表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

ネットの裏アカ査定 ――金持ちの美女が言うには、ボクは超優良物件だそうです

掲載日:2026/06/14


【起:光元国の絶望】


2030年 外国の植民地になるという暗黒の未来は無くなった。

しかし、国内において、ダブルスタンダードによる矛盾が発生していた。


「ノワール貴族は、常に正しい。平民は、常に間違っている」


光元国ひかりもとこくにおいて、それは法律を越えた絶対の真理だった。

都心から離れた地方、反老化抗体――通称『反老体』の生産候補地に住んでいたというだけで、棚ぼたの特権階級にのし上がった者たち。武道の黒帯をシンボルとする彼ら「ノワール貴族」の前では、平民はただの奴隷だった。


「おい、歩き方が気に入らん。不敬罪だ!」


職場のハラスメント上司――ノワール貴族にゴマスリをして重用された平民親衛隊の男が、今日も僕に向かって怒鳴り散らす。

ノワール貴族が平民を侮辱しても無罪。だが、平民が少しでも不快な顔をすれば不敬罪。ノワール貴族たちがバカであればあるほど、その足元に群がるズル賢い親衛隊のハラスメントは苛烈を極めた。


「すみません、申し訳ありません……」


僕は頭を下げ続ける。賛同して雇用されることだけが、この国で安定した収入を得る唯一の手段だったからだ。気づけば40年。僕は彼らのうっぷん晴らしのサンドバッグとして、青春のすべてをすり潰され、ボロボロの無職へと追い込まれていた。



【承:世界の一変】


しかし、そんな地獄はある日、あっけなく崩壊した。

引き金を引いたのは、7年前、光元国での明るい未来をあきらめて海を渡った、一人の平民だった。彼は外国の超科学文明『カセイダード王国』で王配おうはいにまで登り詰めた。彼を愛している女王たちは、光元国に対して強力な経済圧力を掛けたのだ。


「井の中の蛙」だった光元国のバカな貴族たちは、あろうことかカセイダード王国へ軍事侵攻を開始。だが、超科学の前に返り討ちに遭い、国ごと占領下に置かれることになった。


戦後、光元国のシステムは徹底的に解体された。

高度任務遂行員(高務員)もノワール貴族もすべてバラバラにシャッフルされ、彼らはただの平民として貧しい生活に落とされた。かつて僕を怒鳴り散らしていた上司も、今や路頭に迷っている。

そしてノワール貴族の居住地は、カセイダード王国が直接管理する「特区(事実上の外国)」となった。


そんな激変の最中、僕はカセイダード王国から来たという、信じられないほどの金持ち美女に「人生の伴侶」として大金で買い取られることになった。



【転:救済と選別のロジック】


カセイダード特区の高級ホテルの最上階。

目の前にいるのは、AI生成美女と比べても上位1%に入るはずと断言できるほどの絶世の美女だった。


「わたしの寝首を取ろうとしない、信頼できる男性が欲しいのだ」

彼女は少し考えてから、鈴を転がすような声で言った。

「裏表がある男性は論外だ。人の痛みが分かる人物で、自分がした耐えがたい経験を他人で晴らそうとしない性格が良い人物が欲しい」


僕は困惑し、疑問を口にした。

「それなら、自国で見つけた方が良かったのではないですか? その方が価値観や風習が同じ人から選べますよね?」


目の前にいる美女は『噛み合わないなあ』と小声でつぶやいてから、さらに考え込んでいた。

僕は歩み寄る姿勢を見せるために、もう1つ質問をした。

「もしかして、カセイダード王国では常識の知識でも、光元国では知られていない情報という価値がある知識があるのでしょうか?」


その瞬間、美女は目を丸くして、パッと目を輝かせた。

「あっ、それだ! わたしが貴方を数多い光元国人から選んだ理由はただ1つ、女王の王配と似た人柄を感じたからだ!」


「どうやって、そのように判定されたのですか?」

美女は自信たっぷりに答えた。

「あなたはネットでの書き込みは匿名性があると思っているだろう?」


「そうですね。開示請求する制度があっても、お金が掛かるため、一般人からすれば匿名性があるままです」


「それが大きな違いだ。カセイダード王国ではネットの書き込みが誰によるものかは、国がすべて把握している。だから、光元国と違って、裏の顔を調べることが難しくなったんだ」

彼女の言葉に、僕はハッとした。


「とすると……カセイダード王国ではネットに書くときは良いことしか書かない? そして、未発達な光元国人は、バレないと思って裏の顔を平気で見せている……」


美女は嬉しそうに微笑んだ。

「そう、その通りだ。カセイダード王国の人の本音を調べるよりも、光元国人の本音を調べる方が楽だ。あのノワール貴族や親衛隊の男たちのログは、どれも見るに堪えない悪意に満ちていた。でも……あなただけは違った。どれだけ理不尽に虐げられても、裏で他人を呪わず、ただ静かに耐えていた。だからわたしは、あなたを選んだの」


彼女はそっと、小さなアンプルを僕の手のひらに握らせた。

「光元国の『反老体』なんて、ただの気休めの無駄な抵抗よ。これは我が国の本物の若返り薬。……さあ、失った時間を取り戻して?」



【結:新しい人生の始まり】


言われるままに薬を飲み干した瞬間、全身を温かい光が包み込んだ。

すり減っていた関節の痛みが消え、濁っていた視界がクリアになる。鏡を覗き込むと、そこにはハラスメントで潰される前の、40年前の若々しい僕の姿があった。


失った青春が、肉体も精神も、完全に巻き戻っていく。


ホテルの窓から街を見下ろす。遠くの路地裏では、かつて僕を奴隷のように扱っていた元・ノワール貴族や親衛隊の男たちが、泥にまみれて惨めに言い争っているのが見えた。彼らはこれからも、自分たちがなぜ転落し、なぜ選ばれなかったのかすら気付けないまま生きていくのだろう。


「行こうか、マイ・パートナー」

隣で微笑む美女が、僕の手を優しく取る。


「はい」

僕は力強く頷いた。僕を縛る理不尽なルールは、もうこの世界のどこにもない。最高の幸運と、そして僕が捨てなかった「誠実さ」という資産を胸に、僕は新しい人生の第一歩を踏み出した。


(了)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ