第17話『花の屑は咲き乱れた後に散る』
敵が基地へ侵入してきた。
私はそれを迎え撃ちながら皆と合流する為に走る。
銃声と悲鳴が響く兵舎の中で、私が見たのは・・・
走る。 走る。
右左右左右左右ミギヒダリ・・・・・
交互に足を投げ出して、ただ、私は走る。
基地が燃えていた。
襲撃があったと先程警報が鳴っていた。
私や、ちゃーこ達は訓練を受けているから大丈夫だけど・・・。
大尉や菊池女史は危ない。
先程大尉の部屋を覗いたが、誰も居なかった。
何処に行ったの!? 大尉!
「ちょ・・・なんなのよアナタ達は!」
「!・・・ これは香具羅の声!」
声のした方へ向き直ると、香具羅と知らない者が対峙していた。
あれは・・・敵の兵!
「イキナリ乙女に向かって銃を向けるなんて失礼じゃない! 早くその銃を――」
パン!
「!!」
敵の兵は躊躇無く発砲した。
香具羅は、その刹那撃たれた反動で後ろへ倒れていく。
「――!」
香具羅!と叫びたかったが、敵はこちらに気付いていない。
私がするべき事は、彼女の死を無駄にしない事だ。
今は感情を捨てるべきだった。
私は手に短銃を取り出して・・・。
敵の頭を狙って発砲した。
パン!
その銃弾は見事命中して。 敵の兵はこちらに気付くことなく絶命した。
流石に肩を狙おうとは思わなかった。 だって、香具羅を殺した相手だ。
手加減なんて出来ない。
「勝手に殺すなぁーーーー!!」
香具羅の亡霊が何か叫んでいる。 ごめんなさい。 私がもっと早く気付いていれば・・・。
成仏して。 香具羅・・・。
「肩を打たれただけっ! ちょっと芽衣、助けてくれたのは感謝するけど無視は酷いんじゃない!?」
「香具羅・・・・・。 貴女の事は忘れない・・・」
花屑で初めて戦死者が出てしまった・・・。
私の判断が遅かったせいで・・・。
こんな私は軍人失格だ・・・。
「いや〜・・・。 いいからアンタは私の話を聞きなさい。 人を美しい思い出にしないでくださいませんか?」
そうだ。今は悲しんでいる暇は無い。彼女の死が後々に美しい思い出になるかどうかは生き延びてからだ。
それまで…貴女を忘れておく。さようなら……。
「私…怒っていいのかしら…」
実は香具羅が言って居る事が聞こえないわけでは無いのだが、私は本当にショックだった。
今回はたまたま外れただけで、タイミング的には間に合って居なかった。本当なら今頃、私の目の前には血溜まりに横たわる屍があっただけだろう。糸の切れたマリオネットのように役目を終えた人形は、捨てられるだけだ。
「所詮は駒の一つでしか無いのね…。戦いは空しい…」
「聞きなさいー!!」
スパーン!!
「……カグちゃん痛い」
「誰がカグちゃんだーー!? 冗談はおいといて、ヤバいわ芽衣。 せん達は無事かしら……」
「皆はそんな命乞いして撃たれるようなヘマしない…」
「ちょっと!? アンタ実は性格悪いでしょ!?」
とにかく基地に敵が何人も侵入しているのは確かのようだった。
少し離れた場所で銃声や爆発音が聞こえて来る。
誰か戦っているのか…。
「とにかく皆と合流する事が先決」
「そうね。私も肩を撃たれたけどまだ動けるわ。 魅夜に見られたくない状態だけど、そうも言ってられないわね」
香具羅はズボンのポケットから白い布を取り出して肩の付け根をキツく縛った。
少しでもそれで止血になるだろうが、激しく動かす事は無理のようだった。
「……完全にお荷物」
「容赦無しかオイっ!? …っつぅ〜…いたひ…」
「やっぱり痛いのね」
「痛いよ! 痛いさ! 痛いだろうさ!」
よく分からない三段活用だったが、とにかく痛い事は分かった。
「……香具羅。緊急時にふざけ過ぎ。自重した方がいい」
「……後で絶対泣かせるから覚えてなさいよ!」
そこまで元気に叫ぶ香具羅は心配しなくてもいいようなので、私は銃声が聞こえた方へ進んでいく。 それに仏頂面で着いて来る香具羅。
暫く歩いていると、敵の兵と思われる者が銃を構えて通路で仁王立ちしていた。
撃ってくれと言わんばかりの体制だったので私達は二人で銃口をその適へ向けた。
「おっと。お嬢さんたち。 撃ってもいいのかな?」
敵が目の前に居るのだ。 撃たないわけが無いだろう。 だが、敵の自信満々な態度が気になった。 何故そんなに落ち着いているのか?
答えは彼の足元で崩れている者のせいだった。
一瞬それが誰だか分からなかったが、薄汚れた茶色いツナギを来た「男」だったので、すぐに分かった。 この基地に男は大尉以外は「彼等」しか居ない。
「整備員さん・・・」
「・・・・・アンタ本当に名前覚えるのが苦手なのねぇ〜・・・。 タケシ君でしょアレ・・・」
「・・・・・・・・・そんな名前だったんだ・・・」
「芽衣さんは冷血女だという事でファイナルジャッジ。 タケシ君・・・」
香具羅が何か言っているが、普段ほとんど顔を合わせていない整備員の名前を覚えていないというのは別に悪い事では無いはずだ。 彼等にはいつもヒナギク達を整備して貰っているので感謝している。
だが・・・人質という事なのだろうか? 確かに非戦闘員だが、彼も軍人だ。 覚悟は出来ているハズである。
「おいおい。 なんだその反抗的な目は? コイツの命が惜しくないのか?」
敵兵はショットガンタイプの銃を持っていて、その銃口を整備員に突きつけていた。
警備員は気を失っているのか微動だにしなかったが。
「・・・・・・下衆・・・」
「あん? 何か言ったか?」
「なんでもない。 これでいい?」
いくら名前を覚えていないからと言っても、彼も大事な仲間だ。 見捨てるわけには行かない。 香具羅も同様に思ったようで、私とほぼ同時に持っていた銃を床に捨てた。
「よし。 それでいい。 じゃあ・・・・・・死ね」
ドン!
敵兵はこちらに向かって躊躇無く発砲した。 その弾道を見切る事も出来ずに私と香具羅は全身に無数の傷を負う。 散弾銃なので、距離があれば威力は小さいが、細かい傷が体中に出来て、私も香具羅もその為の傷で真っ赤に染まってしまった。
「おほぅ・・・。 遠すぎたか。 今度は外さねぇぞ・・・」
銃を両手に持ち替えて、近づいてくる敵兵。 アレを至近距離で食らったら・・・粉々に吹き飛んでしまうだろう。 私達に武器は無い。 そして、逃げる場所も無い。
万事休すだった。
「芽衣さんっ! 香具羅さんっ! 逃げてください!」
「な、てめえ!?」
そこで整備員のタケシは気がついたのか、敵兵の足を掴んで叫んだ。
駄目――そんな事したらっ!
「邪魔・・・なんだよっ!」
ドン!
重い衝撃が響き渡った。 敵兵は足元の整備員に発砲。 整備員は・・・その一瞬でもう二度と動かなくなってしまった。
・・・・・・あの距離からでは万が一でも助かる見込みは無かった。
死んだ。
今度こそ。
私の目の前で。
私の仲間が死んだ。
私の目の前で。
私は何も出来なくて。
私のせいで 殺してしまった。
「うわぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあっぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
パンパン!
私は床に落とした短銃を素早く拾うと1発、2発と連続で発砲。 一発目で敵の銃を落とし、二発目で敵の肩を打ち抜いた。
そして――
「・・・・・死ね」
「ぐああぁぁぁぁぁぁ!!」
パンパン!
私は敵の胸に向かって更に2発打ち込んだ。
狙いは一発も外さない。 この距離で外すわけが無い。
パンパン!
更に2発。
今度は両膝を狙った。 崩れ落ちる敵兵。
パンパン!
更に2発。
その軌道は正確に両手の手の平を打ち抜いていた。
「がぁぁぁぁぁぁ!!」
何度も繰り返される悲鳴。 一発で仕留める事をせず、いたぶる様に狙った銃撃に、後ろの香具羅は青い顔をしていたようだった。
「・・・・・・悪趣味だった。 ごめん」
パン!
そう言って最後の発砲。 それが敵の額に風穴を開けて敵を完全に沈黙させた。
「・・・・・・・・・キレると怖いわ・・・芽衣は・・・」
そんな事を香具羅は呟いていたようだが、私自身こんな事が平気で出来るとは思わなかったのだ。
整備員を助ける事が出来なかった。
こんな調子では誰も助けることなんて出来ない。
シュル・・・。
私は髪留めを外した。 左右に垂れる髪が自由に流れるウェーブを作る。 どっちかと言えば癖毛なので、それ自体には意味は無い。
髪留めはリボン状になっていた。 それを額に巻く。
なんて事も無い。 ただ気合を入れる為だ。
古い言葉で「ハチマキを締める」という言葉があったような気がしたからだ。 ・・・アレは本当にハチマキだったか? 正しいか間違っているかは問題ではない。
「行こう。 香具羅」
「OK。 こちらもダメージは軽いよ」
腕をやられている香具羅は気丈にもそう言って着いてきた。 彼女も他でもない花屑の一人だ。 こんな事で脱落するような弱い心は持っていない。
私と香具羅は無言で頷き合い、他の喧騒がする方へと駆けていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ひとつ! 二つ! みっつ! よっつ! これで終わりだぁ!!」
「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
「うわぁ〜ちゃーこ絶好調・・・」
「敵じゃなくてよかったなの・・・えいっ」
パン! パン! パン! パン! パン!
丁度同じ頃、ちゃーことせんと菜乃隊長は合流して、各々に敵を殲滅していた。
その中でもこういう戦闘をもっとも得意とするちゃーこは本領発揮と言わんばかりに暴れていた。
敵の兵が一人、二人と倒れていき、周りに動くものは殆どいなくなっていた。
ちゃーこが戦闘不能にして、菜乃隊長がトドメを指す。 せんは敵が来る方角をちゃーこへ教えていた。
見事な連携プレーだった。
「芽衣達は大丈夫かねえ・・・。 まぁ、あの子は個人レベルでは心配無いだろうが・・・誰かが一緒だと極端に油断しちまうからなぁ・・・」
ちゃーこの心配は的中していたのだが、それは後で合流してからという分かった事なので、その時の彼女達はまず目の前の敵に集中していた。
「そういえば、魅夜は見つかったなの?」
「ううん。部屋には居なかったみたいだよぉ〜。 こういう時魅夜は行動早いから一番最初に応戦してると思ったけど、基地の中にはいないっぽいよ〜」
隊長の問いにせんが答えるが、その台詞が「本当に基地の中に居ない」とは思わなかっただろう。
後になって気付いたが、その時には彼女の愛機のTAM−03モクレンも無くなっていたらしかった。
隊長達は基地の中の味方の生存を確認するために基地の中を散策するのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「・・・・・・TAMの発信音?」
「え? そんなの聞こえた?」
「うん。 間違いない。 今のは・・・誰かがTAMを動かしたみたい」
「うわ・・・敵じゃないことを祈るばかりね」
同じ頃、私と香具羅はそんな音を聞いた。
基地の通路には敵の兵が何人も倒されていた。 この屍の先に味方が居るのだろう。
私は急く事無く、警戒しながら歩いていく。
先程の失敗を無駄にしない為にも細心の注意を払って歩く。
足元に倒されている敵の兵は全て絶命しているようだった。 だが、死体に紛れて襲ってこないとも限らないので動く物が居ないか慎重に目で追いながら歩いた。
幸い、そんな者も居ないようで、私達は屍を作った張本人達と合流する事に成功するのだった。
「隊長!」
「芽衣! 無事だったなの? あらあら・・・香具羅はちょっとやられちゃってるなの? 可哀相・・・」
隊長達は流石にほとんど無傷で居てくれた。 何だかその後ろでちゃーこがふてくされている。
「むー。 コイツら弱過ぎだぜ〜! たのしくないっ!」
「ちゃーこ・・・・不謹慎・・・」
戒めるように言ってみるが、そんな台詞も気に入らないと言わんばかりにちゃーこは拳を突き上げて叫んだ。
「しゃーらっぷ! 私は楽しく無い戦いはしたくないの! 強敵と書いてトモと読む! そんな相手は居ないのかしらね〜」
「・・・・・・・山に登ってクマとでも戦って来なさい。 ええと、あれ? 魅夜は居ないの? 大尉とかも居ないのね」
香具羅がそんなちゃーこを無視してキョロキョロと見渡した。 その場に居るのは隊長と、私と、ちゃーこと、せんと、香具羅だけだった。
非戦闘員の菊池女史も居ない。
「見てないなの。 進入してきた敵はそんなに多くなかったみたいだけど、彼等だけでは危険なの。 探しましょう」
どうやらちゃーこが大抵の敵を片付けたらしく、基地の中に進入した敵の数はもう数人になっているらしかった。
進入した数はおよそ100人程だったらしいが・・・。
ちゃーこ達はその8割を倒したそうだ。
私は2人だけだったのだが・・・。
つくづく敵じゃなくて良かったと思う。
「でも、敵の数が少なすぎるねぇ〜。 まだ来ると思うよぉ〜♪」
「いっ!?」
せんが不吉な事を言ってくれる。
せんの言葉は色々な事象を元に発言されるので、不吉なんてものじゃない。
どういうわけか、彼女が言った事は現実に起こってしまうという事だ。
ビーンビーンビーン!
ほら、警報だ。
【戦闘員各位へ! 格納庫に敵が侵入した模様! 繰り返す格納庫へ敵が侵入した模様! 直ちにこれを殲滅してください!】
「はいはい。 次は格納庫ね〜」
ちゃーこはシャドーボクシングしながら格納庫への道を先導していく。
兵舎から格納庫はそんなに離れていない。
私達はすぐに目的地へたどり着く事が出来た。
格納庫の前で、黒衣の女性と、軍服の男が座り込んでいるのが見えた。
あれは・・・大尉と菊池女史?
「おーい! 大尉〜! 菊池女史〜!」
ちゃーこがそちらに歩み寄ると、菊池女史は何故かメスを手にちゃーこに駆け寄って行く。
「!?」
「カットカットカットカットォォ!!」
煌くメス。 それを生身で防御するのは危険とちゃーこは後ろへ飛び退いた。
菊池女史はトランス状態だった。
「ちゃ、ちゃーこ逃げろぉ! ソイツはバーサーカーだ!」
地面に座り込んでいた大尉が叫ぶ。 こんな状態の女史に振り回されていたのか・・・。 そりゃへたり込んでしまうわけだ。
「我が剣に・・・・・・断てぬ物無しじゃ!」
「それ剣じゃないじゃん!?」
突っ込みながらも、ちゃーこは菊池女史の攻撃範囲の外から一気に詰め寄ると首筋に手刀を叩き込む。
「きょほっ!?」
その一撃で菊池女史は電池切れしたようにパタリと倒れた。
「はぁはぁはぁ・・・。 敵の兵よりよっぽど骨があったぜ菊池女史・・・」
「なんだかなぁ・・・」
狂戦士となった菊池女子を静める事に成功したが、格納庫に敵が侵入したという事はまだ解決していない。
私達は格納庫の扉が開け放たれているのを見て戦慄した。
もし、敵がTAMを使ってこちらを攻撃してきたら・・・・・・生身の私達に成す術は無い。
「大尉。 敵は何人入っていったなの!?」
先に来ていた大尉に状況を説明して貰おうとしたが、大尉達もさっき来たばかりらしく、中の状況は分からないらしかった。
動くに動けない。 だが、どうにかして中を確認しなければ・・・第二波が来れば流石に危ない。
「ここに居ても仕方無いなの。 皆、注意しながら中に入るなの」
判断が遅ければこの後どんな惨劇が待っているか分からない。 そういう意味では菜乃隊長の判断は早かった。
だが、そんな命令はすぐに意味を無くす。
格納庫から敵が10名程出てきたからだ。
「ちっ! 中のポンコツ動きやしねえじゃねえか! テメエら整備ぐらいしやがれっ!」
敵のリーダーのような奴がそんな事を叫んできた。
動かない? そんな事は無いハズだけど・・・。 TAMは誰でも動かせるハズだし・・・。
という事は誰かがロックを掛けた?
いや、そんなロックなんてあったか?
私は操縦は得意だが、そういうプログラム系統には弱かった。
だから、その後TAMが一人で動いているのを見て目を疑ってしまった。
「な、なんだコイツ!? 誰が乗ってやがるんだ!?」
そのTAMの搭乗者達は目の前に居る。 この場に居ない魅夜が動かしているのかと思ったが、格納庫から出てきたのは6体のTAMだった。
TAM−03モクレンだけ出てきていない。
「オートで動いてるっぽいなの。 こんな事出来るのは魅夜だけなの」
隊長の呟きに、TAM達は敵に向かって攻撃を開始した。
生身の相手にTAMの攻撃は一たまりも無く、一瞬にして敵は掃討された。
「ち・・・ちくしょう・・・せめて・・・一人だけでも・・・」
「ま、まだソイツ息があるの!」
隊長が叫ぶ。 敵の一人が虫の息でありながら銃口を向けて撃とうとしていた。 その銃口の先には・・・大尉!
「死ねっ!」
「うわっ!?」
パン! カン!
発砲音と同時に何か金属が弾かれる様な音がした。
大尉の前にTAMの手があった。
TAMが人を守った!?
「おー・・・オニユリ。 サンキュー・・・」
大尉はその手の先の黒い機体を見上げながら笑った。 TAM−06オニユリはそれに応える様に眼光を光らせた。
TAMには・・・・・心でもあるのか?
いや、そうプログラムされているだけだろう。 設計者の茶目っ気・・・。
これを製作したものは中々ユニークな思想の持ち主のようだ。
「皆! 早く乗り込んで! この後に波状攻撃がくる可能性が高いの! 迎え撃つ準備をして」
『ラジャー!』
なんにせよ、私達はTAMに乗る事が出来た。
ロックが掛かっていたのは敵からアクセスがあった場合のみで、私達が乗り込もうとするとすんなりとコックピットへ乗り込む事が出来た。
「よし。 皆乗り込んだなの?」
「はいはい〜ちゃーこはOKだぜ」
「せんもいいよ〜♪」
「香具羅問題無し」
「OKだ。 隊長」
「・・・・・・問題無い」
隊長へ5人が答えた。
先に乗り込んでいると思われた魅夜の返答は無かった。
「あれ〜? 魅夜? 格納庫に居るなの? 応答してなの」
・・・・・・・・・
しかし、その通信には何の応答も無かった。
私も、TAM−03に通信しようとするとアクセス拒否を受けてしまった。
「おーい。 モクレンが無いぞ? 魅夜どっか行ったんじゃないか?」
大尉のTAM−06オニユリが格納庫を覗き込みながら通信してきた。
魅夜が居ない? 機体ごと?
「・・・・・・嫌な予感がするよぉ・・・。 もう、魅夜には会えない気がする・・・・」
せんが悲しそうに呟いていた。
どういう事? 魅夜は何処に行ったの?
「まって! 通信が入ったなの。 これは・・・・・ファイル転送? 添付動画? ・・・・・・皆、今から送るのを見て欲しいなの。 魅夜からみたいなの」
「?? 動画ファイル?」
コクピットのディスプレイに隊長の期待から動画ファイルが転送されてきた。 送信者はTAM−03モクレン。
魅夜が何か送ってきたらしい。
「これは・・・・・・」
それは魅夜のラストレターだった。