第2話 澄んだ瞳
ただでさえ真夏で鬱陶しいというのに、人の声が五月蝿い。目を開けて自分が気を失っていたことに気づいた。公園のベンチに寝かされていたが僕は来た覚えがない。たぶん周りにいる奴らが運んだのだろう。大丈夫かと声をかけられたので起き上がり頷く。僕の安否を確認した奴らは散って行った。その中にいた幼児に手を振られた。無邪気な笑顔により一層体調が悪くなった気がした。
『君の名前は?』
金髪に押さえ込まれ半ば強制的に名乗らされた。すると意識が反転して公園にいたのだ。夢だったのだろうか。腕に目をやると内側から切られたかのような痣があった。怪物に切られた場所と同じだった。
アリウラの世界と言っていたあの世界はなんだったのか。痛みも、怪物も、あの金髪も鮮明に覚えていた。
「やあ、結城タカト君。」
後ろを振り向くと僕と同じ高校の制服を着た金髪がいた。ベンチの背もたれに手を置き笑っていた。笑顔に苛立ちを感じる。無視をしようと立ち上がろうとすると、金髪は僕の襟首を掴み痣がある腕を手に取った。
「なんだ、あってるじゃん。」
「離せ。」
金髪の手を振り払う。遠慮なく絡んでくる金髪のせいで吐き気が止まらなかった。早くこの場から去りたかった。立ち上がって歩きだそうとしたのに。
「俺は燈多野アオ。あっちの世界ではどうも。」
「人違いだ。」
「その傷はアリウラでしか付かないんだけど。それにタカト君、俺が君を助けたのは偶然じゃない。」
なんだっていうんだ。僕はただ登校していただけだというのに。目の端にチラついた影に視線を合わせたら倒れて怪物に襲われて。そして今あの世界にいた金髪に絡まれている。結局立ち止まって会話している僕にも腹が立った。
「普段は助けたら放置なんだけど…タカト君危ういからね。」
燈多野はそう言うとベンチに座った。ジェスチャーで座れと促してくる。もちろん一緒に仲良く座りたくなんてないから無視をした。公園の時計を見るともう授業が始まっている時間だった。
「またアリウラに行くのかい?」
「…関係ないだろ。」
「やっぱり行くつもりなんだね。」
行き方なんてわからない。だけどもう一度行けるなら行きたかった。好奇心ではなく死ぬという目的のために。燈多野は溜め息をつく。
「まあ、死にたいなら好きにすればいい。ただ怪物になってしまってもいいならね。」
ジッと僕の目を見つめてくる。燈多野の目はガラス玉のように澄んでいた。僕にはない瞳がそこにはあった。