第15話『花の屑を覚えてくれますか?』
想いに気付いた私。
そんな想いは初めてで・・・。 どうしたらいいか分からない・・・。
まさか、こんな事になるとは夢にも思わなかった。
私は昨晩は一睡もする事が出来ず、布団の中に潜り込んで光から逃げるだけだった。
あの大尉が・・・、私を好きだと言った。 後で聞いたら冗談だという事だったが・・・、私は大尉に言われてやっと気付いた。
私は大尉の事が好きなんだと・・・。
その事を気付かせてくれた大尉には感謝している。 だからこそ、彼を困らせてしまうわけには行かなので、私は彼を想うだけでいい。
それだけで、とても幸せな気分になってしまう。
こんな時代だから・・・誰かを思えるというのは初めて知ったがとても大事な事なんだと思う。
ただ思うだけ・・・
・・・・・・あれ? そういえば・・・私昨日大尉に言っちゃったんだっけ?
・・・・・・
うわーうわー思うだけなんて格好いい事言っておいて私ったら・・・。
相手が自分が好きだと思っている事を知っている。 それを考えてしまうともう頭の中が混乱してしまって・・・うきゃーむきゅーな感じです。
「・・・・・・芽衣が故障・・・なの」
ポツリと呟く声に私は飛び起きた。 見るとそこには菜乃隊長が居た。
「可愛い動きしてたからつい見入っちゃったなの♪ 芽衣、どうしたの? 何か悪い物でも食べちゃったなの?」
「・・・・・・いえ、大尉問題ありません」
「・・・・・・・・・重症みたいなの」
「・・・・・・え? 何が?」
「芽衣。 今、貴女私を「大尉」って言ってたなの」
「!?」
なんという事だろう。 私は無意識にとんでもない間違いをしてしまったらしい。
顔が熱くなるのが触らなくても分かった。
「芽衣・・・魅夜じゃないけど抱きしめたくなるなの♪」
「え・・・? え・・・?」
隊長は目を輝かせて私をハグしてきた。 隊長の胸に押し込まれるような形でグリグリされる。 私はぬいぐるみじゃないんだけど・・・。
でも、隊長にそうさせるのは嫌いじゃない。 逆に安心するかもしれない・・・。
「・・・・・・」
「きゃ〜♪ 可愛い可愛い♪ ん? あれ? 芽衣?」
「・・・・・・」
「あらやだこの子・・・。 寝ちゃったなの?」
「・・・・・・ううん。起きる」
ちょっと気持ち良くて確かに寝そうだったが、そんなにすぐに寝れるような特技はもっていない。 それでも隊長の胸が柔らかくて心地良かったのは確かだ。 少し羨ましいと思ってしまったけど・・・。
「芽衣。 そのまま聞いてくれる?」
「・・・・・・?」
私は隊長の言葉に顔を上げようとするが、そうすると更に抱きしめる力を強くされる。
「そのまま」とは、この状態の事を言うのか。 ちょっと苦しいのだけど・・・。
「芽衣は・・・、大尉と一緒になりたいなの?」
「・・・・・・・・」
「うん。 答えなくていいなの。 ただ、もしそう思っているなら、後1日待って欲しいの」
「・・・・・・・?」
後一日? 1日経ったら何があるというのだろう。 隊長の言葉の真意が分からなかったが「答えなくていい」らしいので何も言わないで聞いていた。
「なんでかって言えば・・・。 後1日でTAMの換装パーツが完成するなの。 それで一気に攻める準備は整うなの。 そして、その作戦が終われば・・・二人だけは隊を抜けてもいいなの」
「!?」
隊を・・・抜ける!? 私と大尉が?? 馬鹿な・・・! そんな事を私が望むわけが・・・
「芽衣。 良く考えて。 このまま貴女がここに居ても、大尉との未来は無いなの。 この後の作戦が終わった後・・・本軍を率いて総攻撃が始まる予定なの。 そうなったら・・・誰かが死ぬかもしれない・・・。 それが大尉かもしれないし、芽衣かもしれないなの。 そんな事は私は嫌なの。 芽衣。 これは皆も同じ意見なの」
「・・・・・・隊長」
私がこの花屑に残っている理由は皆が居るからだ。 だけど、新しい気持ちを知って、それを考える間も無く、皆の中では答えが出てしまっているらしい。
大尉は初めて私を女にする存在だけど・・・。 だからって今まで一緒だった皆と別れなくてはいけない理由になるだろうか?
隊長は良く考えてと言ったが、私には自分がどうすればいいか分からなかった。
隊長が言う「この後の作戦が終わった後の総攻撃」が決行されれば、こちらの軍は・・・多分負けるだろう。
それだけ戦力差があるのは知っていた。
花屑が所属する国家は「ウエストサン」は、国力だけ見れば敵国の「イーストサン」の3分の1も無い。 これまでは圧倒的な技術差で戦闘では勝っていたが、ここ最近の敵の主力TAMを見るとその力のバランスも大きく崩れてしまったようだ。
兵力も、質も負けている状態で、最後に出した答えが全軍による玉砕なんて・・・。馬鹿げている。
「私達の花屑が最前線に居る理由は芽衣も知っている通り、TAMの性能テストと共に敵の戦力を測る物差しなの。 ここ最近の敵の戦力は今の私達ではもうお手上げなぐらいの差がついてきて・・・そろそろ潮時ってこのなの」
「・・・・・・それで、換装パーツでマイナーチェンジ・・・。 それだけで埋められる戦力差じゃない・・・」
「そうね。 でも、やるしか無いなの。 それに、私達は歴戦の覇者なの。 簡単にはやられないなの」
「・・・・・・でも、大尉は・・・」
「・・・・・・そう。 大尉は確かに実戦を2回経験したけれど・・・操縦なんかではまだまだ荒削りなの。 この前の戦闘で自分を犠牲にしないといけないぐらいに・・・。 オトリになるという作戦は良かったけど、その後の回避も何も無かった大尉には・・・個人的にこれ以上TAMに乗って欲しく無いの」
「・・・・・・。 2回とも成功してしまったから・・・。 大尉は挫折を知らない」
「そう。 それが怖いの。 もし一度でも失敗をしてしまったら・・・彼はただの一般人になってしまう可能性があるなの。 元々私達のような軍人じゃないから」
「・・・・・・その通りだと思う。 だけど、隊長・・・。 それで私も同じ扱いにされる理由にはならないと思う」
段々隊長が言っている事が分かってきたが、要は「私達の為」という理由をつけて厄介払いされているようで少し腹が立った。 大尉はともかく、私はどんな危険な作戦でも元々死ぬ覚悟も出来ている。 もちろん死ぬつもりは無いが、それをさせてくれずに、私だけ除け者なんて・・・。
「・・・・・芽衣。貴女は忘れているみたいだけど、貴女は―――」
「・・・・・え――」
今なんと言った?
「だから、貴女は―――――。 混乱しているみたいだけど、事実なの。 だから忘れているなの」
肝心な所が頭に入ってこない。 だけど、隊長が言っている事は頭で理解していた。 ただ、具体的な言葉にならないだけで、分かってしまった。
「貴女達「3人」がそういう存在だという事なの。 思い出して・・・芽衣は、ずっと一人じゃなかったなの」
隊長が話す度に段々と言葉が形になっていく。 私が忘れていた記憶。 思い出してきた。
「私も・・・飛んだ者・・・」
菊池女史や大尉のように、時を飛んだ者。 それが私だった。
でも、だったら、私がちゃーこや隊長と過ごした日々は何だったの? あれは偽りの記憶?
そんな事は無い。 私は確かに・・・一緒に過ごしたハズだ・・・。 なら、私は大分前に飛んで来た事になる。
「だから、芽衣にはもう一度大尉と飛ぶという選択肢もある。 良く考えて欲しいの」
「・・・・・・・私は・・・」
どうしたらいいのだろうか? 時を飛ぶというが、その手段も分からないのに・・・。
いや、それはもしかしたら菊池女史が知っているかもしれない。 彼女は「戻る方法は知らない」と言っていた。 では、「飛ぶ方法」は? 聞いてみないことには分からない。
「大丈夫なの。 芽衣がどんな選択をしたって、皆恨んだりしないなの。 それは花屑隊長である私が保証するなの」
「私は・・・私は・・・」
何か答えなくてはならないのに私は頭が真っ白になったように何も答える事が出来なかった。
期限は明日。
明日までには私は選ばなくてはならない。 未来を・・・。
「後、ごめんなさい。 芽衣に謝ることがあるの」
「・・・・・あやまる・・・こ・・・と?」
頭の中がぐちゃぐちゃになっている最中に隊長が頭を下げてきた。 それすら意味が分からない。 上官が部下に頭を下げる等・・・考えられない行為だった。 でも、それは菜乃隊長だからこその行動だったのかもしれない。
「私達は・・・ずっと芽衣に依存してた・・・。 貴女のように自分の殻に篭っている姿を見て・・・皆自分を重ねていたなの。 そして、無意識に自分は芽衣のようにならない為に・・・、そんな芽衣が壊れてしまわないように・・・見守っていたなの」
「・・・・・・なんのこと?」
「・・・・・・本当に申し訳ないと思ってるなの・・・。 皆が芽衣に優しくしていたのは・・・・・自己防衛だったの・・・」
「・・・・・・」
「芽衣・・・・・私達を・・・・・・許して欲しいの・・・・・・ごめんなさい」
隊長が何を言っているのか分からなかったが・・・。 それは個人の勝手な思想でしか無いでは無いか。 それを謝られても・・・。
それを・・・今言われても困る。
「隊長。 何が言いたいのか分かりません。 だけど、私がそう思われていたというのがそんなに大事な事ですか?」
「皆・・・自分を偽っているなの。 だから、その姿が壊れていつ芽衣のようになるか分からずおびえているの。 私もそうなの。 だから――」
「もういいですっ!!」
「――!!」
隊長の口からそんな言葉は聞きたくない! 意味が分からない! 私に何を求めているの!?
「ごめんなさい。 隊長・・・一人にしてください・・・」
「・・・・・・分かったなの。 芽衣、本当にごめんなさい・・・」
隊長は頭を下げると、私の部屋から出て行った。
菜乃隊長が何を言おうとしていたのか、本当は分かっていた。 彼女は私が人としての感情が乏しい事を自分達の責任だと思っているらしい。 それを必要以上に悩んでしまっているようだった。 だが、それは菜乃隊長達個人の妄想でしか無く、私自身に何かしたという事では無いハズだ。 まだ何か隠しているなら分からないが、私に謝る必要は無いハズなのに・・・。
先程まで仲間だと思っていた人達が・・・急に遠くに感じてしまった。
しかも、自分から一人にして欲しいなんて言ってしまった・・・。
「・・・・・・何が・・・何だか分からない・・・」
一度に色々な事を言われて、それを頭で理解する事が出来なかった。
私は一体何者なのか。 私は一体どうすればいいのか・・・。
「会いたい・・・大尉に・・・会いたい」
そう思うと、一人では不安で胸が潰れそうになってきた。 実際吐き気までしてくる。
大尉に会いたい。
そう思ったのは、彼が同じような境遇だからか。
私は、大尉に相談するか、菊池女史に話を聞くか悩みながら部屋から出る事にした。
その後の事は、一生忘れられないだろう。
「・・・・・・何・・・コレ・・・・?」
外に出た私の目に飛び込んできたのは・・・、あちこちで火の手が上がる基地だった。