鬼子
新たな呪いが‐‐――‐‐その目を覚ます……
なに不自由なく育てられた現代の少女、千早。
しかし、彼女は呪いを継いで、この世に生を受けたのだった!?
〈ほぎゃ……ほぎゃあ!〉
19XX年、X月XX日。
某市の病院で、一人の赤子が産み落とされた。
【生まれたか、対極がうち二つ目……我が姫よ】
はたはたと、コートの裾がビル風に嬲られて翻る。
高層ビルの屋上で、口許を面布で隠した男がぽつりと呟いた。
【だが……まだだ、まだ早い】
次には、そこに男の姿はなかった。
【また来ようぞ……その蕾、花開くときに】
風が、そう呟いた。
千早と名づけられた赤子は大切に育てられ、なに不自由なく成長していった。
郊外の邸宅で、外界から隔絶された暮らし‐‐――いわゆる『お嬢様』として世話をされて今へ至っている。
だが千早が5歳の時、異変は現れた。
「あら……なに、かしら? 千早、目は痛くない?」
「おめめ? ううん、痛くない」
こしこし、と頻りに目を擦る千早の頭を、母が心配そうにそっと撫でる。
生まれつき色が薄く茶目だったのだが、少しずつ色が薄まり、遂に金色に変色してしまったのだ。
「どうしたのかしらねぇ、明日、母さまと病院に行きましょうね?」
「うん?」
「う〜ん、どこにも異常は見られませんねぇ。健康そのものです……ですが、こんなことは初めてです」
「そんな、なにか他に原因は」
「ありませんね……」
不安に思った母親が、眼科医に千早を診せたが、異常は見つからず仕舞いだった。
「母さま、どうして泣くの? どこか痛いの?」
母は知っていたのだ。
‐‐――‐古くから伝わる、血の呪いを。
彼女は、どうして〈普通〉に生きられないのだろう。
呪いは、なぜこの子に目を付けたのだろうか。
お願い……この子を、人間にしておいて、どうか。
どうか……目覚めないで。
「泣かないで、母さま泣かないで?」
「ああ……ごめんなさい、千早、ごめんなさいねぇ」
涙に咽ぶ母に困りきって、首を捻る千早はその後に理解する。
母の悲しみを。
そして‐‐――さだめ。
自らが生まれてきた意味を。