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花屑  作者: 霧香 陸徒
10/20

第10話「内部紛争勃発2」

雨が降っていた。 雨によって制限された室内で、せんとちゃーこは何か言い争っていたようだが・・・。

俺は、そんな事より身体がなまって仕方ない。

誰か誘ってちょっと動かしてみるか・・・

「・・・・・・・・・」


「? 何しているんだ魅夜?」


 なんだか知らないが魅夜が気持ち悪い顔をしてこちらを向いていた。


「ううん。 なんでもなぁい」


「ほう。 なら、こっち見んな」


「ぶ〜優しくない〜」


 俺と魅夜は外が雨だったので基地内にある格技場に来ていた。 100平方メートル程の広さで簡単な組み手程度なら出来そうな広さだった。


 もっとも、俺は格闘技なんてやった事は無いからあまり関係無いが・・・。


 此処に来たのは魅夜に実際の型を見せて貰いながら特訓してもらおうかと思っての事だ。


 俺の見た中ではちゃーこを別にすれば魅夜は相当の手慣れっぽかったからな。


 だが、魅夜はそんな俺の辛勝な心構えに応える事も無く、談笑してくるから困る。


「構ってやってるだけマシだと思え色魔め」


  また何か企んでるんじゃないだろうな? ヤツの顔を見るとそう思えて仕方が無い。


「え〜魅夜はシキマじゃないのだ〜」


 どの口が言うんだ、どの口が。


「ほう?」


 とりあえず時間も勿体無いので適当に両手を振ったりしてみる。


 間接がポキポキ鳴った。 ・・・運動不足もいいとこだ。


「皆の方がもっと酷いのだよ〜大尉」


「皆? そういえばTAM搭乗者以外ってこの基地にどれだけ居るんだ?」


 ポキポキ


 首の骨が景気良く鳴る。 ちょっと気持ちよかった。


 隊長に、芽衣、魅夜、ちゃーこ、せん、香具羅、それと菊池女史に会っただけだったので、俺には分からなかったが、他にも何名かこの基地には居るらしかった。


「あ〜そういえばまだ整備員達に会ってなかったんだっけぇ? あの子達普段はずっとメンテルームに篭ってるからなぁ〜」


「整備員・・・それってこの前言ってた3人組ってのか? 男達だっけ?」


 魅夜に最初に会った時に整備員が男だと聞いたが実際には会った事は無かった。


 それだけ出歩かないという事か・・・。 にしても、昨日食堂なんかでも会ってないって事は・・・よっぽど仕事に熱中しているのだろうか?


「うむ。 そうは言っても皆色恋沙汰には興味の無い職人馬鹿だけどね。 甘い♪」


 パシッ


 棒立ちしていたと思っていた魅夜に軽くジャブをしてやると、簡単に受けられてしまった。


「ちっ。当たらないか。  まぁ・・・魅夜がそういうんならまともな奴等って事だな」


 俺はなんとなく、そのメンテルームと呼ばれる場所が俺にとってオアシスなんじゃないかと思えてきた。 別に男色趣味があるわけじゃなく、ただ「安全な場所」っぽかったからだ。


「むむ〜? 大尉は私をなんだと思ってるのかなぁ〜?」


「変態」


 俺は拳を当てる事を諦めて、指を指しながらハッキリ言ってやった。


「もぉ〜そこは「可愛い女の子」って言えば0.5秒で襲ってるのに〜」


 その台詞さえも避ける魅夜。 ・・・やるな。


「それが悪いって言ってるんだろっ!?」


 この女と漫才をするのもまだ3日目なのだが、最近妙に息が合ってしまっている。


 ・・・人懐っこいと言えば聞こえはいいのだが・・・。 何故か部屋の中が少し暑い気がしたが、別に何か意識しているという事ではない。 何か・・・部屋の外側から感じるものがあるのだけど・・・。


 まぁ、そんな事より俺は話を戻すことにした。


「・・・で、皆もって、他に誰がお前以上に酷いんだって?」


 魅夜以上に酷いなんて事は無いだろうが、一応聞いてみる事にした。 


「ん〜? ほら、せんとか」


 俺はその名前を聞いた瞬間に右手にハリセンを装備した。


「ちょっと!? 今のはボケじゃなくてホントよ? ある意味一番危険なんだからせんちゃんは〜」


 そういえば、これだけ反射神経がいいならこのハリセンだって避けれるだろうに? ・・・ツッコミは忠実に受ける芸人って事か・・・。 つくづく阿呆だなコイツは・・・。


「・・・にわかに信じられんってんだよ。 なんかあのヘラヘラ笑ってる子だろ? まだあんまり話してないが・・・」


「ホントなんだってばぁ〜。 男が来るって言って一番最初に目を輝かしたのってせんちゃんなんだから〜」


 魅夜は必死にそんな事を言う。 ・・・どうにも信じられなかったが、その目は冗談を言っているような感じがしなかった。


 ・・・あの子が?


 いや、それより・・・


「そういえば魅夜。 今「皆」って言ったな? 他にもか?」


「ん? 芽衣はわかんないけど他は皆そうだねぇ」


「はぃ?」


「だから〜隊長もちゃーこも香具羅もだって事よ〜」


「!? マジか!?」


「そだよ〜? あぁ、大尉は「花屑」ってどういう意味か知らないんだっけ? 花屑の「花」は「女」で、屑・・・女の屑って意味なんだぞ♪」


「・・・本当なら皆魅夜みたいなもんって事か・・・」


 恐ろしい。 これからはずっと芽衣の所に逃げ込むべきなのかもしれない・・・。 いや、そうなるともしかしたら芽衣だって・・・。


「まぁ、ウソだけど」


「何処までだオイッ!?」


 俺は思った。 魅夜とまともな話は出来ないのだと。 そして、限りなく時間の無駄なのだと確信した。


 俺の右手のハリセンが真っ赤に唸ったので、景気良く振り下ろす。


 スパーン!!


 うん。 流石俺の自信作。 良い音がする。


「ひぃーとえ〜んど☆  あははっ♪ ごめんごめん☆ 本当は・・・「落ちこぼれ」って意味なのだよ。 花だけど落ちこぼれてるの」


 魅夜の声のトーンが段々と少し低くなったのを感じた。 ・・・魅夜?


「私はこんな性格だからいいけど、隊長や香具羅は辛かったんじゃないかなぁ? 隊長なんかね、二つ名でそのまま呼ばれてるのだよ。 スクラップドフラワーって。 まぁ、これは違う意味もあるんだけど・・・。 香具羅は気が強いというか、プライドが高い所があるんだけど、入隊した時なんてもう顔に生気が無かったの」


「・・・・・・」


 そう語る魅夜の今の顔も・・・生気が無いぞ? さっきまでの元気は何処にいった? ・・・何故俺にそれを言うんだ魅夜・・・。


「此処に配属されるというのはそういうレッテルを貼られるという事。 だから・・・皆笑う事が出来なかった・・・最初は」


「・・・余計に信じられない話だな。 魅夜」


「あ、あははそうだね〜。 でも、大尉には知っていて貰いたいな。 私達がどうして此処に居るのかって事を」


「・・・俺は・・・」


 ただ新参者で、軍隊の事なんて何も知らなくて、ただ頭数に入れられただけの案山子みたいなもんだと思っていた。 それが昨日の作戦によって持ち上げられているだけだと思ったのだが・・・。


 花屑は・・・、彼女達は色々と事情があるようだった。 それがどういった物なのかは分からないが、魅夜の表情を見ていると、あまり良いものでもなさそうだ。 


 ふと、芽衣の顔を思い出す。 彼女の言葉が少ないのも・・・もしかしたら何かあったのかもしれないし・・・。


 魅夜の言う事だから全部が全部信用出来るか分からないだろうし。


 「皆が〜」うんぬんは他の者の株を自分と同等にして自分の評価を標準にしようとしているのかもしれないし、「花屑が〜」うんぬんはもっともらしい事を言って信じ込ませる為かもしれない。

 しかし・・・、わざわざ自分達を「落ちこぼれ」などと言う必要があるだろうか? 隊長の話等もそんな事を言って魅夜に何か得になるとは思えなかった。


 そうなると・・・、何が本当で、何がウソなのか段々分かってきたような気がする。


「魅夜。 お前の言葉は分かりにくい」


「あは〜冗談だから〜♪」


 とても笑顔で魅夜は言う。  これもウソなのだろう。


 本当は冗談などでは無く、花屑の隊員という事に何かあるのだろう。


 俺はなんとなく魅夜の言動からそう判断した。


 全くの外れでも無いと思う。 だって―


「・・・お前意外に嘘が下手なんだな」


「・・・・・・うん。 困ったなぁ〜私も年なのかもね」


 彼女の瞳の端が・・・濡れていたから・・・。



 そういえば一度全裸に剥かれたような気がするが、それは美談にするために無視しておく。


 それに、そうまでなったのにも係わらず、実際に何かされた事はいままで無かったから・・・。


 ・・・・・・。


「大尉〜〜〜♪」


「ん?」


 そこにせんがやってきた。


「あ〜! 大尉魅夜ちゃんを泣かしてる〜 いじめちゃだめだよぉ〜」


「い、いや。 別にいじめるわけでは・・・」


 なんとタイミングの悪い事だろう。 こんな場面を見られたら誰だって誤解してしまう。


「なんてウソだよぉ♪ 分かってるよぉ〜魅夜ちゃんに甘えられてたんだよねぇ♪ 大尉は優しいから魅夜もせんも大好きなんだよっ♪」


 せんは臆面無く大きな声で言うので、俺と魅夜は辺りを一瞬見渡してしまった。


 幸い他には誰も・・・、イナカッタ。 ウン。イナイイナイ。 青い短髪の少女なんて見えない。


「ちょっとせん! てめぇ抜け駆けしやが・・・したわね!」


 ちゃーこは物陰から急に躍り出て、せんに向かって真空飛び膝蹴りを浴びせようとする。 しかし、せんはそれを予期していたのか上体を少し後ろにそらして避ける。


「わぁ〜ちゃーこイキナリなにするんだよぉ〜ビックリしたよ〜?」


「ウソつけぇ! 私が本気で蹴ろうとしたのに普通の奴が避けれる・・・わけないでしょ!」


 ちゃーこは何故かチラチラとこちらを見ながら、せんを罵倒した。


 口調が男言葉になったり女ことばになったり忙しいヤツだ。


「え〜そんな事よりちゃーこが変な喋り方だから大尉が呆れてるよぉ〜?」


「う、うるさいわねっ!」


「男みたいに騒ぐと嫌われると思ってるのぉ〜? ちゃーこは臆病だぁ」


「!!」


「・・・! 無駄だよぉ〜♪」


 せんの言葉に顔を真っ赤にしてちゃーこは殴りかかる。 しかし、寸での所でやはり避けられてしまう。 せんの動きが早いわけではない。 だが、ちゃーこの動きが遅いわけでもない。 単純にせんに動きが読まれているちゃーこ。


「・・・せんって実は強いのか?」


 なにやら目の前で私闘が始まってしまって、俺は若干その流れについていけずに魅夜に話しかけた。 魅夜は、それを見ながらこめかみを押さえていた。 そして、呟く。


「・・・まったく。 せんの悪い癖なのだよ」


「どういう事だ?」


「せんは決して運動が得意じゃ無いのだけど、その・・・なんていうか勘が鋭いっていうのかなぁ。 とにかく先を読んじゃうわけ。 それなのに相手を挑発なんてして・・・遊んでる」


「ほう? それってやっぱり身体能力が高いって事じゃなくてか?」


「ううん。 普段はもうちょっとした段差で転ぶぐらいに鈍臭いのだ。 だけど、こういう時のせんは最強かもしれないやね」


「戦闘時?」


「そだね。 前の作戦の時だってせんの機体は無傷だったのだよ。 前回だけじゃない。 せんはいつだってその機体に傷を負わすことなんて無かったよ。 それだけ強運なのかと思ってたけど違うみたいだねぇ」


「ふぅん? だけど、それって・・・」


「うん。 ちゃーこは絶対に勝てない。 今のままならね」


 魅夜の言う通り、ちゃーこは何度もせんに殴りかかるのだが、せんはそれを危なげ無く次々に避けていく。


「無駄だって言ってるんだよぉちゃーこぉ。 雨で外行けないからってせんで遊ばないでぇ〜」


「うるさいうるさいうるさいうるさいっ! 今日という今日は絶対に貴様を倒すぅぅぅぅぅぅ!!」


 怒れる狂戦士と化したちゃーこは腕を振り回すが、その分動きが雑になってしまってせんは避けなくても良いぐらいの大振りの攻撃を半眼になりながら避けていた。


「・・・・・・本当に大尉には困っちゃうよ。 ちゃーこをこんなにするんだから」


 ん? せんは今何か言ったか?


「ちゃーこぉ〜いいこと教えてあげる〜」


「なんだぁ!? 敵に塩を送るつもりか? せん!」


「ううん〜。 反撃だよぉ〜。 ちゃーこ達はね、大尉に依存してるだけなんだよぉ」


「!!?」


「ほら、足がお留守だよぉ♪」


 せんの言葉に動きを明らかに止めてしまったちゃーこは、せんの足払いを簡単に受けて転倒してしまった。


「はい。 せんの勝ちだよ〜」


「ちょっと! 何してるなの!?」


 丁度そこに菜乃隊長が現れた。 後ろに芽衣や香具羅も見える。 この騒ぎ(?)に皆集まってきたようだ。


「ちょっと組手やってただけだよぉ。菜乃隊長〜」


「・・・・・・」


「・・・・・・せん。 貴女一体何をしたなの・・・」


 転んだままで俯いてしまっているちゃーこを見咎めて、険しい顔をせんに向ける隊長。 そんな目で見られてもせんは笑顔を絶やさずに答えた。


「別に大したことじゃないよ〜? ちゃーこも、魅夜も、香具羅も、隊長も、芽衣もみんなみぃぃんな大尉をお父さんみたいに甘えてるって言っただけだもん♪」


『!!』


「おいおい。 何言ってるんだ? せん」


 せんの言っている事が良く分からない。 皆が俺を父親みたいに思っている? 知り合って3日の俺を?


「大尉〜。 皆に言ってあげなよ。 「なんでお前達は俺を名前で呼ばない?」って。 全員が無意識にそう思っている証拠なんだよぉ〜? そのお陰で皆「軍人」じゃなくなっちゃったんだ♪ おかしーよね〜♪」


そう言われて隊長や特に芽衣等は黙ってしまった。 


 まぁ、どうだか知らないが、俺から言わしたら今まで一番その「軍人」ぽくなかった奴が言う台詞じゃないとは思うんだが・・・。


「そうね。 少なからず節度ある者の態度では無かったかもしれないなの」


 菜乃隊長は一番年長者としてか、一歩進み出て頭を垂れた。 しかし、その声が・・・低い。


 それがプライドによる物なのか、事実を言われた悔しさなのか分からなかったが・・・。 


 せんのイメージが俺の中でガラッと変わったのは確かだった。 会って数日の俺でさえそうなのだから・・・。 今まで一緒に居た皆はその比では無いのかもしれない。


「せん・・・貴女って人は・・・」


 誰かが呟いた。 しかし、それを最後まで言わさず、隊長が激を飛ばした。


「皆。 本日は自室で待機。 これは命令なの」


『・・・・・・』


「魅夜! 芽衣! 香具羅! ちゃーこ! 大尉! 千代! 返事はどうしたなの!」


『は、はいっ!』


 うやむやのまま俺達は自室謹慎を言い渡された。 不穏な空気が漂っていたので賢明な判断だとは思う。


 だが・・・


 俺にはせんを中心にして皆がバラバラになってしまった気がした。


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