第5話 真相その先に
「タカト君、一人暮らしなんだって?珍しいよね。」
予感は的中した。心臓が気味悪く動いた。それのせいか容赦ない夏の日差しのせいか眩暈がする。
「ご両親は健在、だけど妹さんが脳死で寝たきり。」
「黙れ。」
これ以上はいけない。僕の全てがこの先を聞くことを拒絶している。それでも燈多野はやめない。
「妹さんが7歳、タカト君が10歳の時二人で乗ったバスが交通事故を起こしたらしいね。」
「っぐ。」
吐いた。といっても吐く物がないので胃液だけがでる。あの時の記憶がフラッシュバックする。傾きながら動き続けるバス、血だらけの人々、そして泣き叫ぶカヨコ。
「それ以来君のお母さんは情緒不安定。げに恐ろしきは主婦の情報網ってね。」
寝たきりとなったカヨコの傍でなく母。その肩を抱く父。一人離れたところで立ちすくむ僕。
「いったいなあ。」
無意識に燈多野を殴った。人を殴ったのは初めてのことだった。
「ここまで聞けば大概の奴はそれのせいで両親から離れてるって思うだろうけど。でも俺は違うんじゃないかって思った。君が死にたがっていたのを含めて俺はある答えに行き着いた。」
その先だけは聞きたくない。僕は耳を塞いだ。目を瞑った。燈多野は僕の肩に手を置く。
「その事故の時君は故意に妹さんを殺そうとしたんじゃないかな。」
両親に可愛がられ可愛く笑うカヨコと足が挟まれ動けないカヨコが重なる。僕はその時確かにざまあみろと思ったのだ。そして僕は僕に掴まろうとしたカヨコを払いのけたのだ。そしてバスはガードレールにぶつかった。そこから先の記憶は飛んで病室だった。
「君が死にたがっている理由はちっぽけな子供の純粋な殺意とそして家庭崩壊への懺悔。」
息がうまく出来ない。意識が朦朧とする。
「それは自殺できないよね。妹さんが寝たきりなのに自分が死んだらお母さんも後を追って死ぬかもしれないし。そしたら必死で頑張るお父さんも可笑しくなっちゃうかも。アリウラはそういった意味で君には理想的な場所だった。どうだい、合ってるかな?」
無邪気に聞く燈多野に二度目の殺意。殺してやると僕は確かにそう思った。何故なら燈多野が言ったことは本当だったから。否定したい全てを会って間もない人間に暴かれた。そう思うと可笑しくもないのに無償に笑いたくなった。
「もしかしたら助かるかもよ、妹さん…って言ったらどうする?」
燈多野は満面の笑みを浮かべていた。僕は其処で意識を投げ出したのだった。