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始まりの雨

世のすべての者は、出逢うべき者に出逢い幸せを掴むだろう。

だが、その例外とて無いわけではないのだ。

異形の血を引いて生まれてきた赤子。

彼女に未来はなかった。

禍者まがつものとして連れ去られ、処分されようとしていたのだ。

雨の日の別れ。

死。

そして、雨と血。

物語は、ここから始まった!

‐‐―解っていたはずだ、その子は……の血を引いている。

【目覚めたか、対極のうちの一つ目】

【こ奴は禍者まがつものだ、殺してしまえ……わざわいが生まれぬうちに】


‐‐―‐ドン!!


「やめて! やめて頂戴っ」

【ええい、しつこい奴……離れい!】

「ああっ」

火のついたように泣き叫ぶ赤子。

勢いに負けて転んだ女の白い頬を、泥が赤黒く染めた。

「お願い、殺さないで! 後生ですっ、この子にだって、生きる権利はあるでしょうっ?」

【うぬっ……黙れ、黙らぬか!】

二人のうちの片割れの男が、これ以上の抵抗を阻んで、なおも女の頬を打つ。

無骨な男の手が、赤子を抱いた母親から赤子をもぎ取る。

雨に濡れた男の顔半分を、張り付いた墨色の髪が覆っていた。

顔を覆い隠す髪の合間から除いた目は、深紅‐‐――。

慈悲を知らぬ――そう、まるで鬼のようで。

女はぞっと肩をすくめて一歩後じさった。

【これが今生の別れ……忘れるが、おぬしの為じゃ】

男は云った。

今生の別れと…。

「そんな……っ、どうして、どうして……っ」

どうして、普通に生きることができなかったのだろう?

どうして、この子だけが。

呪いは、どうしてこの子に目を付けたのか。

呪いだ。

解っている。

分かりたくなどないのに、解ってしまっている。

この世に、生まれてきてしまったから。

だが、

わが子の死を願う母が、どこにいようか。

なのに、助けられなかった。

泣き崩れた女の肩を、雨滴が容赦なく打ちすえる。

「ううっ、ううう……うぁああ‐‐―――‐‐」

か細い慟哭が、鈍色の曇天を裂いた。


雨音が、ひときわ濃くなった。



女はくびを括った。

雨音が、すべてを掻き消していく。



その日も、雨が‐‐――‐降っていた。


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