第11話「内部紛争勃発3」
せんの発言によって気まずい雰囲気のまま自室謹慎を言い渡されてしまう。
醍禅 千代・・・。アイツはいったい何を考えているんだ? 同じ仲間を貶めるような事を言うなんて・・・。
「いやぁぁぁぁ!! やめてっ! やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
俺はそんな悲鳴で目が覚めた。 いつの間に寝ていたのだろう・・・。
昨日あれから自室に戻って、特にやる事も無くて寝てしまったのか・・・。
いや、そんな事より・・・。
此処は何処だ?
俺はベットに寝ていたのだが、両手両足が何かで固定されていた。 見た事の無い天井。
顔を動かすと、隣に同じ様なベットと人影が二つ。
そして悲鳴。
「いやっ! いやっ!! いやぁぁぁあぁぁぁ!!」
声には聞き覚えがあった。 しかし、それがあまりに現実味の無かったので頭がソレを理解するのを拒否しているのかもしれない。
・・・あれは・・・ちゃーこ??
そのちゃーこに組み付くように・・・見知らぬ男が上に乗っていた。
確か花屑には男はほとんど居ないと聞いたが・・・それに・・・見た事の無い服・・・軍服で・・・。
・・・敵か。
そうか、段々思い出してきた。
俺達は捕まったんだ。
「返してよ! 皆を返してよ! 隊長も香具羅もせんも!! 人殺しっ!!」
ちゃーこは気丈にも拘束されながらも抵抗をしているようだった。 しかし・・・。隊長達が・・・死んだ? なんの冗談だよちゃーこ・・・。
「人殺し? 俺達は戦争をしているんだよ! 甘えた事言ってんじゃねえ! お前達は負けたんだ! 敗者はそれ相応な・・・」
「ひっ! はぐぅ!」
「代償を受けるもんだ!」
何をされているのかこちらからは見えなかったが、多分酷い事をされているんだろう。
・・・俺は・・・何を寝ているんだ。 何で助けない!
・・・なんでこんな事に・・・
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「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉ!!!!」
「ひゃうっ!?」
俺の声に魅夜が驚いたように飛び退いた。
ん? 魅夜?
「魅夜! 生きていたのか!」
「ふみょろ〜? 何言ってるのだ? あれあれぇ〜? もしかして私の夢でも見てたのかなぁ? いや〜ん♪ 深層心理で意識されてるなんて・・あ い さ れ て る♪」
「・・・・・・俺の・・・部屋?」
4日目にしてやっと自室で眠る様にしたのだが、その天井さえ見慣れない俺にとって、寝惚けた頭にはその判断がすぐに出来ないでいた。 ・・・ベットの隣に小さなテーブルがあって、俺の私物が置いてある。 私物と言っても支給されたような物で、俺用の軍服や、IDカード等が入った小物入れ。 それと、TAMの操作マニュアル。 ・・・昨日はそれを読みながら寝たんだったか・・・。
段々と思い出してきた。
さっきのはただの夢だったらしい。 不吉な夢を見たもんだ・・・。
スパーン!
何やらさっきから手を広げて目を閉じている魅夜に私物の中からハリセンを見つけて顔面に叩きつけてやる。
「きゃう!? ・・・うぅ〜女の子をそんな凶器でパンパン殴らないでよぉ〜。 どうせなら違うモノでパンパンして欲しいのにぃ〜」
「万年脳内ピンクかお前はっ!?」
確認するまでもなくそうなのだろうが、魅夜は珍しくそんな台詞に反応してくる。
「冗談で・・・言ってるわけじゃないもん」
「・・・・・・」
真面目に熱い視線を投げかけてきて魅夜が身体を摺り寄せてくる。 ・・・俺は魅夜をまだ誤解している?
彼女の行動は・・・そのまま本性だというのか・・・。
俺はそんな魅夜を愛しく思うわけでも無く、ただ冷静に見詰ていた。
「ジュン大尉は・・・私の事・・・嫌い?」
「そんな事は無いぞ」
即答する。 別に嫌いじゃない。 ただ、ついていけないだけだ。
「じゃあ・・・いいよね」
「いや、良くない」
何故か魅夜は服を脱ぎだそうとしていたので、それを制して嘆息する。
「あのなぁ・・・。 俺とお前はまだ会って5日目だぞ? 何をお前をそうさせるんだ?」
「え・・・ん〜熱い情熱?」
「いや・・・真面目に応えて欲しいんだが・・・」
「え〜お気に召さない?大尉。 うーん、いや、これは言うと恥ずかしいんだけど・・・」
顔を少し赤くして、上目遣いで言ってくる魅夜。
「おっ。 なんだ?」
あまり見た事の無い表情に期待してしまうが・・・。
「身体がうずいちゃって♪」
「猿かお前はっ!?」
何度も確認してしまうが、コイツは馬鹿だ・・・。 シリアスなんて言葉は彼女の辞書には掲載不備になっているのかもしれない。
それだけ彼女の本心を読み取る事は難しい。 いや・・・やはり本心なのか・・・。
冗談なのか、どうなのか正直良く分からなかった。
俺は生まれてこれまでに、誰かを好きになったという記憶は無い。 だからというわけでは無いが、異性にどう接して良いのかという事を考えてしまうとどうも邪険にしてしまう癖があった。
本当は、こうして慕われるのは嬉しいのだが、それに理由を付けないと納得いかずに確認してしまう。 本当にどう思われているかなんて・・・わかるわけが無いのに・・・。
「あぁ、忘れるとこだったわ。 隊長が呼んでたよ?」
「ん? 菜乃隊長が? ・・・魅夜。 それを言いに来ただけだったのに寝込みを襲ってたのか? もしかして・・・」
「わ。正解ご名答〜♪」
「用件はすぐに伝えろぉぉぉっ!」
スパパーン!
「にょろ〜ん!?」
今日も今日とてハリセンが唸る。
もうそろそろ強度を増しておいて方がいいかもしれない。 何度も使うとボロボロになってきてしまったぞ魅夜。
「あ〜、そうそう一人で来てなの。 らしいよ〜。 うふふ〜隊長だって女なんだから大尉気を付けて〜」
「お前じゃあるまいし。 まぁ、了解。 着替えるから出て行け淫魔。ゴーアウェイ!」
手の平を返して前に払うような仕草をしてやる。 Get Outと言ったつもりだったが少し違った単語にしてしまった。 意味は一緒だが・・・。
「いや。 当方は構わないのだよ〜。 というか大尉の生着替えやっほぅい♪」
狂喜に踊る魅夜にテーブルに置いておいたもう一つの武器を掴む。
「淫魔よ光になれぇぇぇぇ!」
ピコンッ!
新装備・PIKOPIKOハンマーMk3で殴りつける。 別に黄金に輝いていたりするわけではない。 工作が得意になってきたな魅夜のおかげで・・・。
女性不信になったら魅夜のせいだ。絶対。
「はぅぅぅ・・・大尉がDVぃぃ・・・」
何やら魅夜が目を回しながら勝手な事を言っているが、必要悪だ。 イチイチ突っ込んでいる俺の苦労も知ってくれ。
俺は倒れている魅夜を部屋の外へ追い出し、ゆっくりと着替える。 支給された軍服は新品特有の生地の匂いと、張りのある肌触りが気持ちよかった。
着てから改めて自分の姿を見ると、なんだかコスプレをしている気分だった。 まぁ、同時に支給された短銃なんかを見るとコスプレでは済まされない重みがあるが・・・。
「射撃か・・・。 今度芽衣にでも指導してもらうかな」
銃の事なら芽衣に聞いた方がいいだろうという軽い気持ちだった。 その時は、それを深く考えていなかったのだが・・・。 後で考えるとそれは間違いだという事が分かる。
何故なら芽衣は特別射撃が上手いわけでは無いらしいのだ。 射撃に関しては香具羅が一番上手いらしい。
後から聞いた話なのだが。 ただ、何かにつけて芽衣の事を考えてしまう自分には自覚していた。
昨日のせんの言葉では無いが、俺も芽衣に依存しているのかもしれない・・・。
俺はそんな事を考えながら、隊長が待つ司令室へと足を向けるのだった。
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「失礼します」
「大尉? 入ってなの」
司令室がある部屋のドアをノックしてから俺は中に入った。
そこは俺が始めてきた時に通された場所だった。
この基地には司令室と、医務室と、食堂、機械室、それぞれの自室等があった。 その建物の離れにTAM格納庫があり、その裏手にはちゃーこが飼育している家畜の納屋があったりする。
基地と言っても小さな訓練場があるだけで、規模としては小さい。
それも総勢11名という所からも納得が行くが・・・。 そんな基地が最前線に置かれているという状況は納得したくは無かった。
それだけこの基地の本部・・・。本国が期待しているのか、はたまた逆に捨て駒とされているだけなのか・・・。
「起き抜けに呼び出してごめんなさいなの。 大尉に話があったなの」
「いえ、昨日一日部屋に缶詰だったんで丁度良かったよ。 それで用件は?」
それにしても、隊長は腰が低いな。 上官なんだからもう少し強めの態度でも構わないだろうに・・・。 それが彼女の美徳なのかもしれないが・・・。
「そうなの。 昨日の件。 せんがあんな事を言ったのには理由があるの。 それを大尉には知っておいて欲しいの」
「・・・俺はせんの事はまるで知らないんだがね。 まぁ、他の皆も知っているという事も無いけど、彼女とはそんなに話してないしな」
「うん。 せんは内気な性格だから自分から他人に接触しようとしないの。 だから誤解されやすいの」
「ほう? あの娘が内気ねぇ・・・」
「本当なの。 せんは・・・自分を表に出すのが苦手なの」
俺よりよっぽど付き合いの長い隊長が言うのだからそうなのだろうが・・・。 俺にはあの能天気な笑顔を浮かべる彼女がそんなに繊細に出来ているように見えなかった。 まぁ、それが表面的な表情だとしても・・・彼女の言った事で皆が傷付いたのは事実だ。 それはあまり褒められた事では無いハズだし、それを諌めたのは誰でもないこの隊長のハズだが・・・。
「確かに昨日私も頭に血が上ったなの。 でも、彼女の発言は・・・言葉そのままの意味では無かったなの」
「・・・というと?」
「あの後せんを呼び出して聞いたの。 あんまり信じられない事だったから他の誰にもまだ言ってないなの。 大尉。 これから言う事は妄想では無い事だけ先に言っておくの」
「なんだよ・・・脅かす気か?」
そう思うのも隊長の瞳が真剣そのものだったからだ。 マジになった時のこの人の目と声はやはり苦手だ。
こういう恐怖という心理には整った顔立ちだったりすると余計に怖く感じてしまうものだ。 どうしてだろう?
菜乃隊長の瞳に吸い込まれそうになりながら、俺は立ちすくんでしまった。
「大尉・・・せんはね・・・。 未来が見えるなの」
「!?」
ドゴォォォン! ゴロゴロゴロ・・・
そう言った瞬間雷が鳴った。 外は・・・昨日に引き続き雨か・・・。
ザー・・・・
そう意識した瞬間に雨音が妙に聞こえてるから不思議なもんだ。
・・・・・・・・・・
隊長と俺。
二人しか居ない司令室に沈黙が流れた。
「・・・未来が・・・見える?」
俺は喉の奥からなんとか声を絞り出すと、ゴクンと唾を飲んだ。 その音が妙に響いてしまった。 体の毛穴から汗が吹き出してくる。
「そう・・・。信じられないかもしれないけど・・・。 せんの能力は確かなの。 それは彼女自身が語ってくれたわ」
菜乃隊長はそれを夢物語のように空ろに語る。
その内容が・・・最悪の内容だったからだろう。
せんは言ったそうだ。
「このままでは全員が・・・死ぬ」と・・・。
俺は「死」という単語を反芻しながら今朝見た夢を思い出していた。
あれは・・・未来視だったのか!?
「せんは・・・」
「え・・・」
隊長が呟いたのを一瞬気付かずに聞き返す。 少し混乱してしまっている。 いや、少しじゃないな・・・。 こんな突拍子の無い事を信じろという方が・・・。
「せんはね・・・。 未来を変えようとしたらしいなの」
「未来を・・・変える・・・」
そう思っても、隊長の態度からそれが現実に起ころうとしている事の予言である事を物語っていた。 俺の知らない彼女だけが知っている確証があるのだろう。
「せんは言ったわ。 私達が軍人では無くなっていると・・・。 それが悲劇を招く事を・・・」
「そんな・・・どうすればいいんだ! せんはどうなるのか具体的に知っているのか!?」
「・・・・・・分からない」
「分からないって! そんな無責任な事あるかよっ!」
バン!
「ひっ!」
「あ・・・すまん」
つい熱くなって思い切り床を踏み付けてしまった。 衝撃に身を任せるなんて恥だな俺・・・。
「隊長に言っても仕方ないか・・・。 せんはどこだ?」
「・・・・・・自室なの」
「分かった。 直接話を聞こうと思う。 いいよな?」
「うん。 私も何が何やら分からないの・・・。 大尉・・・ごめんなさい」
隊長という職位に就いているが、菜乃隊長もまだ年頃の女の子だ。 耐えられなくなる事もあるだろう。 だからそれを責めるような事は俺はしないつもりだった。
だから・・・。
「大丈夫。 こういう時こそ隊長の腕の見せ所だろ? 頑張っていこうぜ。 なっ?」
菜乃隊長の頭を撫でてやった。 上官に、しかも年上にそんな事をして怒られるかもとは思ったが、そうしなければ今にも泣き出しそうな感じだったから・・・。
「大尉・・・・・」
目を細めて擽ったそうに微笑む隊長。
笑うと・・・可愛いな流石に。
軍人って言っても元々はただの女の子だ。 人よりちょっとTAMなんかの操縦なんかが得意なだけの。
いくらそんな世の中だからって、彼女が全部背負わなければいけないわけでも無いハズだ。
「じゃあ、俺ちょっと行って来る」
出来るだけ笑顔でそう言うと、隊長は何も言わずに頷いた。
俺はせんの自室へと向かった。
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「せん。 俺だ。 ちょっといいか?」
「大尉? ちょっとまってね〜♪」
「CHIYO’ROOM」と書かれた部屋の表札を見下ろしながらドアをノックする。
そういえばせんの本当の名前は「ちよ」だったな。 ずっとせんって呼んでるので忘れがちだが・・・。
部屋の中からいまひとつ緊張感に欠ける声がして、暫くしてからドアが向こうから開かれた。
「どうぞ大尉ぃ〜♪ せんワールドへようこそぉ〜♪」
「邪魔するぞ」
どうも同じようなノリにはなれずに普通に中へ入る。 それにせんは少し不満な顔をしているが、知った事では無い。
騒動の張本人であるせんに警戒は怠らないようにしようと思う。
「どうしたのぉ〜? 怖い顔だよぉ〜。 あ〜なんか腐った物でも食べちゃったんでしょぉ〜? 大尉は食い意地が張ってるなぁ〜♪」
「せん。 馬鹿の真似はやめろ」
これまでの事を考えると、せんのこの態度は全て演技だと思えた。 この不自然に明るい仕草は作っているんだ。 その下の「顔」を隠す為の隠れ蓑なんだ。
「うぐぅ・・・。 馬鹿じゃないもん〜」
なおもせんはその「演技」を辞めようとはしなかった。
こうなったら化けの皮を剥いでやる。
「そうだな。 せんは馬鹿じゃない。 それは分かった。 だから話してくれないか? お前の知っている未来の事を・・・」
「なんのことぉ〜?」
指をくわえて小首をかしげるせん。 馬鹿にしているのか!
「せん! 俺の言っている事を聞け! お前は未来が見えるんだろう!? それで・・・皆が死ぬと言ったそうじゃないか! それはどういう事だと聞いているんだ!」
俺は力の限り叫ぶ。 その台詞に全力を掛けていたので、その時のせんの表情がどうだったのか良く見ていなかった。 だから・・・せんの声だけを聞いて俺は顔を上げた。
・・・誰だコイツは・・・。
「・・・。 隊長が喋ったんだね」
・・・せん?
せんの瞳から光が消えてしまっていた。 それは猛禽類のような鋭い眼光を持ち、先程までの大きな瞳からすると全くの別人になっていた。 背筋が凍るような視線の彼女は自嘲するように笑うとその瞳で俺を捉えた。
「・・・未来を他人に話すとそれだけ運命は強固になるというのに・・・。 軽はずみな事をしてぇぇぇっ!!」
「!!」
「・・・どういう事だって顔だねぇ・・・。 もう知っちゃったんだから仕方ないから教えてあげるよ。 運命というのがあるんだよ。 それは誰にも変えられないような未来への道筋なんだよ。 だけどね、そんな運命を見る事が出来るという事は、その未来の結果を変える事だって出来ない事も無いんだよ」
「そ・・・そうか」
なんとか相槌だけは打てた。 せんの気迫に言葉が出なくなってしまっている。
「それがどうして強固になるかって!? 運命っていうのはねぇ! 必然の積み重ねなんだよぉ! それが幾千と積み重なって運命を形作るんだよぉ? ただね、それを理解してない人にとっては・・・運命はどういう物になるか分かるかなぁ?」
「・・・偶然?」
「そう! 大尉は頭がいいよ! そうやって偶然が積み重なるんだよ。 だけどね。 偶然を偶然だと思わなくなってしまったら・・・。 それは必然になるんだよ! それが一人や二人ならまだいいんだよ。 だけど、3人、4人と増えていくと・・・それはもう偶然なんて呼べない。 必ず起こってしまう運命になってしまうんだよぉ!!」
「・・・」
話が急変し過ぎて頭がついていけないが・・・。 簡単に言えばせんは未来が見える。 それが自分だけ見えているなら騙し騙しで運命を変えられると言っているのだ。 だけど、俺や隊長が知ってしまった事で・・・運命が変えられなくなってしまったと怒っているのだ。
「あんまり理解してないみたいだけど、もう駄目だよ! 皆・・・皆死んじゃうんだっ! あははははははははははは・・・」
「せん・・・・・」
せんは狂ったように笑い出す。 もう手遅れだと叫びながら・・・。
俺は・・・、せんをやはり誤解していたようだ。
別に彼女は皆が嫌いだから暴言を吐いたわけじゃない・・・。
「あは・・・あははははははははは!!」
せんは・・・皆が大好きだから・・・死なせたくなかったから・・・汚れ役になろうとしていたのだ。 それが運命を変える手段だったハズだったのだ。
それなのに、俺達に話してしまったせいで・・・せんはただのピエロに成り下がってしまった。
「あはは・・・はは・・・は・・・う・・・・・・うぅぅ・・・・やだよぉ・・・・・・・死にたくないよぉ・・・・。 死なせたくないんだよぉ・・・・」
せんの笑い声は次第に嗚咽へと変わっていった。
俺はそれを慰める事も、声を掛けることも出来ずに、ただ呆然とするしかなかった。
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「・・・・・・」
「・・・・・・」
「なぁ、せん」
「・・・・・・なぁに大尉ぃ」
「本当に・・・未来は変わらないのか? お前に本当に未来を見る力があるのか?」
「大尉。 今まで未来が変わった事は一度も無かったんだよ・・・。 戦闘の時だって・・・せんが無事なのも全部見えていたからだもん・・・」
「そうか・・・。 昨日のちゃーことの時もそうだったんだな?」
「うん・・・。 大尉。 事実を確認しても結果は変わらないんだよ」
「そうか・・・」
その後、せんにどうやって全滅したりするのかを詳しく聞いてみた。 すると、明後日中に戦闘があり、その戦闘で俺達は全滅。 捕獲され・・・殺されてしまうらしい。
俺が今朝見た夢にとても似ている事をせんに話すと「それはせんが見た未来視を大尉が読み取ったのかもしれない」と言う。
「全滅しか・・・未来が無いのか・・・」
「うん・・・運命は変わらないんだよ。 どう考えても・・・同じ結末にしかならないんだよ」
運命は変わらない・・・。 本当にそうなのだろうか・・・。 俺はそれを信じたくなかった。 当たり前だ。 誰だって死にたくは無い。 何か・・・何か手は無いのか・・・。
「・・・ちゃーこの時ってその運命を思い出しながら・・・避けていたのか?」
「もちろんだよぉ。 大尉・・・もういいよ・・・」
せんは記憶力が良いみたいだな。 俺だったらそんなものを見たって体がついていかないし、忘れてしまうだろう。 頭の回転が速いんだろうなきっと。
しかし・・・。
どうしても、全員死んでしまう未来しか無いのなら・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ん? まてよ・・・。 そうか!
あぁ、なるほど。
全滅するしか無いのか!
「・・・・・・なら、いっその事全滅するか」
「・・・・・自暴自棄だよ大尉・・・」
「いや、せん。 分かったよ。 運命ってやつが♪」
「大・・・尉?」
せんがキョトンとして俺を見てくる。 当然だ。 さっきまで同じように死んだような顔をしていた奴が全開の笑顔で笑っているんだから。
「ついでだ。 お前の呪いも解いてやる。 俺に任せろ。 せん」
「・・・? 大尉?? おかしくなっちゃったぁ?」
「大丈夫だ。 そうと決まれば準備だな。 せんの予言の当日は明後日だったな? それまでには終わらせる」
「・・・・・・?」
?マークを浮かべ続けるせん。
俺は一つとある作戦を思いついた。
それが本当に効果があるのかは分からない。 効果が無ければ全員死ぬだけだから、駄目で元々だ。
俺は作戦を決行するために香具羅の部屋に行くことにした。