生徒会長今村沙也加のパパ
黒塗りのベンツ。今や悪の代名詞とも言えるこの車に、生徒会長の父、都議会議員今村拓哉が乗っていた。
「やれやれ、やっと淀中のダークな空気を払拭できるわい。」
シートに身を沈め、これも悪人の必須アイテム、ハワイ産の葉巻に火をつけた今村は、ため息まじりにつぶやいた。
「いよいよまとまったんですね、ショッピングモールの話・・・。」
運転手がミラー越しに今村を見て言った。
「淀中の敷地だけでは広さが足りんかった。住宅の買収は難しいしな。重富工場が閉鎖になったのがチャンスだった。」
「今、東京周辺に巨大ショッピングモールがどんどんできてますからね。都内にショッピングモールは、すごいプロジェクトになるんじゃないですか?」
「東京オリンピックにはなんとしても間に合わせたい。」
スマートフォンの着信音が今村の胸ポケットを震わせる。
「やれやれ、暴れん坊将軍からだ。」
スマートフォンの画面に今村沙也加の顔が現れる。
「パパ!」
沙也加の声は運転手にもはっきりと聞こえた。
「どうしたね? なにかあったのかね?」
「ケガしたわ! 今、病院にいるの。」
「ママは?」
「今来るって。」
「どこをケガしたんだね?」
「おなか、殴られた。」
「医者はなんだって?」
「安静にしなさいって。パパも早く来てよ。」
「パパはまだ仕事だよ。ママが向かってるんだろ? それに、けっこう元気そうだ。」
「元気じゃないわよ、むかついてんのよ!」
「話はママに聞いてもらいなさい。もうすぐで仕事先に着くから、切るよ。」
今村は電話を切ると、窓を開け、葉巻の煙を追い出した。
「お嬢様、いつもお元気ですね。」と運転手が言った。
「元気、というよりは、幼い。どうせ、あの子が悪いんだろうよ。わしが政治屋だから、十分に愛情を注いでやれなかった。母親に任せっきりでな。わしの下の者を好きに使って、学校を牛耳っているようだが、そろそろ、わしも教育方針を考えんといかんな。」
今村は葉巻を消して、「やれやれ。」とつぶやいた。