帰ってきた侍村井の怪獣退治
帰ってきた侍村井の怪獣退治
「雷獣殺し、か」
太田という役人は、村井の話をすることをためらった。伊豆一番の使い手は、その話を嫌う。言って聞かせる必要は、ないのだという。誰が聞こうと、それですべてだと話を仕舞う。何が起きたか知っている者は、この町でも少ない。太田は、俺が言ったとてしかたがないのだが、と仕方なしに話した。
斬った化け物は、数知れず。海星のような、蛸のような、蝦蟇のような鯨のような。どれもみな、行灯のついた部屋で笑う悪人どものような、化け物たちだったという。だがそれは、異形であったのだろう。そう聞いたのだが、村井が言ったのだという。同じことだ、と。
海星の姿を持ち、蛸の形になった。それだけのこと。違うと思ったことは、ないのだという。どこの海から来ようと、同じこと。お前には、違って見えるのか?……そう聞かれて、太田は答えられなかったという。そうやも知れぬな、と村井はすぐに話を仕舞い、これ以上聞くことは、できなかったという。……つい最近の話だ、と太田は切り出した。田吾作という男が、山に入った。山菜の時期にはまだ早く、手ぶらで帰る羽目になった。その道すがら、水辺に出た。そこにいたのは、女。見たことのないような、美しい女だった。そして……同じ水辺には、村井がいた。女を見ているわけではない。湖を眺めて、座っていた。女は村井に気づいて、立ち去ろうとした。だが、村井は呼び止めたという。何かするのではないのか?と。田吾作は、息を潜めて二人を見ていた。
道に迷ったという女だったが、そんなはずがあるまい、と村井は言っていた。道がないのに道を間違えることはあるまい、と言われて女は答えに詰まった。その手のものであろう。違うと思ったことはない。海星も、蛸も、男も女も。同じことだろう。女は何も答えなかった。村井は聞いた。何者かは知らん。だが、気を遣わせたようだ。その手には、何を持っている?海星か、蛸か、見上げるような蜥蜴か、あるいは……雷獣か?刀の鯉口を切り、にやりと村井は笑った。女が黙ったまま、時間は過ぎた。村井は刀を仕舞うと、気にせんでくれ、と話を終えた。何かするのではないのか、と女が聞くと、何をするというのだ、と村井は答えた。特にやる気もなく、退屈そうだったという。
「皆同じことだ。違うと思ったことはない」
お前など珍しくもない。いちいち目くじら立てておっては、体が持たぬわ。村井はついに振り返ることはなく、女が風のように消えたのも、見ていなかった。他には誰もいなくなり、田吾作は村井に呼ばれて、夕方まで二人で湖を見ていたという。
三日ほど前のことだそうだ、信じるか?太田は笑っていたが、真剣な様子だった。こちらを、計っている。俺がその目に敵う相手であるはずがなく、太田の話は終わった。太田が言うには、その日の夜は珍しく、一つの流れ星が空を昇っていったのだという。




