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花屑  作者: 霧香 陸徒
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第18話『花の屑が語りかけてくる』

TAM−06モクレンから送られてきたのは、居なくなっていた魅夜からのメッセージだった。

「・・・・・・なんのつもりだよ・・・。 魅夜っ!」


 転送されてきたファイルを開いてコックピットのディスプレイに映し出される魅夜を見て俺は叫んでいた。 こんなタイミングで送りつけてくるものだ。 ただの洒落じゃないハズだ。


 俺の予想は辛くも的中してしまう。


『皆、見えてるかな? え〜と・・・。 こんな物を送りつけてしまってごめんね〜。 すぐ終わるから聞いちゃって欲しいの』


 ファイルは動画ファイルだった。 魅夜の映像が映し出されている。 口調はとても軽いが、魅夜の表情が少し硬い。 だから、俺はそれを茶化す事は出来なかった。


『これを見てるって事は敵さんあらかた倒しちゃったかな? まさか全滅した一人が見てるって事は無いわよね〜? お姉さん信じてるからね♪ ええと・・・、察しの通り、私は基地に居ないのだよ。 今は敵国の制空圏まで来てるのかな? 先日敵の本拠地が分かってね〜。お姉さん特攻なのだよ』


「な・・・何を馬鹿な事を!」


 俺はディスプレイを叩き割りたい衝動に駆られたが、それを抑えてディスプレイを食い見る。 これは動画なので、こいつに文句を言っても仕方ない。 動画の中の魅夜の話は続いた。


『TAMにはね。 みんなの知らない機能がいっぱいあるのだよ。 隊長の超兵器もそうだけど、それぞれにとんでもない兵器が組み込まれていたりするのだよ〜。 出力の問題で乱発は出来ないだろうけど、芽衣の機体にも隊長の機体ぐらいの火力があったりするよ〜。 お試しあれ〜』


「・・・・・・そうなの?」


『うん。 今芽衣が「そうなの?」って聞いてくるのが目に浮かぶわ〜♪ まぁ、そのあたりのリミッターは解除しておいたから存分に使ってね〜。 メカニックじゃないのにそんな事が出来るってあたりは突っ込んじゃ駄目よ? 私に突っ込んでいいのは大尉の男の子だけなのだよ』


「ちっ・・・・ハリセンの届かない所でボケるんじゃねえよまったく・・・」


 それを見越して言っているのだろうが、俺はディスプレイに写る魅夜に向かってハリセンをたたきつけた。 その衝撃でディスプレイに写る魅夜が一瞬ブレる。


『そして、私の機体には・・・。 とんでも無い量の火薬が搭載されていたのだよ。 そして、それを使う方法は・・・自爆』


「!?」


『・・・・・・・というわけで、最後の通信なのだよ皆。 せん聞こえるかな?』


「う・・・うん! 聞こえるよぉ!」


 動画の中の魅夜に答えるせん。 皆そこに魅夜が居るように動画を見ているのだろう。


『せんは困った能力でずっと悩んでたみたいだけど、今回大尉に救われたね。 この前の作戦の後、自然に笑ってるせんを見てお姉さん安心しちゃったよ〜』


「うん! 大尉のおかげだよ♪」


『本当に良かったね。 これからも・・・花屑を守ってあげてね。 私の分まで・・・』


「・・・・・・魅夜・・・。 うん! 分かったよぉ!」


 せんの声は一瞬震えていたが、最後には元気に答えていた。


『次は、ちゃーこ』


「お、おう!」


『多分とっても男らしく答えてくれてるんだろうね〜。 ちゃーこは自分の性格に悩んでたみたいだけど、それを気にしない人に出会えて良かったね。 本当に大尉様々だよね』


「・・・・・・」


『でもね、私は知ってるよ。 本当はちゃーこも女の子らしいって事はね。 今度そこの所を大尉に分からせてあげたらどうかな? 楽しみだね〜』


「・・・魅夜・・・」


 ちゃーこの女らしいところ? ちゃーこは元々女じゃないか。 魅夜は分からない事を言うなぁ・・・。


『次に香具羅。 貴女とは長い付き合いだったね。 いつも困らせちゃってごめんね? でも、私香具羅の事とっても大好きだったんだよ?』


「ちょ、何恥ずかしい事言ってるのよアンタは!」


 香具羅は恥ずかしそうに叫んでいたが、まんざらでもない様だった。 この二人って仲が良かったんだな。 そういえば俺が見た初日にもじゃれ合っていたけど・・・。 


『香具羅。 貴女は強い子だからもう一人でも大丈夫だよね? ううん。 大尉が居てくれるから大丈夫かな? それに皆も居てくれるしね。 私から卒業する時が来たのだよ〜』


「・・・・・・何よそれ・・・何勝手な事言ってるのよアンタは!! ホントに勝手過ぎるわよ!」


 そうだ。 魅夜は勝手過ぎる。


 誰にも相談せずに一人で特攻するなんて・・・。


『次は〜隊長かな? 隊長〜今までありがとうございました〜』


「・・・・・・うん」


 動画の中でペコリと頭を下げる魅夜。 多分隊長も同じように頭を下げているんだろうな。


『ここ最近の戦闘で大尉に出し抜かれちゃったね〜。 でも、隊長はそれで自分の欠点を知ったハズだよ。 欠点を知った隊長は、もう同じ過ちを犯す事は無いハズだから花屑も安泰だと思う。 もう、花屑は無敵だね!』


「も、もちろんなの! 花屑の隊長は私なの! 任せて欲しいの!」


『って、偉そうな事言っちゃったけど、隊長は気にしないよね? 私、隊長のそんな寛容な所大好きだったよ。 花屑に配属されて本当に良かったと思ってる。 ありがとう隊長』


「魅夜・・・・・・」


 通信の先から隊長の声が途切れ途切れになって聞こえてくるのが分かった。 隊長は、多分泣いていた。 他の者も多分泣いているのかもしれない。 俺だって・・・


『後、芽衣。 アンタには一言言っておきたかったのだよ』


「・・・・・・何?」


『この泥棒猫!』


「・・・・・・うん」


『多分「・・・・・・うん」とか薄情な事言ってるんだろうけど、まぁ許してあげるよ。 私は玉砕しちゃったからね〜。 大尉とお幸せに〜。 いやいや〜どうなるか分からないけどね〜』


「・・・・・・・・」


『でも、大尉のおかげで芽衣も感情を出せるようになったんだからそれは嬉しかったよ。 ずっと見守ってたかいがあったってもんだよ〜。 皆も同じだろうけどね。 芽衣、もう忘れちゃ駄目だよ? 貴女はとっても素敵な女の子なんだから.

絶対、幸せになるんだよ? お姉さんからの命令っ!』


「・・・・・・魅夜」


『じゃあ、取りをつとめるのはやっぱり大尉! 大尉〜見てる〜?』


「今更何言ってんだお前は・・・」


 見てなかったらこの映像も見えてないだろうが・・・。


『いや〜大尉が来て花屑も変わったね〜。 色々言いたい事はあるけど、あんまり時間が無いからちゃっちゃと済ますよ〜。 大尉、今までありがとう』


「あぁ。 こちらこそな。 お前が騒いでたから緊張感なんて無かったのかもしれないから助かったぞ」


『駄目よ! 本当はお前が好きだなんて! 私は散りゆく花・・・』


 スパーン!!


 俺はハリセンをディスプレイに叩き付けた。 もちろん映像の魅夜にダメージを与える事は出来なかったが、つい体が動いてしまった。


『なんて――。 もう言えないのは寂しいね・・・』


「・・・・・・まあな」


『でも、大尉が居るから花屑は大丈夫だと思ったからなのだよ。 多分これが成功すれば・・・当分敵さんは動けないか、もしかしたら終戦なんて事にもなるかもね〜』


「――! だったら! 皆で行けばいいじゃないか! お前一人で行く意味が分からないぞ俺は!」


『チッチッチ。 敵の本拠地なんだよ? 皆で行ったらそれだけ危険でしょう? 私一人だから撹乱させてダメージを与える事が出来るのだよ』


「・・・・・ちっ。 こちらの反応は予想済みか」


 本当は途中からライブ映像なのかと訝ったが、確認するとやはりそれは動画ファイルだった。


『あーなんか最後って感じがしないなぁ〜。 でも、もうすぐ着くみたいだから言っちゃうね。 大尉・・・』


 映像が少しづつ乱れてきた。 画面の向こうでは、もう攻撃を受けてしまっているのかもしれない。 だが、魅夜は最後までこちらを見つめていた。


「あぁ・・・」


『大好きだったよ。 本当に愛してた・・・。 だから・・・生きて大尉・・・。 私はもう居なくなっちゃうけど・・・大尉には未来を掴んで笑って欲しい・・・。 それだけが――』


 私の望み――





 ブチン!

 

 そこで魅夜のラストレターは終わっていた。


「なんだよ・・・何カッコつけてんだよお前はっ! お前は本当に自己犠牲が過ぎるんだよオイ!! 」


 ディスプレイに拳を思い切り叩きつける。


 その衝撃でディスプレイが大きく揺れた。


「オニユリ内部に激しい衝撃を確認。 内部センサー部を確認中・・・・・・・異常無し」


 TAM−06オニユリのオペレーションシステムが衝撃を異常と誤認してメッセージを流した。


「魅夜・・・・・・」


 誰ともなしに「彼女」の名前を呼んだ。


 皆動画を見終わったのだろう。


 誰も他に通信しようとするものは居なかった。




 そこに隊長機へ通信が入った。


「はい。 本部? え・・・敵国の本部が・・・全滅? はいはい。 ・・・・・・停戦協定?? それって・・・・・了解しました」


 隊長は何処かとの通信を終えて、皆に向かって一言だけ言った。


「皆・・・お疲れ様なの。 ・・・・・・・戦争は終わったなの」


 その通信を最後にTAMは活動を停止した。




 俺は今度こそディスプレイを割る勢いで拳を叩き付けた。


 だが、意外に強固で俺の手が赤く腫れ上がっただけだった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――




 こうして俺達の戦いは終わった。


 せんの二度目の予言が外れてしまったが、それは良い事だった。


 彼女は「この後敵が攻めてくる」と予言したのだが・・・。


 停戦協定が結ばれたのに攻めてくる馬鹿は一人も居なかった。



 いや、運命が変わったのか。


 こうなる経緯には色々な分岐点があったハズだ。


 敵が打って出てくる前に攻め込んでいたら何か変わったのかもしれない。


 それより、魅夜をあの時受け入れていたら・・・何か変わったのかもしれない。


 何かをしていたら・・・魅夜は生きていたのかもしれない。


 

 アイツが死んだなんて・・・信じられない。


 つい朝方には・・・笑って話していたのに・・・。


 昨日だってハリセンを振るいながら一緒に勝利を噛み締めていたハズだったのに・・・。



 戦争は終わった。


 だけど、それを一緒に祝う・・・魅夜が居ない。


 俺は魅夜を女としては見なかったが・・・・・大切な仲間だと思っていた。 それに友達だとも思えていた。


 胸が・・・・・・苦しい。



「大尉・・・もう、終わったなの・・・」


 自分の部屋で塞ぎ込んでいた俺に隊長が話しかけてきた。


「何が終わったんだ? 魅夜の人生がか?」


「!!」


 隊長は衝撃を受けたように仰け反ると、無言で部屋を出て行った。


 

 俺はその日、誰とも会わずに自室で塞ぎ込んでしまった。


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