第14話『花の屑を手の平に』
俺は芽衣の事が好きなのか? それとも・・・
悩める少年と少女のミリタリーラブストーリー
これよりクライマックスまで一直線。
時間の流れてるというのを感じた事はあるだろうか?
いつも感じていると答えたヤツはちょっと待って欲しい。それは「生きている」という実感があるかどうかな問題で、実際は時間が止まっているかもしれないんじゃないか?
時間の流れなんて肌で感じれる物でも無いが、確かに時間が止まっているなんてあるわけが無いから答えは出ないのが本音なんだが…。
俺自身有り得ない時間の流れを体験したので、それを否定し切れなくなったってわけさ。
時間を飛んだ俺。
平和だった街の面影も欠片も無く、俺はたった一人で知らない世界に投げ出されたんだ。
あの時……
俺を発見したのが芽衣では無かったら……
今頃俺は生きて居なかったかもしれない。
だから、俺はあの日芽衣に告白したんだ。 だから、彼女を愛したんだ。
ずっと傍に居る為に…
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茶色いミリタリーブーツに、茶色い軍服。
薄汚れた懐中時計に、油の入った缶。
塩、アミーナイフ、方位磁石。
それと洒落で銀の容器に琥珀色の酒が入っていた。
一応まだ未成年だからな。 老けてるわけじゃないぞ?
確か…未来なんだよなこの世界って…?
俺はそんな装備を確認してそれを一つのリュックへ詰め込んだ。
食料に該当するのは塩と油ぐらいか?
両方それだけでどうにか出来る物では無いが……。
「……ジュン、それは食べる為の調味料じゃない」
塩等をリュックに詰めようとすると、それを覗き込んでくる少女が一人。
俺はソイツの頭を撫でながら油と塩を投げよこした。
「んあ? じゃあ何に使うんだ?」
俺の愛称で呼ぶのは勿論、芽衣だ。
可愛い俺の……いや、流石に照れるな…。
「これは大尉に付けるワセリンとプロテイン」
「・・・・・・はっ?」
ワセリンニプロテイン?? 何を言っているんだ芽衣は・・・。
芽衣は塩と油だと思っていた物を両手に持ちながら怪しい笑みを浮かべていた。
「ふふふ・・・。 男子と産まれたからには・・・黒光りするのが本願でしょう〜♪ ねぇ、ヨド ジュンペイ君♪」
芽衣・・・に見える者が俺の本当の名前を呼ぶ。
「わ、わ、わ・・・や、やめろぉぉぉぉぉぉぉ!! 芽衣子ぉぉぉっ!!」
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「うわぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!! ・・・・・・ここは?」
気がつくとそこはいつもの俺の部屋だった。 いつものと言っても元の世界では無く、花屑の基地の中の兵舎だった。
「夢か・・・。 昨日あんな事があったからな・・・。混乱してるのかもしれんが・・・酷い夢だ」
あの芽衣が俺を「ジュンペイ」等と呼ぶわけがない。 まだ、そんな仲になったつもりは無いし、昨日告白したのも冗談だったのだから・・・。
しかし、冗談だったにしては先程の夢の中で俺は芽衣と恋人のような雰囲気だった。 夢は心の深層心理だとか言うが・・・。
俺は本当に芽衣が好きなのか?
確かに芽衣は俺の恩人だと思っている。 だが、感謝はすれど、それとこれとは話は別だ。俺は別に芽衣と・・・・・・。
・・・・・・
・・・・・・・・・
いや、逆に考えて芽衣を好きだとして何か不都合があるだろうか?
芽衣は俺から見れば、美少女だと思う。 顔は問題ない。 性格は・・・少し暗いかもしれないが、落ち着きがあっていいと思う。 プロポーションなんかはどうでもいい。 ・・・前に抱きしめた時があったのだが、ちょっと気持ちよかったがな。
そして、芽衣は俺を慕ってくれていたらしい。
・・・・・・問題があるのだろうか?
いや、何も問題は無い。 無問題。 モーマンタイだ。
「だけど・・・、もし芽衣と付き合ったりしたとして・・・俺は何をすればいいんだ? 女の子と付き合った事なんて産まれてこの方一度も無いんだが・・・」
「やっちゃえばいいのだよ」
「や・・・って。 それは・・・」
「何を恥ずかしがるぅ? 好き同士だったらそれぐらいは当たり前だしょ? むしろ、私が代わりたいぐらいなのに」
「いや・・・、だからそれは・・・。 ・・・・・・って何処から入った! 魅夜!!」
いつの間にか魅夜が俺のベットの横に座り込んでいた。 ホントに神出鬼没だなコイツは・・・。
俺はいつもの挨拶代わりにいつもの武器を手に魅夜の頭部を捉えようとした。
ヒュッ!
「!?」
しかし、いつものようにそれは命中しなかった。
「大尉。 別に冗談で言ってるわけじゃない。 むしろ、本気で言ってるのだよ。 芽衣は私達にとって大事な子だから大尉が好きなら、本気で愛して欲しいの」
いつもと違う態度でいつもと違う台詞を言う魅夜。 これがいつもの魅夜ならもう一発殴ろうとしていたが、その日の彼女は違っていた。 冗談以外口に出来ない奴だと思っていたので、その態度にめんを食らってしまって言葉を返せなかった。
「・・・・・・大尉。 貴方は真面目過ぎる。 それが貴方のいい所だし、皆もそれだから好きになったんだと思うけど・・・。 この際でその女々しさは頂けないね」
「め、女々しいだとっ!?」
女々しい等と言われて流石に俺は声を上げたが、内心は自分でも分かっている。 ただ、分かっているから言われると腹が立ってしまったのだ。
「これだけは言っておくわ。 芽衣を泣かせたら私は絶対に大尉を許さない。 ううん。私だけじゃない。 皆同じ気持ちだと思う。 昨日大尉は冗談にしようとしたけど、皆本当は分かってた。 分かっていないのは・・・大尉だけなのだよ」
「・・・・・・・・・」
何も言い返せなかった。 言い返す事など出来るはずが無かった。 俺は皆を傷付けないようにと思っていたのに、結局は傷付けて、失望させていたのだ。
穴があったら入りたいだけじゃなく、そのまま消えてしまいたい・・・。
「自分で気付いてないみたいだから言うけど、大尉は最初から芽衣しか見てなかった。 私がいくらアプローチしたってそりゃ無理に決まってるわよね。 最初から気付いてたのは私だけみたいだったけど」
「! ・・・・・そうだったのか・・・。 だ、だったらお前はなんで何度も・・・」
「私はね・・・悪い女なのよ。 夜を魅了すると書いて魅夜。 ぴったりでしょう?」
そう言うと魅夜は俺のベットに登ってきた。 普段と雰囲気が違う。
彼女の息が少し荒い。
「気付いてない間に・・・私に振り向いて欲しかった。 ・・・・・・ただ、それだけよ」
「!?」
そう言うと魅夜は俺の・・・唇を奪った。
ファーストキスだった。
初めて異性としたキスだった。
それは想像した以上に恥ずかしかったが・・・、
何故かとても・・・
とても悲しいキスだった。
「私と・・・最初で最後にでいいから・・・・・・」
その後の言葉がどう続くのか、いくら鈍感な俺でも分かってしまった。
魅夜は俺と・・・。
「だ・・・だけど・・・」
「いいの。 私を好きになってくれなくても・・・。 ただ・・・貴方を覚えておきたい。 それだけ・・・」
「・・・・・・!」
魅夜の手が俺の衣服の中に入ってきた。 魅夜は冗談でやっているわけでは無い。 本気だった。
・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・分かった」
だから、俺も本気で応える事にした。
「大尉・・・・・・」
魅夜の潤んだ瞳が俺を見つめる。
俺もその瞳を見つめて・・・・・・
その肩を押した。
「え・・・・・・」
「サンキュ魅夜。 踏ん切りがついたぜ」
俺はそのままベットから滑り降りて、いつもの軍服を着る。
そして呆けている魅夜に向き直り、その気持ちを告げた。
「ん・・・・・いってらっしゃい・・・。 ・・・・・・・大尉っ!!」
「おう!」
魅夜は泣き笑いのような顔で、それでも決して泣く事は無く笑顔で見送ってくれた。
俺は・・・今から芽衣の部屋に行く。 そして思いをもう一度伝えに行く。
将来や未来がどうだとか、そういう事はどうでもいい。
ただ・・・芽衣の傍に居たいと本気で思えた。
魅夜のおかげだな。 サンキュ・・・魅夜。
バタン。
俺は自室を後にした。
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部屋を出て、すぐに芽衣の部屋に行こうと思ったが、少し気になって俺は自室の扉に耳を当てた。
そこから聞こえてくる魅夜の声・・・。
「本当に世話が焼けるわ二人とも・・・。 これでやっとどうにかなりそうだわ・・・。 こんなボランティア今回限りにして欲しいわまったく・・・」
主が居なくなった部屋で、呆れた様に魅夜は呟いていた。 とても軽い感じな口調だったので、俺は一瞬勘違いしそうになったが、その後の台詞で魅夜の行動の事が確信に変わった。
「本当にヤられちゃうかと思ったわよ・・・。 これでも生娘なんですからね〜♪ 夜を魅了すると書いて魅夜って・・・我ながらウケるわ・・・」
彼女の真意は彼女自身にしか分からなかったが、もし、この場に俺が残っていたなら逆に魅夜を抱きしめていたかもしれない。 自己犠牲が過ぎるんだよ魅夜・・・。
本当にな。
「くっ・・・」
情けない。 そうさせてまで気付かせようとしていたのに・・・俺はなんで気付かなかったんだ!
俺は今度こそ振り返らずに芽衣の部屋へ駆け出して行った。
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「・・・」
ポトリ・・・
何かが落ちる音がした。
「・・・・・・」
ポツリ・・・
また一つ。 落ちていき、そして弾けるような音。
「・・・・・・・・・・・」
ポツリポツリ・・・
一粒、二粒・・・
「・・・・・・・・・・・・・・」
ポツポツポツポツポツ・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
薄暗い部屋の中で、動くものは一つ。
声も立てずにベットに腰をかけている少女。
少女の膝に何処からか雫が落ちてきた。ポタリ、ポタリと。
次第にその感覚が短くなり、少女が履いているズボンの色がそこだけ濃い色に染まっていく・・・。
「・・・・・・今日だけは・・・女の子に・・・・・・なりたかったな・・・・・・」
その言葉を最後に少女は一切喋らなくなった。
後は静寂だけが闇を支配していく。
だが、それも少しの間で、急に闇が晴れるように少女は立ち上がった。
「・・・・なぁぁんてシリアスな感じもたまにはアリよね? あっはっははは〜♪」
そして「いつもの彼女」へ戻る少女。
・・・・・・
そう、「いつもの偽りの彼女」へと・・・。