雪に混じる
世間では、未来に向かって己の魂を少なくとも一年以上は研ぎ澄ませてきた若者達が、自分に身に付いた実力を信じて闘っている二月を迎えた。
暦の上では春になっていたと言われても信じることは出来ないが、カレンダーを見るとバレンタインデーが近付いている事を背後に感じ取る事は出来た。
僕の街に雪が降り始めて、今日で三日目になる。これが、もう一週間ズレてくれていれば幻想的なバレンタインデーとなり、きっと密かな恋心に生きる者達も幸せな夢を見ることが出来ただろうと思うと少し残念に思ってしまった。
降雪量は降り始めてから一切の変化を見せず、そろそろ雪掻きが必要になって来そうだ。
誰もが人工的なかまくらの中に籠り、夢の中で雪遊びに興じているだろう午前三時に一人家を出て公園に向かう。
勿論外には誰もいない。そう思っていたが、意外なことに真夜中の公園に一人、雪の白さに溶け込む程に白い服を着た綺麗な女性がブランコを立ちながら漕いでいた。
女性は凡そ僕と同じ二十から三十代前半に思えたが、こんな真夜中にいるのは不思議ではあった。
僕が呆然として立ち尽くしていると、女性はコチラに顔を向け恥ずかしそうにブランコを漕ぐのを辞めた。
「こ、こんばんは…」
女性が動かないブランコに立ったまま挨拶をしてきた。
「こんばんは…、…寒いですね」
バカな返事をしてしまった。寒いに決まっているだろう。雪が降る真夜中だ、これで暖かかったら雪は積もっていない。
女性は挨拶を受け取ると、ブランコから飛び降りて喋りながらコチラにへと歩き出してきた。
「こんな夜に散歩?危ないよー」
「心配してくれるんですね。まあそりゃそうか。でも、それは御互い様では?」
「私は大丈夫、家すぐそこだし」
そう言うと、女性は公園の方へ振り向き遠くの方を指差した。女性の指差した方を見ると、確かに、公園の奥にはそこそこ大きなショッピングセンターとその横に負けじとデカデカ並び立つ一棟のマンションがあった。どうやらそこから遊びに来たらしい。
「私の事は良いの、君は何でここにいるの?この公園の周りに住んでいるわけじゃないでしょ?」
確かに、僕の済む家はこの公園からは少し歩くところにある。だからと言って、そこまで心配される謂れは無いだろう
だって、目の前の少女はぼくと同じくらいの年なんだから……。
何かおかしいきがした。ゆきの冷たさにまざってありえない事が起きているそんな気が。
「ねえ、ダメだよ子どもがひとりでこんなところにいたらさ。ほら、いっしょにかえろ」
ぼくがこんらんしていると、少女がやさしいコエで話しかけてきた。
「あれ、ぼく…」
「だいじょうぶだよ、ほらいっしょにね」
少女に手をひかれ、いっしょに公えんをぬける。いつのまにか、出口はすぐそこまでせまっていた。
夜が明け、日差しが大陸を覆い出した午前六時の街並み。一面を銀世界で覆う程の世界では足の踏み場を気に出来る程地面が見えない位に雪が積もり、動き始める人々は消えていく足跡を気にせずに外を歩いていく。
公園にも足跡はまだ一つも出来ていなかった。




