北条莉子の事情
メグは毎日登校した。しかし週二日は、廃校となった淀川中学校に通い、幽霊ネコたちと勉強した。時々はメスネコ・メグに変身した。
学校を掃除して、二年生の靴箱には古くなった上履きを持ち込んだ。掃除はネコたちも手伝った。
「生徒がひとりでもいれば、この学校も喜ぶでしょ?」
メグの言葉に悪のりしたネコたちは、男子生徒に変身したり、先生に変身したりして遊んだ。
「生徒とか、先生に変身するの、抵抗なくなってきたよな。」
「だいたい学校に住んでること自体さ、学校に未練がある証拠だろ。」
ネコたちは自殺した小、中学生。それぞれいろんな思いをかかえているはずだったが、メグが来てから気持ちが少し楽になったようだ。
ソウスケは、北条莉子の家の様子をメグに報告した。いじめっ子の北条莉子が、近所のネコたちにエサをあげるという優しさを持っていた、そのギャップが、メグだけでなくネコたちの興味を引いた。
「母子家庭なんだけどさ・・・。」とソウスケは言った。
ユウはため息まじりの欠伸をする。
「出たね、母子家庭。問題のある子は、だいたい母子家庭なんだよ。」
「ユウ! なんだよ、それ!」とツトムが歯を見せる。
「よせよ、ユウ。ユウらしくないぞ。」
タケシはツメを舐める。
メグは、数学の教科書を広げていた。セイヤが珍しそうにのぞき込んでいる。
「やっぱり、俺が説明するより、メグちゃんが自分で見たほうがいいと思うぜ。」
ソウスケはそう言って目を閉じた。
「でもさ、なんでメグちゃんは茶髪なの? 世の中の悲しみをいっぱい抱え込んでるのにさ。」
ソウスケがメグのショートヘアを見つめながら訊いた。
「お母さんがね、元ヤンキーで・・・。」
「ヤンキーの娘がこんなに傷つきやすい子というのも、すごいギャップだね。」とユウが言った。
メグは肯いた。
「茶髪。いいじゃん。似合ってるぜ。」と突然ソウスケが目を開いて言った。
「聞いていいかな? 北条莉子は、学校でメグちゃんにどんなことするの?」とユウ。
メグは、無造作に足を組んで考え始めた。
「そうねえ。物を投げつけられたり、殴られたり・・・。わたしって、動きが遅いから・・・。ボーっとしてるし。」
「してるよね、メグちゃん。時々。」
ソウスケがニッと笑う。
「みんなから無視されるのは慣れてる。というか、全然気にならない。莉子さん、わたしを殴るけど、そんなに痛くないし、わたし鈍くさいから、みんなの前で笑いものにするけど、そんなに憎しみを感じない。」
タケシは体を舐めるのをやめ、メグを真っ直ぐ見た。
「憎しみを感じない?」
メグは、さらに首を傾げ、どこか遠くを見るように視線を泳がせた。
「こんな言い方はおかしいけど、わたしと同じ瞳をしてた。」
眠りこけていたソウスケが、背伸びをする。
「俺も、そんな気がするぜ。あの子は、救いようがあると思うね。ネコにエサをやるくらいだ。心は腐ってない。」
香箱座りをしているタケシが口を開いた。
「いじめっ子には、根っからの悪人と、そうでないのがいるが、北条莉子は前者ではなさそうだ。メグちゃん、ソウスケが言うように、自分の目で確かめてみたら?」
「あれ? タケシさん、今、メグちゃんって言った?」とツトム。
みんながタケシの顔をのぞき込む。
「なんだ? 悪いのか?」
シゲルが教室に入ってきた。
「別に悪くはないが・・・」
「悪くないけど・・・なんだよ、シゲル。」
「やっぱりタケシには似合わないかもな。ちゃん付けは。」
「うるさいよ。それよりシゲル、また頼むよ。」
「はいはい。話を聞いてたから出てきたまでよ。メグちゃん、変身しよか?」
メグがメスネコに変身するシーンは、ネコたちの楽しみとなっていた。
「変身するってよー。」
ツトムが叫ぶと、ネコたちがどこからともなく集まった。そしてメスネコ・メグの変身に、どよめき、拍手喝采を送る。
メグがひとつ発見したのは、鏡に映っても、鏡の中の自分と目を合わさなければ元に戻らない、ということだ。視線を誤魔化しながら、なんとかネコになった自分を見ることができた。
「タケシさんっ! 今度は俺がお供するっ!」
「いや、俺だ、タケシさん、頼むよ!」
そう言ってネコたちは、メスネコ・メグの尻尾を追う。
タケシは仕方なく、お供を志願するネコたちを人間に変身させ、四丁目の警備を担当させた。
「メグちゃんを追い回すイヌがいるかもしれんから。」とタケシが言うと、
「タケシさん、それっていろいろ使えるかも。」とユウが言った。




