生き返った主任
北条莉子の母親は、莉子が学校に行く時間になっても起きなかった。警察に自首しようかと迷っているとき、ケータイに会社からの電話が入った。警察に言うより、会社の方が言いやすいと思った母親は、着信ボタンを押した。
「わたしです。」と母親は言った。「やったのは、わたしです。」
「なにがだね?」
母親は、わが耳を疑った。
「主任?」
「そうだよ。わたしだよ。北条さん、休むんだったら始業の前に電話くらいしなさいよ。無断欠勤イコール首だよ、うちの会社は。」
「すみません・・・。寝坊したようで・・・。」
「来るの? 休むの?」
声の主が本当に主任なのか、母親は確かめずにはいられなかった。
「行きます・・・。」
たとえまた殴られてもいい。生きているなら、こんなにうれしいことはないと、母親は化粧もそこそこに出社した。
STS企画は、いつも通り活気よく詐欺営業を営んでいた。莉子の母親は、会社を歩き回る主任の顔を何度も半信半疑で見つめた。しかも、主任は母親に愛想よく、まるで別人のようだった。
「なにが起こったの?」
そう胸の内で繰り返す母親だったが、後悔した自分の行動が、後悔する以前に戻ったことに、ただひたすら感謝するのだった。
翌日も、何事も変わらなかった。母親は主任室にも入ったが、当然異変など感じなかった。この日は契約を三件取り、主任に褒められた。
「なにかが起こったのは間違いない。あの主任は、もしかしたら別人かもしれない。」
母親は、そう思うものの、それ以上は考えないことにした。こうなった経緯を突き止めようとすれば、すべてが台無しになると思ったからだ。
「誰かが味方になってくれてる。神様だろうか・・・。」
それまで神様のことなど信じたことはない母親は、胸に手を合わせて祈るようになった。
説明する必要はないかもしれないが、主任は生き返ったのではなく、シンジたちが成りすましたのである。
あの日、タケシたちが現場に戻ると、幸いにもまだ発見されていなかった。主任はそのままの状態で息絶えていた。
シンジたちはすぐに主任に変身、他のネコも総出で現場を片付けた。遺体は絶対に見つかることのない、地下千メートルの地中に葬った。