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憂いっ子メグと幽霊ネコたち  作者: 瀬賀 王詞
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憂いっ子メグ


 ある日のニュースを列挙してみる。


・中学生がいじめで自殺した。

・ストーカーが交際していた女性を刺した。

・家事で老夫婦が焼死した。

・クレーンが倒れて自動車が下敷きになった。

・冷凍食品に農薬が混入されていた。

・首相が靖国神社を参拝した。

・中国が尖閣諸島に領空侵犯した。

・政治家が政治献金を受け取った。


 明るいニュースがないわけではない。しかし圧倒的に、暗いニュースが多い。それは、そもそも人は事件や事故が好きだからだ。自分が事件・事故に遭うのはごめんだが、他人の事件や事故は興味津々。それが、人間の本性というものだ。


 ニュースレベルではなく、個人レベルで悲しいこと・苦しいことはたまに起こる。自分だけでなく、他人の苦しみまでも我が身のことのように感じる人がいるとしたら、それは倉内メグという少女だ。


 そんな人間はいない、という人は多いだろう。他人の苦しみまでしょいこんでいたら、とてもじゃないが、生きてはいけない。ストレスに押しつぶされ、死にたくなるだろう。


 しかし、倉内メグという少女は、確かに存在する。小学校の頃から不登校傾向で、中学二年生になる今は、耳に入ってくる悲しいニュースに耐えながら、必死に生きている。


 そういう日常だから、メグは笑うことが滅多にない。彼女がほほ笑むのは、動物のあどけなくかわいらしい姿を見たときだけだ。動物は好きだが、イヌやネコを飼おうとはしない。もし死んでしまったら、その悲しみから立ち直れそうにないからだ。


 声はかぼそく、他人がその声を聞けば、空腹で声が出ないのだろうと勘違いをする。メグは時々歌を歌う。彼女だって、明るく生きたいと思っている。歌を歌って、自分を励ましている。世の中の悲しい出来事は、放たれた矢のように、メグの胸に突き刺さる。メグは、その矢を抜き取り、血の吹き出る傷口を癒す日々を送っている。歌は、傷を癒す薬のようなものだった。鼻歌を歌い、ときどき思いついた言葉をメロディに乗せる。彼女の歌は、すべてオリジナルだ。


 暗い顔のメグに、友達になろうと話しかけてくるクラスメートは何人かいる。しかし、それが無駄だと知ると、誰も話しかけなくなる。かわいくて色が白いから、街でもよく声をかけられる。しかし、彼女のあまりにも悲しそうな瞳を見ると、相手は言葉を失ってしまうのだ。


 実を言えば、メグという少女は、本当は明るい性格の子だった。幼女の頃から少しずつ、いろんな出来事が悲しく映った。夕日を見ているだけで悲しくなることもあった。テレビのドラマで泣いている人がいると、もらい泣きをすることもあった。メグの明るい性格は、悲しみや苦しみを感じ取る感性の鋭さに、少しずつ食べられてしまった。


 母親は元ヤンキーでおおざっぱな性格だが、メグを可愛がり大切に育てている。少しでも明るくなるようにと、メグを美容室に連れて行き母親と同じく茶髪に染めた。父は大相撲の行司。地方巡業で留守にすることが多い。


 学校が好きなメグだが、毎日は通えない。登下校のときは、ひとり鼻歌を歌いながら歩く。友達は誰もいないが、誰よりも人間を愛し、人々の幸福を願い、それが故に人々の不幸が悲しくてたまらない、『憂いっ子メグ』。


 彼女にも友達ができる日が来るのだが、その相手とは、かわいそうな幽霊ネコたちだった。

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