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Strange Love(1)

わりかしツッコミ属性の平凡娘と、容姿端麗成績優秀だけど骨格フェチ過ぎて変態さんな残念イケメンの攻防戦。

負けるのは主に平凡さん(笑)

 





 ざわざわ騒がしい購買は人だらけだ。お昼休みとなれば昼食を買いに沢山の生徒が来て、お世辞にも広くない購買部がなおさら狭く感じる。

 あたしはいつもお弁当だけど、前日に友人が購買に一緒に行こうと誘われたので、今日は母にお弁当を頼まなかった。


「んじゃ、パンよろしくね」


「はいよー、ジュースお願いしまーす!」


「はいはい」


 妙にテンションの高い友人に投げやりな返事をしつつ、戦場とも言える昼の購買部に送り出す。まぁ、あたしと違って運動部で体力もある彼女なら何の問題もなく買い物ができるだろう。

 で、あたしは悠々自販機でジュースを買うのだ。何を買おうかな?やっぱりスタンダードにコーヒー牛乳か、いちごオレか。バナナオレは友人の大好物だから何となく除けた。

 ……とりあえず決まってるのだけ買おう。

 自販機に一本分のお金を入れて友人のバナナオレを押す。ガコンと落ちる音を聞いて、下の取り出し口からジュースを掴んで立ち上がる。さて、何を飲もうか…。

 並ぶジュースのパックを眺めていると不意に誰かに肩を叩かれた。なに?こっちは真剣に――…


「僕と付き合ってもらえないかな?」


「……は?」


 ツキアウ?振り向いて硬直した。いや、あたしじゃなくたって誰でもこの状況には硬直すると思う。

 いつの間にかあたしの横に男子生徒が立っていた。柔らかなミルクティー色の髪に少し垂れ気味の黒い目の、右目にある泣き黒子が印象的。スラリと長い手足と長身、かけられた声は落ち着いたテノールだ。

 そして、そんな完璧っぽい男子生徒の名前は……………そうだ、確か御陵玲夜(みささぎれいや)。入学してすぐに校内一の美形男子って噂になった挙げ句、今現在は王子とか恥ずかしい呼び方で呼ばれちゃってる人だったはず。ちなみに情報は全て噂好きな友人からの提供だ。

 ってか、馬鹿みたいに騒がしかった購買部がまるでお通夜みたいに静まり返ってる。原因は多分きっと恐らく目の前のイケメン王子だ。しかし彼は周囲の様子なんかミジンコ一匹程にも気にかけてないらしい。甘いマスクでニコニコ笑ってる。

 あたしは息を吸い込むとベタなボケをかましてみた。


「付き合うって、どこまで一緒に行けばいいの?」


 その返答に周囲からは「なんだ、告白じゃないじゃん」「よかったぁ!」と主に女子の安堵する声が聞こえてきた。

 王子はニコニコしたまま少し考える素振りを見せたあと、更なる爆弾を投下してくれた。


「そうだね、出来れば恋人…目標は結婚で、最終的には一緒のお墓に入るところまで付き合ってもらいたいな」


 くそっ、王子は成績も良かったのか。自分の望みをちゃっかり織り交ぜつつ、ストレートに返してきた。っつーか、重い。何がって、王子の望みが重いよ。墓とか何それ。何十年先の話だよ。あたし達まだ二十歳にもなってないのに。

 叫びたい。今、ものすごーく叫びたい。…こんな目立つ場所で告白する馬鹿がいるかぁあっ!!!

 はい、そこの女子達も黄色い悲鳴とか嫉妬の混じった罵倒とか止めるように。あたしのせいではない。これは、絶対に、あたしの、望みでは、ない!!


「だいたいアンタ、あたしのどこが好きなわけ?」


 もう埓があかないから聞いてみることにした。イケメン王子が平凡女のあたしの一体どこを気に入ったのか、全く理解出来ないからだ。そしてそこを直せば離れていくだろう。

 王子はニッコリ爽やかな笑みで言い放った。


「骨格」


「骨かよ!?」


 さすがに骨格は変えられない。骨格フェチとか残念なやつだなイケメン王子。しかも言った後にあたしの体をジッと見るなセクハラで訴えるぞ。思わず後退ったあたしに王子が近付く。


「それで返事は?‘はい’か‘YES’か‘喜んで’しか受け付けないけどね」


「それ選択肢って言わないし。お断りします」


「それは聞けないなぁ」


 ガシッと肩を掴まれたかと思うと視界が真っ白になる。それがワイシャツの色だと気付いた時には女子の悲鳴と男子のざわめきに耳が痛くなった後だった。

 近い近い近い近い近いっっ!!腕を突っ張ってみても離れない。細いクセにその力はどこから出てるんだ、こんちくしょう!


「ひ…っ?!な、なぁっ?!」


「あー、やっぱり良いなぁ。服の上からでも分かっていたけどこの背骨の真っ直ぐさといい、くびれから緩やかに流れるカーブといい、肩甲骨の張り具合といい、実に見事で理想的な美しい骨格だ。」


 王子がうっとりした表情であたしの背中から腰辺りを撫でた。驚き過ぎて悲鳴も上げられない。パクパクと金魚みたいに口を開閉するあたしを見て王子は笑う。蕩けるような笑みに女子の黄色い悲鳴が聞こえた。


「さっさと離せぇえぇっ!!」


 渾身のアッパーはあっさり避けられてしまうが、離れただけ良しとしよう。出来れば当てたかったけど。

 王子は「危ないよ?」なんて他人事みたいに言うのだから余計イラッときた。若いから怒りっぽいとかじゃ絶対ない。これは普通のはずだ。

 ニコニコ笑う王子の情報に新しく二つ、頭の中へ書き込むことにしよう。


 イケメン王子は骨格フェチで、変態野郎。




 

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