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憂いっ子メグと幽霊ネコたち  作者: 瀬賀 王詞
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エピローグ


 淀川中学校の改装工事が始まった。

 

 タケシたちは3年6組の教室で最後の夕陽を味わっていた。メグは悲しそうな顔で、いつものようにボーっとしている。


「そろそろこの学校ともお別れだな。」


 タケシは、教室を見回した。


「ここもきれいになって、そのうち中学生の声でいっぱいになる。そう思えば、そんなに悲しくもない。」


 タケシの言葉に、ネコたちはうなずく。


 うたた寝をしていたシゲルは、目を覚ますと、あくびをしてからメグの膝に飛び乗った。メグはシゲルを抱きしめる。


「メグちゃん、悪いけど、俺は旅に出る。」とシゲルは言った。


 タケシたちは驚いた。


「なぜだ、シゲル。お前はメグちゃんのそばに・・・。」


「いいの。」とメグは涙を拭く。「けっこう、しんどいのよね、合体するって。よくがんばってくれたよ、シゲルくん。」


「なーに、すぐ戻ってくる。日本をあちこち、見てくるよ。もしかしたら仲間がいるかもしれねえ。」


「それも、大事なことだが・・・。」とタケシは言った。「だれか連れていくといい。」


「いや、ひとりでいい。その方が、俺は気楽なんだ。メグちゃん、しばらくはフツーの中学生でいてくれよ。必ず戻ってくるからよ。」


「わかった。待ってる。」


 話を聞いたネコたちがみんな集まった。シゲルは窓際に立ち、みんなを振り返る。


「みんな、元気でな。なにかあったら、すぐに飛んでくる。あばよ。」


「シゲルー! 絶対帰って来いよ〜。」


 窓から勢いよくジャンプしたシゲルは、夕陽の中に消えた。



「行っちゃったね、シゲル・・・。」


 ネコたちは、シゲルが去ったあとの寂しさを毛繕いで紛らした。


「僕たちは、たまーに人間になって・・・。そうだ、淀中の生徒がいいや。給食のときだけ、中学生になってさ。」


「給食かあ、もう一度食べたいなあ。」


 タケシは、物思いにふけっている。


「タケシさん、なに考えてるんすか?」


 ソウスケが尋ねると、タケシは薄目を開け、しみじみと言った。


「俺は・・・。俺は、自殺するべきじゃなかったって、考えていた。親が憎み合って、俺はいじめられ、気がついたら駅のホームに降りていた。死ぬ瞬間には、実はもう後悔していたんだと思う。だから、こんなふうに、神様が、幽霊ネコにしてくれた。後悔するチャンスをくれたんだ。」


「タケシさん、いつでも中学生に変身できるよ。」


 ユウの言葉に、タケシは笑いながらも首を横に振った。


「俺はもう一度、本物の人間に戻りたい。」


 ネコたちは、みんな頭を垂れた。誰もが、そう思っていた。


「できることならな・・・。」


 メグは、タケシを抱きしめた。タケシは目を細め、喉を鳴らす。


「辛いことだけじゃなかったと思う。給食を食べたり、グラウンドを走ったり、先生に怒られたり、恋をしたり・・・。いよいよ青春が始まろうとしていたのに、俺たちは、魔が差したのか、自ら命を絶った。神様にもう一度お願いして、俺は人間に戻りたい。」


 ネコたちのすすり泣きが聞こえた。


「戻れるよ・・・。」とメグは言った。「きっと、戻れるよ・・・。」




 新年度。

 新制淀川中学校が開校した。入学式には田沼議員の姿があった。


 メグ、北条莉子ら数百人が江戸川中学校から転校した。北条莉子は生徒会長に立候補して当選。


「メグ、いじめのない、楽しい学校をつくろうよ。」と張り切っている。


 

 幽霊ネコたちは、姿を隠して新制淀川中に住み着いている。ただ、タケシ、ユウ、ツトム、ジュン、アキラの姿は、三月になってから見なくなった。メグはそのことが気がかりで、落ち着かない心持ちで学校生活を過ごしていた。


 

 風薫る五月。

 江戸川中学校から意外な転入生がやってきた。


「決着をつけに来たよって。冗談冗談。」


 そう言って、今村沙也加は今まで見たこともないほどきれいな顔になっていた。


「今村先輩、すごく、きれいです!」とメグは言った。


「懐かしいですね、今村先輩!」と莉子が今村に抱きついた。


「おい、離せ! くっつくな。おまえ、北条か。お前が生徒会長だって? どうなってるんだよこの学校は。」


「新制淀中に来てくれたんですから、仲間ですよ、仲間。」と莉子。


「おまえたちと仲間なんて、あり得ない! わたしは先輩だぞ。元生徒会長がアドバイスしてやる。」



 今村沙也加が転入し、莉子は学校行事を取り仕切り、新制淀川中学校は順調に滑り出した。


 

 ただ、メグは相変わらず『憂いっ子メグ』だった。

 放課後は教室に残り、残った幽霊ネコとじゃれ合いながら、タケシたちを思い出していた。


「みんな、どうしたんだろ?」


「修行に行ってくるって言ったらしいよ。」と幽霊ネコたちは噂話。


「じゃあ、きっと戻ってくるね。」


 シゲルもまだ帰っては来なかった。


 夕陽が沈んでから帰る日々を過ごしているうちに、そろそろ夏の到来が感じられる、汗ばむ季節がやってきた。


「元気だしなよ、メグ。」と莉子が言っても、メグはひたすら、夕陽の当たる教室で物思いにふけっている。


 制服が夏服に替わったころ、ひとりに転入生がやってきた。二年二組、メグのクラスに姿を現した転入生は、

「大内剛です。」と自己紹介をした。


 大内剛は、メグの前の席だったが、メグに振り返ると小声でささやいた。


「メグちゃん、久しぶり。」


 大内剛の瞳を見て、メグは気づいた。そして、大粒の涙を流した。


 幽霊ネコたちが、大内剛の周りに集まってくる。


「タケシさんでしょ?」とセイヤが言う。「メグちゃん、タケシさんたちだよ。本当の人間になる修行をしてきたんだって。」


 メグは、大粒の涙を流しながら、人間になったタケシの背中にそっと手を置いた。


 タケシがふり向くと、メグはタケシのアゴをなでる。タケシは、気持ちよさそうに目を閉じると、

「好きだよ、メグちゃん・・・。チップスター、食べる?」

と言った。



                            (了)

最後までお読みくださりありがとうございました。数ある小説の中から本作を選んでくださったあなた様にいいことがありますように。


    感謝です。    

                              瀬木 遊馬

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