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花屑  作者: 霧香 陸徒
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第2話「ACTIONに舞い踊れ体」

俺はただの高校生だったわけだが・・・。だから軍隊なんてものはまったく規定外なわけで・・・。

でも、この隊がある意味規定外なんだが・・・。

隊長は若い女だしな。



特に物語が加速することもないミリタリーストーリー第2弾

 湯に漬かる事を考え出した人というのは誰なのだろう。 きっとその人も疲れていたのかもしれない。

 疲れた体を暖めつつ癒してくれる効果的な行為だと思う。


 「風呂」というものはそれだけ良いものだ。

 それは分かっている。


 だからと言って、これはなんてエロゲ?


「ほらほら、ドンちゃん近こう寄れ〜。 そんなに放れるとお姉さん悲しいぞー?」


「ドしか合ってないない! なんなんだアンタは!?」


 風呂は「大浴場」と書かれた木の看板が掛かっていた。 その「大」という表現にピッタリと合う規模の浴場で、単純に広さだけ見れば25mプール程の広さがあった。


 そんな中にたった二人しか今は入っていない。 


 俺と・・・見知らぬ女だけだ。


「たはは〜。 香良洲 魅夜少尉とは私の事だよドドンパ君」


「少尉? あぁ、なら俺と一緒じゃないか」


 カラスミヤと名乗った変な人は少尉らしい。 同じ階級だという事は特に遠慮する必要は無いのかもしれない。


 いや、それより同じ湯船に女の子が入っているのが問題だ。 


 いいか? こんな状況を羨ましいとか思うんじゃないぞ? 見ず知らずの男女がお互い裸で居るというのがどれだけ気まずいか想像に易しというものだ。 もちろん間違いがあるわけじゃないのだが、意識してしまって落ち着けるわけがない。


 それに、この女は何を考えているのかさっきから肘があたるぐらいまで接近してくるんだぞ?


 理性が爆発しても俺のせいじゃないだろう。


 湯船に漬かっているので流石に見えないがな。


「そう〜一緒なのだよ。 だからこの後火照った体を更に熱くさせても問題無いと思わないかな?」


 問題しか見つからない事を言いながら、彼女は俺の腕に最後の接近を試みてきた。


 その腕に「暴走ボタン」と書いてあるかもしれないのに・・・。


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・?


 ・・・・! ・・・・。


 あぁ、なるほど。 


 これは問題無い。


「ん?」


 ミヤという少女は多分生物学的には女なのだろう。 だが、それが必ずしも絶対では無い事を俺は認識した。 


 俺の腕に当たる感触がなんというかペタっという感じだったからだ。 それがふにぃだったらファイナルフュージョン承認していたかもしれないが。


 まぁ、だからと言って密着している事には変わりは無いわけだが。


 俺はこんな事を言えば白い目で見られるかもしれないが「大きい方」が好きだ。


「・・・貴様・・・。 女慣れしているのか!?」


「まさか。 ミヤさんに慣れただけだ」


 分かりやすいと言えば分かりやすいしな。 元気な子だけど、俺はつるぺたには興味は無いだけだ。


「どういう意味だ!? 会ってまだ間もないのに・・・。 まさか!? BL嗜好だったりする!?」


「ばかもん。 誰が男色趣味だ。 なんていうか、ミヤさんも警戒しなくて良い雰囲気だったからだな」


 自分で言ってみてその台詞には納得してしまったが。 さっき会ったナノ隊長やメイとは気色が違うが、敵意のような物を微塵に感じないからだ。むしろ人懐っこい。 本当に此処は軍隊なのか?


「も? ふむ・・・分からんが、分かったぞ。 それと「さん」は要らないよ。 ミヤでいいわ。 それにしても、そんなに信頼されると今夜夜這いに行ったらどうなるかちょっとワクワクしてくるなぁ〜」


「・・・女に見られたかったらもう少し発言に気をつけて頂きたいもんだ」


「ん? 何か言った?」


「いや、なんでも無いぞ。 ミヤ」


 呼び捨ててやると嬉しそうにミヤは笑う。 その顔は可愛らしいんだがなぁ・・・。勿体無い。




 そう思っていても、何処かで相手を女だと認識していたのかもしれない。


 ・・・・・・


 気付けば熱膨張してたりする。 ・・・これは湯船から出る事は出来ないな・・・。


「じー」


「? うわっ!? 何処見てるんだ!?」


「ん? 釣り竿」


「竿とか言うな! ていうか見るな!」


「減るもんじゃないだしいいじゃないか。 あ、ある意味減るんだっけ? 減らしてあげようか?」


「すまん。 日本語で喋ってくれ・・・」


「君の●○×を○で×■って△◇させてあげるって言ったんだ。 こんな美少女にしてもらえるなんて幸せ物だなお前は」


「誰が具体的に言えと言ったんだ!? 児童法とか完全無視だなおい!?」


「児童法? なんだそれは?」


 キシリ・・・。


 何かが壊れた音が俺の頭の中でした。


「法律無視上等って言いたいんだな? まったく・・・流石軍人だな」


 それだけ日常と離れているんだろう。 その時俺はそう思っていた。


 だが、ミヤの目は別に冗談だとかを言っている感じでは無く、本当に分かっていない目だった。


 まさか―


「違う。 その児童法だとか言うのを本当に知らないんだ。 そんな法があるの?」


 その言葉で俺の中の一つの砦が音を立てて崩れ去った。


 こんな状況に居ても心の何処かでこれは何かの芝居か何かで、他の者も演技をしているだけだと信じていた。 だが、今の彼女の言葉でこれは本当に現実に起こっていて、俺はそこにたった一人になってしまった事を自覚してしまった。


 もう、両親にも友達にも会えないのだと・・・。


 それなのに俺に戦争の手伝いをやれって? 俺がそれで死んでも誰にも気に留めてくれる事の無いこの世界で??


 馬鹿らしすぎる。


 良くある物語で異世界に飛んでその世界の秩序と平和を守ったりする話があるが、そんな物語の主人公は寂しくなかったのだろうか? 自分の世界に帰れなくなっても良かったのだろうか? それは物語の中だから疑問に思わないだけで、実際にそんな事になって呑気に暮らせるなんて正気の沙汰じゃない。


 俺は一生こんなふざけた時代に生きていかないといけないのか・・・。


「んん〜? どうしたぁ? ママが恋しくなったか?」


 そんな顔をしていたのか心配そうというより面白そうにミヤは顔を覗き込んできた。 俺の視界にはそうされても彼女が映っていなかったが。


「・・・・・・そっか。 まぁ、恋しめるママが居るだけいいじゃないか。 私達は全員居ないぞ?」


「・・・え?」


 声のトーンが少し低くなった事に気が付いて、今の彼女の台詞を反芻する。 全員居ない? ・・・私達は?  ・・・ママが?


「菊池女史とかは知らないけど、TAM機乗者は全員戦争孤児ってヤツだね。 聞いて・・・無いやな。 今日違う世界から来たばっかりなんだし」


「TAM? いや、それより俺の事聞いてるんだ?」


「狭い基地の中じゃもうみんなの噂だよ。 大抵は「男の子がきたーー」って色気づいてるみたいだけど」


「・・・すまん。 次から次へと聞きたい事ばかり増えていくが・・・。 此処はもしかして女ばっかりなのか?」


「整備員の下っ端トリオ以外はほぼ全員そうだよ。 いいねぇ〜ハーレムエンドのフラグ立ってるよ〜手当たり次第で産休続出させるのは勘弁してくれよ君〜」


「するか! っていう事は身近な問題として此処って男子トイレも男子更衣室も無いんじゃないだろうな? この浴場も入り口一つだったし・・・」


「おぉう頭の回転中々速いじゃない〜お姉さん気に入ったよぉ♪ はっはっはっもちろんそんな物必要無いからね。 男女の差なんて付いてるか付いてないかだけなんだから」


「・・・女性として恥じらいが無ければそうでしょうね」


 笑いながら言って胸を張るミヤを冷やかに見てやる。 そんな事をするので湯船からその小振りな山が見えてしまったが、想像通りだった。 


 しかし、想像と現実とでは視覚的刺激が全く違うもので、流石に見てられないので目をそむけた。 ・・・まぁ、それが間違いだったのだが・・・。いや、俺は間違ってないハズだ。 間違ってるのは・・・


「おぉ!? 照れてますな〜? どうしたどうした〜見惚れたというならばやぶさかでは無いぞ〜?」


 そう言って湯船から立ち上がって何かポーズでも取っている。(見てないので多分だが)

 本当に勘弁してくれ・・・。



 ガラガラ・・・


 そんな事をしていると大浴場に誰か入ってきた。 先程のミヤの話が本当ならかなり高い確率で女性のハズだ。 これ以上状況を悪化させないでくれ神様。 


「あっれぇ? ミヤ一人?」


 多分この世界に居るのは邪神だ。


 入ってきたのは・・・。 男の子? いや、タオルとか何かで前を隠してなかったから分かったが女の子だ。 ・・・この基地には痴女しか居ないのか!?


 小柄な少女だった。 メイに会った時にも思ったがこんな年端もいかない少女が軍に入っているというのはどうなんだ? ついでに言えばどうしてそんなにツルペタばっかりなんだ。


「お〜せんちゃんいらっしゃ〜い。 今新人君と楽しくお話していた所だったのだよ。 せんも仲間に入りなよ」


「新人さん?  あ〜噂になってる男の子だ〜。 うわーうわー始めてみたよ〜」


「そりゃ今日来たばっかりなんだからそうでしょうに」


「あっそうだよね〜あははっ♪」


 ・・・・・・


 言っておくが俺はロリコン趣味は無い。 だが・・・「せん」と呼ばれた少女が可愛いと思ってしまった。 なんというか「女の子」って感じがする。 もちろんミヤが可愛くないわけじゃないが、ミヤの場合言動と行動が「おっさん」っぽくて損しているな。


「紹介するよ。 この子は醍蝉 千代曹長。 今年で15歳になるんだっけ?」


「うん〜15になったばかりだよぉ♪ よろしく〜ええと〜・・・お名前なんだっけぇ?」


「チヨ? あれ? さっきせんって言わなかったっけ? ん? 愛称? あぁ・・・。 あぁ、俺は―」


 名乗ろうとした。 ただ名前を名乗ろうとしただけなのだ。 それなのに、俺の頭にデッキブラシが突き刺さっているのは何でなんだ? デッキブラシは刺さる物じゃないハズだ。 いや、そんな事より、そんな物が刺さるほどの勢いで「ぶん投げた」のは誰だ!?


「と・・・殿方がどうして此処に居るんですか!」


 顔を茹でたタコか海老のように赤くしてツインテールの少女が浴場の戸口に立っていた。 水兵さんのような服を着ていた。 水兵さんの服が分かりにくいならセーラー服だと言えばいいだろうか。硬い軍服では無いそんな姿はちょっといいかもしれない。

 コイツがデッキブラシの犯人か。 それにしても、なんだなんだ!?


「おーカグラも来たのね〜。 何で服着てるのだ君は? そんな物はちゃっちゃと脱いで一緒に入ればいいのに」


「ミヤ! 貴女はまたそんな事を言って! 大体男女が一緒に裸になってなんて駄目に決まっているでしょう!」


 ミヤがニヤニヤして手招きするのを激しく激昂する二股髪女。 何かさっきミヤが言ってる事と違う気がするのだが・・・。


「そんな狭意に囚われているとこの時代ではやっていけないよ? 男だろうと女だろうと裸の付き合いは大事じゃないか」

「貴女の世界で物事を話さないで! 貴女は男だろうと女だろうと見境無しに襲っているだけでしょうが!」

「あ〜分かった。 カグラちゃんは嫉妬しているのでちゅね? かわいいでちゅね〜。 後で慰めてあげるから大人しくベットに裸で待っているんだよ?」

「ぶっ・こ・ろ・す!」

「あはは〜まぁたはじまったぁ♪」


 何やら浴場の洗い場(?)で戦闘が始まってしまった。 それを見て手を叩いて喜ぶせんちゃん。 一応ミヤはタオルを体に巻きつけて戦ってくれたので(気まぐれか?)視覚的に危ない事は無かったが、服のまま浴場で暴れるカグラと呼ばれたツインテール娘は湯気等を吸って服が少し透けてきている。 なんともいやらしい。


 殴る蹴るの攻防をしながらカグラの短いスカートからチラチラと見えちゃいけないものが見えてしまう。 なんというかある意味ミヤを応援したくなってしまった俺が居る。 仕方ないだろう。俺も男だ。


 それにしても、二人の攻防だけ見ていると、とても身体能力が高いのが分かった。 華麗に蹴り等の連続攻撃を仕掛けるカグラに、笑いながら捌くミヤ。 カグラが怒りに任せて攻撃しているにしても、それを難なく流すミヤには正直驚いた。 傍目から見てカグラが劣っているわけでは無い。 多分俺がミヤの代わりにやったとすると最初の数秒でKOされていただろう。

 そんな重そうでそれでいてブレの無い攻撃を受けるというのは相当の手慣れだ。

 改めて軍人だという彼女達を再認識した。


 後、カグラの言動から別に俺の居た世界とは違う認識が万栄しているわけでは無いというのが分かった。 男だろうと女だろうと恥じらいは無いといけないよな。 うん。


「えいや!」

「きゃ!?」


 防御に徹していたミヤが一転して攻撃に回った。 だが、それは一瞬で、カグラを吹き飛ばすのに十分の威力があった。 


 吹っ飛んでいくカグラ。


 マズイ! いくらなんでもそのまま壁でも床でも激突したら危険だ!


 ジャパーン!


 俺は考えるより先にカグラを受け止めるために動いていた。 カグラを受け止めて、そのまま浴槽の中に飛び込んでしまった。


「いたた・・・怪我は無いか?」


「あ・・・。 ありがとうございます」


 受け止められた瞬間は何が起こったのかわからなかったのだろう。 俺と目があって助けられたという事に気が付いたようで、顔を赤くして礼を言ってきた。


 なんだろう。 さっきまで強気にミヤと争っていた姿を見た後だから知らないが、妙に可愛く見えてしまった。 ・・・気が多いな俺・・・。


 それにしても、このかぐらって娘は他の子よりなんというか・・・発育がいいな。


 濡れてしまった服から地肌が透けて見えているのだが、よくぞそこまで育って・・・。お父さん嬉しいぞ。


「――! 何見てんのよ! この変態!!」

「あいたー!?」


 まるでマンガの様に平手打ちを食らってしまった。 食らっていながら何だが、これが普通の女の子の反応だよな? ミヤみたいなのが変なだけなんだよな?


「ひ・・・ほ・・・ホントに変態ーーー! いやーーーー! おかーさーーーん!」


 そう思うと嬉しくなってしまったのか、そんな顔が出ていたのかもしれない。

 ・・・殴られて笑っているのを見たらそりゃ気持ち悪いよな・・・。


 だが待てよ!? そういう趣味があるわけじゃないんだが誤解するなっ!?


「おい! 待てよ! 今のは別に変な意味じゃ・・・」


「いやーーーー!!」


 ・・・・・・


 弁解も聞かずに走っていってしまった・・・。


 後で基地内に噂されるんだろうか・・・。 あぁ、死にたい。


「あー。 カグラを視姦するなんてケダモノだねぇドーチンは」


「お前のせいだろうが!? それに俺はそんな地人みたいな名前じゃないわ!」


 ミヤ・・・コイツのせいで俺は変態扱いになってしまったんだが・・・。 幸い俺は「たとえそう見えなくても」女を殴るなんて事はしない。 本当は思いっきり殴りたいんだがな。この変態を。


 まぁ、これ以上何かあったらそのタガも外れてしまうかもしれないがな。


 ・・・・・今度ハリセンを用意するか。


「まぁ、そんな事よりもミヤ。 TAMとか色々分からないんだが、そっちの説明はしてくれないのか?」


「えーそんな色気の無い話は私パス。 どうしてもって言うならピロトークで話してあげてもいいけど・・・」


「分かった。 これ以上喋るな」


「ぶー」


 ミヤは当てにならん。 なら・・・


「ほえ?」


 俺に見られて「?」を浮かべているせん。

 ・・・どうしてだろう。 まだ話してもいないのに、コイツは馬鹿だと感じてしまった。

 なんというか、そのあどけない目を見ていると「頭の中はからっぽ」だと言っているかのように見えてしまう・・・。 失礼な話だが、そういうヤツはにじみ出るんだよな・・・馬鹿さが。


 しかし、そうなると・・・。他に聞くやつが居ない。 一瞬頭にメイの事が浮かんだがそいつも駄目だ。 あの無口な奴を喋らせるのにどれだけ労力を使うか知れない。


 ・・・他に居ないのか? ナノ隊長に聞く・・・いや、彼女はなんとなくそういう話をするのは嫌だな。 またあの冷たい目を見そうで怖い。さっきのカグラって子は多分取り付く島も無いんだろうし・・・。


 まぁ、いずれ分かるだろう。


 そう気楽に考えて俺はそろそろ湯浴みを終えようと脱衣場へと歩いていく。


 背中に「私の部屋は○○○号室だよー」とミヤが言っているのが聞こえたがそれは全力で無視しておく。




 脱衣場。


 脱いだ服を入れる籠が数個あって、俺が服を入れている籠の両脇にミヤとセンの物であろう服が入っていた。


 見るつもりは無かったが、自然と目に入ってしまったのは俺の落ち度じゃないハズだ。


 それを手にとって匂いをかいだりとかするわけじゃないので別にそれはいいだろう。

 だが、同じ場所のしかも両脇に衣服が入っているのになんとなく違和感を感じてしまった。


 いや、違和感というより悪意か。センはどうだか知らないが、ミヤは絶対にわざとだ。 あのヤロウ・・・。


「・・・っと、あれ?」


 ミヤの籠の隣にもう一つ中身の入った籠があった。


 さっき出て行ったカグラは別に脱いでいない。 となると、誰か他に中に居た?


 俺はその籠の前まで来ると、中身を覗いてみた。


 中には茶色い軍服。 それと女物の肌着と下着。 何かを巻く布が入っていた。


「・・・誰のか分からん」


 今日来たばかりなのだし、服を見ただけで誰の物か分かるような知識はまだ無い。


 それにしても・・・、女物の下着って小さいんだなぁ。 こんな小さいのを履いてるのか・・・。


「・・・・・・何をしているの?」


 気が付くとバスタオルを体に巻いた少女が横に立っていた。 真横に立つまで気付かないぐらい吟味していたわけじゃないぞ? 本当だ。 それより、別に浴室から出てきたわけじゃないようだったので、バスタオル姿で何かを取りに行って、今戻ってきたという感じだった。


 メイが。


「いや、誰のかと思ってみていただけだ。 別にいやらしい気持ちじゃない」


 手に下着を持ちながら言うには説得力の無い台詞だっただろう。 だが、本当に何かやましい気持ちだったわけじゃないのだから仕方ないんだって。 むしろ、知識欲に負けてしまっただけで、それは正義だと言っても過言ではない。 ・・・いや、今回のジャスティスは負けそうだ。


「・・・・・・それは私の」


「そっか。 すまんすまん」


 出来るだけ自然に下着を元の籠に戻して愛想良く笑ってみる。 俺の笑顔はご近所では中々定評があるんだぞ? 間違って蹴飛ばしてしまった八百屋の大根を折った時だってその威力は十分に発揮して半額で買うだけで済んだぐらいだからな。 ・・・その後他の野菜も買わされたが・・・。


 それよりメイさん心なしか・・・怒ってません?


「・・・・・・変態」


 ぐはっ!?


 やっぱり怒ってる・・・。 それも普段無口な分その短い一言が強力過ぎる。


「いや、待ってくれ! 本当〜にそんなつもりじゃなかったんだぞ!? おい! メイ!」


「・・・・・・・・・気安く呼ばないで」


「あ・・・」


 拒絶の言葉だった。 色々な暖かい人に出会って少し気が良くなっていたのかもしれない。 今メイが言ったようにイキナリ呼び捨てるような事は普通は無いだろう。 他の隊員が特別なのだ。 彼女は間違っていない。


「・・・・・・・・・分かってる。 貴方は悪いんじゃない。 ただ・・・服を着て」


 ・・・・・・そういえば服をまだ着ていなかった。


 彼女は下着がどうこうを怒っていたわけじゃなく、俺の姿に困っていたのだ。


 顔が赤いのも怒っているのではなく・・・恥ずかしいから?


 俺も今更恥ずかしい。 死んでお詫びしたいぐらいに。


 下を向いてこっちを見ないようにしてくれているので、急いで着替えようと俺は籠に手を伸ばした。


 籠から服を取り出そうとすると、その籠の陰から何かが飛び出してきた。


 水場が近いからあり得る事態だったのだろうが・・・。 空気を呼んで欲しかったぞ俺は。


「あー。 やっぱりこの時代でもコイツは生きてるんだな」


「? ・・・・・」


 黒い油虫。 ゴキブリだ。


 生憎叩く物が無いからどうしようも無いのだが、その虫を見た瞬間メイの動きが明らかに止まった。 俺も正直好きじゃない。


 ソイツは何を思ったのかメイの足元を目掛けて走り出した。


「・・・・・・いやーーーー!?」


「うわっちょ!? メイ!?」


 初めて聞く彼女の大きな声。 それが悲鳴とは皮肉なもんだ。 その反動で俺に抱きついてきているのはちょっと役得だぞ虫。 ・・・意外にあるなコイツ・・・。 


 だが・・・、だがな? その足をこっちに向けるとはどういう了見だ!?


「どわぁぁぁぁ!? こっちくんな!」

「―――――!!」


 メイは耳元で声にならない悲鳴を上げ続けるし、妙に強い力で抱きしめてくるのでこちらは身動きが取れない。


 万事休す――


「何を騒いでいるんだお前等!」


 その絶体絶命のピンチに救いの女神が現れた。


 短髪の活発そうな娘は俺達を一瞬見て、その足元に居る黒い悪魔を見て短く溜息をつくと、拳を握って・・・

 いや、待て。 それは人としてどうかと思うぞ? しかも、見た所君は女の子だろう? そんな事をすると君の手は・・・


「チェストォ!!」


 気迫十分の声と共に、右拳を真っ直ぐ打ち据えた。 距離的にまったく届いていなかったが「目に見えない何か」が黒い悪魔まで到達してそれを撃破する。


 拳圧!? 世紀末救世主かお前は・・・。


「おぉう・・・。 助かったぞ。 ええと・・・」


「ん? 私は久々知 智亜子。 ちゃーこって呼んでくれていいわよ。 階級は大尉だけどまぁ、それは気にしなくていいわ。 どっちみちナノ隊長だって大佐なのに気にしちゃいないしね」


 ちゃーこか。 憶えておこう。 それにしても大尉に大佐? 階級って少将の次は大尉じゃなかったのか・・・。 俺ってそうとう下っ端なのか?


「・・・・・ありがとちゃーこ。 それに・・・貴方も」


 メイは黒い悪魔が居なくなってやっと落ち着いたのか、ちゃーこと俺に礼を言ってきた。


「んあ? 俺?」


 コクン


 頷いてくる。


 俺は一緒に震えていただけなんだが・・・。 まぁ、礼を言われて悪い気がしないので別にいいけどな。


「あのさ〜。 別にいいだけど年頃の男女が裸同然で抱き合ってるのはよろしくないんでない?」


 ちゃーこさん。 そんな今見たような状況判断しないで頂きたい。 どうしてこうなったかアンタ分かってるでしょうに・・・。


「・・・・・うん。 嫌だって言ったのにこの人がムリヤリ・・・」


「メイさん!? それは酷いんじゃないかい!?」


 何を言い出すんだこの女は!? そんな冗談笑えないぞ・・・


「あっはっは〜メイがそんな冗談言うなんて、相当その男が気に入ったのね?」


 笑ってるよこの大尉・・・。 いやしかし、冗談? なんでそんな事・・・。


 メイを見ると何故か先程より赤い顔をしていて、目線を合わせてくれない。


 コイツは・・・・・・とんでも無く可愛いんじゃないのか実は。


 俺が見ていると、メイは脱衣所の隅の方まで歩いていきペタンと座り込んで頭を抱えた。


 間違い無い。 コイツはクーデレ資質だ。 普段クールなのに時折見せる女らしい彼女。


 なんだか惚れてしまいそうだ。

 

「ほらほら、メイが動かなくなっちゃうからさっさと着替えて出て行きなさいな。 ええとドラン君?」


「この基地は人の名前を正確に言えるヤツはいないのか!?」


 そう突っ込んでも多分無駄な気がしたが、一応突っ込んでおく。


 なんにせよいつまでも裸ではアレなので、すぐに着替えて脱衣所を後にした。




 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 そういえば、俺の寝る部屋とか何処なんだ?


 そう思いながら歩いていると、また見た事の無い女が前から歩いてきた。


 まぁ、今日来たばかりなんだから当たり前だが・・・。


 鼻眼鏡をつけて白衣・・・いや、黒衣を来た女性だった。


 なんというか、他の者よりは精神的に落ち着いている感じに美女で、多分俺よりは年上だろう。


「あ、こんにちわ」


 別に打算も無く俺は挨拶した。 別に美人だからといって挨拶したわけじゃないぞ? この人がブスでもきっと元気良く挨拶したハズだ。


「おう! 元気じゃなぁ若いの。 お前が噂になっとる男じゃな?」


 ・・・・・確かに年上に見えるが、そこまで年上には見えないんだぞ? 見た目は20そこらだと思うんだが・・・どうしてそんなおじいさんみたいな話し方なんだこの人?


「何やら湯浴みに行ったら違う意味でのぼせてしまってフラフラしとるような感じじゃな? どうじゃ、これからちょっとウチへこんか?」


「え・・・あの・・・」


「別にとって食うわけじゃないわい。 大方色んな事があって混乱しとるんじゃろ? ワシが説明してやるからまぁ来い」


「あ・・・・・恐れ入ります」


 なんというか喋り方が板についていて声だけ聞いてると違和感が無い。 別にからかっているわけではなくて、これが地なんだろう。  う〜む勿体無い。


 色々と聞きたい事があるので、願っても無い事だ。


 というわけで、俺の一日はまだまだ続くらしかった。


【花屑 第2話 終わり   第3話に続く】

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