さぁ、お手を拝借!(4)
次の日、約束どおりクレイさんは畑について来てくれた。
おじさんと少年だけで今日はわたしは畑に行く予定じゃなかったから、二人共ちょっとビックリしてたかな。クレイさんは白いシャツに焦げ茶色のパンツってすごくラフな格好だった。
もちろんわたしも汚れてもいい服。
「リリー、お前まさか…?」
何をするのか分かったか少年!でも言っちゃダメ。お楽しみが減るじゃないか。
言いかけた少年の足を蹴る。弁慶の泣き所に蹴りが入ってかなり痛そうだね、ごめん!雷が落ちて来る前にクレイさんの後ろに隠れた。
畑に着くとおじさんと少年はすぐに土を耕すために鍬とか鋤とかで土をひっくり返す。しばらくクレイさんはジッとそれを眺めてた。なんだか話しかけづらい。
仕方ないからわたしだけ離れて水を入れたばかりの水田に裸足で入る。細かい泥がヒンヤリして気持ちいい。適当に手を突っ込んで泥を持ち上げ、時々砂を付けたりしながら団子をつくる。
三つくらい出来上がってから振り返ったけどクレイさんはまだ畑を見てた。
……よし、今だ!一番小さな泥団子を掴んで振りかぶる。たまたまコッチを見た少年のギョッとした表情を横目にわたしは団子を投げた。
べちゃ!なんて情けない音がしてクレイさんの腰辺りにヒットする。ビックリした様子で振り向くクレイさんに二発目をお見舞いした。
「クレイさん、遊ぼ!」
言いながら三つ目を投げたらパッと避けられた。
おじさんは笑って、少年はやっぱりみたいな顔で額に手を当てて、クレイさんは訳が分からないって顔。わたしはニッと笑ってすぐ泥団子をつくる。
まだ何も植えてない今しか水田で遊べないのだ。この間、別の水田で子供たちが泥んこになって遊んでるのを見て、わたしもやってみたかった。
クレイさんはわたしの考えに気付いたようで水田に入ってくる。パンツの裾を折って裸足だ。近付いて行くとちょっと警戒されたけど、泥団子の作り方を教えたらわたしより綺麗につくってしまった。
なんか敗北感があるよ!離れてわたしもまた泥団子をつくる。で、投げた。クレイさんからも団子が飛んでくる。
べちゃ!べちっ!お互いに泥がくっつく。もうそこからは雪合戦ならぬ泥合戦だった。肩より下を狙っては投げ、避けては投げる。足元は泥だから動きにくいし、転ぶと泥だらけになった。
でも楽しい。最初は控えめに泥団子を投げてたクレイさんも途中からわたしの本気に気付いたみたいで、半分くらい団子を避けられた。むむっ、お主なかなかやりおるな!
わたしもクレイさんも団子を投げる投げる。だけどクレイさんの方が手が大きいから団子もデカい。ぎゅうぎゅう土を固めて団子を量産する。……べちゃ!泥団子がわたしの背中に当たった。容赦ないな!出来たての団子をわたしも放った。
* * * * *
「リリー、クレイ。そろそろ昼にしないかい?」
おじさんの言葉に空を見上げた。太陽はちょうど真上。お昼ご飯だ!
素直に泥団子を手放したわたしにおじさんが笑う。クレイさんと二人、泥だらけのまま川へ行く。天気がいいから服についてた泥はほとんど乾いていて、道端で服の泥を払ってから川岸に腰かける。
まずは足を洗う。爪や指の間もしっかり洗わないと後で大変なことになるのだ。クレイさんも隣りで泥を洗い流す。綺麗になったら最後に手。ご飯を食べるから手は足より丁寧に洗わないと!
トントンって肩を叩かれて顔を上げたらクレイさんがわたしの頬に触る。ぉお、素敵な手が…!思わず掴んだら反対の手が頬をさすった。
「……泥、」
どうやら顔にも泥がついてるみたい。水で洗っちゃおうかと思ったけど、クレイさんが取ってくれるようだったから止めた。だって素敵なお手てが間近で見られる!
手も足も顔も綺麗になったわたしたちが畑に戻ると、おじさんたちがサンドイッチをくれた。おじさんが丹精込めてつくった野菜は美味しい。パンと相性バツグンなんだ。
「楽しかったかい?」
おじさんがパンにかじり付くわたしを見て笑う。
「うん、楽しかったです!…午後も第二戦やろうね!」
「……望む所だ」
後半はクレイさんに向けて言うと、頷いてくれた。やった、午後も泥合戦だ!
おじさんの「怪我しないよう程々にしなさい」という言葉に頷きながら、パンの最後の一欠片を口に押し込む。まだまだ遊び足りないよ!
* * * * *
結局、午前も午後もわたしとクレイさんは泥合戦をして遊んだ。おじさんたちの作業が終わるまで待ってたら、いつの間にか寝ちゃってた。
「な、何があったのですか?!」
クレイさんと一緒に来た人の悲鳴みたいな声で目が覚めたら、おじさんのお屋敷の玄関にいた。しかもクレイさんに背負ってもらってた。
「リリーとクレイは泥遊びをしていたんだよ」
「ど、泥遊び…」
「楽しかったよ!」
クレイさんの背中から言ったら皆が振り向く。下ろしてもらって、ちゃんと御礼も忘れず言ったらクレイさんに頭を撫でられた。ヤバい!その手で撫でるのは反則です!!
この後、お屋敷で働いてるメイドさんに見付かってすぐさまお風呂に連れて行かれました。女の子なのにって嘆かれたのは秘密だ。