たりない、たりない。それでもわたし。
「――…別れよう?」
わたしの言葉にあなたは頷いた。
嘘吐きなわたしと見栄っ張りなあなたの玩具みたいな恋はあっけなく終わりを遂げた。
* * * * *
きっかけは友達の恋だった。
彼氏持ちの彼女はわたしのクラスメートの男の子で、彼の友人に恋をした。いわゆる浮気である。
わたしはそれと知っていながら協力を頼まれた時に断らなかった。自分自身、浮気に頓着しなかったからかもしれない。
友達の好きな男の子の友人……つまり彼と親しくなったのはその頃で、近付いた理由もそれだけだった。
今思うとわたしはかなり酷い女だ。
友達の恋を成就させる懸け橋になるためだけに、彼に告白紛いの言葉を言ったのだから。
「付き合って」
彼は一つ頷いて、「俺のどこが好きなの」と聞いてきた。はっきりとは覚えていないけれど、その時のわたしは‘優しいところ’と答えた気がする。
それはわたしが一番嫌いな質問だから、うろ覚えなのかもしれない。
可愛いも、綺麗も、優しいも、真面目も。全部ぜんぶわたしらしさなんてない。それらは世界中の誰かにも必ず当て嵌まる‘答え’だからだ。
友達と彼の友人が付き合い始め、よく四人でダブルデートをするようになって一ヶ月。あなたと初めて肌を重ねようとした夏の日。
あなたはキスより先はしなかった。
ただ困ったようにわたしを見るばかりで触れては来なかった。
本当は気付いていたのかもしれないね。わたしがあなたに愛情を感じてなどいないことを。
でも、あなたも同じ。
あなたが欲しかったのは、わたしなんかじゃなくて、彼女という存在だけ。そこに体の関係も愛情も要らなかったのかもしれない。
わたしは知っていた。
彼が他の男子に彼女が欲しい、わたしを狙ってみると話していたこと、わざとわたしの隣りによく座っていたこと。
だから全部おあいこでしょ?嘘吐きなわたし達のくだらないお遊びは、もう今日でおしまい。
携帯電話を操作して、電話帳から彼の情報を消す。
さよなら、愛の足りない恋。
さよなら、愛の足りない彼氏。
さよなら、愛の足りないわたし。
「……なくたっていいじゃない」
だってそれが、わたしなんだもの。
ディスプレイに表示された‘削除が完了しました’の文字にわたしは笑って携帯電話を閉じた。