ピコのようだった。


「入りなさい」

「失礼しますなの」


 扉を開けて恭しくピコが入ってきた。


「サラ様、只今ベニヤ様とディルが行商から帰還為されましたの。如何なさいますか?」

「……分かったわ。出迎えるから」

「かしこまりましたなの」


 そう言って、サラ様は書類にサインをしていた手を止め、ペンを置き、面倒臭そうに椅子から立ち上がった。


「ベニヤ様とディルって言うと……」

「勇者グレイのお仲間さんだねぇ?」


 俺とクロすけは目を見合わせて、今の短い会話について考える。

 ベニヤとディル。それは俺たちの世界のVRRPG『勇者グレイの伝説』に出てきた勇者グレイの仲間の名前だった。


 ベニヤは闇ギルドの生き残りであり、勇者グレイの命を狙うものの、その激闘の末彼の仲間となった人物だ。

 そしてディルは白い耳をもった獣人であり、グレイたちに彼の住む街を救われてからグレイらの仲間となったキャラクターだった。


 そう言えば、ディルは白狼族という種族であるという設定があったっけ。ピコと同じ種族なのかな?


 どちらも高い戦闘能力を持ったイケメンであり、女性人気の高かったキャラクターである。

 ベニヤはスピンオフ作品『闇ギルドのベニヤと添い寝VR』という作品が出て、かなりの売り上げを誇り、ディルは『獣人ディルと一緒にトレーニングAR』という拡張現実機能ARを用いたトレーニングソフトが発売されて、これも女性からかなりの人気が出ていた。


 その2人が行商から帰還したのだと言う。

 つまりゲームのエンディング後、この2人はアリシア様の王宮に暮らしているってことなのかな?


「面倒臭いけど、旦那の出迎えぐらいはしないといけないわね」

「……ん?」


 そんな事を考えていると、サラ様は溜息を吐きながらそんな言葉を漏らした。

 俺とクロすけは目をぱちくりさせた。


「ん……? 旦那……?」

「サラっち……?」

「なによ?」


 面倒臭そうに出迎えの準備をするサラ様に、俺たちは丸くなった目を向けた。


「えっと……、旦那って……?」

「……知らないなんてことはないでしょ? 前に大々的な結婚式上げたじゃない」

「え? いや……」

「なんのことだか……?」


 呆ける俺たちに向かって、何でもないようにサラ様は口にした。


「ベニヤは私の夫よ」




* * * * *


「これはっ……!」

「スレが荒れるっ……!」


 寒空の下、俺たちは王宮の玄関先に身を出し、行商の列を出迎えている。


 王宮の大きな門が開き、6台も並んだ馬車の行列が門をくぐる。馬は地球のものと比べ一回りほど体が大きく、それがこの世界の元々の種なのか、魔法によって育てられたものなのかは判断が付かない。

 兎にも角にも、その大きな馬が引く馬車は地球のものよりも巨大で、それが6台も並ぶ様は迫力を感じさせた。


 出迎えの先頭に立つサラ様の前で馬車が止まる。

 馬車の扉が開き、先に2人の男が姿を現した。


挿絵(By みてみん)


 1人は黒髪が少し長く肩先に掛かる程で、左目に黒い眼帯をしていた。背に身長ほどの大剣を背負っており、怪我をしているのか左腕に包帯を巻いている。


 もう1人は白く短い髪をして、頭に犬耳が生えていた。白いロングコートを羽織り、身長は高く、がたいの良い男性だった。


 ゲームの時とは姿が違っているが、先程のサラ様の説明を聞く限り、この2人が勇者グレイと共に旅をした仲間のベニヤ様とディル様なのだろう。

 眼帯をしている方がベニヤ様で、犬耳が生えた方がディル様だ。


 2人は歩き姿だけでも英雄の風格を滲み出していた。彼らを目にするだけで、修羅場を潜り抜け、世界を救ってきた人間の迫力を否応なく感じさせられた。


 風格からして、自分とは住む世界が違う存在なのだと思い知らされる。


「よっ、おかえりなさい、ベニヤ」

「あぁ、ただいま。サラ」

「仕事は上手くいったんでしょうねぇ?」

「ふん、誰に対して心配をしているんだ」


 サラ様とベニヤ様が軽い口調で話をする。

 気の許しあっている者同士の、近しい距離関係を持った会話だった。


「これはっ……!」

「スレが荒れるっ……!」


 俺たちは戦々恐々とした。

 俺たちの地球において、サラとベニヤは人気のキャラクターだ。サラはツンデレ王女様として、ベニヤは闇を抱えた少年として、たくさんの人から好かれている。


 『勇者グレイの伝説』のスピンオフ作品として、2人が主役の作品も多く発表されており、『サラと一緒の休日』とか『ベニヤとの学園生活』など2人を対象にした恋愛シミュレーションVRゲームも出たりしている。


 もちろんそれぞれ異性からの人気が絶大で、『サラたんは俺の嫁!』とか『ベニヤ君、尊い……マジしんどい……』とか色々言われている。


 それが、どうだ。

 ゲームのエンディング後の世界だと推定されるこの世界で、サラとベニヤは結婚を果たしていた。


「スレが荒れるっ……!」

「この事実が世に広まれば……スレが荒れるっ……!」


 地球には持ち帰れない情報だった。

 キャラの熱狂的なファン達が暴動を起こしそうな事実だった。


「……あんたたちは相変わらず、ワケ分かんない事を言ってるわね」

「その2人が手紙で書かれていた自称異世界人の2人か?」


 俺たちが慌てふためいていると、ベニヤ様とディル様が俺たちに近づいてくる。どうやら俺たちの情報は伝わっているようだった。


「初めまして、俺の名前はベニヤ。よろしく、自称異世界人たち」

「俺はディルだ。よろしく頼む」

「ど、どうも……。俺は橘龍之介っす。よろしくっす……」


 2人のイケメンに囲まれ、少し自然と委縮してしまった。


「うちはクロだー! よろしく頼む、ぜいっ!」


 クロすけの方は全然委縮してなかった。

 握手を終えると、ディル様が俺たちに喋りかけた。


「妹が世話になっているようだな。迷惑をかけていないか?」

「ん……?」

「妹……?」


 ディル様の妹……?

 彼の言葉の意味について考えていると、1人の少女が横からずいと身を乗り出した。


「兄ちゃん。わたしはちゃんと仕事してるの。いつまでも子ども扱いしないでほしいの」

「こんなにちっこくて、それは無理だ、ピコ。成人したら考えてやる」

「むー」


 一歩前に出て横から口を出したのはメイドのピコだった。

 ディル様はピコの頭を撫で、ピコはディル様を見上げながら頬っぺたを膨らませている。


「妹って……兄妹なんすか?」

「ん? そうだぞ? 似てるだろ?」

「…………」


 確かに耳の形とか髪の色とかはそっくりである。確か2人は白狼族という種族で、そこは同じだった筈だ。

 ただ顔の造りは全く似てない。兄妹かと言われると、そんな感じはしない。


挿絵(By みてみん)


「ま、とにかく妹が世話になる。よろしく頼む」

「こ、こちらこそ……」

「兄ちゃん兄ちゃん、世話してるのはわたしの方なの」


 ピコは不満そうに唇を尖らし、ディル様は軽く笑っていた。

 イケメンだった。


「リュウノスケ! クロ! だべってないで、あんた達も積み荷下すの手伝いなさいっ!」

「か、かしこまりましたっ! サラ様! ……って、俺らいつから使用人みたくなってんすか!?」


 積み荷下すのは俺たちの仕事じゃねーと思う。


「いいからっ! 口答えしないっ!」


 サラ様の乱暴な対応に、俺たちは有無を言わさず手伝いを強要された。


 横長だったり、立方体だったり、様々な大きさの木箱を大きな馬車から木箱をどんどん下ろしていく。

 6台の馬車に積まれていた積み荷の数は大量で、下ろせども下ろせども終わりはまだまだ遠かった。


「おっも……!」


 中に何が入っているのか、木箱の1つ1つが重かった。

 体育会系ではない俺の体が悲鳴を上げ始めている。引っ越しバイトの大変さが垣間見えた。


「…………」


 しかし、少しおかしい?

 何故この行商の仕事をベニヤ様とディル様が行っていたのか?


 行商は行商人のお仕事であり、英雄たちのお仕事ではない。ましてやサラ様と結婚したというのなら、ベニヤ様は王族の待遇を受けるべき人だろう。

 そんな人たちが王宮の普通の消耗品を運ぶような仕事を受けるだろうか。


 ……つまりこの荷物は普通の積み荷なんかじゃなくて……。


「こ、この積み荷の中身は一体何なんすか……?」


 軽く、何でもないようにへらっと聞いてみた。


「……なんだ、リュウノスケとやら。知らんのか?」


 返事をしてくれたのはディル様であった。何故か積み荷下しを手伝っていて、周りの人たちに恐縮されていた。


「これは戦争の為の準備だぞ」

「せっ……?」


 ……戦争?


「この魔王討伐記念祭の最終日辺り、魔族との戦争が起こりそうなんだ」


 ディル様は何でもないようにそう言った。


「…………」


 戦争慣れも、戦闘慣れもしていない平和な日本で生まれ育った俺の表情は、ピシッと固まったのであった。


ツイッターで『#魔女集会で会いましょう』ってタグが流行ってたので、自分も漫画描いてみました。

https://twitter.com/kohigashinora/status/963720455956742144


これ描いてて時間かかっちゃったので、次は一回休みです。

次話『45話 都市伝説戦争』は10日後 2/25 19時に投稿予定です。


あと、3月からは『とある姫ととある冒険者のある秘密を巡る物語』再開しようと思ってるので、こちらの作品は一旦お休みします。

どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

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