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さぁ、お手を拝借!(3)




 おじさんのところへ息子さん……クレイさんが来て三日。わたしはすっかりクレイさんの虜になっていた。正確にはクレイさんの手に、だが。

 どんな具合かと言うと朝起きてクレイさん、ご飯食べてクレイさん、本を読んだり遊んだりしてもクレイさん。さすがに寝る前に行こうとしたらおじさんに止められたけど。でも、それくらいわたしはクレイさんの手に首ったけなのだ。

 そして不思議なことに大抵わたしの性癖を知った人は呆れるか嫌がるかの二択なのですが、クレイさんは困った雰囲気を見せつつも、わたし自身は嫌っていないみたい。


「リリーは随分クレイに懐いたね。」


 紅茶を飲むクレイさんの隣りに陣取り、片腕を掴み、わたしはその手を握ったりジッと眺めたりしている。はい、変態ですね。分かってるけど。

 わたしの様子を見ておじさんが笑う。べったり、とまではいかないけど絶対に離さん!とがっちりわたしがクレイさんの腕を確保していることが可笑しいらしい。

 クレイさんが嫌がらない限り止めるつもりはありませんよ。


「だってクレイさんの手、今まで見てきた中で一番綺麗なんです。」


 おじさんの手も結構綺麗だけどね。

 きゅっと手を握れば弱くだが握り返してくれる。クレイさん、めっちゃ優しい人だよ!周りにいる人には毎回睨まれるけど、わたしは諦めない。諦めたらそこで試合終了なのである。そんなのわたしは認めない。


「そうかそうか、クレイの手は綺麗か。」


「うん、おじさんに似て綺麗で優しい手ですよー。」


 繋がった手をプラプラ動かすとクレイさんから困惑視線。見上げれば、そろそろ手を離して欲しそうな目と視線が合う。あ、今日はここまでかなぁ。手を離し、クレイさんの掌をぺちぺち叩いてから解放する。……まだちょっと物足りないけど、我慢も必要だもんね。

 代わりにおじさんの隣りに座り直し、今度はおじさんと手を繋ぐ。やっぱり似てるなぁ。

 扉の開く音に振り向くと、初日にクレイさんと一緒に来て、その後すぐにまたどこかへ行ってしまった人達が二人入ってきた。硬い――ううん、厳しい顔だった。わたしを見ると余計眉を顰める。わたしが居たら出来ない話なのか。

 名残惜しいのを我慢しておじさんの手を離す。おじさんが何か言う前にわたしはソファーから立ち上がった。


「わたし書室に行ってきます!」


「おや、もうお茶はいいのかい?」


 まだ三十分と経っていなかった。お菓子ももう少し食べたかった。だけど話の邪魔はもっと嫌。

 頷いて室内にいる人達に手を振って部屋を出る。

 よし、書室で本読もう!勉強嫌いだけど読書はわりと好き。わたしってやっぱり変かも。まぁいいか。

 書室に行くと風通しのためか今日は窓も扉も開け放してあった。長テーブルの端に陣取り、手の届く高さの棚から本を数冊引っこ抜いて椅子に座る。

 …あ、これ全部童話だ!お姫様とか王子様とか出てる!


「…………なんで挿絵がないの。」


 子供向けのはずなのに文章ばっかりで挿絵が見当たらない。こんなんじゃ絶対子供も読まないよ!

 書室の司書棚から紙とインク、ペンを持ち出して再度椅子に座る。このリリー様が可愛い可愛い子供向けの絵本を描いてあげようじゃないか!!

 袖を捲くってやる気を入れてからわたしは真っ白な紙と向き合った。






* * * * *






 ガリガリガリガリ。ちょっと筆圧が強いのか、わたしがペンを動かす度にそんな音がする。うん、もうペン先二回くらい折っちゃった。

 ある程度描き終えて満足したー!と顔を上げたら、あれ?何故かテーブルを挟んだ向かいの椅子にクレイさんがいた。しかもちゃっかり、わたしが描いたやつを見てる。


「ぅわっ?!いつからそこに?!!」


 わたしの問いに一枚の紙を見せた。それはわたしが描きはじめた絵本の三ページ目となる紙だ。…そんな最初の方から見られてたなんて!じゃあペン先折ったのもバレてる?!

 クレイさんは目元を細めて笑っているみたいだった。肩も揺れてる。

 っと、それより大切なことを聞かないと。


「文字だけじゃつまらないから絵をかいたの。……どう?面白い?」


 こくりと頷きが一つ。よかった、悪くないみたい。我ながらかなりの出来栄えだ。インクだけだから白黒の絵本だけどね!

 ガリガリやりながらクレイさんに話しかける。


「クレイさん、明日用事ある?」


 首がゆっくり左右に振られる。よしよし暇人さんか。


「なら畑行こ!おじさんも行くし、明日は目一杯遊べるよ!」


 遊ぶ、という部分で不思議そうにされたけど、特に問題はないのかOKの頷き。やった、クレイさんと遊べる!

 嬉しくなって鼻歌混じりに絵本を書き出せば、クレイさんの笑う気配がした。顔が見えなくたって空気を読める日本人には問題ないのだよ。


「明日は汚れてもいい服で行こうね!」


 また頷くだけだったけど、クレイさんは行くと意思表示してくれているから不満はない。もともと無口なのかな。でもあんまりアレコレ聞いちゃいけないと、わたしの勘が告げるので余計な質問は頭の中からシャットアウト決定です。

 あぁ、明日が楽しみ!ウキウキするわたしをクレイさんは静かに見つめていた。



 

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