血の覚醒(めざめ)るとき
連日の悪夢の翌日は、決まって雨降りだった。
それは、この20年間変わることのない不可思議なサイクル……
千早は、いつも決まって同じ夢を見る。
悪夢だ。
自分が二人いる夢‐‐――‐そして、二人の自分が争っているのだ。
まるで鏡を見るように、そっくりな双子は争う。
ただ、一つだけ違うところがあるといえば、眼だ。
紅い‐‐――‐血の色の双眸だった。
【どちらかが消えるが定め……】
‐‐―‐消えるのはお前だ!
何度も間合いを詰めて斬り結ぶ、漆黒と血の深紅。
やがて、斬り結ばれた刃が火花を上げて散った。
【消えるのはお前だ、黒!!】
衝撃が、千早を貫く。
爆ぜんばかりに眼を張った彼女の瞳は‐‐―‐禍々しいほどの、深紅の色だった。
耳をつく雨音。
部屋は厚いカーテンのせいで薄暗い。
「また雨……」
カーテンごしに千早は呟いた。悪夢を見た翌日は、決まって雨が降っている。
もう、雨が続いてどのくらい経ったか、千早は覚えていなかった。
千早は窓の外を見やった。
千早の部屋の窓からは、裏庭が見えるのだ。
手入れされ、鮮やかな花が零れ咲く表庭に比べて、裏庭は幾分か寂れて見える。
そして、そぼ降る小糠雨のせいもあって、どこか薄気味悪くさえあった。
だが千早は、この裏庭が好きだ。
いつも見る夢は、この裏庭が始まりだから。
以前はいつも薄暗くて、気味の悪い裏庭も、雨降りも大嫌いだった。
なのに。
この裏庭が【懐かしい】のは何故だろうか。
雨降りが好きなのは、どうしてだろうか。
しかし、いまや千早にとっては取るに足らない、些細なことでしかないことだった。
【‐‐――‐時期が来た…‐―――】
確かに、誰かが云った空耳を聞き、千早は部屋の中に視線を廻らせる。
窓を開けて、雨にけぶる裏庭をも探すが、そこに誰がいよう筈もなし。
ただ、薄闇が重々しく横たわり、雨が降っているだけだ。
「なんだ、いまの声は……どこからした」
空耳‐‐――‐いや、そんな生易しいものではない。
確かに〈そこ〉にいても、姿の見えない干渉者。
なにかが、見ている。