第3話 ファミレスにて
燈多野に半ば無理やりファミレスに連行された。店員は来ると勝手にドリンクバーを頼む。もう面倒臭いので全部スルーする。
「あー、暑かった。何飲む?」
「…コーラ。」
「了解しました、坊ちゃん。」
一々苛立つ奴だ。笑顔のまま飲み物を取りに行くし。こんだけ邪険にしているのに、分からないのだろうか。
「はい。」
無言でそれを受け取る。燈多野もコーラにしたようだ。口にするとあっという間にコーラはカラになった。それをまたストローを銜え(くわえ)ながら楽しそうに見ていたので余計に気持ち悪いと思った。
「なんでアリウラに行ったのかは検討ついてるみたいだけど一応。目の端にチラついたアレ、もう一つの世界の住人の影なんだよ。アリウラっていうのはその世界と今僕達がいる世界のクッションの役割があるんだ。だから普通は絶対に行けない場所なんだけどたまーにいるんだねえ、影に目が追いつくヤツ。」
つまりそれが僕だってことか。燈多野もそうなんだろう。
「一回行けるようになると回数を重ねることに簡単に行けるようになるんだ。ただ魂だけが行くから色んな弊害があるんだよ。」
そう言うと燈多野は有無を言わせず僕のコップを持ってドリンクバーに行った。気遣うくらいなら放っておいてくれればいいんだと思う僕はきっと最低な人間なんだろう。
「おいしょっと。ああ、それで弊害なんだけどまず現実世界では倒れるとそのままってことかな。一般人から見たら気絶ってやつ。所構わず倒れると病院行きだからやめた方がいいね。」
「わざとじゃない。」
まるで僕が考えも無しに倒れたみたいじゃないか。というか、そもそも考える暇もなかったけど。初めてなんだから仕方ないだろと、心の中で悪態をつく。
「わかってるよ。アリウラでは現実世界と同じ時の流れなんだけどあんまり長くいると自我を失う危険性がある。タカト君に手を当てさせ名前を言わせたのはアレが戻る方法だから。で、もし万が一何も思い出せなくなると自我を失って怪物になってしまうんだよ。嘘のようだけどね。」
燈多野は一旦言葉を切るとストローでずずずとコーラを吸い上げる。喉はたいして渇いてなかったけど僕もコーラを飲む。
「俺がタカト君を助けたのは同じ高校で登校中だったから。倒れたのを見て念のためアリウラに行ったら君がいたってわけさ。位置情報もたいして変わらないから苦労せず見つけられたね。」
「お礼なんて言わないからな。」
「構わないよ。俺がしていることは前任者から引き継いだことで仕事みたいなものだから。今君に話していることもその前任者からの受け売り。」
氷だけのコップをストローで弄くっている。自然と視線がそちらにいく。
「肉体の要が心臓なら、アリウラでの要はプリズムと呼ばれる核なんだ。怪物も元々人間だったからそれを破壊すれば死ぬってこと。それは俺達にも言えること。」
「大体わかった。帰る。」
要するに怪物にならない程度にアリウラをうろつけばいいってことだ。もう用は無いのでドリンクバーのお金を机に置いて立ち上がる。あ、と燈多野が声を出したので動きを止める。
「本当は簡単にアリウラの世界に行ける方法があるんだけど…タカト君には教えないから。せいぜい頑張って死ぬんだよ。」
今までで一番の笑顔をしていた。皮肉のつもりなのだろうけど僕にはどうでもいい事だった。