30話 天に昇る塔
なぜこんなことになっているのだろうか。
綾崎 雄樹ことガスロンはそう考えずにはいられない。
今、ダンジョンを攻略しようとしているこのパーティーは百体以上の謎の鉄の魔物に囲まれていた。
βテストの最後の日に残ったダンジョンを攻略しようとして、
たくさんのモンスターを倒し、たくさんのトラップを解除して、なんとか最深部に近い場所まで来たのに……。
あの時、『英雄亡霊グレイ』からメールが来た。
それから全てが変わった。
『狂魔』という表示がされている黒い鎧が人を殺した。体が斬られ血が舞い散り、そして首が飛んだ。そいつからは本当に死の臭いがした。
5年前、京子が斬った強盗から感じたような死の臭いが……。
場は混乱した。阿鼻叫喚に包まれた。
そうしたら、外壁を壊して大量の『狂魔』が外から入ってきた。最初に入ってきた黒い鎧とは一回り小さい黒い鉄の人形。鎧も付けていなく、レベルも30と黒い鎧の『狂魔』と比べたら低い。黒い鎧の『狂魔』はレベルが60もあったのだ。
しかし、敵の数が多過ぎた。空を飛び、外から入ってきた大量の『狂魔』は容易く俺達を取り囲んだ。
俺達の自由が無くなるのを見ると、Lv.60の黒い鎧は俺達を無視し、上の階へと昇って行った。
この場にはLv.30の黒い人形のみが残った。
意味が分からない。こいつらが一体何なのか分からない。
俺達は頭が真っ白になりながら戦った。
がむしゃらに、闇雲に剣を振り回して、ただ必死に叫んで、剣をただひたすらに振り回して……。
振り回して、振り回して、振り回して、振り回して、
もう回復薬もほとんど無くなって、
頭の中真っ白になって。
死だ。死が迫ってきた。少しずつ少しずつ死んでいった。
10人ほど死んでしまっただろうか。まだ20人ほど残っているけどみんな満身創痍だった。
何故こんなことになっているのだろうか。
何がいけなかったのだろうか。
俺達はゲームを楽しんでいただけなのに。ただ運が悪いだけだったのだろうか。
そうだ、俺はこんな時の為に力を付けたんじゃなかったのか。あの日、京子が人を殺して皆を守った時、俺達は誓ったんだ。
頑張って、努力して、強くなって……。
こういうときのために強くなったんじゃなかったのだろうか。
……あれ?
なんのためだっけ? 何のために力を付けようと思ったんだっけ?
守るためだっけ。
何を守るためだっけ。
……自分を?
あれ?
……あれ?
「うぅぅ……、ああああっ!」
良く聞き慣れた声色の叫び声が聞こえる。
そいつは敵の攻撃を受け、体を地面に打ちながら吹き飛んでいた。
「……っ! 万葉っ!」
櫛橋 万葉。このゲームではベルナデッドと名乗っている彼女は、俺達の幼馴染だった。口の悪い奴で、俺とはしょっちゅう喧嘩をしていた。
万葉の体が飛ばされ、壁に打ち付けられる。そのまま地に倒れ伏せた。吹き飛ばされた痛みで起き上がれないようだった。なんとか起き上がろうとするけれど、体に力が入らず震えている痛ましい姿が目に入る。
『狂魔』がゆっくりと万葉に近づいた。
悪夢のような光景だった。無抵抗の万葉に向かって黒い鉄の『狂魔』が剣を構えた。
「やめろっ……! やめろぉっ……!」
あの剣が振り落とされたら万葉の命は無い。あの悪魔を止めたいが、別の悪魔が俺の邪魔をした。
「逃げろっ……! 逃げろぉっ……! 万葉ぁっ……!」
敵の剣が振り下ろされ、
次の瞬間、
……首が飛んだ。
「……えっ?」
俺の口から呆けた声が漏れるのが分かった。
それは突然の事で、理解が追い付かなかった。分かるのは不気味な黒い影が風のように万葉たちに襲い掛かったことだけだった。
万葉の首は飛んでいなかった。
飛んだのは敵の首だった。
『狂魔』とかいう奴の黒い頭が宙を舞う。まるで軽い毬のように高く飛び、この部屋の端の方へ転がっていった。
首が無くなった鉄の悪魔は力なく倒れ、その向こう側にいた者の姿がさらけ出される。
そいつは魔法使いの格好をしているくせに美しい銀色の刀を手に握っていた。長い刀を手の中で自由自在に、慣れた手つきでくるくる回す。
俺達のよく知る人物。
きっと一生記憶から離れない光景。
柊 京子が昂然とその場を支配していた。
「雄樹くん、万葉ちゃん、遅れてごめん……」
「…………」
京子はゆっくりと口を開く。
「私、戦うから……。もう、逃げないから……。
もし、出来るなら……、安心して……?」
京子は穏やかな笑みを浮かべていた。
か細い手足、少しだけ怯えのこもった笑み、いつも通りの弱そうな体躯をしているのだが、その場にいる何よりも覇気を持つ少女が立っていた。
その姿は昔の強かった彼女を彷彿とさせた。
京子の中で何かが変わった。いや、何かが元に戻った。
何故だろうか。
本当に何故か分からないのだが、体が震えた。
心臓が痛い程高鳴っていた。
それは俺のよく知る感情だった。
何でそんな感情を感じていたのかは分からない。
でも確かに、京子が悠然と立っている姿を見ると、ある感情が噴き出してきた。
『恐怖』が、俺の心を蝕み始めていた。
* * * * *
「京子……か?」
「うん、お待たせ」
雄樹と京子が視線を交わす。雄樹の目が驚きで見開かれている。
京子は優しい目で見ていた。
その2人の距離は友達にしては遠く、お互いその距離を詰めようとしなかった。
雄樹の体が震えていたから。
京子がそれに気付いていたから。
「待ってて、すぐに終わらせるよ。私ももう、迷わないから。早く万葉ちゃんの手当てしてあげて……」
雄樹は息を呑んで頷く。
そして視線を外し、万葉に近づいて最後の回復薬を彼女に使った。
「キョウコさん、僕は予定通り敵の頭を探します」
「グラドさん、よろしくお願いします」
「ファイトぉっ! グラドっ!」
グラドが京子に近寄って、作戦の確認をする。
「グラド!? クロ!? なんでここにっ……!?」
雄樹は驚愕する。彼らはLvが低い。こんなところで生き残れるわけがない。
「逃げろ! グラド! クロ! 京子!」
雄樹が叫ぶ。3人に鉄の戦士が迫っていた。
「でやあああああぁぁぁ……!」
京子が部屋中を震わす雄叫びを上げながら鉄の戦士を迎撃した。
手に持った刀に体重を乗せ、激しく剣を振る。銀の剣線が走る。風も、鉄も何もかもが斬り裂かれる。
京子の剣は的確に人体の急所をついていき、たった2度の斬撃で敵を殺害した。
「ふぅ……。でも、敵が多すぎるなぁ……」
京子は崩れ落ちる狂魔を気にもかけず、一つ溜息を吐いた。
周囲は『狂魔』の大軍で囲まれている。味方であるプレイヤーは満身創痍。なんとか味方の皆を集め固まらせ、有利な状況を作りたかった。
そのためには敵の隙が必要だった。
大量の狂魔が一斉に動きを止めるような隙が。
「キョウコさん、僕が隙を作ろう」
「え……? でも、これだけの敵の数を……?」
「良い技を知っているんだ」
そう言って、グラドは剣を腰の近くで持ち、下段で構えた。銅の剣。元々持っていた彼の弱い剣だ。
グラドの目が鋭くなる。非情な目で、敵をただの的と見做していた。
一瞬の静寂の後、弾けるように彼の剣が振るわれた。
「ふっ……!」
《グラド;Action Skill『百斬練磨』》
彼の斬撃が部屋中を埋め尽くした。
ただの一振りの斬撃が百にも分かれ、宙を舞う。魔力を薄く引き伸ばし、剣に込め、斬撃を分裂させていた。
一瞬にして飛翔する百の斬撃が、見事に狂魔だけに危害を加えていった。
「なっ……!?」
「なにこれっ……!?」
部屋中を埋め尽くす斬撃に、皆が驚愕を露わにしていた。
見たことの無いアクションスキル、それが突然目の前で展開され、敵に攻撃を加えていく。周囲の皆は口をぽかんと開けるしかなかった。
《グラド;Action Skill Get『百斬練磨』を習得しました》
アクションスキル『百斬練磨』。
それはこのゲームの開発責任者、渋川一徹が自分の為だけに設定したスキルだった。
正当なやり方では体得の出来ないスキル。反則紛いのゲームマスター用スキルだった。
それをグラドは一度見ただけで真似た。
剣士としての経験が、システムによって作り出される剣技を自らの力で再現させていた。斬撃に魔力を混ぜ込み、ゲームマスター用のスキルを再現させていた。
「今のうちにっ!」
「う、うん……!」
狂魔達には殆どダメージが無い。結局レベル差を覆すことは出来ず、グラドも剣に込めている魔力を少なくしているため、ほとんど威力は出なかった。
それでも狂魔たちは攻撃を加えられ、体のバランスを崩す。たたらを踏み、転び、膝を付く。その隙に京子やクロが仲間の腕を引張り移動させる。声を掛け、動ける者を動かしていく。
「もういっちょ!」
《グラド;Action Skill『百斬練磨』》
続けて放つ百の斬撃が狂魔達の動きを封じていく。斬撃は正確に狂魔だけを狙い撃ちし、京子やプレイヤーの動きを阻むことは無かった。
京子とクロの動きは素早く、たった2回の全体斬撃でプレイヤー全体の守りの形勢を作り出すことに成功した。
「じゃあ、僕は上に行って敵の頭を探してくるよ」
「うん……、頑張って……」
「うん」
《グラド;Action Skill『百斬練磨』》
そしてもう一度だけ狂魔達の動きを止めると、悠々と上に続く階段に辿りつき、悠々と昇り始めた。
何体もの狂魔が彼を追おうと階段に近づいたが、鉄を斬り裂く大きな音がし振り返った。
「あなたたちの相手は私だよっ!」
階段に注意を向け、京子に背を向けた狂魔達は無残に切り裂かれた。
鉄の戦士たちは理解する。
あの少女に背を向けてはいけないと。
まず彼女から殺さないといけないと。
狂魔たちは一斉に京子に襲い掛かった。
京子はそれを微笑みながら迎え撃った。
* * * * *
空を昇っていた。
天に向かって走っていた。
そう思えるような果てしない階段を、ただひたすらに昇っていた。
「これは一体……」
グラドは不思議な感覚に包まれながら、敵の頭を抑えるために単独で『天に昇る塔』の階段を昇っていた。
見渡せる光景は異様だった。
ついさっきまで、石の壁に囲まれた狭い螺旋階段をぐるぐると上っていたのに、いつの間にか視界は晴れ、夜空の星々が彼の周りに輝いていた。
最早ここには螺旋階段しかなく、階段の両脇は透明なガラスで囲われて、上下左右視界一杯に煌々と星が輝いていた。
階段を昇りに昇り、その星々に手が届くところまで来てしまったかのようだった。そんなわけあるはずないのだが、階段を昇れば昇るだけ星が輝きを増していた。
手を伸ばせば星に手が届きそうなほど、天に近づいていた。
『天に昇る塔』、その異名の意味をグラドはまじまじと体感した。
グラドは階段を10段も20段も飛ばして昇る。駆け上がるというより、飛び上がっていくかのようだった。常人ではありえないほどのスピードで塔を昇っていく。
階段を跳ね、ガラスの壁を蹴り、塔の中を飛んでいた。
やがて目的の部屋にたどり着いた。
それは部屋と呼んでいいのか分からなかった。
満天の星空が見渡せる場所だった。あるのは赤い絨毯だけ。そこは壁も天井もない開放的な空間であり、どこも支えていない意味のない柱がポツリポツリと立っていた。グラドが階段を昇った先には不思議な空間が広がっていた。
満天の星空が見える、と言っても一般にイメージするような星空ではない。その星空は自分の足元にも広がっているのだ。宇宙に放り出されたような感覚だ。
ついでに言えば、その部屋とも言えない部屋には床もなく、不思議なことに絨毯だけが浮き、それが部屋の床の代わりをしていた。
グラドは広大な宇宙を感じ、つい自分のちっぽけさについて思いを巡らしてしまっていた。その思考をすぐに打ち切ったのは、部屋の向こう側にいる人の悲鳴だった。
「ぎゃああああああぁぁぁっ……!」
それは悲しいことに断末魔であった。
黒い鉄の鎧にある男が襲われていた。
それはグラドがこの世界に迷い込んで2日目、彼の寝床を破壊したプライヤー『クロロベンゼン』であった。Lv.60の『狂魔』に襲われ、たったいま袈裟を大きく斬られ致命傷を受けてしまった。
Lv.60の『狂魔』。下の階にいた人形型の『狂魔』よりも一回りも二回りも大きい。全長は2m半ほど。下の階の『狂魔』が着ていなかった大きな鎧を身に纏っている。
風格が下の階の奴とはまるで違った。輝く星々の光を受け、黒い鎧が不気味に光る。圧倒的な存在感。
その見渡す限りの星空を支配しているかのようだった。
この鎧の狂魔のレベルは60。レベルキャップが35のこの世界の中で、間違いなく最強の存在であった。
この場にはあと2体、狂魔がいた。
鎧の狂魔よりかは少し小さめであり、鎧を着ていない。それでも階下のLv.35の狂魔よりかは大きく強く、鉄の体であるのに筋肉が発達しているように見えた。
2体の狂魔は鎧の狂魔の側近のように動いていた。
『狂魔 Lv. 45
HP 3691/4000』
2体の狂魔のレベルは45。Lv.60の鎧の狂魔よりかは弱い。でも、この世界のプレイヤーが敵う相手では無かった。
グラドはとことことこの部屋の絨毯の上を歩き、たった今狂魔に斬られたプレイヤー、クロロベンゼンに近づいていく。
歩きながら部屋を見渡すと、この場の床には10人以上の死体が転がっていることが分かった。
立っているものは誰もいなかった。
グラドはクロロベンゼンの近くにしゃがみ込み、その容体を見る。かろうじて息はあるものの、やはり先程の袈裟斬りは致命傷であり、もう死は免れないことが分かった。
「ご……ごぶぅ……」
クロロベンゼンは血を吐きながら、傍によって来たグラドを認め、何かを語りかけようとしていた。もう意識はほとんど消えかかっている。
「死ぬ前に言い残したことがあるのなら、僕が聞くよ?」
「…………」
狂魔と呼ばれる人型のモンスターは動かなかった。まるで警戒をするかのように新たに現れたグラドの事をじっと観察していた。
「…………もう……いない」
クロロベンゼンから重い声が漏れた。
「もう……生きてる奴は……いない……。皆、皆……死んでしまった……」
「うん、そうみたいだね」
「俺のせいだ……。俺の……」
この部屋に転がっている死体たちはクロロベンゼンに引き連れられてきた者たちだった。
元々、クロロベンゼンの素行は悪かった。ダンジョンの攻略を焦る余り、他プレイヤーに横暴な行為を働いたこともある。全ては自分が上位ランカーになるため。その為にたくさんの人を傷つけてきた。
今回の大規模攻略も、他の人に後れを取ってはならないとして、たくさんの人を巻き込んでスピード重視の無理矢理な攻略を実行しようとした。そのため、大きなチームは2つに分かれ、スピードのあるチームと慎重なチームの2つに分かれてしまった。
そして今、その最前線にいたチームは全滅し、全員が息を引き取ろうとしていた。
「遊びだったんだ……。ただのゲームだったから、無茶が出来たんだ……。死ぬなんて……死ぬなんて思いもしなかったんだ……!」
クロロベンゼンは泣いていた。
口から血を吐きながら鼻水を垂らし、泣き顔を見せていた。
「俺のせいだ……。俺の……、俺の……」
この場の周囲には10人以上の死体が転がっていた。彼と共に攻略を急いでいたチームメンバーだった。
涙を流して体を震わしている彼のおでこをグラドが撫でた。
「お疲れ様。よく頑張ったね」
グラドは優しい声を掛ける。
「後は僕が何とかするから、もう安心していいよ」
その声を聞き、クロロベンゼンの震えが止まった。
そうして彼はゆっくりと目を瞑り、静かに息を引き取った。
その最期をしっかりと見届け、グラドはゆっくりと立ち上がった。
3体の狂魔が立ち並ぶ場所にゆっくりと近づいていった。
クロロベンゼンと会話している間、狂魔達は襲い掛かってこなかった。
彼らはグラドの強さを見抜いていた。不用意な攻めを避け、警戒心を露わにしていた。身構え、戦闘の準備を行っていた。
この場の奥の方に大型の魔物の死体があった。『天に昇る塔』の本来のボスモンスターだ。このモンスターは3体の狂魔に何度も斬り付けられ、邪魔と言わんばかりに絨毯の端の方に打ち捨てられていた。
このボスモンスターと10人以上のプレイヤーを同時に敵に回し、それでも3体の狂魔が勝利を収めていたのだ。
狂魔達の目の前でグラドが立ち止まる。
静かな場の中で、激しい殺意だけが飛び交っていた。
『狂魔 Lv. 45
HP 3691/4000』
『狂魔 Lv. 45
HP 3753/4000』
『狂魔 Lv. 60
HP 7892/8000』
『グラド Lv.18
HP 291/291』
1人だけ場違いなレベルの持ち主がここに並んでいた。それでもこの場で最も威圧的な殺気を放っているのが彼だった。
「全く……。『ウィルス』というのは何処にだっているんだね……」
グラドが冷たい声を放った。
「魔族のなれの果てめ……」
グラドは『狂魔』の正体を知っていた。
それは彼が元居た世界アルヴェリアを荒らし回った魔人の変異体だった。魔人は勇者グレイの最大の敵であり、その魔族の力が暴走し体も心も変質してしまった存在、それが『狂魔』だった。
狂った魔人なのであった。
グラドが銅の剣を構えた。次の瞬間にも戦いが起こり始めそうだった。
「……ん?」
そんな中、グラドは小さな疑問の声を上げ、「なんだ?」と、背後を振り返った。
背後から奇妙な気配がした。
「こんにちは、グレイ。お久しぶりね?」
誰もいない筈だったグレイの背後から、声の横やりが入る。
「…………」
いつの間にか、グレイの背後に黒い炎が浮かんでいた。そこから高く綺麗な女性の声が聞こえてきた。その黒い炎は唐突に、何の前触れもなくグラドの背後に現れ、グラド達の殺意に邪魔立てをする。
その黒い炎が空間の歪みであることにグラドは直感的に気付いていた。
黒い炎から1人の少女が姿を現した。
「……誰だい?」
グラドは狂魔達に警戒心を向けつつ、ちらと背後を覗き少女を見た。
彼には少女の姿に心当たりが無かった。
「私はアメリー。ふふ……、今あなたに名乗っても何の意味も無いでしょうけど?」
片眼が暗い黒に染まったオッドアイの少女がグラドの後ろでふわふわと浮かんでいた。
次話『31話 赤色の意味』は明日 12/25 19時に投稿予定です。




