ここにいたいだけなのに。
昨日見た夢。サイコ系です。
実際はかなり頭おかしい夢でちょっと怖かったので、ここに吐き出させてください。
ぽたり、ぽたり、雫が落ちる音がする。
目を覚ますと正方形の格子状に線が入った薄灰色の天井が広がっていた。汚れた色ではなく、元からその色らしい。
視線をずらせば柔らかなモスグリーンのカーテン。
それに区切られた空間の中に置かれたベッドにわたしは寝ていて、右腕には点滴の針が刺さっているのか管が伸びて液体の入った透明な袋に繋がっている。
――…ここは病院だ。
どこのとは分からないものの、安堵感に溜め息が漏れる。
ずっと入院したかった。この必要以上構われない、しかし常に誰かの気配が遠くにある感覚が酷く心地好い。
この場所に恋い焦がれていると言っても過言ではないくらい、わたしはここが好きだ。
寒くも暑くもない空気を吸い込む。
独特な病院の匂いに肩の力が抜ける。
起き上がってみれば胸に心電図を図る小さな機械が取り付けられ、隣のナースセンターからピピピ…と電子音が響いた。
少ししてナースがやって来て起き上がったわたしをまた寝かせ、手にしていた新しい液体の入った袋を点滴台から交換していく。
何となく、あれは安定剤か鎮静剤なのだなあと思う。
また一人ぼっちになると、お手洗いに行きたくなる。
ベッドから起きてスリッパを履き、立ち上がると、ナースセンターから微かな話し声が聞こえてきた。
「……号室の患者さん、拘束抜けちゃったらしいのよ」
「それ三階の?危なくないですか?」
「ええ、すぐにでも探さないとって大騒ぎみたい」
よく分からないが大変そうだ。
「被害が出る前に他の患者さんを一旦外に出さないと…」
ピタリと足が止まった。
外に出すだって?冗談じゃない!
もうわたしは外の世界になんか出たくない。
「…そうだ、殺せばいいんだ」
危ないって言われるようなヤツなら死んだって構わないだろう。
一旦戻ってベッドの周りを探すとお見舞いの果物と一緒に折りたたみ式の果物ナイフがあった。
それを手に隠し持ってお手洗いへ向かった。
用を足し、手を洗いながら考える。
どこにソイツはいるんだろう。
三階って言っていたから下りなきゃいけないかな。
でもエレベーターは鍵がないと使えないし、階段で下りるのは骨が折れそうだ。
ふとお手洗いから出ようとして廊下に誰か人の気配を感じた。
他の患者かと思ったが、どうにも入って来る様子はない。
――……まさか…?
果物ナイフを開き、右で逆手に持ちながらジリジリと出入り口へ行く。
角を曲がった瞬間に誰かがわたしの肩を掴み、床へ引き倒された。
ぐさり、左脇腹に何かが刺さる感触。
わたしは目の前にある長身に躊躇うことなく果物ナイフを突き立てた。
すると今まで聞いたこともないような、聞くに堪えない悲鳴が廊下にこだまする。
それに押されるように二度、三度突き刺せば目の前の身体はバッタリ倒れて動かなくなった。
足音に相手だが自分のだが判らない紅がゆっくり広がり、無機質な世界に色を付けていく。
「…これで帰らなくて済む」
腹が痛いけれど、嬉しさに笑みが浮かぶ。
これで外に出る必要がなくなる。
わたしはここにいられる。
「あはは、あはははははっ」
ナースのやって来る足音を聞きながら喜びのあまり笑いが止まらなかった。