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「自給率0%」になった元王子が土下座してきましたが、私は“国家収穫量を操る女”なので戻りません

作者: 唯崎りいち
掲載日:2026/02/24

 私が幸せなら農産物は五倍。


 不幸せなら半分。


 「国の農産物のことなど何も知らない、おまえとの愛など暇つぶしだ」と王子に捨てられた私。


 王子と私、ただちょっとお話していただけで、私たちの間に愛なんてなかったはずよ。


 必死に惨めな自分を隠して、平静を装っても肩が揺れて溢れそうな涙が決壊寸前だった。


「王子! 葡萄が全滅しました」


 私に神から与えられた分不相応なこの力、使う時がきたみたい。


 私を愛するだけで神の加護を得られたと言うのに、馬鹿な王子様だわ。



◇◇


 私は王子に振られた後で、植え込みの影に隠れるようにしてうずくまって泣いていた。


 好きだったんだもん。


 貴族令嬢でも、私だって普通の女の子だもの、美しくて有能な王子様を好きになってもいいでしょう?


「収穫量が五倍になって、取れすぎた農産物を加工して輸出すれば経済が潤う。僕のおかげで国は五倍以上豊かになっているんだ」


 そんな事を自慢げに言う、王子様との偶然の出会いに舞い上がってしまったの。


「何故、取れすぎたかが、大事ですわよ、王子。天候による影響なら、いつまでも続くものではありませんわ」


 何度も会って話すと王子に反論する事もあって悪役令嬢っぽく見られて、王子も勘違いしたのかも……。


「無知なおまえの的外れな話などもう聞きたくない」


 好きになってもらえるかもって期待してた私を、見透かされたようで辛い。


 私は、傷付きやすい普通の女の子なのに……。


「お嬢様、まだ泣いているんですか?」


 後ろから声をかけられた。


 だ、誰!?


「な、泣いているわけがないでしょう。王子が、あんまりに馬鹿なことを言うから、この国の未来を憂いていたのよ!」


 誰だか知らないけれど、私は立ち上がって振り返り、顎を上げて見下したようなポーズで声の主を見た。


「それは良かった、さすがは私のお嬢様だ」


 見下せないくらい背の高い騎士が微笑んでいた。


「私のって、私はあなたなんて知りませんけど」


 確か、王子の護衛をしていたのを見たことがある気がするけど、騎士の鎧なんてみんな同じように見えるから同じ人かしら?


 すごく背が高くて威圧感がある怖い人はいたけれど……。


「これから知っていけばいい。ずっと前から神の加護によって私はあなたのものなのだから」


 話が通じませんが……。


「きゃ」


 私は騎士に抱き上げられていた。


「さあ、なんなりと私にお命じください、お嬢様」


 ……。


 私を掲げるように抱き上げると、私の顔を見上げるように聞いてくる。


 まるで騎士の唯一の主君として崇められているようで……気持ちいいですわ!


「そうね。王子様の領地の一つや二つでも征服してしまおうかしら?」


 なんとなく口から出てしまう。


 神様の私への加護が本当なら、私が不幸せなら収穫量は半分。


 このままにしていたら同じ国にいる私も危ないし、冗談ではないんだけど。


「さすがはお嬢様です。王子に領地など分不相応です。お嬢様が支配してこそ、価値があると言うものです」


 騎士様が言うと冗談じゃないみたいに聞こえるから、すごく楽しい。


「任せましたわ。騎士様」


 失恋なんてあっという間に忘れて、騎士様に恋しそうよ。


 その夜は、私が失恋で幸福じゃなくなったせいなのか、国中に季節外れの霜が降りた。


◇◇


「昨日の霜で国の農産物は大丈夫なのか?」


「葡萄の新芽が全滅したらしいぞ」


 人々が口にするけれど、


「農作物の収穫量が五倍になったのは、品種改良のおかげだ。霜など問題ではない」


 王子は反論する。


 市場には農産物が溢れていて、本気で霜の影響を心配している人など実は殆どいない。


「あら、王子に捨てられた令嬢じゃないですか? まだ、この国にいるんですか。私なら恥ずかしくていられませんわ」


 王子を狙っていた令嬢で、私と王子が仲良くなって、焦っていた人だわ。


 私だってこれから収穫量が半減する国になんていたくありませんけど、そう簡単に出ていけるものじゃありません。


 昨日の騎士様とはちょっとだけ楽しく会話が出来たと思ったのに、どこかに行ってしまいましたし。


「ちょっと頭がいいからって、鼻にかけるから嫌われるのよ。私はあなたの様に賢くないけれど、ひけらかさない程度の分別は持ってますわよ」


 誰が賢さをひけらかしたのよ!


 王子と、賢い私が結婚すれば、この国は安泰だ、そんな噂にちょっとは嬉しかったけど……。


「……! まさか、あなたが王子に私が賢いなんて言ったのではないわよね」


 私はこの思いつきに背筋が凍った。


 この女が私と王子の仲を裂いたのなら、ただではおけませんわ。


「な、何よ。そんな怖い顔しなくても、そんな姑息な事はしませんわ」


「どうだか、あなたが直接流していなくても、面白がって話してはいたでしょう」


 後先も考えずに意地悪な令嬢がとんでもない事をしてくれたわ。



 私がいる国は私の幸福度に応じて農作物の収穫量にボーナスがかかり、幸せなら五倍、不幸せなら半分。


 異世界に転生した時に抽選で当たった神の加護だけど……。


 私が不幸になったら、私も国と一緒に芋蔓式に不幸になるって、加護どころか、呪いだわ。


 でも、私の不幸にあなたたちを道連れに出来るなら、悪くありませんわね……。



 今までこの国はたまたま私が幸せだったから、収穫量が五倍になっていたのです。


 これからの私は不幸だから、この国も一緒に不幸になるのよ、それを国を出て行ったら王子やあなたが不幸になる所を見れませんわ。


「怖い顔をしていますね、お嬢様。あなたにそんな顔は似合いませんよ」


 身体が持ち上がったと思ったら、私は騎士様に、また抱き上げられていた。


 背の高い騎士様を見下せるほどの高さにいる私を、意地悪な令嬢が呆然と見つめている。


 なんでも私の言う通りに動いてくれると言う騎士様を見せつけられるのは気持ちがいい。


「お、王子に捨てられたばかりの令嬢のくせに……」


 あなたに負け惜しみが聞けて、最高に気分がいい!


◇◇


 数時間後、私は地方の領主館にいた。


 騎士様が騎士団を指揮して、本当に王子の領地を征服してしまったのだ。


「お嬢様、他に欲しいものはないですか?」


 騎士が私の前に跪き聞いてくるが……。


 スピード感に、ついていけないんですけど!


 ま、まずは領地の状況を確認しないといけませんわ!


「かしこまりました。すぐに各地の責任者を呼び、資料もまとめさせましょう」


 有能な騎士様が、またあっという間にことを運びます。


「今度の領主は女か。王子のようにただの偶然を自分の手柄のように思わなければいいがな。昨日、霜が降りたのは何か悪い事の前触れだろう」


 各地の管理者からは、舐められたものです。


 騎士様が睨んでくれているからこれくらいで済みましたが……。


「お嬢様、申し訳ありません。もう二度と、あなたにあのような口を聞けなくしておきます」


 騎士様がものすごく怖い顔で言うから、私は止めました。


「あれは前領主の王子への批判です。私も同じように思っているから大丈夫ですわ。領民たちが王子のような馬鹿ではない事が確認できましたから、今回の会合は上出来です。

 今後の私の手腕次第で、彼らも私に敬意を示さざるを得ませんわ」


「さすがはお嬢様です」


 そう言う騎士様の膝の上に乗せられて領地の資料を読む私。


 言葉の上では主従関係は私が上のようだけど、どう考えても、私が騎士様に囲われてます。


 この状況は普通の女の子の私には刺激的すぎて、顔が赤くなってしまう。


 でも、騎士様は、怖さなんてカケラも持っていないようなとろけたような笑顔で私を見つめていて、私も幸せな気分になる。


 私が幸福を感じた瞬間に、領地の霜にやられた葡萄の芽がもう一度芽吹く。


 そんな事は知らずに、私は、騎士様をずっと支配してあげるのも悪くないと思う。


「私の騎士になれて嬉しいでしょう? 独立国にして、これからはあなたの騎士団も持たせてあげるわ」


 騎士様の顎の下を猫をあやすように撫でながら言うと、気分は悪役令嬢。


 騎士様に心酔し切った目で見つめられてしまう。


 私は、本当に普通の女の子だったんだけど。


◇◇


「王子の領地が独立するとはどう言うことなのです!」


 城のものに詰め寄られるが、僕の方こそ知りたかった。


「新しい領地の国王は、王子と仲の良かったお嬢様だと言うではありませんか!」


 あの暇つぶしの女が何故こんな事を!?


「賢いと評判の方でしたからね。あの場所は農業が盛んな場所です。季節外れの霜が降ったり、今年の我が国の収穫が心配です。隣国との契約もありますし……」


「何を言っている。農作物は品種改良の結果で五倍の収穫量になり取れすぎて困っていたところだ。霜の影響など軽微なものだ」


 無能な者どもが心配しすぎだ。


『王子! 霜のせいで葡萄の新芽が全滅しました』


 一部の地域からは、天候のせいでの不良も報告されているが、何しろ五倍の収穫量なのだ。


 1%未満の不安などとるに足りない。


 余って困ることはあっても、足りなくて困ることなどない。


 市場には僕のおかげで豊かになった結果、物が溢れている。


 異国からの輸入品も以前の十倍は多く並んでいる。


 あんな令嬢より、僕の方が優れている事が何故分からないのだ!


◇◇


 私は独立国となった領地の今年の収穫量の報告を見ながらホッとした。


 私の国の農産物は五倍の収穫量で安定していますわ。


 領地を王子から奪って独立国にしておいて良かった……。


 ただ、ちょっと残念なのは王子の国が私の国じゃなくなったから、収穫量が半分になるって地獄見せてあげられない事ですわ。


 資料を読むと、収穫量の増加は天候のせいだと言う意見が多いようだけど、王子は品種改良による当然のことと考えて、この収穫量から算出した余剰分を隣国に加工品にして輸出する計画を立ていたらしい。


 王子の領地のままでは収穫量は半分で、隣国に契約違反でどれだけの賠償金を払う必要があったか……。


 本当にこの神の加護って名前の呪いは厄介です。


 でも、騎士様が……私の幸福度を数値で見れると言う騎士様が私を幸福にしてくれる。


 最初は強引でどんな人なのかと思いましたが、騎士様も神の加護持ちで国の為を思っての行動だったんですわね。


 ちょっと、寂しいけど、存分に幸せの為に活用させてもらいますわ。


「それが私の喜びですから、お嬢様」



 相変わらず資料を読む私を膝に乗せて、私が欲しいと思うタイミングでお菓子や飲み物を口に運んでくれたり、甘やかし尽くしてくれている騎士様。


「王子は今頃、どうしているかしら……」


 何気ない私の呟きに、空気が冷えた。


 騎士様の顔を見ると、怖い笑顔で私を見ている。


 資料を持っていた私の手を掴んで私の自由を奪う。


 座っていた椅子に私を押し倒すと、騎士様が覆い被さるようにして、私の瞳を覗き込む。


「お嬢様、もう何ヶ月も前に捨てた王子の名を私の前で出すなんて、お仕置きが必要なようですね」


 騎士様は、瞳の奥に粘りつくように暗い嫉妬心と独占欲を滲ませている。


 く、国の為に私を幸福にしてるんじゃないんですか!?


「王子ではなく、そ、祖国の、私の力を侮っていた人たちの事を思っていんですわ」


 騎士様の私を女として見ている独占欲は、実はとっても嬉しかったりするけど。


 でも、今は今後の収穫物のことなど考えることがたくさんありますの!


「祖国のことを考えて、王子の名前を出すなんて、重症ですね、お嬢様」


 あ……。


 言い訳がかえって騎士様の瞳を暗くする。


「騎士様……」


 私は観念して、怖い騎士様の甘いお仕置きに身を任せた。


◇◇


 昨夜のお仕置きの後で領主館から見える麦畑の麦がいっそう濃い色になり黄金のように風に揺れている。


 お嬢様は素直で可愛い人だ。


 少し愛しただけで、農産物も豊かにして応えてくれる。


 だから、もっともっと愛したくなる。


 普通の女の子と思えば、資料を読んで的確な判断をして下さる。


 唯一の欠点が王子だった。


 あんな男の事で泣いて霜を降らせるなど、二度とあってはならない。


 王子といても幸福だったお嬢様に、嫉妬が抑えられなかった。


 だから、王子に少しだけ毒を贈った。


『あの、王子以上に賢いお嬢様と王子が結婚されたこの国も安泰でしょう』


 王子の耳に届くように騎士や側近たちに話した。


 一度は王子に聞かれてしまった事もある。


 怒りに震える王子の顔に、この国の終わりを確信した。


 そして、プライドの高い王子は彼女を捨てた。


 後は、私だけが彼女を愛せばいい。


 彼女の幸福のすべては私のものだ。


◇◇


「祖国の王子がお見えです」


 領主館への来客をメイドが教えてくれる。


「王子……?」


 知らない人ですわ。


 平民と変わらない質素な服に、手入れされていない髪。


 目の下には隈が濃くあり、震える手と不揃いな爪の先が、精神の不安定さを物語っている。


 とても王子には見えない。


 そう言えば、昔、暇つぶしの相手がこんな人だった気がするわ。


「お願いだ! 領地と共に僕の所に戻ってきてくれ! 君がいないと我が国はおしまいだ!!」


 泣きながら土下座するこの男が王子なのか……。


 かつては、好きだったと思っていた相手だけど、なんて小さな男なの。


 本当に忘れてしまった方がいい汚点だわ。


 王子の話では、収穫した葡萄をワインに加工して隣国に輸出する契約をしていたのに、私が領地と共に独立した事で、自国の収穫量が壊滅的に減ってしまったそう。


 自国での消費分をゼロにしても原料が足りずに、輸出用のワインが生産できないとか。


 ワインだけでなくあらゆる農産物においてこのような契約をしていて、国の首が回らない状態らしいです。


「自給率が……ゼロ。今の我が国の状態だ……」


 王子が震える声で言う。


「どなたか存じませんが、運がよろしいですわ。我が国の農作物が余ってどうしようかと思っていたんですわ。隣国には我が国が加工して売りましょう」


 知らないふりを続けると王子は青ざめた。


「待って下さい! それでは我が国は賠償金を払わなくてはいけなくなる」


「賠償金が取れるなら、ちょっとふっかけて高めに輸出品の値段を設定できそうですわ」


 私の言葉に王子は絶望的な顔をする。


「葡萄や他の農産物も加工前の価格でこれだけ払えるなら、あなたの国に売ってあげるけど?」


 通常の倍以上の価格に王子は目を丸くする。


 しかし、屈辱に耐えてもこの価格で農産物を買うしか隣国からの賠償金を避ける道はない。


 王子は微かに頷く。


 そこに祖国の騎士が入ってくる。


「領主様、申し訳ございません。我が国の咎人が御迷惑をおかけしております」


 私にそう言うと、王子を捉えて引きずって出ていく。


「何をする! 僕は王子だぞ!」


「あなたのせいで我が国がどれだけの損失を被ったと思っているんだ! 裁判にかけられるだけありがたいと思って下さい」


 騎士様と拘束に来た騎士は、祖国での知り合いのようで目と目で会話している。


「令嬢! 助けてくれ! 君がまた僕を愛してくれれば、全てが元通りになるんだ!」


 私は首を傾げる。


「またと言われても、以前がないですわ」


「お嬢様はおまえのことなど知らないそうだよ、王子。ただ、忘れられるだけなど、何者よりも優先されるべきお嬢様を貶めた罰にしては軽いな」


 騎士様が王子の手を踏みつけて囁く。


 王子の瞳が暗く絶望に沈む。


「自給率ゼロの国の王子との交渉は無駄でしたね」


 そして、そのまま連れ去られる。


 交渉は決裂して、祖国は多額の賠償金を隣国に払う事になるだろう。


「お嬢様、ケーキと紅茶が用意できているようですよ」


 騎士様に呼ばれて、私はまた膝の上。


 祖国へ、連行されるいく王子の通る道の脇に麦畑があった。


 黄金のようの波打つ麦が、また少し成長したように見えた。


◇◇


 私は王子の裁判に祖国から招待されていた。


 隣国の使者もいる。


 国王の意思で、王子を生贄に農産物の契約の件を有利に進めたいのだろう。


 裁判では王子がいかに無能かをありとあらゆる角度から証明された。


 王子の政策に従っていた家臣や民衆たちは、自分たちの罪がなかったかのように王子に石を投げて糾弾していた。


 あの意地悪な令嬢もいたけれど、服が汚れて、髪もボサボサだ。


 よく見ると、この国の国民がみんなそう。


 私と騎士様や隣国の使者の手入れされた服と身なりが浮いている。


 市場にも活気がなく、商品は棚に半分もならんでいなかった。


 珍しい輸入品の売れ残りだけが、ぎゅうぎゅうに棚に詰まって居る。


 小麦や野菜も手に入らないくらい貧しくては、輸入品など買う余裕はない。


 輸入のありふれた作物はよく売れているよう。


「自給率が……ゼロになったのは僕のせいです……」


 そう言って、王子が膝から崩れ落ちた。


「彼女の言う事を聞いておけば良かったんです……」


 王子が、そう付け加えたから、私も注目されてしまう。


「あれは王子と噂になっていた有能な令嬢だ」


「本当になんて馬鹿な事をしてくれたんだ、王子……」


 本気で泣いている男性もいたわ。


 騎士様が私の前に立ち、男性を睨む。


 そんな人にまで嫉妬しなくてもいいのに……幸せですわ、騎士様。


 一瞬だけ、王子と目があった。


 王子の瞳に映る後悔は本物だろう。


 ここまでの国家の崩壊を引き起こしておいて、いまさら私の気をひいてもどうにもならないけど。


 民衆に石を投げさせるほどの貧さに追い込んだのはあなたの自業自得。


 王子は暗い牢獄で一生を過ごす事に決まる。


 私はこの場を借りて、隣国と祖国との有利な交渉をまとめた。


 王子を惨めに追い込んだ国王が満足出来たかは知らないけど。


 国王は目を見開いて冷や汗を滴らし、爪が食い込むほど手を強く握って、身体を震わせていた。


◇◇


「王子が牢獄で亡くなったそうです」


 騎士様が領地を巡って帰ってくるなり言う。


「どなたですの?」


 私は不思議に思う。


「本当に忘れてしまったんですか、お嬢様」


 騎士様が満足そうに笑う。


 そう言えば、この間、領主館を騒がせた者が王子と言ってましたわ。


 交渉をまとめに行った時に裁判が行われていた気がします。


「覚えておく価値のある人なら忘れられません。忘れられたのなら、その程度の価値しかないんですわ」


 死んでしまったのなら、なおさら、思い出す価値もない。


 紅茶を飲みながら領地の資料を読んでいた私。


 騎士様は帰るなり私を抱いて、甘やかそうとする。


 腰に回された騎士様の腕から熱が伝わってくる。


「騎士様、私資料を読んで仕事をしてましたの」


「いつも私の膝の上で資料を読んでいるじゃないですか、お嬢様」


 騎士様が私の口にケーキを運んで、口についたカケラをキスで拭ってくれる。


「騎士様といると、自分の身体のことを考えずに済んでしまって、仕事に没頭出来すぎてしまうわ。

 騎士様は私をどれだけ幸福にして有能にするつもりなんですの? これ以上は収穫量は増えませんわ」


 私の抗議に騎士様は微笑んで、私の身体を甘やかす。


「あなたが少しでも不安を感じないようにする事が私の使命ですから、全てを排除しますよ。世界もそれを望んでいます」


 私も、きっと一生出られない牢獄にいる。


 誰だか知らないあなたが、暗い牢獄から死をもって逃れた頃。

 私は、騎士様の膝の上で、甘すぎる牢獄に一生囚われていたいと願っている。


 甘い牢獄での幸福が、この国の収穫量を永遠に五倍にする。


 私はもう二度と不幸にはなれない。

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