10話 過酷なるレベル上げ計画
今回文字数少ないですが、本当はこれより少し長い5000字程度で1話収めたい。
今までが長すぎたんや……!
「いいかい、グラド。
昨今のVRMMOっていうのは大体『護衛NPC』ってシステムがあるのさ」
歩きながら、クロさんは喋る。
「VR技術が使われたゲームってのは、従来のMMORPGと違って元々の運動神経が大きく影響してしまう。
さらに、デフォルメはされているんだけど、凶器やモンスターを目の前にしちゃって足が竦んじゃうプレイヤーが多いこと多いこと。リアルすぎる技術の弊害って奴さね。
そこで護衛NPCの出番さ。プレイヤーの味方となり、モンスターの凶刃から主を守る。プレイヤーを最大限補助するNPC。まさに初心者にうってつけのシステム! バグでLv.1になっちゃってるうちらには最高の仲間ってわけさ!」
得意げに語るクロさんの背を追いかけていた。
ここは冒険者ギルドの建物の中だ。冒険者たちが持ち帰った外の泥や汚れが移り、ロビー全体が薄汚れている。
魔物を狩ることを生業とした屈強な者達が集まり、たむろしている。次はどの高難易度ダンジョンを攻めるか、どのモンスターに挑戦するか、そんな血気盛んな声が聞こえてくる。
その中をクロさんは悠々と歩いていた。
「勿論、プレイヤーの協力者を探して一緒に狩りをするという手もあるよ。でも、バグ持ちのうちらに協力してくれる人なんか少ないだろうし、あるシステム上のルールのせいで協力者と一緒に狩りをすると貰える経験値量が大きく減っちまうんだよ」
「あるルール……?」
「どうもグラドはVRMMO全体の初心者らしいね? まぁ、いいさ。今は関係ないさ。おっちゃーん! 護衛NPC雇いたいんだけどー!」
『よぉ、冒険者ギルドに何の用だい?』
クロさんが受付に話しかける。筋骨隆々の厳つい顔をした中年の男性だ。顔に大きな傷の跡が残っている。中々の風格を感じる。
……しかし、中身はポンコツなのかもしれない。何の用って、今クロさんがそれを言ったじゃないか。
クロさんの手元に青いガラス板が現れ、慣れた手つきで操作していく。いつも思うんだけど、それどうして指で触ると書いてある文字が変化するのだろう?
「あった。ほら、これが護衛NPCの項目さ」
クロさんは青いガラス板に書かれた項目を指で触った。
『あぁ、護衛NPCを雇いたいんだな?』
一番最初にそれ言ったじゃんか。
『Lv25の護衛NPCで2000Gになるぞ』
「……ん?」
「2000……G……?」
受付の言葉を聞いて、僕とクロさんは目を見合わせた。
2000G? ……2000Gって、それは……。
・僕の残りG 40G
・クロさんの残りG 140G
・合計 180G
「ダメじゃんっ!」
二人して頭を抱えた。
「全然ダメじゃん! 全然お金足りんじゃん! これじゃあ護衛雇えんじゃんっ!」
「クロさん、さっきまで自信満々だったじゃないか!?」
「知るかぁっ! 始めて間もないゲームの護衛NPC料金なんて知るかぁっ! 護衛NPCのレベルが高いから初期設定の金額じゃあ全然足りんじゃないかぁっ!」
僕達は受付の傍を離れながら頭を抱え唸っていた。
どうやらこの村はレベルの高い冒険者が集う村らしいので、応じて護衛のレベルも高くなる。そうなれば必要な金額も高くなるらしい。
ふぅむ……。レベル……レベルか……。
「ねぇ、クロさん……」
「なんじゃらほい?」
「……レベルって結局何なのかな?」
クロさんが「えっ?」と短い声を発し、驚く。
しまった。この質問もこの村では非常識な質問だったのかな。でももう何が常識で何が非常識なのかわからない。ここの村は本当に訳が分からない。
「今時、レベルを知らないのかい? グラドって本当に現代人?」
「さ、さぁ……?」
「ふむふむ、でも普段ゲームとかしないと知らない言葉なのかな? レベルなんてゲームぐらいでしか使わないし? ……いや、でもやっぱり非常識だなぁ?」
「よ、よく言われるんだよ……」
僕は頬を引きつらせながら笑っていた。
「グラドは世間知らずの箱入り息子かなんかなのかな? まぁいいや。リアルの事情を聞かないのがネットのマナーってね」
クロさんが『レベル』の説明をしてくれる。
『レベル』というのは、簡単に言うと強さの階級。そのプレイヤーの強さを表す指標であって、モンスターを倒すことによって上がっていくらしい。
とても簡単な単語であった。拍子抜けするぐらいあっさりと説明が終わった。
まぁ、僕も多少の推測はできていた。
あの憎きニワトリはLv.22と表示されていた。そしてあの戦力差。やはり数字の大きさがそのまま強さと直結しているらしい。
「……じゃあ、やっぱりLv.1って最弱の人間なんだね」
「はっはっは! 最弱も最弱! Lv.1より弱いプレイヤーなんていないさ!」
「なんとぉ……」
がっくしと項垂れる。
「どうしたのさ? 最弱っていうのが悲しかったのかい?」
「……こう見えても、自分の強さにはある程度の自負があったんだけどなぁ……」
「へぇ? グラドって何か武道やってるのかい? 全国一位の有名な選手だったとか、古流武術の使い手だったり?」
「…………」
なんて言ったらいいのだろうか?
「数万人ぐらいなら、1人で皆殺しに出来るくらいの強さはあったんだけどさ……」
「恐ぇよっ!?」
クロさんが身をさっと引いた。顔が青ざめ、腰が引けている。
少し驚き過ぎだろう。この位なら僕でなくても出来る人はいると思う。
クロさんがこほんとわざとらしく咳をした。
「ま、まぁ……。冗談は置いておくとして……」
冗談じゃないんだけど?
「結局のところ、強くなるにはレベル上げしかないのさ。レベルがなければ何もできることはない。ダンジョンを攻略することも、ギルドでクエストを遂行することも、モンスターから素材を剥ぎ取ることも出来やしない。
レベル上げをしないとやってられないさ」
「でも、クロさん。レベル上げするにはモンスターを倒さないといけないんだよね? でも、僕たちは弱いからモンスターを倒せない。そこが問題なんじゃないか?」
「……だから、護衛NPCを雇おうと思っていたんだけど……。これじゃあ、全く、ご破算だ」
クロさんが口に手を当て、思案をする。
「協力者を探すのは難しいだろうなぁ。パワーレベリングは好まれない風潮があるし、大体Lv.1だということへの言い訳が出来ない。Lv.1のバグ持ちなんて誰もパーティーに入れてくれないだろうし……」
クロさんが言葉を続ける。
「北の森を何とかして抜けて、弱い敵のいる場所まで向かうとか……」
「でも、そこにはいつものニワトリがいるじゃないか」
「そうだ……、そうなんだよなぁ……。そこを抜けられたら苦労はしないんだよなぁ……」
北の森とは僕が初めにいた、いつもの森のことだ。いつものニワトリがいる場所でもある。
「課金……だってβテスト期間じゃサービスやってないし……。そもそも経験値自体が売っているわけじゃないし……。闘技場の訓練施設で経験値稼ぎ……いや、ダメだ、入場料が払えないんだ……」
あぁでもない、こうでもないとクロさんがぶつぶつと呟いている。口に手を当てて一生懸命考え事をしている。僕たちの進むべき道を考えている。
そして、ふと俯いていた顔を上げた。
「……やっぱりこれしかないかな」
そう言うクロさんの顔は笑顔だった。晴れやかとした心地のいい笑顔が顔に浮かんでいた。あらゆる悩みから解放された清々しい表情をしていた。
「何か思いついたんだね、クロさん!」
「うん、やっぱりこれが一番だ……」
クロさんは胸を張って笑った。
「諦めっか!」
「えっ?」
「辞めっか! このゲーム!」
「あれぇっ!?」
クロさんの出した答えは諦めだった。潔い諦めだった。
『このゲームを辞める』という意味は分からなかったが、クロさんが何かを諦めたのはよく分かった。とても清々しいほどに笑顔だった。
「えっ……!? ク、クロさん……!? な、なにかを放り投げてないかい!? 逃げ出そうとしていないかい……!?」
「いやぁ! 無理! 無理! こりゃ、どうしようもないわぁ! うちらこのゲームの中じゃ一生、この村から出れんね!」
「クロさーんっ……!?」
僕たちの歩むべき道はまだ見えない。
一体、果たして明日はどっちにあるのだろうか。
まだまだ僕は迷子のままのようだった。
グラド「数万人ぐらいなら、1人で皆殺しに出来るくらいの強さはあったんだけどさ……」
グラド、黒歴史持ちのいきりオタク疑惑、浮上……。
次話『11話 勇者のサバイバーなお金稼ぎ』は明日 12/5 19時に投稿予定です。




