第12話「内部紛争勃発4」
せんによる「予言」によって花屑が全滅するという未来を告白された俺。 皆死ぬなんて・・・絶対に嫌だ! まてよ? もしかしてなんとかなるかもしれない・・・。 俺は「作戦」を決行する為に情報を集めることにした。
天宮院 香具羅。
花屑メンバーの一人。
醍禅 千代同様にあまり話していないのが、だからこそ知っておかないといけない事があった。
直接話をする為に俺は「KAGURA’ROOM」と書かれたプレートを眺めながら、その扉をノックしてみる。
コンコン。
・・・・・・・・
数秒待ったが反応が無い。
留守か?
「あら? 大尉? 何をなさっているの?」
「おっ? あぁ、やっぱり居なかったのか――いぃ!?」
「? どうなさったの?」
「い・・・いや、別に・・・」
「変な大尉さん。 私に用があったのよね? 何?」
「あ・・・えーと・・・」
「イラッ! 男だったら目を見て話しなさいよ! 何処みてらっしゃるの!?」
勘弁してくれ・・・。
香具羅だったのだが、どうも彼女は浴場へ行っていたらしく、思いっきり風呂上りだった。 だからとても薄着で、目のやり場に困ってしまっただけだ。 芽衣や魅夜なんかに比べて女らしい身体つきをしているのでどう見てもいやらしい。
タンクトップにショートパンツ姿の香具羅は俺の視線が泳いでる事に腹が立ったように仁王立ちしている。 そんな事すると余計に・・・。
「あ、あのなぁ香具羅。 俺も男だし・・・ちょっと気を使って欲しいんだが・・・」
「はぁ? 何を言っているの? ・・・・・・大尉。 貴方まさか・・・」
やっと香具羅は気付いてくれたようで自分を抱くように腕を組んで後ずさる。
「いや、断じていやらしい気持ちだったわけじゃないぞ! 信じてくれ!」
「・・・私とした事が・・・。 もう・・・大尉はエッチね!」
「理不尽だ・・・」
誤解満載で香具羅は頬を赤く染めていた。 男として当然の反応なんだから仕方ないじゃないか。 俺が悪いんじゃない。 悪いのは生理現象だ。 ・・・激しく自己嫌悪にかられてしまいそうだ・・・。
「・・・まぁ、いいわ。 ここで立ってても仕方ないし、中に入る? 少し散らかってるけど・・・」
「あ、お、おぉ。そうだな。 お邪魔するよ」
俺の頭の中の辞書が誤変換を繰り返していた。 魅夜じゃあるまいし・・・。 部屋の中に入るだけだって。 何考えてるんだ俺は・・・。
何を考えたのかは言うつもりは無い。
香具羅の部屋は芽衣等に比べると大分変わっていた。 なにやら少し目が痛い。
ベットやテーブルは標準で設置されているみたいだが、私物の量が絶対的に違った。
洋服等を入れるクローゼットなんかもあり、テーブルの上にはクマのぬいぐるみ。
・・・女の子の部屋だった。
「何よ大尉。 クマが気になる?」
「あ、いや・・・。 可愛いクマだなと思ってな」
テディーベアのようなクマのぬいぐるみはそれ一体だけだったが、とても大事にされているようで赤いリボンまでつけてテーブルに鎮座していた。 少し少女趣味かとは思ったが、こんなぬいぐるみぐらいは普通にあるものなのだろう。 香具羅の事はあまり知らないが、それが彼女の性格を物語っているわけでは無いのだろうし・・・。
「わ・・・私がヌイグルミを持っていたら悪いっ?」
「いや、いいと思う。 誰かからの贈り物か何かなんだろ? 香具羅の趣味じゃないんじゃないのか?」
「・・・・・・そ、そうよね〜。 私の趣味なんかじゃないわよね? 大尉の言う通りに貰い物。 昔父に貰った物なのよ」
ポンポンとヌイグルミの頭を叩きながら香具羅は分かり易い反応を見せた。 いや、俺には分かったというべきか・・・。 最初はどもっていたが、後は自然な感じに喋っていたので最初はウソ、後は本当なのだろう。
それは分かったのだが、俺は彼女を辱める為に来たわけじゃない。 ここは知らないフリをするのが得策だろう。
「そうかそうか。 別に香具羅がどんな趣味があっても軽蔑はしないつもりだったけどな。 まぁ、そんな事より、聞きたい事があるんだが・・・」
「そう・・・なの? あ、うん。 何、聞きたい事って?」
軽蔑しないという言葉に反応していたのを気付かないフリをしながら、俺は香具羅の視線を指先に集中させるように目の前で左右に振った。 それを「?」というマークを頭に浮かべながら目で追う香具羅。
「じゃあまずはスリーサイズから」
ドゲシッ!!
「殴るわよ大尉っ!」
「蹴ってから言わないでくらはい・・・」
ちょっとしたお茶目に容赦無く顔面に蹴りをくれる香具羅。 蹴りが早すぎて仰け反ることも出来なかった。 ・・・こんなのを避けていたのか魅夜は・・・。
「あぁ! 大丈夫ぅ? 大尉・・・」
自分で蹴り飛ばしておきながら心配そうに覗き込んでくる香具羅。
「魅夜みたいな事言うからつい身体が動いてしまったわよ・・・。 あぁ・・・可哀相・・・」
「むぎぃっ!? ムググ・・・」
涙目になって俺の頭を抱きしてくる香具羅。 俺は香具羅の胸圧(?)で圧迫されてちと苦しい。
「〜〜〜! ぷはぁっ!」
少し幸せな状況だが、息が出来ないのは辛いので渋々俺は香具羅を突き放した。
「ま・・・まぁ、ボケはこれぐらいにして、香具羅にTAMについてちょっと聞きたい事があるんだ」
魅夜のせいでシリアスにならないといけない場面でもふざけてしまう癖がついてしまったのかもしれない。 ・・・元々じゃないんだからな? 別にスタイルがどうとかそんなのは関係ないつもりだしな。 ・・・本当だぞ?
それより、そろそろ真面目に聞かないとな。
「・・・あら? 私に聞くより整備員に聞いた方がいいのでは?」
「いや、基本的な構造だとかそういうのを聞きたいんじゃなくて、それぞれの機体の特徴とか、香具羅の特技なんかを聞きたいんだ」
「あぁ、そう? TAM−01から順番に・・・。 決戦用、近距離用、中距離用、調整用、長距離用、決戦機補助用、凡庸となってるわ。 大尉の機体はヒメユリ・・・隊長機の補助役ね。 私の機体TAM−05キキョウは長距離用なんで射撃等が得意な機体ですわ」
「ん?? 芽衣の機体が長距離じゃないのか?」
「性質と装備はそうね。 でも、芽衣がカスタマイズしたというだけで、実際は他の機体のスペアのような役割の機体なのよ」
「ほぅ・・・。 それは使えるな」
「え?」
「いや、こっちの話。 なるほど。 ちなみに、香具羅は他の機体に乗った事はあるのか?」
「?? 大尉? 何を聞きたいのか分からないわ? ええ、乗った事はあるけど・・・」
質問の趣旨が分からずに香具羅は困った顔をしていた。 勿論分からないように注意して質問しているのだから分かってもらっても困る。
せんの言っていた「3.4人と偶然を知る者が増えると運命は強固になる」という言葉からの行動だが、こんな事で回避できるかは疑問だった。
ただ、これだけは先に言っておこう。
俺は死ぬつもりは無い。 もちろん、他の誰も殺させやしない。 俺の考え・・・というか勘だが、それが間違っていなければ・・・なんとかなるかもしれない。
いや、なんとしてもそうさせる。 その為には皆の協力が必要だ。 ただ、事情が話せないというのが面倒だが、離せないなら話せないなりにどうにかするしかない。
今回の作戦は、芽衣、香具羅、魅夜、ちゃーこの四人に掛かっている。
「良し。 とりあえずそれだけ分かれば問題無い。 後はアドリブでなんとかなるだろ」
「?? 大尉?」
「あぁ、ついでに香具羅の階級って聞いてないけど何なんだ?」
「そ、そんなのどうでもいいでしょ!」
お? なんだ? 階級は聞いちゃいけなかったのか?
「いや、別に言いたくないならいいんだけどな。 ちょっと聞いてなかったと思っただけだから」
「・・・・・」
「うん。 階級なんて気にするのは男の悪い癖だな。 それがどうだろうと香具羅は香具羅だからな」
肩書きがどうだからと言って、人の能力が格段に違ってくる事などあるわけがない。 そんな物を気にするのは自分に自信が無い奴のする事だ。 階級という言葉を聞いた瞬間の香具羅の顔は悪戯をして見つかってしまった子供のような顔だったから、余計そう思えてしまった。
俺だって大尉なんて地位を与えられているが、ほんの数日前まではただの学生だったのだから、人の事は言えない。
ただ、そういう肩書きによって態度が変わってしまうのは本当で、新参者の俺がこうして警戒も無く部屋の中に入れるのはその肩書きによるものだし、それが無ければ俺もこうやって偉そうに話してはいないはずだ。
特に上下関係に厳しい軍隊等だと尚更の話だった。
今更だが、そんな傲慢な考えを反省するように俺は言うと、香具羅は、魅夜のような目で俺を見ていた。
ん?・・・魅夜のような??
「さ・・・流石大尉! 私が惚れ込んだだけの事がある男性です!」
「はい?」
「あ・・・・・えと・・・いや、違うってば、だから、あの・・・」
・・・・・・なんなんだ一体。
魅夜、ちゃーこに続いて香具羅までも!? 俺が何かしたのか!?
「さ、最初は男なんて皆一緒だと思ったのよ? だけど、大尉は優しくて聡明でいらっしゃるから・・・。 いや、何言ってるのよ私!! たたたたた大尉!? 変な意味じゃなくて尊敬してるって意味なんだから勘違いしないでよねっ!?」
・・・そこまで慌てんでもいいだろうに・・・。
なるほど。尊敬か・・・。 それにしたってそんなに大した事はしてないつもりだし、香具羅との接点はこれまでほとんど無かったハズなのだが・・・。 もしかして、たまに感じる視線は香具羅だったのか?
分からないが、今までの行動を見られていたという事だろう。 暴走しなくて良かったぜ。 まぁ、別に暴走しようと思わないが。
「分かった分かった。 そういう事にしといてやる」
「な・・・何よその言い方! むかつくぅ〜!!」
「いや、可愛いらしいって言ってるんだよ」
どうもツンデレかツンギレか分からないが、あまり素直になれない性格のようだ。 そう思うとなんだか親近感が沸いてきてしまう。 俺もどちらかと言えばあまり素直な方じゃないから・・・。
「!! ・・・ば、馬鹿ぁ! しょうもない事言ってないで用件はそれだけ!? じゃあさっさと出て行ってよ!」
「ふごぉぅっ!」
香具羅は上段回し蹴りを俺の胸に叩き込んで下さった。 その威力に俺はそのまま出口まで吹っ飛ぶ。 なんて脚力だおい・・・。
扉まで飛び、その反動で扉が開いた。 俺はすぐに立ち上がる事も出来ないダメージを受けて床に倒れこんでしまった。 それを覗き込む人影が一つ。
「・・・・・・馬鹿」
瀕死の俺にトドメの一言を吐いて、その者はその場を立ち去ってしまった。
髪を左右に縛って何処か生気の無い無愛想な顔。 あれは芽衣だった。
「・・・アイツ何してたんだ?」
タイミング的に偶然にしてもこんな場所に芽衣が居た事に訝る。 昨日謹慎を言い渡されているので皆自室から出歩かないようにしているハズだったのに・・・。 謹慎自体は昨日だけだったが、あまり積極的に動き回るのは理由が無ければしないような気がした。
だって、芽衣は手に何も持っていなかったし、風呂上りだというわけでも無い。 ちなみに芽衣の自室は歩いていった方角とは反対方向だった。
芽衣は何処に行こうというんだ?
「香具羅、すまん。 また来る」
それだけを言い残して俺は芽衣が歩いていった方へ後を追う事にした。
芽衣が歩いていった先は、離れにある格納庫だった。
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TAM格納庫。
TAMと呼ばれる人型のロボットがある所だった。
体長8m程の機体が置かれているので、冗談な程に屋根が高い。初日と出撃の時に来たが、あまりゆっくり見て無かったのでそこにある7機のTAMが並んでいる姿は改めて見ると圧巻だった。
薄いピンク色の機体のTAM-01ヒメユリ(甘美)
赤い機体のTAM-02ボダイジュ(熱愛)
紫の機体のTAM-03モクレン(自然の愛)
黄色い機体のTAM-04キザクラ(気品ある行いは素敵)
緑の機体のTAM-05キキョウ(変わらぬ愛)
黒の機体のTAM-06オニユリ(荘厳)
白い機体のTAM−07ヒナギク(無実・優しさ)
それぞれの機体の前に花言葉が書いてあった。
04は確かせんだったか? 一人だけ良く分からない花言葉だな・・・。
それに確かキザクラって・・・ギョウコウって名前じゃなかったか? 語呂だけで付けたんだろうなきっと・・・。
そんな事より芽衣は・・・。
「・・・・・・」
いた。
芽衣はヒナギクの機体の丁度肩の辺りに登って何かしているようだった。
「お〜い芽衣〜!」
「・・・・・・」
俺の声に気付いて手を振っている。 5m程も離れていないのでそんなに大きな声を出さなくてもいいだろうが、一応だ。
「そこで何してるんだぁ〜?」
「・・・・・・」
ヒュン!
芽衣が何か手招きしたような動きを見せた。
登って来いというのだろうか? ・・・いや。
「? いっ!?」
ガシャーン! カランカランカラ・・・
何だ!? 何か落ちてきたぞ? ・・・スパナ?
「・・・・・・残念」
「殺す気かぁーーーーー!?」
どうやら芽衣が持っていたスパナを投げつけてきたらしい。 落ちているソレを拾って見ると、中々重量があって、こんな物が頭部にでも直撃したら無事では済まない。
・・・しかも今小声で「残念」だとか言ってなかったか!?
「なんだよ? 何か怒ってるのか芽衣?」
遠くに居てはラチがあかないので俺もヒナギクの肩へ登ろうと梯子か何かを探す。 すると、芽衣が使ったのであろう梯子がヒナギクに立てかけてあった。
その梯子を掴んだ瞬間、梯子がこちらにむかって倒れてきた。
「おわっ!?」
ガッラァァァーン!!
すぐに上を見ると、芽衣が手を前に突き出した格好で俺を見下ろしていた。
「・・・・・・近づかないで」
「芽衣・・・・・」
とても冷たく言い放たれる拒絶の言葉。 いままでも若干そういう事を言われた事があるが、今日の芽衣はいつもより敵意が明確に表れていた。
・・・本当にどうしたんだってんだよ・・・。 俺は芽衣に何かしたか? 確か昨日はそんなに話してないが、だから拗ねているとか? いや、違うな。 そんな事を怒るような奴じゃないだろう多分・・・。
知らない間に・・・芽衣に嫌われるような行動をしていた?
香具羅とは逆か・・・。
考えても答えは出ない。
仕方無いのでここから話すことにした。 梯子を落としたという事は芽衣は逃げられない。 此処は勝手に喋らせて貰おう。
「芽衣! いがみ合ってる場合じゃないんだ! お前の力が必要なんだ。話を聞いてくれないか?」
「・・・・・・今は話したくありません」
「いや、そんな事言ってる場合じゃないんだよ! 皆が死ぬかもしれないんだぞ! いいから聞け!」
普通に話していたらこのまま日が暮れてしまう。 意地悪な気がしたが、皆の命を盾に話をさせて貰うのが手っ取り早いと踏んだ。
「・・・・・・大尉。それは本当?」
「こんな最低なウソをついてどうするってんだよ! 俺は大真面目だ!」
「・・・・・・分かった。 今降りる」
「え・・・? わぁ、芽衣!?」
タッ!
芽衣はそう言うと、ヒナギクの肩から飛び降りてきた。5m以上の高さからだ。3階ぐらいの高さからそんな事をすれば硬いコンクリートに赤い血の花を咲かせてしまう事になってしまう。
俺は着地地点へ駆けて芽衣を受け止める為に手を広げて待った。
「うわっ!?」
「!?」
それをどうにか受け止める事が出来たが、その反動で倒れこんでしまう。
「あたたた・・・芽衣。 怪我は無いか?」
「・・・・・・大尉・・・必要なかった・・・・・・んぅ・・・」
「何?」
「これぐらいの高さは無問題・・・むしろ大尉邪魔・・・・・・はふっ・・・」
「モーマンタイって・・・。 一応俺は心配してだな・・・」
「うぅ・・・大尉ワザとやってる?」
「何がだ?」
「・・・・・・触ってる」
「? ってうわぁぁっ!?」
倒れこんだ拍子に芽衣の胸を鷲掴みにしていたらしい手の平を、言われて初めて気が付いたなんて言い訳は通用するだろうか?
とんでもなく不幸な事故だという事を声を大にして言いたい。
起き上がろうとしていて手を突いた所が芽衣の胸だっただけの話だ。
「・・・・・・やっぱり女の敵」
「やっぱりって何だ!?」
怒りか照れからか分からないが、顔を赤くして涙目になって恨みがましく言ってくる芽衣。
確かに手がとても幸せな感じだったが、断じて故意じゃないのですよ芽衣さん?
「魅夜もちゃーこも香具羅も・・・大尉は節操を知った方がいい」
「え・・・いや、なんの事だよ」
「・・・・・・無自覚・・・。天然ジゴロ・・・」
どうやら芽衣は俺が魅夜達に色目を使っていると言いたいらしい。
全くもって誤解だ。
そんな器用な事が俺は出来ないぞ?
「スマン。 静かに俺を評価するのはやめて欲しいんだが・・・。 魅夜とかは勝手に言ってるだけだろ? 俺は何もしてないんだから」
「・・・・・・・・・それを絶対に魅夜達に言ったら駄目。 大尉・・・最低」
最低。
芽衣に失望したように見られて俺は言葉の意味に気が付いた。
どんな理由にせよ、好意をもってくれている相手に「勝手に」は無いだろう・・・。少し増長していたか・・・。
「・・・なるほど。 失言だった・・・」
俺は素直に頭を下げる。 それで失言が消えるわけでは無いだろうが、自覚した事は分かって欲しかった。
「うん。 大尉の美徳はその柔軟性だと思う」
そう言うと芽衣は頷いてくれた。 柔軟性か・・・。
成り行きで軍隊に編成され、成り行きで実戦を経験し、成り行きで死に向かう運命に抗おうとしている。 芽衣の言う「柔軟性」が無ければ何処で錯乱していてもおかしくなかっただろう。
だが、俺はそうはならなかった。 何故なら俺にとってこの世界はどこまで行っても夢のような感覚で、現実味が今一つ沸いてない。 夢では無いのは色々と明白なのだが、心の何処かで元の世界に戻れる事を諦め切れていないのだろう。 初日に菊池女史には「戻れない」とは言われたが、それを信じる・・・勇気が無いんだと思う。
「・・・・・・でも、魅夜達があぁなったのは大尉の責任。 だから責任を取って誰かと付き合って欲しい」
「いぃ!?」
突然何を言い出すんだこの娘は!?
「・・・・・・大尉は魅夜達が嫌い?」
「いや、嫌いじゃないが・・・。 それはちょっと・・・」
芽衣の言う責任というのはなんとなく分かるが、それは違うだろ。
生まれてこの方、女性と付き合った事等一度も無い俺にはそんなに軽はずみな事はしたくない。
「大尉。 無責任」
だが、そんな事を言うとドンドン芽衣の中で俺は最低な男になっていくらしい。
仕方ない・・・。こうなったら・・・
「あ〜そんな事言われても、俺には好きな女が居るしなぁ・・・」
「!! ・・・・・・ホント?」
ホントなわけが無い。 口からでまかせだった。 今は誰かを好きになるなんて想像も出来ない。
「あぁ、もし今回の作戦が終わったらそっちに告白してもいいぞ」
だからこんな事だって逆に言えちゃうわけだ。
「・・・・・・誰?」
「教えるかって。 作戦が終わるまでな」
誰でも無いなんて言ったら俺の体面は底辺まで落ちるんだろうな・・・。
だが、後になって気が付いたが、この言い回しも余計に自分の首を絞めている事にその時は気づかなかった。
「・・・・・・そう。 ところで作戦って何?」
「あぁ、やっと本筋に入れた・・・。 あのな、実は・・・」
俺は芽衣に事の事情を話す事にした。
香具羅と違って芽衣に話したのは相談役が欲しかったからだ。 俺の考えが間違っていないか。 それと技術的に可能なのかが知りたかったからだ。
俺の立てた作戦はある種無謀な作戦だったから、少しでも成功率を上げたかったというのもある。 それに、芽衣には話しておきたかった。 隊の中で一番信頼しても良いと思っているからだ。
芽衣の考え方は俺に似ている所があると感じていた。 俺の考えは彼女には否定されない。 そんな理由も無いのに安心してしまうような感じが不思議としてしまう。
拠り所だな。一種の。
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「・・・・・・どうだ?」
「・・・・・・大尉。 それは危険過ぎると思うし根拠が無い。 だけど・・・やってみる価値はあるんだと思う」
思った通りというか、芽衣は俺の考えに賛成してくれた。 後は・・・実行する為の準備が必要だ。
俺と芽衣は「生き残るための作戦」を実行するため、花屑の基地内に駆け回るのだった。
俺達の・・・花屑の運命の日は明後日だった。