タイヘイ軒はてえへんだ
タイヘイ軒はてえへんだ
日の出ラーメン。東京から少し離れた町で私が若い頃に出した店は中華そばを中心とした食堂だった。好きが高じて始めた店はそれ相応に客が入り、今は妻と息子と一緒に切り盛りしている。しかし類は友を呼ぶというか、名は体を表すというか、ライバル店ができて売り上げで競うはめになった。もちろん後ろ盾になってくれる皇さまはいないので味勝負というより客寄せ勝負、向こうの店は「本場の味を見せてやる!」と張り切っている。好きが高じて始めた店の店主である私は「中華そばの本場というのはあっちなのだろうか」という点からあまり理解しておらず、刺激しないように黙っている。中華料理には間違っても中華そばなどという名前はつかないはずだ。全部中華だし。
太平軒の店主は海外の人だ。せっかくだからウチの店の味を見てもらおう!なんて私が思っていたのは最初だけで、本人がもうそんなに海外じゃなくてもいいはずなのにという海外の人、片腹痛いね!四千年の足下にも及ばんよ!とえらい言いよう。もちろん向こうは味が自慢で言っているのだが、試しに食ってみたという常連は「本場過ぎて苦手」と言っていた。住み分けできそうなものなのになぜ競っているのだろう。
ひねり潰してやるわ!見ておれ!と自信満々の太平軒の店主だが、ああいう四千年的な考え方って四千年前から続けてないとどうにもなんないんじゃない?と思っていたらやっぱりどうにもならず、おのれ小癪な!と会うたびに怒られている。普通に営業しているだけだから挨拶ですませたいのにすごく怒る。こんなに海外の人だから「一人相撲」なんて引き合いに出したら余計怒りそうなので、いつも黙っている。売り上げは拮抗。もう勝たなくていいから向こうが潰れるまでご近所トラブルだけは避けようと思っているが、一つだけ向こうが絶対的に強いものがある。こればっかりはいかんともしがたくて。
「あいやあ、来てくれたネ!大歓喜!」
今日も太平軒に若い男が入っていく。看板娘がめちゃめちゃ美人だから口に合わなくても行こうという若者が後を絶たず、ここだけは敵わない。あの娘はあれか?今度再アニメ化するというあれのあれか?と聞かれても、あれのあれと違って読者にサービスするような気っ風の良さはなく、売り上げだけが積もっていく。大丈夫だろうか、太平軒の店主は妙なもの入れてたりしないよな……と心配していたら「それは大丈夫」と息子が言っていた。こいつ最近色気づいて髪をくくっていると思ったら太平軒の娘さんに気に入られて頻繁に呼び出されているようで、聞いたことのない薬草とか客に食わさないようにと釘を刺したら「わかった、言っておくネ!」と言ってたらしいから言わなきゃやってたらしい。娘さんがへそを曲げたら太平軒もお終いなのでここにかかっている。常連からは「いっそ嫁にもらうか婿に行ったらどうだ、うらやましいねえ!」なんて冗談が飛び交っているが、絶対にイヤだと私は思っている。




