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最終話

「おら、お前らさっさと出てけ。仕事の邪魔だ」

 白衣の方は不機嫌そうな顔で、散れ散れー、と玲と時雨に言う。

 彼女は手に分厚いゴム手袋をはめ、マスクとゴーグルをしている。その後ろにいるゴスロリの方は、服の上からレインコートを着て、鞘に収まった包丁のお化けを背負っていた。

「あっはい!」

 そう言われてすぐに立ち上がった時雨は、まだ座っているのがやっとな玲へ、中腰になって手をさしのべる。

 その手を握ってなんとか立ち上がった玲に、時雨は自分の頼りない細い肩を貸す。

「……ねえ時雨。無理しないでも良いんだよ?」

「だっ、大丈夫です!」

 そうは言う時雨だが、その顔は赤く、身体もプルプルしていて、どう見ても大丈夫には見えない。

「……なら、良いんだけど」

 彼女のいじらしい様子を見て、小さく苦笑した玲は、なるべく自力で歩く様に務めることにした。

 多少ふらつきながらも、2人はゆっくりと歩いて廊下に出た。すると、背中に『掃除屋』と書いてある、灰色の防護服を着た人々が床を掃除していた。

 その辺に転がっていた死体は、1つも無くなっていた。


                    *


 途中で休憩を挟みつつ、なんとかフィールドに戻った2人は、そこにいた女性の医師からの問診を受けた。

 時雨には特に異常が無かったが、玲の方は全身の打撲と診断された。

 彼女に応急処置を施した医師は、すぐ後ろで救急箱を持っていた大男へ、玲と時雨を自分の病院に連れて行く様に言った。

 その後2人は、医師とそのボディーガード、他の殺し屋数人と共に、1番先にエレベーターで地上へと上がっていく。

「ねえ、時雨。君は、上に帰ったらまず何がしたいんだい?」

 車いすに座っている玲は、後ろでそのハンドルを握る時雨にそう訊ねた。2人とも、久しぶりの日光から目を守るために、濃いめのスポーツ用サングラスをかけている。

「そうですね……」

 時雨はそう言って少し間を空け、

「まず両親と会って、それから玲と何か、美味しい物を食べに行きたいですね」

 にこやかに笑ってそう答え、玲は? と訊き返した。

「ボクは……、母さんと妹の墓参り、かな」

 玲は穏やかな表情をしてはいるが、その背中は時雨にはとても寂しげに映った。

「そう、ですか……」

 そんな様子を見てなんとなく察した時雨は、それっきり黙り込んでしまった。

「君は本当に良い子なんだね。時雨」

 ボクの事は気にせず喜んでくれ、と、笑みを浮かべつつ玲はそう言う。その表情には、羨ましそうなそれが薄らとにじみ出ていた。

 やがて、エレベーターの籠が1階に止まり、無機質な女性の声と共に扉が開く。

 少し埃っぽい空気の廊下を進み、最後の曲がり角を曲がる。

「良い天気ですね、玲」

「そうだね、時雨」

 玄関扉の外から差し込む暖かな日差しが、2人の冷えた身体を優しく包み込んだ。

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