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花屑  作者: 霧香 陸徒
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第19話『花の屑は桜の花』

魅夜のおかげで戦争は終わった・・・。

だけど、本当にこれでよかったのか?


俺は納得いかないまま自分の部屋に引きこもってしまった。

戦争が終わったからって、それがなんだと言うのだろう?


 残ったのは・・・こんなにも悲しい事実だけじゃないか!



 俺はその日から誰とも会わなくなった。


 誰が来ても答える気力が沸いて来なかった。



「結局・・・世界が変わっても俺はこんなになってるんだな」


 自嘲気味に笑う。  過去の俺も、今の俺も結局は引き篭もってしまっている。


 未来を託してくれた紋治さんが見たらどう思うだろうな・・・。


「・・・・・・そんな大尉を魅夜が見たら、どう思う?」


「!? 芽衣?」


 いつの間にか芽衣が居た。 部屋に入って来た気配は感じなかったが・・・。


 それだけ俺が参ってしまっていたのか。


「大尉。 本当に戦争が終わってしまったわけじゃない。 多分敵国は戦力が回復したらまた攻めて来る。 そんな時に大尉がそんな状態だと困る」


「何を言ってるんだよ! 俺なんかどうしたって、皆強いから大丈夫だろ? 俺はもう戦いたくない。 放っておいてくれ」


「・・・・・・嫌。 私は大尉が大好き。 だから、何もしないで死んで欲しくない」


「・・・・・・芽衣」


 芽衣は強い。 俺の様に魅夜の死を引き摺っているなんて事は無いのかもしれない。


 その強さが今は羨ましく思えた。


「私は気付いた。 大尉が好きだって事を・・・。 それを大尉に言えるのは、もしかしたら魅夜のおかげかもしれない」


「・・・・・・」


 違った。


 芽衣だって魅夜を思っていた。 俺だけがこうやって塞ぎ込んでいるわけじゃない。 皆、心に大きな穴を開けてしまったのだろう。


 ただ、それをどう引き摺っているかの問題だ。


 俺の様に、何もしたくないと思って塞ぎ込んでいるのはちょっと恥ずかしく思えてきた。


「そうだよな。 俺がネガティブになるなんてらしくないよな」


「・・・うん。 大尉はいつだって私達に勇気をくれた。 大尉は強い人」


「いや、あんまり物事を深く考えないだけなんだけどな? おっしっ! 元気が出てきたらちょっと思い出した事があるぞ。 芽衣、イキナリだが聞いてくれるか?」


「うん。 元気な大尉の方が好き。 ・・・・・・何を?」


「芽衣。 いや、芽衣子。 お前と俺は過去から来たって話さ」


 俺は菊池女史に聞いた話を芽衣に話した。 というより、俺自身思い出した事だったのだが、芽衣が岩倉 芽衣子で、TAMは俺と芽衣子のお爺さんの紋治さんが基本設計した物だという事、そして、紋治さんが俺達に未来を託した事を話した。


 すると芽衣は最初は困惑顔だったが、次第に何かを思い出すように首をひねっていた。


 そして、俺の顔をじっと見たと思うと、ポツリと呟いた。


「おに・・・い・・・ちゃん?」


「そうだ。 ジュンペイ兄ちゃんだぞ。 芽衣子」


 小さかった頃の芽衣子の面影が目の前の芽衣と重なった気がした。


 昔からずっと着いてきていた幼馴染の女の子。 確か六つは離れていたハズだったが、目の前の芽衣は少女から女になろうという成長振りだった。


「・・・! お兄ちゃん! お兄ちゃん! 会いたかったっ!」


 一気に感情が溢れる様に抱きついてくる芽衣。


 だから・・・そんな体つきのまま子供みたいに抱きついてくるなって!



 困った事に、俺は芽衣を意識しまくってしまっていた。 端的に言えば煩悩全開だった。


 芽衣の髪が頬を撫でる。 芽衣の柔らかな腕が俺の背中に回る。 控えめな膨らみが俺の胸に当たる。 鼻腔に芽衣の匂いが・・・、芽衣の体温を感じた。


 なんだ。俺って意外に元気じゃないか。


「芽衣・・・」


 芽衣の体を両手で抱きしめながら、その存在を確かめるように俺は繋がりを求めた。


 俺の唇が芽衣の小さな唇に重なろうと近づくと、芽衣はそれを見て静かに目を閉じた。


 ・・・・・・


 いいのか?


「・・・・・・・・・」


 芽衣は何も言わずにただこれから来るであろう接近を待っていた。


 キスだ。 接吻だ。 ベーゼだ。


 頭の中はそれだけになってしまった。


 鼻息が少し荒くなってしまっていたかもしれない。


 だが、此処で怖気づいてしまっては男として名が廃る。


 いざ・・・いただきます。



 バン!


「大尉! 大変だ敵が攻めてきたぜ!  ・・・ってアレ?  ・・・・・・お邪魔だったかなぁ?」


 急に入って来たちゃーこが、俺達の様子を見て仰け反って後ずさりしていた。


 ちゃーこ・・・。空気読んでくれ・・・。


 じゃない、敵襲!?


「はぁ!? なんでだよ! 停戦したんじゃなかったのか!?」


「そのハズだよ! だけど、実際に敵が攻めてきたんだってば!」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 その後、司令室へ行くと、ちゃーこが言う通りに敵の部隊がこの基地に迫っているようだった。


 その数は・・・数え切れない程だった。


「どういう事だよ隊長! 戦争は終わったんじゃないのかよ!」


 司令室でモニターを見ていた隊長に詰め寄ると、彼女は険しい顔をして頭振った。


「・・・ええ。表向き上は終わっているハズなの・・・。 多分これは非公式な部隊なの。 確認したら、イーストサン側もそんな命令を出してないという回答なの」


「なんだ・・・って?」


 俺は司令部のモニターに映し出される敵の映像を食い見た。 TAMが旧式と新型が入り混じって100や200では済まない数がゆっくりと進軍しているのが映っていた。


「声明が出たみたいだよぉ〜。 ええと〜”我々は散っていった同胞達の無念を晴らす為、鬼畜国家へ鉄槌を下す者。 イーストサン国家万歳”だってさ。 要は逆恨みってヤツだねぇ〜。 戦争しててそんな事言い出したらキリ無いじゃん〜」


「国際問題がどうとか悠長な事は言ってられそうも無いみたいね」


 何を馬鹿な事を言っているのかと思ったが、戦争なんてそんな馬鹿な理由で起こってしまうものだ。 一人の危険な思想に賛同してしまったりして起こったりするんだ。


 その証拠にモニターには一体のTAMが先導しているのが映っていた。


 多分、そいつが首謀者だろう。


「丁度いいぜ! こっちは魅夜の仇を討ちたくてウズウズしてたんだ! 大暴れさせてもらうぜっ!」


 ちゃーこは気合十分に拳を打ち合わせていた。


 だが、モニターを見る限り数が違いすぎる。 こんな中に突っ込んでいったら犬死もいいとこだ。


 それに、俺はもう戦いたくない。


 もう魅夜のような犠牲者は一人も出したくない。


「隊長。・・・後退は出来ないのか?」


 俺の発言にみんなの視線が集中する。


「それは・・・」


 隊長が言いよどんでいる。 まぁ、聞きながら答えは分かっていたけどな。


「敵前逃亡は銃殺刑は基本だよぉ〜」


 せんがサラっと怖い事を言う。


 うん。 笑顔で言われると逆に迫力があるぞ、せん。


「それ以前に大尉は悔しくないのかよ! ヤツラせっかく魅夜が命をかけてやった事を台無しにしようとしてるんだぜ!?」


「いや、ちゃーこ。 お前の言いたい事は分かるが・・・。危険過ぎるだろ。 それに、魅夜がどうとか言ったが、魅夜は俺達に未来を託したんだ。 それを犬死なんてしてみろよ。 天国で魅夜になんて言われるか分かったもんじゃないぞ?」


 魅夜は俺達を命を掛けて守ろうとしたんだ。 それを無駄にしてしまうのは許されない事だ。 魅夜の分まで生き続ける事が、俺達のやるべきことじゃないのか?


「いいえ。 大尉、そんな事は無いわ」


「香具羅・・・」


「大尉はまだまだ魅夜の事をまるで知らないのね。 あの子ならもし私達が討ち死にしても「あ〜大変だったみたいだね〜」って笑って迎えてくれるわよ。 それに、魅夜が天国なんて行ける訳無いわ。 私達もだけど―」


「地獄で会おうぜ・・・か」


 覚悟を決めるしかないのか・・・。 全く・・・こんな時代に送った紋治さんを俺は恨むぞ。


「そう。 こうなったらトコトンやるしか無いわ。 はじめから選択肢なんて無かったのよ」


「そうなの大尉。 もう逃げ場なんて何処にも無いの。 ううん。 「私達はね」」


 「私達は」という所を隊長は強調して言った。


 その中には隊長と、せんとちゃーこ、そして香具羅が居る。 だが、隊長の視線には俺と芽衣は映っていなかった。


「こんな作戦は私達だけで十分なの。 芽衣と大尉は・・・飛んで欲しいなの」


「な・・・」


「隊長!」


 飛んで欲しい。


 隊長は俺達に未来へ飛べと言っていた。


 それは俺達に一緒に戦うなと言っていると同じ事、このまま逃げろと言っていると同じ事だった。


「いいから聞けなの! これは上官命令なの」


「そんな・・・言ってる事が滅茶苦茶だろ!? さっき敵前逃亡は銃殺刑って言ったばかりじゃないか!」


「大尉・・・これは花屑隊長、樟葉菜乃華の最後の命令なの。 お願いだから聞いて欲しいの・・・」


「隊長・・・・・」


 隊長は涙を浮かべて叱責した。  樟葉・・・菜乃華? 隊長の名前は菜乃じゃなかったのか?


「私の本当の名前なの。 皆大尉が知っている名前では無いなの。 そんな事はいいの。 もう時間が無いなの! 行って大尉!」


「・・・大丈夫だよぉ〜。 大尉と芽衣が居なくてもこっちには魅夜がリミッター外してくれた無敵のTAMが4体も居るんだから勝利は確実だよ〜」


 せんがブイサインをしながら言った。 彼女が言うのだから間違いないのかもしれない。


「・・・・・・分かりました。 隊長、皆。 お達者で・・・」


「芽衣!?」


 俺が答えを渋っていると、芽衣は短くそう言うと俺の手を引いて来た。


「ジュン君。 皆の意志を無駄にしちゃ駄目・・・」


「芽衣・・・」


 芽衣はこちらを見ずに俺の手を引き続けた。


 彼女は涙をこらえているのか震えていた。


「分かった。 皆、元気で・・・。 絶対生き残れよ! ジュンペイ大尉からの命令だからな!」


「当ったり前だろ!」

「私は負けないわ。魅夜の分まで!」

「絶対大丈夫だよぉ〜♪」

「スクラップドフラワーの力を見せてやるなの!」


 俺は最後に一人一人の顔を目に焼き付けてから、司令室を後にする。


 

 カラン〜

  

 もう、此処には帰ってこないだろうと思い、軍服のボタンを一つ外して廊下に転がした。



 さようなら花屑。


 この一週間楽しかったぞ。


 ありがとう・・・。



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