大滝議員の辞職
東京都庁の事務室に入ると、田沼秘書が出迎えた。
「大丈夫ですか、大滝先生・・・。」
大滝議員はソファに座り込んだ。田沼は水の入ったコップを手渡す。遅れてマネージャのツトムが入ってきた。
「西田さん。先生はタレントじゃないんですから。あんなアホ番組、ほっとけばいいんですよ。」
ツトムも水を飲み、椅子に倒れ込む。
「田沼さん、テレビ見てて、どうでした?」
「どうって、なにがですか?」
「セーフでしたかね?」
「セーフって。電気が消えて真っ暗、そのあとはすぐCMでしたから、チャンネル変えました。大滝先生、もうバラエティなんぞ出るの、やめてくださいよ。ネコの化け物がどうのこうのって、世間の悪ふざけに付き合ってたら大変ですよ。」
大滝議員は、閉じていた目を開けて、田沼を見つめた。
「なんですか、そんなに見つめたりして。恥ずかしいなあ。」
「田沼秘書、少しは、政治をする気になったようだね。」
「どういうことです?」
「田沼先生は、啓一をその気にさせてくれ、とおっしゃった。わたしのサポートをすることで、政治家魂が目覚めるだろう、そのときは、わたしがサポートするようにと頼まれた。」
「いや、僕は、大滝先生のもとで・・・。」
「連日の宴会で議員の心をつかみ、ショッピングモール建設を阻止したきみの手腕は、さすがに田沼先生の甥だと思わせる。見事だったよ。」
「サポートなら、僕は得意だし、それに・・・愛ちゃんがいたしね。」
「相談だが、実はわたしは、大滝議員でいることができなくなった。」
「どういうことですか?」
「実は、わたしは、人間ではない。」
大滝議員は、ユウとその他のネコに分解した。ソファにはユウが現れ、顔を右手でごしごしこする。その他の八匹のネコたちは、ソファの周りで毛繕いを始めた。
「大滝先生・・・。これ、手品かなんかですか?」
ユウが答える。
「手品じゃないよ。僕たちが合体して、大滝議員に化けていたんだ。僕たちは、廃校になった淀川中に住む幽霊ネコ。ショッピングモールができると聞いて、それをやめさせたくて、人間に化けて田沼先生に近づいたのさ。ちなみに、加藤秘書も仲間だよ。」
事務室の扉が開き、加藤愛が入ってきた。愛は、田沼の頬にキスをすると、メスネコ・メグとその他のネコに分解した。
「田沼さん、ごめんなさいね。だましてて。」
「愛ちゃん・・・。マジっすか、これ!」
田沼は声を発するメスネコに向かって言った。
「もう少し大滝議員として、江戸川区開発をがんばるつもりだったけど、もう限界・・・。ネコだってばれてしまった。」とユウは背伸びとあくびをする。
「いや、ばれてないでしょ。世間には。」
「テレビをつけてみて。」とユウ。
田沼がリモコンを手に取る。どの放送局もニュースを流していた。画面には、大滝議員がネコに分解する映像が映し出されている。
「赤外線カメラだよ。今、性能がいいからね、はっきり映ってる。」とユウ。「これ以上議員を続けられないよ、田沼秘書、あとは頼むから。」
「いやあ、しかし・・・。」
「僕は明日自殺するから、きみは補欠選挙に必ず出て、田沼先生の意志を継いでよね。」
そこへタケシが現れた。
「うわっ! 壁からネコが出てきた!」
「だから、幽霊ネコなんだ。」とユウ。
「タケシと言います。田沼秘書、いろいろと協力してくれてありがとう。恩返しに、俺たち幽霊ネコは、いつもあなたを守るし、サポートしますよ。都政のため、日本のために、正義と誠意ある政治をお願いします。」
「幽霊ネコというものが、よくわからないが・・・。愛ちゃんがいなくなるのは、寂しいなあ。」
田沼の言葉を聞いて、ユウとメグはもう一度大滝議員と愛に変身した。
「なにを言ってるんだ、いい大人が。」と大滝議員は言った。
「大滝先生! それに愛ちゃん。なにがなんだかさっぱいわからない・・・。やっぱり、これ手品でしょ?」




