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憂いっ子メグと幽霊ネコたち  作者: 瀬賀 王詞
24/27

テレビでの暴露


 都議会中継で一躍有名になった大滝議員は、テレビやマスコミ報道に引っ張りだこだった。


 バラエティでもユニークなトークが評判となり、醤油顔のイケメンをテレビで見ない日はないほどだった。


 タケシたちはバックアップ体制を組織。幽霊ネコ総出で全国を回った。


「都政どころか、国をも動かす勢いだぜ。」とツトムが言った。


 ツトムは、マネージャーに変身し、西田と名乗っていた。


「ショッピングモール建設反対派は、賛成派を圧倒する勢いだし、わざわざ地方を回ることはないのになあ。」


「出演依頼があれば、行かないわけにはいかないよ。」


 ホテルの部屋に戻った大滝議員と西田は、すぐに元のネコに戻る。


「ユウ、人間になるって、ほんと、疲れるな。」


「わかったでしょ? 僕の苦労が。」


 ネコたちは体中を丹念に舐め始める。



 東京に帰ってトーク番組に出演したとき、MCの芸人、石岡浩太が妙な質問をした。


「ところで、大滝議員、視聴者から変な手紙が来ましてな、大滝議員は、ほんまはネコの化けもんやて、こないゆうてまんのや。」


 今村親子の復讐の始まりだった。


「ネコの化け物? なんの話ですか?」


 意表を突かれた大滝議員は、しどろもどろになり、まともな会話ができなくなった。


 ツトムは、テレビカメラの横に立ったいるディレクターに放送を中断するように詰め寄った。


「だれがこんなマネを・・・。」


 ステージ裏にいたタケシたちは顔を見合わせた。


「僕たちの敵といえば、今村議員、今村沙也加ですかね。」とジュン。


 MCの芸人、石岡浩太は続けた。


「目撃者がいるっちゅーことですわ。ネコが何匹も集まって、合体して、人間に変身したっちゅうて。」


「石岡さん、まさか、そんな馬鹿な。僕は、正真正銘の人間ですよ。ほら、見ればわかるでしょ?」


「そやな。見た目は、ほんま、人間ですわ。ぼくもねー、こんなアホなこと、番組でいうてなんになるのって、思うてんのや。そんでもな、ADがな、確かな情報で信用できるから生放送で真相を究明すんのやって、こない言いまんのや。」


 ADに番組中止を要求しているツトムを、タケシはステージ裏に呼び出した。


「ツトム、今番組を中断したら、視聴者が変に思う。ここは、ユウがなんとか乗り切ると思う。」


「あとちょっとでCMに入るから、そのとき抜け出すよ。」



 この放送から、大滝議員のネコのお化け疑惑がワイドショーで取り上げられるようになった。


 大滝議員の家とされる淀川中学校がテレビに映し出されると、タケシたちは慌ててマンションを借りた。


 今村沙也加が久しぶりに登校して、昼休みにメグを呼び出した。


「悪いけど、あなたたちの正体、突き止めたから。」


 タケシたちもメグのそばにいた。


「正体って、なんですか?」


「とぼけても無駄よ。パパが調べたわ。ここ一週間、防犯カメラで淀川中を撮影してたのよ。あなた、なぜ淀川中に出入りしているの? 不法侵入よね。」


「今村先輩って、堂々と戦う人だと思っていました。」


「妖怪相手に勝てっこないわよ。いくらわたしでも。あなたこそ、普通の人間として戦ったらどうなの?」


「弱いわたしたちは、力を合わせるしかないんです。」


「認めたわね、ネコのお化け説。」


 タケシたちは、ネコバズーカ砲を沙也加にお見舞いした。沙也加は突然、長い廊下の奥まで吹き飛んだ。苦痛に顔をゆがめた沙也加は、かろうじて立ち上がると、唇を?んでつぶやいた。


「目には目を、歯に歯をって言うけど、妖怪には、やっぱり妖怪・・・。」


 大滝議員は、ネコお化け疑惑が浮上してからというもの、テレビ出演は控えていたが、『疑惑晴らしまショー』から出演依頼がきた。


「タケシさん、やめときましょうよ。」


 マネージャーのツトムは出演に反対だったが、タケシは、テレビに出ないことが逆に疑惑を深めていると考えた。


 大滝議員、ユウもまたタケシと同じ考えだった。


「身体計測やら、簡単な運動能力を測定するぐらいだと番組は言っている。そのへんは問題ないから、出演した方がいいと思うよ。」


「大滝議員がそう言うなら、ツトム、大丈夫だろう。」


「今度もあの石岡がMCだし、あのテレビ局は用心した方がいいと思うんだよなあ。」


「なに、いざというときは俺たちが守る。」とタケシ。「アシスタント・ディレクターに化けてな。」


「電源を切る役目は僕が引き受けた。」とアキラが言った。


「そうだな、いざとなったら局の電源を切ろう。そこまでする必要はないと思うが、念には念を・・・。」


 そこへメスネコ・メグが来た。


「メグちゃん、今度、テレビに出るよ。」と大滝議員。


「今村沙也加が学校に来たの。やっぱり、父親となにか企んでる。」


「万が一の対策は練ったところだよ。」とタケシ。


「このまま逃げ続けても、進歩はないから。やるしかないかも。頑張ってね、ユウちゃん。」


 メグに頑張ってねと言われて、大滝議員は思わずネコに戻ってしまった。


「おいおい、ユウたち、油断するなよ。」とタケシが叱咤する。



 『疑惑晴らしまショー』は、始まって3回目の新番組だ。日曜日の午後八時のゴールデンタイム。


「こんばんにゃ。わたくし、司会の石岡裕太でございます。さて、疑惑晴らしまショーも今週で3回目となりました。世間が最も注目する、疑惑の渦中にある人物に登場していただき、その疑惑を晴らして差し上げましょう、という番組。しかしながら、晴らせない疑惑もあるのも事実、それはそれとして、まあ、よろしゅうたのんます。今夜のゲストは、渦中の中の渦中、といってもいいでしょう、東京都議会議員、大滝健吾さんです。」


 ゲートから大滝議員が登場。拍手で迎えられる。


 タケシは姿を消し、大滝議員の後に続く。ツトムはカメラコントロール室に陣取り、カメラの切り替えを即座にできるようにした。


「大滝議員、すっかりテレビからご無沙汰でしたな。今回出演してくれたんは、やっぱり、その、疑惑を晴らしたいということで、来はったんですか?」


「疑惑もなにも、ひとりの人間に対してですね、ネコの化け物ではないかという疑惑をですね、こういったメディアを使って広めるということ自体、人権問題だとわたしは言いたい。」


「もっともでんな。しかし、世間の人ちゅうんは、口性ないですさかい。ここはひとつ、ちょっとした検査で証明していただきたいと思います。さあ、どうぞ。」


 スタジオには様々な器具が置いてある。


「身長、体重から、血圧、心電図、えー、それからハンドボール投げ、あれはなんでっか?」


 女子アナが引き受ける。


「熱湯風呂です。」


「そんなことまでしまんの?」


「全部で十四の身体検査、十一の運動能力テストを受けていただきます。」


「まあ、二時間の特番ですからね、時間はありますけど、これをすべてクリアしたら、大滝議員は晴れて人間様ということが証明されるわけですね。大滝議員のネコのお化け疑惑、果たしてきれいさっぱり晴らせますでしょうか。テレビの前のあなた、あなたが、その証言者でっせ。」


 石岡がポーズを決めると、CMに入った。



 メグは、メスネコ・メグに変身し、今村沙也加を監視していた。沙也加は、自宅のマンションでテレビを見ている。


「なんにもなさそうだね。」と同行したジュンが言った。


「今村議員は都庁にいるし・・・。動きはないけど、油断できない。彼らには、部下がたくさんいるもん。」


「メグさん、テレビ局に行きましょうか。」



 メグたちがテレビ局のスタジオに入ると、大滝議員は安心したような表情を見せた。


「レントゲンとか、心電図だって問題はないはずだ。ネコの合体といったって、そのままネコの形でくっついているわけじゃない。」とタケシがメグに言う。


「局内に異状がないか、見てみた?」とメグ。


 タケシはうなずく。


「大丈夫だ。」


 大滝議員は、熱湯風呂に入った。熱がる様子並大抵ではないので、客に受けている。


「やっぱりバラエティだな、ふざけてるぜ。」とツトムはモニターを見ながらつぶやいた。


 MCの石岡が声を張り上げる。


「さて、いよいよでっせ。あと三つ、運動能力テストをクリアすれば、正真正銘の人間だということが証明されますが、大滝議員、今の気持ちはどないでっか?」


「疑問に思うテストは多々ありましたが、あと三つ、なんとかがんばりますよ。テレビの前のみなさん、応援よろしくお願いします。」


 テレビ画面のさわやかな大滝議員の姿が、多くの善良な視聴者の心を打った。メールや電話では、大滝議員を応援するメッセージが届き、女子アナが紹介した。


 ジャンプ力テストは、疑惑を深める結果となった。


 大滝議員は、なんと、垂直跳びで二メートルも跳躍した。


「こんなことって、ありますの? 2メートル? これは、やっぱり、ネコだからですか、大滝議員。」


「そんなわけないでしょ。」


 大滝議員は冷や汗を拭く。


 人間に変身した幽霊ネコは、十数メートルはジャンプできる。加減したつもりの大滝議員だったが、思った以上に跳んでしまった。次の百メートル走でも7秒台を出してしまい、さらに疑惑を深めたが、ネコでもなんでもいい、オリンピックに出ろなどのメールも出始めた。


「さて、最後のテストです。ある一室に、ある動物がいます。大滝議員、その動物を触って、当ててください。」


 メグとタケシが、その一室に入る。


「おい! イヌだぞ!」とタケシが言った。


 その声は、幽霊ネコたちに聞こえたし、大滝議員にも聞こえた。


「よく調べとけって言ったのに。」とタケシ。


「だって、ただイヌがいるだけだから。」とソウスケ。「まさか触らせるとは思わなかったぜ・・・。」


 メグは大滝議員の傍でささやいた。


「ユウさん、頑張って! 我慢だよ! 我慢。」


 ユウは、暗闇の中の動物がイヌとわかって、肝を潰していた。イヌは、吠えないように細工してあった。ツトムはやたらとモニターのボタンを押しながら言った。


「やばいぞ、やばいぞ。触ったりしたら・・・」


 赤外線カメラには、暗闇を手探る大滝議員の姿。その前に、大型犬が寝そべっている。大滝議員には、気配でイヌの位置はよくわかった。イヌを避けて、壁伝いに歩く。


「大滝さん、そっちじゃおまへん! もっと右、右。」と石岡が言う。「なんで逆方向へ行きまんのや。」


 メグは、イヌの前に立ち、イヌが立ち上がらないように仕向けた。


「これじゃあ、らちあかんわ。おいディレクター、電気つけよか?」


 大滝議員と石岡はスタジオに戻った。助かったと思った大滝議員とネコたちだったが、さきほどのイヌをアシスタント・ディレクターが連れてきた。


「大滝議員、ネコはイヌを怖がりまんな。最後のテストと行きまひょ。このイヌ、触れまっか?」


「イヌは、もともと嫌いで・・・。」


「そうでっしゃろな。ネコ化けやとしたら。正真正銘の人間なら、いくら嫌いでも触れますよ。疑惑を晴らすためやったら。」


 大滝議員は、顔から冷や汗を大量に流す。


「すごい汗でっせ。大滝議員、やめときまひょか?」


 イヌは、大滝をまっすぐ見つめている。大滝議員は目をつむり、腰を引きながらも手を伸ばす。


「なに、イヌがなんですか、触れますよ。」


 メグとタケシたちは、もう祈るしかなかった。


「そうだ、電源!」とタケシが言った。


 その声を聞いたアキラは、「ようし、電源を落とすぞ!」と叫んだ。


 大滝議員の手が伸びる。世間が固唾をのんで注目していたそのとき、イヌはなにを思ったか、大滝議員に突然抱きついた。電源が落とされ、スタジオ内は真っ暗に。どよめきが起こると騒然となった。


「はやく電気をつけろ!」とディレクターが叫ぶ。


 やがて電気がついたとき、MCの石岡がイヌの下敷きになってもがいている。



「早く、このイヌ、どかしてーな。」


 大滝議員の姿を探すが、どこにも見えなかった。


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