どうしてもっと読んでくれないんだよ!
「どうしてもっと読んでくれないんだよ!」
薄暗い室内で、俺は叫ぶ。
ぼんやりと明かりを灯すディスプレイは壁に影を落としている。
あれか、タイトルからほのかに漂う何かを読者は感じ取ってしまったのか。その嗅覚、すごいよ。的確だよ。よくわかったね。でもね。だからって、クリックしないのはどうかと思うんだ。臭いものには蓋をしろっていうけれどそうすることによって悲しむ人もいるんだよ。
「こんなに面白いのに……」
うわごとのように呟いた視線の先、ディスプレイに表示される『パンツの世界』という頭がおかしいとしか思えないタイトル。不定期更新と銘打ってはいるものの、もう更新されることはないだろう。それを眺めていた。
すると視界の端、壁に映る影が、唐突に人の形を成していく。
ある程度の輪郭が浮かび上がったところで気付いた。もしかしてこの影は、俺なんだろうか。瓜二つといっても過言ではない醤油顔で。しかしながら異なる点を挙げるとすれば、もう一人の俺は――パンツを被っていた。
パンツで頭を着飾った俺といえば。
虚ろな表情で「面白いのに」と呟く俺に対して、静かに問いかける。
「……本当に?」
「本当さ! だってココ、読んでみろよ。パンツを髪留めに使ってんだぜ」
必死に作品をアピールする、そんな俺を――パンツの隙間から覗かせる冷たい瞳が、ただじっと見据えていた。もう一人の俺は淡々と口を開く。
「それはな、面白いんじゃなく奇抜っていうんだ」
大体、ヘムショーツがパンツだってわかる人はそう多くない。そう言いながらパンツを被った方の俺はなおも続ける。
「書くのはそりゃ面白いだろう。面白くて面白くて仕方がないだろう。当然だ、書きたい物を書いているのだから。だけど、読んでいる人にとってはどうなんだろうね。お前は、読んでくれる人のことを考えずに独りよがり、なんじゃないのかい」
その男の妙に似合う――パンツが今は腹立たしい。あぁ、その通りだ。事実から目を逸らしていることは否定できない。読んでいる人にとっては、きっと、つまらな……くっ。そこまで考えて頭を振る。それでも。お前に!
「お前に! アクセス解析を連打する奴の気持ちがわかるのか? PV1に喜んで、それが自分のアクセスだって気付いた時の俺の気持ちが。お前に、わかるのかって聞いてんだよ!」
「わかるとも。あぁわかる。何度でも言ってやる。わかるさ。俺はお前なのだから」
「じゃあ、なんで……なんでそんなこと言うんだよ! 放っておいてくれよ!」
絞り出すような声は、傍から見れば幼児が駄々をこねているかのようで。肩を落としながらもシャツの裾をギュっと握りしめる俺に対して、パンツの俺は言う。
「いいのかい?」
「いいさ、どうせ俺なんてパンツ好きなただの変態なんだ」
そうだ。変態に創作活動なんてどだい無理な話だったんだ。
俺なんて、そう、黄ばんだブリーフだ。
今書いている投稿予定のシリアスな連載物なんて、誰の目にも留まることはないんだ。だったら、別に投稿する必要もないじゃないか。まだ三万文字しか書き溜めていないのだ。今ならそこまで辛い思いをすることもない。ハードディスクの中で眠り続ければいいさ。
「もう一度だけ聞くよ。本当に、それでいいのかい?」
そうして投げられた問いかけ。
胸が苦しい。この気持ちは。
本当にこれでいいんだろうか。
嫌だ。
「ちくしょう……読んで……読んで欲しい……! 読んでください!」
「言えたじゃないか」
満足げに笑うパンツの男は、脱いだそれをそっと俺の頭に被せた。
優しく涙を受け止めてくれる布地は間違いなくパンツだった。
こんな脳内会議の末に次作、投稿予定であります。