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わたしのはなし(実話)

意味もない話。

 



 携帯が鳴る。メールが着た。

 テレビを観ながら画面を操作する。

 視線だけ動かしてディスプレイを見た。



  チーズの専門店に行ったら

  カビが生えてたんだけど?!



 二度ほど読み返し、数秒考える。

 はて、どこか可笑しいだろうか?

 更に数十秒思考して気付く。


 ああ、そうか。

 チーズの作り方を知らないのか。


 友人からのメールを私はやっと理解した。






* * * * *






 世の中には似たようなものがある。

 それぞれを別に見ると気にならないけれど、並べてみると案外よく似ていて、全く無関係なものだからこそ、それに気付いた時には不思議な達成感がある。

 学校の保健室でも、それはあった。

 アイスを食べようとした時だ。

 開きっ放しの机の引き出しに絆創膏が入っていた。

 使いやすくするためか、一つ一つが切り取って分けてある。

 私はふと手にしていたアイスの木匙(きさじ)を見た。

 長さは八センチちょっと。白地に青でアイスのメーカー名が斜めに印刷されている。中の木匙がうっすら肌色に透けていた。

 次に引き出しの絆創膏を見た。

 長さは八センチちょっと。白地に青で絆創膏のメーカー名が縦に印刷されている。中の絆創膏がうっすら肌色に透けていた。


「……」


 私は黙って余りの木匙を一つ、絆創膏の中に置いた。

 何も考えていなかった。

 数日後、保険医に言われた。


「絆創膏を使おうとしたらアイスのスプーンが入ってて、ビックリしたけどよく似てて笑っちゃった。でもいつの間に入ったのか分からなくて」


 ごめんなさい、私が犯人です。






* * * * *






 私はどうやら天然らしい。

 らしい、というのは、今まで自分ではそう思っていなかったからだ。

 しかし他人から言われ、親から言われてしまえば、否定のしようがない。

 思えば昔からそそっかしいと言うか、お約束はとりあえずやってしまう(たち)ではあった。


「転ばないように」


 と、言われれば転ぶ。


「ハンモックはゆっくり乗るんだよ。落ちるから」


 と、言われても数秒後には転げ落ちている。

 テレビに夢中になる余り冷蔵庫に文庫本を突っ込もうとするような、後ろ手で襖を閉めれば指を挟むような、まあ、そんなやつである。

 更に言えばメガネを買えば家に帰ってすぐ転び、階段では(つまず)き、日に一度はどこかに体をぶつけ、紙パックの飲み物を直飲みしようものなら大体溢す。

 それでも自分は普通だと思っていた。

 ただ、さすがにバイト先で「天然だよね」と言われる回数が増えれば否定しようがない。

 親に聞いてみると、あっさり頷かれた。


「よく、娘さんって天然?って聞かれるよ」

「でも自分では真面目にやってるんだけど」

「うん、だからアレで本人は真面目なつもりなんだけどねって答えてる」


 さすが親だ。

 ついでに、


「やるだろうなと分かっていても、親として注意しない訳にはいかないから一応‘転ばないように’とか‘溢さないように’とか言うけど、基本的にお前はやる。わざとじゃないから怒れないし」


 というお言葉も頂戴した。

 そういう訳で、私は見ていて飽きないらしい。

 非常に不本意ではあるが天然だと認めざるを得ない。

 自覚しても直しようがないのは困りものであるが。






* * * * *






 高校生の頃の話だ。

 夏の夜に花火をしようと友人に誘われ、三人で海辺で花火をすることになった。

 私達は特に考えもせず花火を買って海辺へ行った。

 よく考えれば分かることだが、手持ち花火と言えども五百本入りを三人でやるなんてかなり時間がかかる。人数に対して明らかに多い。

 でも多い方が楽しめるくらいにしか思っていなかった。

 案の定、やってもやっても終わらない。

 終いにはやり過ぎて辺りが煙に巻かれるほどだった。

 当時はテロが流行り始めてニュースで頻繁に放送されていたため、夜に白い煙が海辺からもうもうとすれば大騒ぎである。

 パトカーが二台飛んで来て、警察官がやって来た。


「君達、何やってるの?」


 そう聞かれるのも当然だった。


「花火です」

「それにしちゃあ、随分煙たいけど」

「五百発入りをやってるので」

「……五百発?」

「はい、手持ちで五百発。やります?」

「…………」


 花火の箱も見せた。

 警察官に呆れられた。


「そう、まあ、最近テロとかで結構騒ぎになってるから気を付けてね。あと片付けと火の始末もきちんとしてね」

「はーい、大丈夫でーす」


 あっけらかんと返事をしたら微妙な顔をされた。

 私達も五百はさすがに多かった。

 次にやる時は三百発にした。

 やっぱり多かった。

 そうして、やっぱりまたパトカーが来た。


「また君達か」


 やって来たのも同じ人だった。

 同じ時間の同じ場所で遊んでいたのだから、再会しても可笑しくはない。


「また五百発?」

「いえ、今日は三百発です」


 多分、その警察官は五十歩百歩だと思っただろう。

 買った私達でさえ五百発でも三百発でも、どちらにせよ三人で遊ぶには多すぎると思ったのだ。

 警察官からしたら懲りない奴等である。

 次は普通に市販されているファミリーパックの手持ち花火と、打ち上げ花火の大袋を買ってやった。

 小雨の中だったから濡れたくなくてベンチと屋根のある場所で遊んだけれど、煙もあまり広がらず、パトカーも来なかった。


「シャワー花火やっていい?」


 友人が手に花火の箱とライターを持って言う。

 噴水のように花火が吹き出すやつだ。

 それに頷き返しつつ、火を点けて地面に置かれた花火の箱を見てギョッとした。


「バカ! それ打ち上げ花火じゃん!」

「えっ?」

「嘘っ?!」


 導火線の根元まで火が届き、パーンと打ち上げ花火が箱を突き破って飛び出し、丸い屋根やベンチにぶつかってカンカンと音を立てた。

 私達もほぼ悲鳴に近い声でワーキャー騒ぎながら小雨の中に飛び出した。


「あはは! ごめん!」

「火を点ける前に確認しなよ!?」

「死ぬかと思った……」


 何にせよ高校時代は一番楽しかったと思う。





 

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