運命の輪舞(ロンド)
異種族‐‐――‐妖犬族(千早の母・耶廉と同族)の長の元へ連れてこられた千早。
千早は、そこで自らの出生の謎を知る!
ショックを受けた彼女は……!?
宛われた部屋で暫く休んだ後、部屋を訪った城主に連れられて、千早は広間に通された。
広い室内は、有名旅館の一室を思わせる。
古い独特の匂いが、幾許か千早の緊張を解いた。
「千早」
「あ、はい」
青桐のことを考えていた千早は、どこか後ろ暗く、赤面してしまった。
「すまぬ……訳も分からぬまま連れられて、さぞ不安な思いをしただろう」
皺の寄った目元を和ませて、彼はひどく悲しげに微笑んだ。
その顔が、別れてきた母と重なる。
(母さま……母さまに似てる)
「娘に……耶廉によく似ておるな。千早よ、出生を知りたがっていると、青桐から聞いた」
「青桐から!?」
(えっ、青桐があたしのことを……なんて?!)
「そうだ」
勢いよく席を立った孫娘に微笑んで、彼は、再び座るよう促した。
「我らは長きを生きる者ゆえ、下界では鬼や妖怪と呼ばれている……それで間違いはないんじゃ。我らは【人】とは違うのだ。人界では暮らせぬのだよ」
深々と溜息する当主である彼に、千早は一番の疑問をぶつけた。
「母さまは、どうして逃げたの?」
「ぬ……!」
彼は暫し言い渋った後、千早の出生を話し始めた。
「娘はこの世界で、次期当主として一族を継ぐはずだった……」
「けど、母さまは逃げたのか」
大仰に頷く祖父に、千早は深く溜息した。
(母さまと、父さまが出会ったからだ)
「あいつは、掟を破った……交わってはならん者と結ばれ、子をもうけた」
苦虫を噛み潰し‐‐――‐いや、噛み殺したような言い方に、千早は悪寒を催した。
それが自分だと。
そうして、生を受けたのは自分だと。
千早はどうしてか、涙が溢れるのを止められなかった。
(あたしは‐‐―‐‐生まれてきてはいけなかったのか?)
涙する千早の肩を抱きながら、祖父は幼子に言い含めるように、ゆっくりと優しく言った。
「千早、我が一族で生きてくれ……一族を、頼む」
千早は頬を伝う涙を拭い、祖父を見つめ返す。
もう、自分はどうすればいいかは分かっていた。
(母さまの、代わりになれと言うのか。あたしには、その程度の価値しかないと)
「分かった、ここに来た以上は…そうするしかないんだろ? それが、あたしの〈さだめ〉」
「分かってくれたか…よかった」