第1話「MISSIONは掴み取る心」
これが本編ですが、プロローグとして別に5個程話があります。
それを読まなくても大丈夫のようにはしてありますが、気になりましたらゴメンナサイ。
辺りには何も無い荒野。
街で生活しているとかなり馴染みのない風景なんでピンと来ないだろう。
だが、そんな想像力の貧困さなんて知ってこっちゃない。なんてったってその当事者…つまり今その荒野なんて馬鹿げた場所に立っている状況でそれを悠長に説明している余裕なんて無いからだ。
良く考えてみろよ。 砂場で遊んでいたらいつの間にか辺りが砂漠になっているとかになってみろ。冷静になんか居られるハズは無いだろう?
つまりだ。今、この馬鹿げた場所に立っていないといけなくなった経緯は順を追って説明するとして…
さて、どうしたものか……。
あぁ、荒野って言ったが周りに完全に何も無いわけは無いぞ? 壊れた人形や良く分からないな機械なんかは無数に転がっているから寂しくは無いな。 もっとも、その人形が「自分の5倍以上の大きさ」だったりするんだからサービス満点だ。 …抱いて寝るのは無理だがな。
「・・・・・・あの」
なんだ? 今どうしょうも無い非現実さに呆れてる所なんだが……気安く話しかけないでくれないかな?
ん…?
「……〇〇少尉ですか?」
…………何?しょうい? 何を言っているんだこの『少女』は…。
いや、見た所軍服を着ている所を見ると軍人のようだが…。この状況には似合い過ぎてるな…。
それに…今もしここで「NO」と言ってみたとするとどうなるだろうか? 常識では考えられないような状況で、常識で考えてはいけない。 違うと答えた瞬間に打ち殺されているかもしれない。 そんな状況も「あり得る」。
だって、此処は・・・今まで知っていた世界とは違うのだから・・・。
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「君、名前はなんて言うんだ?」
「・・・・・・」
返答は無い。 ただ、無言で先導するかのように前を歩いている。 その背中を見つめながら「小さな背中だ」と思った。 先程「似合いすぎている」と言ったが、それは「軍服が」であり「彼女自身が似合っている」かとは別の話だ。 見た所まだ年端もいかない少女のようだが・・・。
「なあ、聞こえてるんだろ? 名前を聞いているんだけど?」
「・・・・・・それは上官としての命令ですか?」
上官? あぁ、そういえば少尉だとか言ってたな・・・。 兵隊の階級にはあまり詳しくないけど確かそこそこの階級だった気がする。大将、中将、少将、大尉、中尉、少尉で六番目だっけ? 間違っているかもしれないが・・・。
「別にそういうわけじゃないが・・・」
「・・・・・・そうですか」
何だ? 答えたくないのだろうか? まぁ、名前を聞いたからといって別に何かあるわけじゃない。 それより聞きたい事はほかにもある。
「これから、何所へ行くんだ?」
「・・・・・・報告書はお読みになられていないのですか?」
・・・まずったか。 そんな物は読んでいるわけがない。 なんとか少尉本人じゃないのだから。 ・・・ここは一芝居打つしかないか・・・。
「いや、君が正しく任務を理解しているか聞いているんだよ」
「・・・・・・」
また黙ってしまった。 なんだこいつは? 人の皮を被ったアンドロイドか何かか? 何かのバグで話す事も出来なくなっているというのかもしれないな。
「・・・・・・これから私達の基地へと案内します。 そこに着任すると聞いておりますが・・・」
基地? 着任!? 軍隊に入れって事か? ・・・マズイな・・・。 このまま連れて行かれたら偽物だとばれてしまうだろうな・・・。
「・・・少尉?」
「あ、いや、すまん。 了解した」
こちらの返答が無いので怪訝な顔をして覗き込んでくる少女。 危ない。 下手な素振りを見せると速攻でばれてしまう。
・・・さて・・・。 どうしたものか・・・。
現状は少し分かった。 少尉と呼ばれる者が居て、ソイツはこの少女の所属する部隊だか何かに着任する予定だった。 それを迎えに来たのがこの少女というわけだ。 だが、少女は少尉の顔を知らなかった。 だから、今連れて歩いている者が本当はどんなヤツなのかは知らない。
参ったねこれは・・・。
「俺」は「ただの高校生」だったのにな。
こんな荒野等絶対に無い「平和な時代」のだ。
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俺は普通の学校の普通の高校生だった。
勉強はそこそこ。運動はまあまあ。容姿は・・・聞くな。 まぁ、デブだとか、ハゲているとかは無いからそんなに酷い事は無いかも知れないが、特段カッコイイわけじゃない。
そんな学生だ。
特技は・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・
なあ? 特技って何だ? 良くあるよな? 履歴書だとかそういう所に書く「特技」ってやつ・・・。 あそこに特に運動部に入っているわけじゃないただの一般人に書く余地はあるのか? あえて書くとすると「健康」ぐらいだろう。
人より秀でている特技を持っていない奴なんて多分いっぱい居るだろうからあれは差別用語だと俺は思うんだ。 うん。 決して俺が面白くない人間だというのを露見しているんじゃあないからそこは間違えないでくれ。
そんなわけで俺はいたって普通の人間だ。反論は却下だ。
だからそんな奴に「軍隊に入れ」なんて言うのは間違っているだろう?
俺も事実を説明して、何とか生かしてもらおうと思ったんだ。
普通ならば、誠心誠意を込めて話せば分かってもらえるハズだろ?
だけど、この世界はそんな所まで狂っているようだ。
「●●少尉。 貴方はこの「花屑」NO.6の隊員として配属されます。 TAM−06の機乗者として・・・よろしくお願いしますなの」
少女に基地に連れて来られ長髪の落ち着いた雰囲気のある女性に面会した。
結局少女の名前を聞き逃してしまった。 まぁ、彼女にはまた会える予感がしたのでその時は気にもしなかったが…。
それより…
何の何番がどうだって?
「ちょ・・・待ってくれっ!? 俺はこの世界の人間じゃないんだぜ!? それは今説明したでしょう!」
そうなのだ。俺はこの長髪の娘が顔に似合わず上官だと認識して事情を全て話す事にしたのだ。 状況が状況だけに笑い話にされてしまう可能性の方が高かったが…。先程の少女といい何か「警戒心が緩む」雰囲気を持っていた。
先程の少女の場合は傍目には「冷たく感じてしまう」だろう。だが、何かそんな一面だけを見て判断出来そうな気がしなかった。
なんというか…こんな軍事施設には有り得ない程不釣り合いな言葉だがアットホームな感じだ。
「あ、ごめんなさい。 ええと・・・ドヨドヨさんでしたっけ?」
「そんな擬音みたいな名前じゃありません…。 あぁ、それより樟葉さんでしたかね? 俺としても意味が分からないなんだが、世界が俺の知っている世界とはまるで違うんだ。人型のロボットなんてせいぜい歩くか踊るかぐらいの事しか出来なかった。そこは明らかに違う」
「…ドヨン少尉、私は菜乃という名前があるの。 名前というのはとても大事なの」
言ってる事と言ってる事が違う。 ・・・いや、「言おうとしている事と言っている事が違う」が正しいか。 俺の名前はドヨドヨ君でもドヨン君でも無い。
「・・・もう好きに呼んでくれ! そんな事より菜乃さん! アンタ人の話を聞く気があるのか!?」
「・・・・・・ええありますよ。 ただ、貴方も理解しなくてはなりません。 此処はもう貴方の住んでいた世界では無いのです。 そんな世界で過去の世界の事を言って何の意味があるのですか?」
「クッ・・・・!」
先程まで妙に呑気な女だと思っていたが、その態度が急変した。 口調もハッキリとしていて、その眼差しも優しさの欠片さえ無かった。 それをあえて何かに例えるなら御誂え向きな言葉があるが・・・軍人の目。 ・・・洒落にもならずそのままだが、その目を見た瞬間にそう思ってしまったのだから仕方が無い。
「本日の予定では●●少尉を我が隊に迎えて、戦力の増強を図る予定でした。 ですが、貴方が現れてしまった。 貴方は●●少尉の代わりに現れて、代わりに●●少尉は消えました。 その意味が分かりますか?」
「・・・・・・分からん。 教えてくれ」
「・・・いいですか。 貴方があの場所に現れた、その代わりに一人の人間が消えた。 それだけ見ればプラスマイナス0ですね?」
「おい・・・まさかアンタ・・・」
「やっと察しが付きましたか? 貴方が何者なんだというのは問題ではありません。 今私達は一人でも多くの戦力を欲しております。 お分かりになりましたか?」
「・・・拒否権は?」
「もちろんあります。 ただ、戦闘が繰り返される地でサバイバルライフをお楽しみしたいなら止めませんよ?」
「・・・・・・」
「あぁ、言葉が悪すぎましたね。 戦わずして死ぬか、戦って生き延びるかというのはどうですか? ちょっとカッコイイなの♪」
「・・・・・糞野郎」
「あら? 野郎に見えますの? よ〜ど少尉」
「人を卵みたいな呼び方するな!」
「え〜先程「好きに呼べ」って言ったのは嘘なの?」
「・・・・・・もぉいい! 分かった。 どの道右も左も分からないんだしやるだけの事はやってやる。 それでいいんだろう? えぇ!?」
「了承♪」
「・・・何処のお母さんだアンタは・・・」
結局、樟葉菜乃という女の説得(?)に負けて俺は軍隊の、しかも少尉として入隊する事になった。 ちなみに名前はその「居なくなった」少尉と同じでは都合が悪いという事で俺の本名のままでいいらしかった。 それでも・・・決して正しい名前で呼ばれなかったが・・・。
「しかし、得体の知れない者を入隊させるなんてアンタ滅茶苦茶だな・・・」
「あら? 確かに正直良く分からないなの。 でも、貴方は悪い人には見えないし、それにこれぐらいで動じてたら隊長なんて務まらないなの♪」
「恐れ入ったよ全く。 あ、そうだ。 一応アンタって上官になるんだから敬語にした方がいいのか?」
「いいえ〜? ウチはそういう所はゆるゆるなの。 形的には上下の差はあるけど、それ以前に私達は仲間なの。 そこに遠慮は要らないの」
「ふむ。 その意見は俺は好きだな。 了解ナノ隊長。 呼び名だけは形式でさせて貰うぜ? でないと忘れそうだから」
「うん♪ 改めましてようこそ! 花屑へ!」
俺のその日の一日は、良く分からないままに一つの形に纏まった。
・・・これで良かったのだろうか? やはり話を断ってどうにか生きていく術を探した方が良かったんじゃないのか? それか元の世界に戻る手立てを探すのも良いな・・・。
今更こんな事言っても空想だけが一人歩きするだけで不毛だが・・・。
俺はTAMという人型兵器だか何かのパイロットとして使われるわけだ。
そういえば・・・。 最初に会った少女はこの基地の関係者なんだよな・・・。 此処にお世話になるんだし、名前ぐらい知っておいた方がいいかもしれない。
そう思って俺は慣れない基地の中をウロウロと歩くと目的の者をすぐに発見する。
廊下の窓から外を眺めている後姿を見つけた。
「よう。 ええと、今日からやっかいになるんだが・・・」
出来るだけ好意的に話しかけたつもりだった。 小さな子だったし、あまり怖がらせても困るし・・・。 いや、相手は俺より先輩の軍人か・・・。 全然見えないけどな。
「・・・・・・」
おいおい。 こちらを一瞬振り返っただけかよ。 他に何か言えよ・・・。
俺、嫌われてるのか?
「なあ、今日から仲間になるってのにちょっと無愛想過ぎやしないか? 俺がお前に何かしたか?」
そう言うと少女は振り返って首を左右に振る。 違うらしい。
しかし、いいから言葉を口に出して言えよ・・・。
「じゃあ、どうしてだ? 話すのが苦手か?」
「・・・・・・違う」
先程会ってからそんなに間が空いていないが、何故か久しぶりに声を聞いた気がする。 声自体は可愛らしいんだが・・・。 如何せん無表情でとっつきも悪い。
なんだこの女・・・。
「せめて名前ぐらい教えてくれよ。 不便だろ?」
それでもなおも食い下がる俺って結構しつこいか?
いや、別に口説いているわけでも無く、ただ名前を聞いているだけなんだから俺が正しい。正義だ。 ジャスティスだ。
「・・・・・・・・・め・・・い」
「ん? めい? 今何て言ったんだ?」
とても小さく少女が呟いたので俺はそんな2文字の単語しか聞き取れなかった。 なんと言おうとしたんだ?
「・・・・名前」
「は? ・・・・・・メイってのが名前なのか?」
コクン。
頷いた。 どうも元々2文字しか喋ってなかったらしい。 全く・・・扁桃腺が腫れた子供かコイツは・・・。
メイか・・・。 中々良い名前じゃないか。 可愛らしい。
「そうかそうか。 俺は――っておいっ!? 俺にも名乗らせろ!?」
「メイ」は名前を言った事で満足したのか、それとも俺が無性に臭いからか分からないがすぐに踵を返して歩き出した。 ・・・念の溜に言っておくが別にワキガとかじゃないぞ? 今のは単なる比喩だ。 本当に臭くなんて・・・
「・・・いや、匂うな」
そういえば今日はまだ風呂にも入っていなかった。 此処は風呂はあるんだろうか?
「おーい! 風呂とか何処だー!」
呼び止めても立ち止まる気配が無いのでとりあえず風呂の場所を聞こうとメイの背中に叫ぶ。 すると、メイは立ち止まり俺を指差してきた。 ・・・いや、正確にはその後ろにあるんだろうが・・・お前はいいから喋れホントに。
「サンキュー!」
まぁ、それでも教えられた事は確かなのでメイに感謝の言葉を送った。
俺の一日こうして終わり、次の朝を迎える・・・。
・・・というのが一番理想だったに違いない。
あまりこれ以上面倒な事が起きるのも疲れてくるからな。
もちろん、今日が始まった時点からそんな俺のささやかな平和の願いは粉砕されて粉々だったのだが・・・。
何故か長い一日になる予感がした。
【花屑 第一話 終わり 第2話に続く】
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