莉子、窮地へ
駅のコインロッカーは、お金はかかるが一番安心する保管場所だった。生徒会長の今村に支払う五十万は、木曜日にメグが登校し、五万円手渡したことによって目標額に到達したのだった。
金曜の朝、莉子は五十万を保管したコインロッカーの前にいたが、異様な行動で周囲の目を集めていた。
「ない! ない!」
手当たり次第にコインロッカーに扉を開け、中を調べている。十三番がそのロッカーだったはずだが、鍵はついたままだ。
莉子は、スマホで仲間に連絡をとる。そもそも、八時丁度に集合するはずが、誰一人現れない。
「なにやってんだよ、あいつら・・・。」
発信も届かず、着信もないスマホの画面をにらみつける莉子。十四番のロッカーだったかもしれないと思いつき、護身用に携帯している果物ナイフでこじ開ける。
「ちょっと、きみ、なにやってんの?」
通報で駆けつけた警察官に腕をつかまれた。
メグは、三時間目の理科の時間に、生徒指導担当の鈴木先生に付き添われて校長室に入る莉子を見かけた。給食時間になっても莉子は教室に戻らず、二組では流言飛語が飛び交った。
「泥棒に入ったって?」
「ナイフを振り回したらしいぞ。」
母親からの暴力はなくなり、家庭状況はよくなっているはずだった。それを知っているメグは、莉子の行動が理解できなかった。
休み時間、メグはタケシを人気のない屋上に呼んだ。
「もしかすると、お金がなくなったのかも・・・。」
「調べてみるよ。だから言ったのに。俺は、そんな大金、渡すべきじゃないと思った。」
「メスネコ・メグに変身できるし、いつでも取り返せると思ったの。」
ツトムが姿を現した。
「ここにいたの? 北条莉子、だんまりしてるから、なにをやったのか、わからないんだよ。」
「お金がなくなったんだと思う。コインロッカーにいろんなモノを預けてたから。」とメグ。
「メグちゃんから五万だし、かなりの数の生徒から喝上げしてたから、相当な額かもしれんな。母親を助けて家庭がいい感じになったはずなのに、なにやってんだ。」
「そのお金がコインロッカーからなくなって、探してたんだね。ナイフでロッカーをこじあけてたらしいよ。」
「ナイフはやばいな。」
突然コンクリートからシゲルが現れた。
「メグちゃん、変身したいんじゃないの?」
「よくわかるねっ!」
屋上でメグとシゲルは合体し、メスネコ・メグに変身する。
「問題は、お金がどこへ消えたか、だね。」
タケシとツトムは顔を見合わせる。
「どこだろ?」
「手分けして探すか。」
メグはとりあえず莉子の様子を見ることにした。タケシとツトムは、駅のコインロッカーから駅周辺を探すことになった。
生徒指導室に移された莉子は、まるで警察の取調室みたいなところで、少し遅めの給食を食べているところだった。少しパンをかじっただけで、そのあとは俯いている。メグは、取り巻き連中を探したが、どこにも姿が見えない。
メグは、生徒指導室に下り、尻尾を三回回した。
「あれ?」と莉子はメスネコ・メグに気づいた。「おまえ・・・。」
莉子は椅子から立ち上がり、メグに近づく。
「あのときのネコ・・・。」
メグは尻尾を振った。不思議がる様子もなく、莉子はメグの頭とアゴを撫でる。そのときの莉子の顔は、普段とは別人だった。瞳を見つめると、涙に濡れ、きらきらと澄んでいる。
メグは、背後からの足音を聞いて、尻尾を三回回す。
「あれ? 消えた・・・。」
扉が開いて鈴木先生が入ってくる。
「どうした、北条。なにしてる。早く給食を食えよ。」
メグは、少しでも莉子を慰めるために姿を現したのだった。
「間違いない。莉子さんは、やっぱりいい人だ。あのお金は、自分のためのお金じゃない。きっと。」
メグは、取り巻き仲間の女子生徒を探すことにした。