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花屑  作者: 霧香 陸徒
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第4話「INVITATIONは終わりを告げる夢」

俺は一つ決めた事がある。 決して悪戯に人を殺さない。 それは軍人としてはあり得ない思想だったのだろうが、それに芽衣は同意してくれた。

俺達の日々は始まった。

人の良心とはどういうものだろう。


 哲学的な意味では無く直接的な意味であるわけだが、善悪がどうとかいう問題で個人もしくはそれに準ずる人達の価値観に相当する。


 少し喩え話をすれば服を着ない人がいて、多数の者がそれは変だと口にする。しかし、少数の者が「それが正当」だと答えたとすると、それは「異常」であり、普通では無い。それなのにそんな意見を「絶対的な力」で押し込めてしまう事もあったりする。

では、そこに良心があるとすると人々の答えはどちらに傾くだろうか?

 答えは簡単である。『どちらが自分にとって納得いくか』である。

 納得いかなければそれは「良心」には成り得ない。


 さて、どうしてこんな事を言うのかと言えば、俺が考えて居るのは「少数の意見」であるのだ。



 まぁ簡単に言えばそれは「背徳行為」だったのかもしれない。


 ただ、それは「軍にとっての」であり、俺個人としては何の罪悪感も無い。


 普通の人間ならば普通に考え付く小さくてとても幼稚な抵抗だ。



 カッカッカッ・・・



 黒板に白いチョークが走る。


 それをしているのは芽衣。 そしてさせているのは俺。


 たた二人だけの特別個人授業だ。 もっとも、芽衣はいつもの軍服だし、俺は支給もされてないので単なる普段着だが・・・。


 なんとなく深夜のミーティング室でやるのはちょっとだけ・・・本当に少しだけ後ろめたいというかなんというか・・・。


 だが、白昼堂々とやるわけにはいかない。


 

 さて、俺達が何をやっているかというと・・・


「TAMの起動時限には数種類あり、内部電源による緊急起動と周囲の気質による動力変換を実行する事による間接起動があります・・・そしてー」


 普段無口な奴が流暢に喋るというドリームな状況だったが、遊んでいるわけではない。

 徹底的にTAMの基本構造を教えて貰っているのだ。


 俺は昨日まで普通の高校生だった。 だからそんな玩具・・・いや、兵器の使い方など分かるはずも無い。


 それらを教えて貰い効率良く動かせるようになるためなのだ。


 効率良く・・・相手を無力化させる方法というわけだ。


 芽衣曰く、技術も大切だが、このような基本構造を知っておかないと間違って誘爆してしまう恐れがあるからだった。 高性能で高出力を叩き出すようなロボットだ。 もし肩等を打ち抜いたりしても、その当たり所が悪いと爆発してしまうかもしれない。 だからこそ知っておかないといけないのだ。


 それで夜間授業・・・俺は土方の兄ちゃんか?


 

 それにしても、芽衣の説明は分かりやすかった。 人にわかるように説明するには人の3倍理解していないといけないと聞いた事があるが、彼女も同じ様に頭を悩ませたのだろうか?

 どうも、この娘の場合はちょっと違う気がする。


 最初から知っているかのように見えた。


 それは俺の直感だったが、そのぐらい無駄の無い説明だったという事だ。



 ガラガラ・・・。


 そうしていると、ミーティング室の扉が開かれた。


 隊長だ。


「こらーミーティング室の無断使用は駄目なの〜。 ・・・あら? ドリモグ少尉?」


「俺は土の子かっ!? 隊長俺の名前本当に覚えますか?」


「勿論なの♪」


 とっても素敵な笑顔だった。


 ・・・・・・この女めちゃくちゃ殴りてえ・・・・。


「それにしても、こんな夜中に・・・TAMの基本構造? それなら明日からゆっくり説明しようと思ってたの。 動力系の説明だとかはまずは要らないと思うなの芽衣」


 黒板を見て菜乃隊長は芽衣を嗜めた。 こんな夜中に、しかも初日からする事無いでしょう?と言った視線だった。 そんな目で見られて芽衣は少し小さくなっていた。


「す、すみません! 俺が無理言って教えてもらってたんだ! 芽衣は付き合ってくれただけななんだよ」


「あら? 張り切るのはいい事だけど無理は禁物なの。 私は別に咎めているわけじゃないの。 こんな事をするなら明日の昼間にすれば良いって事なの」


 それはとても柔らかな笑みだった。 昼間に見たあの冷笑を浮かべる姿が微塵も感じられなかった。 あれは本当にこの隊長だったのかと疑う程に。


「それにしても、少尉はいつの間に芽衣と仲良しさんになったの? こんな夜中に二人っきりだなんて・・・きゃーーアツアツなの♪」


 ・・・駄目だ。 この姿からは想像が出来ん・・・。 こんなのほほんとした隊長だったんだなこの人・・・。


「・・・・・・違う・・・」


 芽衣は困った顔で呟いていた。


「芽衣はウチの大事な子なんですからいけない事しちゃ駄目なのよ〜少尉?」


「・・・・・・だから違う・・・」


 ・・・いや、芽衣よ。 小さくて聞こえないから・・・。


「いやいやいや。 隊長、そういう事は一切無いから誤解しないで頂きたい。 俺は純粋にTAMの事を習いたいだけなんだ」


 純粋かどうかは知らないが、やましい気持ちじゃない事は確かだ。 上手くTAMを扱えなければ、俺は簡単に人殺しになってしまうから。 ・・・まぁ、この体に居る時点ですでに人殺しだったんだっけ? それはとりあえずノーカウントにしておくとしてだ。


「ふぅん? それだったら整備員を呼んできましょうか? 彼等なら詳しい説明が出来るハズなの」


 俺の言った事の真意は分からないなりに、隊長はそんな事を言ってくれた。


「いえいえ。 まだ基本を教えてもらっている段階なんで、そこまでして貰わなくても大丈夫。 ありがとう隊長」


「んん〜残念。 私も何か役に立ちたいなの〜」


 本当に残念そうに肩を落とす隊長。 ・・・この人ってこんなに人懐っこい性格だったのか?


 くいくいっ。


 芽衣が俺の服の袖を引っ張っていた。頭だけそちらに向けると隊長に聞こえないぐらいに小さな声で彼女は囁いた。


「・・・・・・さっきは皆が見てたから・・・」


「・・・そっか。 隊長って大変なんだな」


 俺にはわからなかったが、隊長と話をしていた所を他の者が見ていたらしい。 そんな体面の為に厳しくしなくてはならないという立場の彼女。 本当は優しくて暖かい人のようなのに・・・ちょっと悲しいな。


「でも、当分作戦も無いから焦る必要は無いなの。 ジュン君」


「!?」


「?」


 また菜乃隊長が俺の名前を「正確ではない呼び方」をした。 ただ、その呼び名はどっちかと言えば「愛称」であり、こうやって呼ばれるには気恥ずかしい呼ばれ方だった。


 隣で芽衣が分からないような顔をして首をかしげているが。 ・・・コイツも俺の名前をちゃんと覚えてないみたいだな・・・。


「・・・その呼び方はやめてください隊長・・・」


「あら? どうしてなの?」


「年上に下の名前で呼ばれるのはちょっと・・・」


「恥ずかしい?」


 そう言ってニッコリと笑う隊長。 ・・・ワザとだこの女・・・。 やっぱり性根が悪いぞ芽衣・・・。


「まぁ、そんな事よりもう寝てしまいなさいなの。 こんな時間にお勉強してたって言っても明日噂になってしまうかもしれないなの。 軍としての規律と体面もあるし、あまりこういう独断はやめた方がいいと思うの」


「はあ・・・」


 菜乃隊長はウィンクしながら片手を顔の前で掲げてきた。 「ごめんだけどお願い」という顔だ。 腐っても軍隊だ。 規律には厳しいのだろう。


 ここは彼女の顔を立てるべきか・・・。


「分かりました。 今度からもう少し早めの時間にって事で・・・。 芽衣もそれでいいか?」


「・・・・・・了解しました。少尉」




 虚ろな目で芽衣は俺の言葉に応えてきた。 ・・・・・表情が無い。


 俺達は菜乃隊長に促されるまま深夜の勉強会を解散した。



 元々どっちかといえば無表情なのだが、芽衣の・・・その顔が後から引っ掛かった。





「そういえば、俺が寝る場所って何処なんだ?」


 芽衣とはわかれ、菜乃隊長と連れ添って歩きながら聞いてみた。


「・・・・・・・・・う〜ん・・・」


「菜乃隊長?」


 すぐに答えが返ってくると思ったのだが、菜乃隊長は何か考え込んでしまった。


 何か問題があるのか??


「ええと・・・少尉はもうミヤ・・・ええと、香良洲少尉には会ったなの?」


「え? あぁ・・・会いましたよ。 それが何か?」


「あぁ・・・やっぱり・・・。 だったら・・・・・ええと、ウチに来る?」


「は?」


「あ、・・・えとね? あのね? 少尉の部屋を用意しようと思ったら実は間に合わなかったなの。 それで・・・他の部屋に合い部屋って事になってしまうの」


「うぇぇっ!? なんすかそれ!?」


「あ〜ぅ〜夜中なんだから大きな声ださないでなの! 危険なの!」


「危険?? 此処って夜中に猛獣でも出るんですか?」


「あ・・・・いや、あの・・・えへっ♪」


「えへっ♪ って可愛く笑っても誤魔化せないぞ? まったく・・・隊長何か隠してるな?」


「・・・私と一緒なのがそんなに嫌なの? グスングスン」


 ・・・・・・


 思いっきり泣き真似なのだが・・・。 なんと卑怯な・・・。

 

 俺は自慢じゃないが女の子のお涙という物には滅法弱い。 とことん弱い。


 何か可哀相になってしまってなんでも言う事を聞いてしまいそうになってしまう。


 ・・・まぁ、勿論それは菜乃隊長が色々と標準以上なのも原因だ。 


 この基地の隊員って・・・ブサイク居ないのな・・・。


 今頃気付いたが、ホントなんというギャルゲーだよコレ・・・。


 まぁゲームと違う所は、これが現実で、戦争中で、もしかしたら戦死なんて事もあり得る状況だって事だが・・・。


 それを差し引いても中々美味しい状況なのかもしれない。


「・・・・・・あ〜・・・そう思ったけどやっぱり私は遠慮しておくなの。 部屋は決まっているみたいなの」


「・・・へ? あれ? どういう事?」


 考え事をしている間に菜乃隊長が何故か青い顔をして後ずさっている所だった。


「どうしたんだ? 顔色が悪いぞ隊長?」


「えぇっ!? そ・・そ・・・そそそそんな事は無いなのののの・・・」


 ・・・・・何だか寒さに震える子犬のように震えながら言っている。説得力が無い。 なんだろう? 寒いのか? 今日はそんな事は無いぐらい暖かい日だと思うが・・・。


「と、ととにかく! この道をまっすぐ行けばいいなの! じゃあサラバなの〜〜〜」


 なんだ?? 変な隊長だな・・・。


 何か急いで自分の部屋に逃げていっているように見えたんだが・・・。 気のせいか?



 隊長に言われたように基地の廊下を真っ直ぐ行くと、突き当たりに一つ部屋があった。「MEI’ROOM」と書いてあった。


 ・・・メイるーむ?


 ・・・・・・


 マジか?


「・・・・・・少尉。 こんばんわ」


 ドアの前まで来ると、足音でも感じたのかキィっとすぐにドアが開かれた。 芽衣が居た。


 マジらしい。


 というかさっき会ったばっかりだろっ!? というかさっき分かれて一本道で何時追い抜いた!? バケモノかこいつは・・・。


 というか、私室に居ても軍服なのかコイツは・・・。


「・・・・・・入って」


「いや・・・俺は・・・」


「・・・・・知ってる。 少尉は自分の部屋に何があるか知らない。 だから此処に来た」


「? 俺の部屋に何かあるのか?」


「それは知らない方がいい。 早く入って。 見つかる」


 何か分からないが菜乃隊長といい、芽衣といい何かに怯えている。


 此処は彼女達の基地であり、安全なハズなのに・・・。


 本当に夜中に何か異質な者でも居るんだろうか?


 いや、良く考えたら今は戦時だ。 何処に居ても安全だと言えない。


 この基地のセキュリティシステムがどんなものか知らないが、それすら突破する手段は多分いくらでもあるんだろう。 所詮は人の手で創った物は人の手でどうにかなるものだ。


 そうなると、今日入隊したばかりの一般人に等しい俺など、一人で居たら明日の明朝には冷たくなっているかもしれない・・・。


「あぁ、すまないが失礼するぞ」


 俺は自分自身の保身と、他の者へ迷惑を掛けない為に今晩の所は芽衣に守られる事にした。


 男の癖に情けないとか言わないよな? これは当然の選択なんだから。





 部屋の中に入ると、なんというか無機質な部屋だった。


 仮にも女の子の部屋だから、ベットにクマのぬいぐるみや、テーブルに化粧品なんかが乱列しているのかと思ったが・・・。


 何も無かった。


 そこには簡単な白いシーツが掛かっているパイプベットと、何かの専門書等が綺麗に並べられた木製の机があるだけだった。


 私物は・・・ほぼ無いに等しい。


 軍人というのはこんなもんか?


「・・・・・・あまりジロジロ見ないで。 少尉」


「あ、いや・・・すまん。 人の部屋に入るのは初めてでね。 あ〜女の子の部屋ね」


 言ってしまってからハッとする。 言われた途端に芽衣は明らかに表情を暗くしてしまったからだ。


「・・・・・・女の子っぽくなくてごめんなさい」


「い、いや! そうじゃなくてっ! ええと・・・ほらっ! 人それぞれだし別にそんなに気にする事は・・・」


 急いで取り繕うが、芽衣は俺の一言一言にどんどん暗くなっていく・・・。

 繊細過ぎるぞこの娘・・・。


 何か気の効いた台詞は無いものか・・・。



 そう思っていると、芽衣は急に顔を上げた。 なんと、その顔は普段通りの顔になっていた。


「失礼しました。 少尉。 気にせずごゆっくりお休みください。 此処は安全です」


「――!  ・・・・・・分かった。 じゃあ、休ませて貰うよ。 芽衣・・・。 そういえば階級は?」


 芽衣の表情は色が無かった。 先程まで少しでも好意的な印象だったと思ったが、それが気のせいだと思ってしまう程冷たい目をしていた。

 物言いもハッキリとしている。 


 俺は・・・取り返しの付かない事を言ってしまったのかもしれない。


「軍曹です。少尉」


「分かった。 では、改めて芽衣軍曹宜しく頼む」


「ハッ!」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 これが・・・・・・軍の中で生きるもの達にとっての普通の関係だ。


 俺と芽衣は上司と部下である。


 俺は確かに新参者だが、階級というのはそれだけ絶対な物なのだ。


 先程まで可愛らしい表情を見せていた少女を機械的に冷たくさせる事が出来る階級だ。



 芽衣は俺にベットを譲って自分は床で寝ると言い出した。



 そんな事をさせたくないが、それが体面であり、規律であり、普通である。



 芽衣は着ていた軍服を脱いで肌着だけになった。



 風呂場で魅夜が言った「男女関係無く」というのはあながち間違いじゃない。



 芽衣は脱いだ服をテーブルに綺麗にたたんでいた。



 それが軍の本質であるのだから。


 俺は少尉で、芽衣は軍曹。



 芽衣は床の毛布を確かめてからそこへ横になった。



 階級によって縛られる関係。


 ・・・だけど・・・。



 静かに目を閉じる芽衣。



 そんな物・・・欲しくない。



「軍曹。 一つお願いがある」


「なんでしょうか。少尉」


 床に毛布を引いて横になろうとしていた芽衣は、体を起こしてこちらを見た。そのままでは失礼かと思ったのかすぐに直立しようとするのでそれを手で制した。


「そのままでいい。 いや、そのままは駄目だな。 芽衣、ここの部屋の主はお前だ。 俺はただ厄介になっている客みたいなもんだからな、その客が主人のベットを使うというのはいささかどうかと思うのだが・・・」


「いえ、少尉。 それは当然の事です。 私は下級兵士であり、貴方は・・・」


「関係ない。 俺は男でお前は女だ。 それがどういう事か分かるか?」


「・・・・・・分かりました。 少尉は私の体をお求めなのですね? 何分経験はありませんが、失礼します」


 分かってない。 なんて事を平然と言うんだこの娘は・・・。 これにはちょっと頭にきたぞ。


「芽衣!」


 俺は芽衣の頬を思いっきり殴ってやろうと手を振りかざした。 そうされても芽衣は俺が居るベットに上ってきていた。  そんな肌着一枚で・・・・・・ええいっ! この馬鹿娘!


「!!」

「!?」


 ・・・・・俺は何をしているんだ?


 殴ろうとしたハズなのに・・・・・・俺の手・・・いや、両手は芽衣を抱きしめていた。


「・・・・・・少尉。 やさしく・・・してください」


 ほらみろ。 思いっきり勘違いしている。


 それにしても・・・柔らかくて暖かいな・・・。 これが女の子か・・・。



 って違う違う! 一瞬そのままなしくずれそうになってしまったが、俺がしたいのはこういう事じゃない。 もう抱きしめてしまったので、とりあえずこのまま喋ることにする。


「芽衣・・・。 いいか。 お前は軍人の前に一人の人間だ。 そして女の子だ。 俺が階級で上ってだけで、お前の方が先輩だろう?」


「それは・・・」


「黙って聞けっ!」


 ビクッ


 耳元で怒鳴られて芽衣の体がビクっと震える。 ・・・何か苛めている気がしてきたが、これだけは言わなくてはならない。


「お前が軍の規律とか、そういうのを大事にするのは良く分かった。 だけど、俺はそういうのは嫌だ。 まぁ、別に外でもってまでは言わないが、今はお前と俺しか居ないんだろう? だったらそんなに畏まる必要は無いだろう」


「・・・・・・」


「俺は間違っているか?」


「・・・・・・」


 芽衣は答えない。


「軍とか抜きに言ってくれ。 お前はどう思うんだ?」


「・・・・・・ごめんなさい」


 それは答えでは無く、謝罪だった。 何についてのかは分からないが、やはり答えになっていない。


「いや・・・そうじゃなくてだな・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・少尉」


 芽衣は虚ろな目で俺を見据えてきた。 その目には若干の怒りのような物が見えた気がした。


「ん? なんだ?」


「少尉は・・・どうして私の居場所を奪うのですか?」


「?居場所? 何を言っているんだ?」


「此処は・・・花屑は私の居場所です。 私はこの場所でしか生きられません。 それを・・・奪うというのですか少尉は」


「いや、奪うとかそういう問題じゃなくてだな人としてどうかって事を・・・」


「同義です。 私はこの場所で軍人としてでしか生きられません。 少尉は・・・軍人としての私を認めてくださらない。 ならば、私は此処にいる資格は無くなってしまう。 少尉はそう言っているのです」


「・・・・・・」


「・・・・・・出過ぎた事を言って申し訳御座いませんでした。 明日も早いのでそろそろ寝ましょう少尉」


「・・・・・・」


 甘く見ていた。 芽衣の軍人志向は今日昨日始まったわけでは無い。 そして、その立場という物も、彼女にとって絶対であり、それ以外は何も価値が無いという事だ。


 俺は何も言えずにただ布団に入る芽衣を見ている事しか出来なかった。


 無気力感に襲われながらも、俺も仕方なく布団へ入る。



 ・・・ん?


 ・・・・・・・・頭では納得したが、コレはやっぱり間違っているだろ!?


「おい!? やっぱりこれは不健全だろう!? 俺は床で寝るからなっ!?」


 いくらなんでも一緒の布団に寝るなんて出来るわけが無い。 いや・・・正直その誘惑に負けそうだが・・・、俺は良識があるし、良心がある。 だから、こんな事を許してしまっては駄目なんだ!


 クイッ


 俺はすぐに布団から這い出ようとすると、俺の服が掴まれていた。 芽衣だ。


「・・・・・・芽衣。 離せ」


「・・・・・・」


 聞こえていないのか離さない。


「・・・・・・芽衣。 命令だ。 は な せ」


 先程上下関係について話したばかりなので、これで離してくれるハズだと思った。


 だが、芽衣の手は動かなかった。


「・・・・・・」


「・・・・・・聞こえなかったのか?」


「・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・仕方の無いヤツだな」


 なんとも頑固なヤツだ。 俺は根負けしてベットに舞い戻る。


 俺は出来るだけ芽衣に触れないように布団の中に入った。


 これで密着なんてしたら理性が確実に飛ぶ。 そういえばさっき密着したか・・・。


 頑張った俺。 よくやった俺。


 布団に入ってから、やはり芽衣は無言のままだった。


 身長差があって芽衣は布団の中にすっぽり入ってしまっているので表情が見えないが・・・。


「まったく・・・。 今日だけだぞ? こんな事をして明日噂になっても知らないからな俺は」


「・・・・・・」


 何か返答があるかと思ったが、芽衣は何も言ってこなかった。 


「・・・寝たのか? まぁ・・・俺も何か今日は疲れた・・・」


 今日一日色々あった疲れがどっと来たようで、急に眠気が襲ってきた。


 それにしても居場所か・・・。


 さっき芽衣が言った言葉が俺の頭の中で回っていた。


 我知らずそんな考え事が声になって出ていたが、他に誰にも見られているわけではないので気にしなかった。


「・・・居場所か・・・。 俺の居場所は此処になるのか? ・・・まだ信じられないが・・・明日目が覚めたら家で寝てるなんて事は・・・・・・無いだろうな。 この疲れは本物だ。 まったく・・・。 今日出会ったコイツは色々難しいし、他のヤツも変なヤツばっかりだし・・・。 俺ってなんかバチでもあたってるのか? なあ、芽衣。 俺の居場所って此処でいいのか? 俺に何が出来るんだ? 俺なんかで本当にいいのか? なあ、芽衣・・・。 ってやっぱり寝てるか・・・。 ブツブツ言ってないで本当に寝るか・・・」


 喋っている間に起きてくる事を期待したが、芽衣は全く動かなかった。 それはそれであまり触れたりせずに助かるので良いんだがな。


 俺はそのまま夢の中に落ちていった。



 俺の一日は終わった。


 











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 数分後。


 男の髪を撫でながら少女は呟いた。 


「・・・・・・おやすみなさい。 少尉。 ・・・ううん。 ジュンさん」 


 それはその日見せる事の無かった笑顔で・・・。


お疲れ様でした。このお話で一区切りとなります。

ここまでの感想等ありましたら宜しくお願いします。

それによって次回の話が変化したり・・・するかもしれません。

恐らく多分まぁ適度にですが・・・

では、ありがとうございました。

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