解決不可能?
解決不可能?
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「簡単な推理だよ」
彼の相棒は、そう言って頭を抱えたらしい。ロンドン近郊で起きた変死事件は一切が謎に包まれている。みるみる痩せ細り弱って死んでいくその様は、まるで奇病。悪魔の仕業かと見まごうような死人は、一人や二人ではない。医師による健康管理が繰り返されていたにも関わらず、被害者は増え続けた。毒薬だろうかと騒ぎになり、彼とともに居合わせた探偵が何かに気がついたという。
「ダーウィンを知っているか?」
最近噂になっている変わり者は、一応名前を聞いたことがある。人間はサルと同じだと言い張って教会から大目玉を食らって、まだ諦めない変人。彼の相棒と、どこか似ているらしい。だから相棒は興味を持ち、彼の論文に目を通していた。探偵が事件の謎に迫るとき、いのいちに出てきたのはその名前。避けては通れないという。
人間はサルと大して変わらない。体の構造は細部に渡り同一と言ってよく、せいぜいスケールの違いしか見当たらない。そして、人間とサルがそこまで同じなら、男性と女性がそこまで変わるわけない、と相棒が言っていたという。霊長類どころか同種の生物、雌雄だからと言って大きく違わない。男性にあって女性にない部位などあるだろうか、と言い始めたという。さすがに私は指摘した。一番わかりやすいものがあるだろう、と。陰茎という誰もが思いつく指標が。しかし、目の前の彼はもうそれを指摘したという。
仮に陰茎と陰核を同一としても、子宮は男性にはない。子どもを生んだ男性の親戚はいないだろう、と言ったのだが、彼の相棒は言った。「スケールの違いはある」。子宮と同じものが、違うスケールで存在している。膀胱に隣り合う「前立腺」という謎の器官は、何に役立つか未だにわかっていない。……使われていないだけで、子宮ではなかろうか、と、彼の相棒は語った。使いもしないのにそんなものあるものか、と反論したが、「乳を与えないからと言って乳首のない男性は親戚にいるか?」と言われると、何も言えなかった。嫌が応にも目が行くのは被害者の性別。全員男性、そして全員が医師に「前立腺の疾患」と診断されていた。
子宮と対応するとすればその正体は筋肉、多くの生物にとって重要な生殖器官であるからには影響は計り知れない。さらには、彼の相棒は言った。人間の体は、幾何学的に考えることができる。生殖器官は絶対に頭部、つまり脳と対応する。そんな話があるのかと聞くと、大昔からあるという。彼の相棒は一枚の絵を取り出した。世界で最も有名な天才、レオナルド・ダヴィンチの絵の写し。手と足を広げた人間を描くからには、すでにその発想を持っていたという。
医師は、被害者の前立腺に治療の名目で何かを施した。そして、変死。すぐには影響がなくとも半年もすれば全員が壊れる。カルテを調べて警察に引き渡せばいいはずだ、と結論し、頭を抱えたという。何を悩むことがあるのか、もうわかっているじゃないか。私もそう思ったが、彼の相棒はやはり我々の先を行っていた。
「ダーウィンが今、どうなっているかわかるか?」
人間はサルと同じだと言い張るダーウィンは糾弾され、爪弾きにされている。仮に彼が今後認められたとして、いつになるかわからない。そして、ダーウィン以上の立証は彼にはできないという、すでに正しいものに手を加えることはできず、これに納得しないとなれば打つ手がない。処置をした医師に殺意があればまだ話は別だが……おそらくないのではないかという。殺意がないからこそ、平然と処置を続ける。共通項のない被害者は増え続け、正しい言い分は聞き入れられない。相棒は、苦虫をかみつぶして彼に言ったという。
「人間が、サルだったらよかったのにな」
そうではないから困っているのだろう、と彼は言っていた。私はふと思ったのだ。人間がサルだったら……もう少し賢いかもしれない。




