甘えん坊な三女
「ただいま~。」
「おかえり~、真央姉ちゃん~。」
「はいはい、なに~?奈央。」
私は、神山 真央。
小学校六年生で、今年、卒業式かと思うと、正直、だるい。
そして、いち早くでてきた小学校三年の妹の奈央。
「おやつは何?」
「最近、食うことばっか考えてないか?」
「そんなことないよ。」
にっこり笑って、言う妹に言ってあげる。
「確か、零兄ちゃんがプリンをつくったとか言ってた気が。」
冷蔵庫を開けて、確認する。
「お、あったよ。」
「やった~。零兄ちゃんのプリン~。」
浮かれまわる妹を見て、笑みをこぼす。
零兄ちゃんとは、この家の三男である。
一応、家事などを一手に引き受けている高校二年生である。
「零兄ちゃんのお菓子は、おいしいからな~。」
「あ、まだ、食べちゃだめだよ。三時半まで。」
「え~~~。」
「奈央、理央は?」
理央というのは、奈央と一卵性の双子で、末っ子である。
一応、奈央のほうが先に産まれたのは、姉ということになっている。
「理央は、部屋にいるよ~。」
「何してんの?」
「本、読んでる。」
「あぁ。」
理央は、本を読むのが大好きなのだ。
正直、ノートにも自分で小説を書いているらしい。
零兄ちゃんと話し合っているのを聞いたことがある。
「んで、賢は?」
賢というのは、私の一個下の弟である。
「賢兄ちゃんは、行方不明なのだ!」
「あ?」
「帰ってきて、ランドセルを置いたら、すぐにいなくなった。」
…何をやっているんだ、あのバカは。
あとで、零兄ちゃんにしかってもらおう。
「まぁ、いいや。んで、奈央は、何してたの?」
「私は、姉ちゃん待ってた~。」
えへへと言うような感じの笑顔。
…私が卒業したら、こいつはどうなるのだろうか…とか、不安になってくる。
正直、私は中学校に入ったら、部活――――――テニス部に入ろうと思っている。
実央姉ちゃんは、吹奏楽部に入っていて、文化部なのにもかかわらず、帰るのが遅いのである。
「…はぁ…。」
「どうしたの、真央姉ちゃん?」
「何でもないよ。奈央は、もうちょい、大人になったほうがいいかもね。」
理央は、だいぶ、大人だな~と改めて思う。
「なんで?」
「いや、来年になったら、私、帰るの遅くなるよ~。」
「そうなの?」
首をかしげる奈央に不安になってくる。
「まぁ、そのときはそのときだもんね。」
まだ、卒業には時間はあるから。
「真央姉ちゃんも実央姉ちゃんみたいになっちゃうの?」
「まぁね。それは国のせいって言ったら、国のせいだから。」
「国?日本。」
「そうそう。」
私たちが話していると、三時半になった。
「あっ、おやつ、食べよう、おやつ!」
「はいはい。」
冷蔵庫から零兄ちゃんがつくったおやつを食べる。
「理央~~~~、おやつ食べる?」
「食べる。」
階上から、廊下を走る音がする。
「…賢の分も食べる?」
「うん。」
「食べちゃお。兄ちゃんまだ、帰ってこないっしょ。」
奈央は、楽しそうに言う。
「…これ、湊兄ちゃんの分とかじゃないよね。」
「…湊兄ちゃん、早いの?」
「分かんない。」
「食べてしまえ。」
結局、食べることにした。
「にしても、理央は、どんな本、読んでんの?」
「夏目漱石とか。」
「マジかよ。意味、わかんの?」
「うん。」
…衝撃すぎた。
私も読んだことないのに。
「零兄ちゃんに教えてもらってる。」
「兄ちゃん子だね、理央は。」
「そう?んじゃあ、奈央は、姉ちゃん子じゃん。」
「確かにな。」
奈央は、私たちの話を聞きながら、プリンを食べている。
「うまい?」
「うまい。」
「ただいま~。」
珍しい声がした。
「あれ?零兄ちゃんじゃね?」
「いってくる。」
今までプリンを食べていた、奈央が走り出す。
「あいつ、お姉ちゃん子っていうか、あいつは甘えん坊なだけじゃね?」
「かもね。姉ちゃん。賢兄ちゃんの分、私が食べていいかな?」
「いいんじゃね?奈央は、どっか行ったし。」
そんなことを言いながら、自分も食べる。
「あれ?まだ、食べてんのか?」
「三時半から食べた。」
「なんで、そんな微妙な時間から。」
「零兄ちゃん、なんで、そんな早いの?」
「ん?アルバイトがなかったからな。」
零兄ちゃんは、奈央と遊びながら言った。
「だっこ!」
「え?ガチで。」
零兄ちゃんは、奈央の要望に驚きながらも、抱っこしようと頑張る。
小学校三年生の子を抱っこするのは中々の大仕事である。
零兄ちゃんは、頑張って、抱っこしようと頑張るが、できなかったらしい。
「実央姉ちゃんは、抱っこしてくれるよ。」
「がちか…。」
大分、へこんだような兄ちゃん。
「大丈夫だって、湊兄ちゃんは、無理だったっしょ?」
「うん。でも、優兄ちゃんも樹兄ちゃんも抱っこしてくれたよ。」
零兄ちゃんは、哀しそうだった。
「くっそ。筋トレしてやる。」
「零兄ちゃんは無理だろうと思うわ…。」
理央はぽつりと言った。
終わり
おまけ
「え?奈央が心配?」
「うん。」
湊兄ちゃんに聞くと、笑った。
「零兄ちゃんが中学入学する直前に同じようなこと言ってたよ。」
「え?」
「お前が『零兄ちゃんと違う学校行くの嫌だ~。』って言って、兄ちゃんについていこうとしたのを、引きずっていったのは、僕と姉ちゃんだから。」
黒歴史を思い出してしまった…。
終わり




