旅の始まりは……前途多難?
妖犬族の姫・千早は、守護者であり、恋人でもある青桐と共に逃避行の最中だった。
逃避行の、そんなサイクルの一日の出来事。
千早が拾った子兎は……?
千早が連れてこられた国を【常世ノ国】という。
人界とは、国土の成り立ち方が違っている。
人界は、古くの神々が天地を作ったのに対し、この【常世ノ国】は古代に実在した巨人の亡骸から成り立つのだ。
その巨人の名を‐‐―‐盤古という。
当然に、人界とは風土も違えば、棲息する獣も種が違う。
基本的には、この世界に分布する獣は、妖獣・妖魔の類になるのだ。
「あ! 青桐、兎がいるぞっ」
平野を渡る最中、千早が嬉しそうに青桐の袖を引く。
「なんだ、昼飯ならさっき喰っただろ?」
ちろ、と流し目され、千早は怒りに顔を染めた。
「ちっがう! あそこに兎がいるだろう。触りたいんだ」
彼女が指さした場所には、兎が群れていたのだ。
しかし色が変わっている。
鬱金の地に、紅玉を散らした毛色もいれば、黒の地色に、背に雲母を散らしたような者までいる。
つまり、全くの無地がいない。
「ああ……止めとけ、ありゃあ黄兎だ。噛まれるぞぅ」
「噛まれたっていいんだ、動物の扱いには慣れてる。なあ、触ってもいいだろう?」
千早はそう言うや否や、群れている子兎たちの一匹を抱きあげて頬擦りする。
「かぁわいい! 大人しいな、お前」
子兎に夢中な彼女は気づいていない。
その背後に、小山ほどある母兎が、牙を剥いているのに。
青桐の牽制の声と、母兎の咆哮はほぼ同時だった。
〈ガウゥ‐‐‐―‐‐ッ、ガァア!!〉
「千早っ!?」
「千早っ、早くそいつを離せ! 余計に追ってくるっ」
青桐は千早を抱えて走るが、母兎との距離は縮まるばかり。
そればかりか、先より更に怒っているようだ。
「うわあぁ…だってこいつが離れてくれないんだい!」
それもその筈、千早の胸元には、鬱金色の子兎が宙ぶらりんになっていたのだ。
「さっさと捨てろ!」
千早は子兎を抓みあげると「お行き」と小さく言って、母兎目がけて彼を放り投げた。
「キュッ、キュイィ!」
〈ガァァッ!〉
彼女は、跳び上がる。
母兎は、息子の背を上手く銜えて受け取ると、鋭い一瞥を投げて去っていった。
「こ、怖っ……怖かった‐‐―‐―〜〜っ」
母兎が去った後、千早は青桐の胸板にすがりついて震えていた。
どうも、維月です。
12部のお届けにあがりました。
短い上、話の脈絡が、多分ないかも…?