表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

第2話 澄んだ瞳 

ただでさえ真夏で鬱陶しいというのに、人の声が五月蝿い。目を開けて自分が気を失っていたことに気づいた。公園のベンチに寝かされていたが僕は来た覚えがない。たぶん周りにいる奴らが運んだのだろう。大丈夫かと声をかけられたので起き上がり頷く。僕の安否を確認した奴らは散って行った。その中にいた幼児に手を振られた。無邪気な笑顔により一層体調が悪くなった気がした。


『君の名前は?』


金髪に押さえ込まれ半ば強制的に名乗らされた。すると意識が反転して公園にいたのだ。夢だったのだろうか。腕に目をやると内側から切られたかのような痣があった。怪物に切られた場所と同じだった。

アリウラの世界と言っていたあの世界はなんだったのか。痛みも、怪物も、あの金髪も鮮明に覚えていた。


「やあ、結城(ゆうき)タカト君。」


後ろを振り向くと僕と同じ高校の制服を着た金髪がいた。ベンチの背もたれに手を置き笑っていた。笑顔に苛立ちを感じる。無視をしようと立ち上がろうとすると、金髪は僕の襟首を掴み痣がある腕を手に取った。


「なんだ、あってるじゃん。」

「離せ。」


金髪の手を振り払う。遠慮なく絡んでくる金髪のせいで吐き気が止まらなかった。早くこの場から去りたかった。立ち上がって歩きだそうとしたのに。


「俺は燈多野(ひたの)アオ。あっちの世界ではどうも。」

「人違いだ。」

「その傷はアリウラでしか付かないんだけど。それにタカト君、俺が君を助けたのは偶然じゃない。」


なんだっていうんだ。僕はただ登校していただけだというのに。目の端にチラついた影に視線を合わせたら倒れて怪物に襲われて。そして今あの世界にいた金髪に絡まれている。結局立ち止まって会話している僕にも腹が立った。


「普段は助けたら放置なんだけど…タカト君危ういからね。」


燈多野はそう言うとベンチに座った。ジェスチャーで座れと促してくる。もちろん一緒に仲良く座りたくなんてないから無視をした。公園の時計を見るともう授業が始まっている時間だった。


「またアリウラに行くのかい?」

「…関係ないだろ。」

「やっぱり行くつもりなんだね。」


行き方なんてわからない。だけどもう一度行けるなら行きたかった。好奇心ではなく死ぬという目的のために。燈多野は溜め息をつく。


「まあ、死にたいなら好きにすればいい。ただ怪物になってしまってもいいならね。」


ジッと僕の目を見つめてくる。燈多野の目はガラス玉のように澄んでいた。僕にはない瞳がそこにはあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ