守り神の盲点
守り神の盲点
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「人間ってのは、立つものじゃないんだ」
代々石工職人だったオレの爺さんは、妙なことを言っていた。口癖のようだが、まあたぶん歳だからだろう。ナイルの恵みに生かされてファラオに仕える身だというのに、オレの仕事を邪魔してずっと言っていた。話を聞き流して、仕事を続けた。爺さんは言っていた。
……獣の骨を見たことがあるか?あと、人間の骨。肉がついていればわかりやすい。数が同じなんだ。異国の妙に首が長い獣でも、人間と同じ数の骨しか持たない。並べ直すとどうなると思う?同じなんだ。オレたちは連中と同じで、サルどころか他の獣もほとんど変わらない。オレたちが立っているのは、覚えさせられたからだ。誰かに。ずっと前のひい爺さんたちの頃から、立つように教えられた。もう誰も疑わない。当たり前に立つ。そしたらな、人間は弱くなるんだ。ずっと無理してるんだから、壊れて当たり前だ。肩が壊れて、腰が壊れて、尻に肉がたまる。サルの尻はこんなにでかくはないぞ……
妙なことばかり言う爺さんは、オレも少々相手をするのが面倒になった。他に誰も相手にしないのだから、仕方がないが。
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……しばらくして、爺さんが死んだ。ファラオの近衛兵の逆鱗に触れて、死刑に。死体を見て、オレは思った。爺さんは自分の体を知らないのだ。だからああ言う。知り合いの肉屋は嫌がったが、試しに見てみた。ほらみろ、そんなわけない。そう言うために。
オレは今、人間の石像を作っている。立ち上がった姿ではない。今は、そんなことはできなくなってしまった。オレは相手にされないのが御免だから、立っているだけだ。オレの作る石像は、人間の顔を持って犬や猫のように寝そべっている。ずっと先になって、これを見たヤツらは思うだろう。おかしなものを作るヤツだ、と。オレもそうだったから、わかるんだ。




